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「エルゴノミクス」は家具からオフィス全体へ~働き方改革時代のオフィスについて株式会社オカムラに聞いてみました

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画像:Elnur / AdobeStock (※)

画像:Elnur / AdobeStock (※)



オフィス家具の広告やカタログなどで、「エルゴノミクス(人間工学)」という言葉が使われているのを目にします。しかし、すでに定着した言葉と見なされているためか、その意味について説明されることはあまりありません。


「使いやすい」、「身体への負担が少ない」製品といったイメージで捉えられることが多いと思われますが、その認識は本当に正しいのでしょうか。


じつはその研究成果は、近年の "ワーカーを活性化させるオフィス" 全体に応用されています。ということは、「エルゴノミクス」を理解すれば、「エルゴノミクスに基づいて開発された」家具を、より効果的に快適に活用することができるはず。



今回は、「エルゴノミクス」とは、どんな研究分野なのか、どのようにオフィス内に応用されてきたのかについて、あらためてふり返ってみたいと思います。



■100年以上の歴史を持つ科学技術「エルゴノミクス」


今回お話を伺ったのは、長年にわたり「エルゴノミクス」を応用した家具を送り出してきた株式会社オカムラの浅田晴之氏(フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくを科学する研究所所長)、杉山渉氏(マーケティング本部 オフィス製品部)、吉岡直人氏(マーケティング本部 オフィス製品部)です。



左から吉岡直人氏(マーケティング本部 オフィス製品部)、杉山渉氏(マーケティング本部 オフィス製品部)、浅田晴之氏(フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくを科学する研究所所長)。

左から吉岡直人氏(マーケティング本部 オフィス製品部)、杉山渉氏(マーケティング本部 オフィス製品部)、浅田晴之氏(フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくを科学する研究所所長)。




もともと「エルゴノミクス」というのはとても幅の広い概念で、研究対象も様々です。大きな流れとしては、ヨーロッパ系とアメリカ系の2つあります。ヨーロッパの研究は労働安全衛生的なアプローチで、労働と健康の関わりが中心です。一方、アメリカの研究は、ユーザーインターフェース領域のエルゴノミクスです。計器の見やすさとか操作のわかりやすさなど、誤操作の排除や作業の効率化を目的にスタートしました。こちらは、「ヒューマンファクター」と呼ばれています。


(浅田氏)



「エルゴノミクス」にはじつに100年以上の歴史があります。そもそもヨーロッパで「エルゴノミクス」が定義されたのは19世紀、1857年のポーランドのことでした。産業革命による工業化を背景に、労働と健康の相互関係を明らかにする研究からスタートし、19世紀末には広くヨーロッパ中で研究されるようになりました。


アメリカの「ヒューマンファクター」は第二次世界後に生まれました。大戦中に多発した空軍機の事故の原因を、調査委員会が「計器が読み取りにくいために起こった」と結論づけたことを契機に、ヒューマンエラーの防止や作業の安全性や効率化のための研究がスタートします。


現代における「エルゴノミクス(人間工学)」は、この両者が合流し発展したものです。




ちなみに、一般社団法人日本人間工学会の英語名は「Japan Human Factor and Ergonomics Society」です。「エルゴノミクス」と「ヒューマンファクター」の両方が併記されているんです。エルゴノミクスとは、大づかみにいうと、効率性、安全性、快適性や健康など幅広い観点から、人間の活動や生活を向上させていくことを目的とした分野です。ヒューマンリソースを最大限に生かすための実践的な研究と言ってもいいかもしれません。企業競争力の源泉はヒューマンリソースですから、オフィスや生産現場にとって「エルゴノミクス」はとても大切な考え方です。


(浅田氏)



一般社団法人日本人間工学会のサイトによれば、「人間工学」とは、「働きやすい職場や生活しやすい環境を実現し、安全で使いやすい道具や機械をつくることに役立つ実践的な科学技術」と説明されています。


また、「人間」を中心に、「環境」「機会・ハードとソフト」「運用」などのシステム要素を等距離に置き、「仕事、機械・道具、環境、組織、社会システム、組織文化との相互作用の適正化を図る実践科学」が「人間工学」であるとも説明されています。その考え方を図示したのが、下図の「人間中心設計原理」です。



日本人間工学会ホームページ「人間工学とは」掲載図版より作成(出典:人間中心設計原理(ISO11064-1(JIS Z8503-1)「人間工学-コントロールセンターの設計-第1部:コントロールセンターの設計原則」 (※)

日本人間工学会ホームページ「人間工学とは」掲載図版より作成(出典:人間中心設計原理(ISO11064-1(JIS Z8503-1)「人間工学-コントロールセンターの設計-第1部:コントロールセンターの設計原則」 (※)



「エルゴノミクス(人間工学)」が、人間が活動・生活するすべての場所に生きる研究であることがよくわかります。



■オフィスの在り方を変えた「エルゴノミクス」


次に、オフィスと「エルゴノミクス」の関わりについて見ていきましょう。


浅田氏も執筆に参加している書籍『オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント』(2007年、日経BP社刊)には、「仕事がはかどるオフィス」「持ちよいオフィス」「やる気の出るオフィス」を実現する考え方として、人間工学の成果を生かした「エルゴノミック・ワークプレイス」のコンセプトが紹介されています。



岡村製作所 オフィス研究所(当時) 浅田晴之、上西基弘、池田晃一著「オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント」(日経BP社刊、2007年、現在絶版)。人間工学の見地からを作るための知見を一般向けにまとめられています。(※)

岡村製作所 オフィス研究所(当時) 浅田晴之、上西基弘、池田晃一著「オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント」(日経BP社刊、2007年、現在絶版)。人間工学の見地からを作るための知見を一般向けにまとめられています。(※)



「エルゴノミクス」の研究分野は、「国際人間工学連合(IEA)」が分類した3つの領域、「身体的エルゴノミクス」「組織的エルゴノミクス」「認知的エルゴノミクス」の領域から成ります。



【身体的エルゴノミクス】

人間に対する身体的、生理的な負荷を扱う領域。作業姿勢、椅子やパソコンの配置など。


【認知的エルゴノミクス】

知覚、認識、注意、記憶など人間の認知的、精神的な領域。精神的負荷、ヒューマンエラー、ヒューマンインターフェース。


【組織的エルゴノミクス】

コミュニケーション、職務満足度、チームワークやテレワークなどの領域。




下図は、これら3領域に、オフィスのデザイン・レイアウトや組織、運用に関わるテーマなど「エルゴノミック・ワークプレイス」のキーワードを当てはめたものです。


「エルゴノミクス」というと、「椅子」「机」「キーボード」などが思い浮かびますが、あらためてうたわれていないだけで、「エルゴノミクス」の研究成果が、現代のオフィスのここかしこに生かされていることがわかります。




エルゴノミック・ワークプレイス(「オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント」p.215掲載の図をもとに「みんなの仕事場」運営事務局が作成 (※)

エルゴノミック・ワークプレイス(「オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント」p.215掲載の図をもとに「みんなの仕事場」運営事務局が作成 (※)




■「エルゴノミクス」研究成果の応用はいかに進んだか


「エルゴノミクス」の成果が、オフィス全体に生かされていることがわかりました。 では、実際にどのようにオフィスに取り込まれてきたのでしょうか。



――「エルゴミクス」の研究に着手されたのはいつ頃ですか?



約60年前、1960年代初頭です。当時、日本のエルゴノミクスの黎明期です。当社もオフィス家具メーカーとして「エルゴノミクス」には注目していました。オフィスで仕事をする人が最も使うのは椅子ですから、作業姿勢が改善されれば効果は大きいわけです。学術的な研究が始まっていましたが、オフィスを対象にした具体的な研究はまだない時代です。1961年に、人間工学の第一人者だった千葉大学(当時)の小原二郎先生との共同で、作業姿勢について研究をスタートさせました。


(浅田氏)



この産学協同研究は短期間で製品開発に生かされ、1963年には背もたれが動く「背ロッキング機構のチェア」が登場します。


その後も、研究成果の実用化は続き、現在ではオフィス用椅子には常識的な構造である、座面に2次元カーブを付けた椅子(1977年)が、より安定性の高い5本脚の椅子(1980年。これ以前は4本脚が一般的)などが発表されました。




浅田晴之氏

浅田晴之氏



――1980年代になるとオフィス内の情報化が本格化します。



パソコンの登場はとても大きい変化でした。真正面に置かれたディスプレイを見ながら、長時間キーボードを操作する姿勢は、それまでオフィスになかった新しいスタイルです。作業姿勢の見直しが必要になりました。


(浅田氏)



1984年に、新しい作業姿勢「前傾姿勢」をサポートする椅子が発表されます。座面を前傾させることで、長時間の事務作業時の腹部への圧迫感と腰への負担を軽減するというものでした。




前傾姿勢の特徴(出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P38 (※)

前傾姿勢の特徴(出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P38 (※)



パソコンが普及して1人1台の時代になると、長時間のVDT作業(注)による疲労や肩こり、腰痛などが問題になってきました。労働省(現厚生労働省)から「VDT作業の指針」が出されるなど(1984年)、社会的にも注目されるようになります。


(注) VDT作業 Visual Display Terminals、ディスプレイを持つ画面表示装置(パソコン等)を用いた作業のこと。





課長になると肘付き椅子になるなど、職場でのヒエラルキーを象徴していた肘かけも、パソコンの登場で変化したパーツです。上下に移動させて、肘の高さを調整できる可動式の肘かけ(現在では標準機能の「アジャストアーム」)は、キーボードを打つ手を支える、いわゆるデスクの延長という役割を果たせるよう開発した機能です。

(浅田氏)




――1980年代はオフィスの在り方が大きく変化した時代だったのですね。



この頃、「ニューオフィス推進運動」という動きがありました。情報化が進むなかで、より快適で機能的な新しいオフィスを実現していこうというもので、ルーバー付きの照明器具やカーペットタイル、配線機能付きデスクや5本脚のエルゴノミクスチェアなど、幅の広い分野で様々な取り組みが行われました。現在のオフィスに繋がるような新しい考え方がいろいろと広まったのもこの頃です。

(浅田氏)





「ニューオフィス推進運動」とは、1986年に経済産業省(当時通商産業省)が提唱し、諸官庁、企業が参加して一大ムーブメントを起こしましたが、80年代末のバブル経済崩壊後はオフィスもコスト対策の対象となったために、いったん沈静化します。


1990年に入ると、労働省から「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」が出されるなど(1992年)、職場環境や労働環境改善への機運が生まれ、新たなオフィスの在り方についての見直しが再び始動しました。




作業用の椅子としての原型はほぼ1990年代には整っていたと思います。その後は、ツールの変化や、働き方の変化、健康への意識の高まりなど、環境やニーズが変化に対応していくことが中心になっていきます。


(浅田氏)




■パソコンの形状や使い方の変化への対応


――2000年代に入ると、オフィスのネットワーク化や携帯電話の普及が進み、持ち歩きやすいノートパソコンも登場します。フリーアドレスなど、新しいワークスタイルが話題になったのもこの頃でしたね。




この時期に増えてきたのは、複数のディスプレイを並べて使用する働き方でした。そのような作業に適した姿勢の研究成果が「低座・後傾姿勢」です。


ディスプレイを正面から見るために座面は低くなり、背もたれに寄り掛かるかたちになります。このとき、バランスをとるために脚が前に出ます。この姿勢が、長時間の作業に適しており、集中力も長続きすることがわかりました。より低座・後傾姿勢に適応させるため、椅子だけでなく専用デスクと組み合わせた「クルーズ&アトラス」を2003年に発売しました。


複数のディスプレイ利用に対応したデスクに、傾きを調節できる天板を付け、よりリラックスして長時間の集中を維持できるようになりました。プログラマーの方々に特に好評でした。


(浅田氏)




直立姿勢と低座・後傾姿勢の違い(※) 出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P35

直立姿勢と低座・後傾姿勢の違い(※)

出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P35



「エルゴノミクス」の研究分野は、「国際人間工学連合(IEA)」が分類した3つの領域、「身体的エルゴノミクス」「組織的エルゴノミクス」「認知的エルゴノミクス」の領域から成ります。



専用デスクと椅子を組み合わせた「クルーズ&アトラス」(※)出典:http://www.okamura.co.jp/product/desk_table/cruise_atlas/

専用デスクと椅子を組み合わせた「クルーズ&アトラス」(※)

出典:http://www.okamura.co.jp/product/desk_table/cruise_atlas/



ノートパソコンの普及も作業姿勢に影響を与えます。ノートパソコンはディスプレイの位置が低く、デスクトップパソコン時の「低座・後傾姿勢」とは異なるスタイルになります。


2010年に発表された「シフト」は、傾斜する天板と、低座・前傾の姿勢を保持できる椅子でノートパソコンの画面が目の高さに合わせやすい形状になっています。




椅子「シフト」(※)出典:http://www.okamura.co.jp/product/seating/shift/

椅子「シフト」(※)

出典:http://www.okamura.co.jp/product/seating/shift/




■「座る姿勢」から「立位姿勢」「半立位姿勢」へ


近年、会議の時間短縮効果やリフレッシュ効果の評価が認められ、天板の高いテーブルや上下昇降機構を備えたデスクが普及しつつあります。最新のトレンドのように見えますが、じつは、"立って行う作業用デスク"はすでに2000年代に登場していました。




当時は、腰痛予防対策として長時間の着座姿勢に立位姿勢を取り入ることが推奨され、天板に電動昇降機能をつけた「プロユニットUD」を2006年に発売しました。近年では長時間座り続けることが、数々の疾病リスクを高めるという研究成果が報告されたことにより、上下昇降デスクに再び注目が集まっています。最新式の「スイフト」は多くの企業で採用いただいています。


(浅田氏)




上下昇降デスク「スイフト」(※)出典:http://www.okamura.co.jp/product/desk_table/swift/

上下昇降デスク「スイフト」(※)

出典:http://www.okamura.co.jp/product/desk_table/swift/



2008年には、高いテーブル・デスク用の座面が高い椅子が登場します。





上下昇降デスクの反響は大きかったのですが、やはり立ったままの状態では疲れてしまい、あまり長い時間使用するのには適していません。人によっては足腰の弱い方もいますから。そこで、オフィス用のハイポジションスツールを発売しました。現行の「ピルエット」には、身体の働きによりフィットするよう支柱が全方向にスイングする機能を採用しました。座っているより腰が楽で、立っているより足が疲れにくい、「立つ」と「座る」のいいところ取りの椅子です。いわゆる「ちょいがけ」用のハイポジションツールで、この作業姿勢を「半立位姿勢=パーチング姿勢」と言います。


(浅田氏)




ハイポジションスツール「ピルエット」同社ウェブサイトより (※)

ハイポジションスツール「ピルエット」

同社ウェブサイトより (※)




■オフィス全体を俯瞰する「エルゴノミクス」的視点


下図は、オカムラが提案している5つの「作業姿勢」について、姿勢と身体への負荷などを図示したものです。




オカムラが提案する5つのはたらく姿勢出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P29-30 (※)

オカムラが提案する5つのはたらく姿勢

出典:「The Posture はたらく姿勢を考える」(岡村製作所、2015年)P29-30 (※)




一見、同社が進めてきた作業姿勢へのアプローチのまとめのように見えるかもしれませんが、ここで提案されているのは、これら5つの作業姿勢を「目的や状況に合わせてシフトしていく」という運用です。


どんなに好ましい姿勢でも、維持できるのは約30分。長時間同じ姿勢でいることは、血液循環に悪影響をおよぼす、疲労やむくみを発生させます。作業姿勢の変更は、健康面、リフレッシュによる集中力やモチベーションの点からも有効なのです。



この提案を、前述の「人間中心設計原理」に当てはめてみましょう。


各作業姿勢に適した椅子やデスクを「ハード&ソフト」、目的や時間によって姿勢を切り替えていく仕組み作りを「ルール(運営)」、その仕組みを効率よく実現できるオフィスデザインを「環境」とすると、「身体的エルゴノミクス」の領域のソリューションとして始まったオフィス家具が、「環境」と「運用」を組み合わせることで、大きな「エルゴノミクス」のシステムを構築していくことがわかります。椅子単体がもたらす以上の、ヒューマンリソースに対する効果を引き出すことが期待できるわけです。


逆に言えば、デザインや運用方法などワークプレイス全体を踏まえることで、家具の持つ「エルゴノミクス」機能もより生かされるということでもあります。


オフィス内の事象やツールなど、ひとつひとつの意味や機能にばかりとらわれず、オフィス全体を俯瞰する「エルゴノミクス」的視点をもつことは、今後のワークプレイス改革において、ますます重要になっていくのではないでしょうか。



■これからのオフィス家具に求められるポイントとは


最後に、これからのオフィスにおける家具選定やデザイン・レイアウトにおける注目ポイントについてうかがいました。



――今、オフィス家具を選定する際には、どんな点に注意すればよいでしょう。



旧来のオフィスでは、個人にデスクや椅子が割りふられていました。しかし、フリーアドレスやABWのオフィスでは、1人が占有することは少なくなり、同じ椅子やデスクを不特定の様々な人が使うという状況が一般的になります。ただ、人の身体はみな異なります。椅子の場合、いくらエルゴノミクスの最新成果を盛り込んだ製品だとしても、使用者に合わせた調整は必要です。実際には、面倒くさいのでそのまま使っている、という人が少なくありません。そのため、調整が容易に行えるかどうかは重要です。


(浅田氏)




最新のオフィスシーティング「フィノラ」では、すべての操作レバーを座面のすぐ下に集約しました。かがんだりする必要なく、座ったままの自然な姿勢で操作ができるので、調整がストレスになりません。最適な設定で、ご使用いただけるのではないかと思います。


(吉岡氏)




オフィスシーティング「フィノラ」同社ウェブサイトより (※)

オフィスシーティング「フィノラ」

同社ウェブサイトより (※)




――色のバリエーションやパーツの変更で変化を出せる家具も増えていますが。



目的に合わせてワークプレイスがデザインされていくと、椅子もただ座るだけのものではなく、空間を構成するひとつの要素となります。3年ほど取り組んでいるテーマに、「感性面のエルゴノミクス」というものがあります。人がパッとその空間を見たときにどう感じるかを、色や素材、触り心地などを指してCMF(COLOR=色、MATERIAL=素材、FINISH=仕上げの頭文字をとったもの)というのですが、オフィスのCMFが五感をどう刺激して活性化するかの研究です。


現在、「CMF BOX」として開放感、リラックス感、安心感、落ち着き感を演出する空間として、4つのテイストを提案しています。目的にあった空間を使うことで、成果にポジティブな効果があることがデータで確認できています。


近年の家具は、色やパーツの選択肢が増えていますが、これは「好きな色を選んでください」ということだけでなく、置かれる場所の目的やデザインに合わせて選んでいただくためでもあります。家具の選定の際は、重視していただきたいポイントです。


(杉山氏)




オカムラが提案する「CMF BOX」同社ウェブサイトより (※)

オカムラが提案する「CMF BOX」

同社ウェブサイトより (※)





先ほど紹介した「Finora」は、どんな空間にも溶け込めるようにシンプルなデザインを採用したうえで、さらに背中のカスタムパネルや座面のファブリックの変更を可能にしました。様々なスペースで利用できるようになっています。


(杉山氏)




■「見える化」「多様性」に対応したエルゴノミクスへ


――「作業姿勢」について、現在進めている課題はありますか。



「この椅子はこのように座ってください」とメーカーが言っても、使う側は、ずっとその姿勢のままではいられず、だんだん崩れていきます。センシング技術により好ましい座り方や椅子の設定をアドバイスするセンシングチェアを開発し、作業姿勢の見える化に取り組んでいます。現在、丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi(ポイントゼロ マルノウチ)」で実証実験を行っています。


(浅田氏)




――姿勢を正してくれる椅子はいいですね。



「エルゴノミクス」の最終形は、人が合わせるのではなく、家具や環境が自動的に人間に合わせてくれるようになることだと思います。「オカムラ いすの博物館」には、で「エルゴノミック・シーティング・シミュレータ 02」が設置されています。体格を自動計測する機能、体格に合わせて座面や背もたれを自動調節する機能や、座り方による体圧分布を視覚的に表示する機能が装備されており、身体にかかる負荷の違いを実体験できます。予約制の施設ですが、ご興味のある方はぜひ体験してみてください。


(浅田氏)




エルゴノミック・シーティング・シミュレータ 02 (※)

エルゴノミック・シーティング・シミュレータ 02 (※)




――多種多様な人間にオフィスが合わせてくれるのは、理想的ですね。



オフィスにおける最大のファクターは「人」ですから、「人」が変わればオフィスのあり方も変わってきます。その点では、ワーカーの多様化に対応した研究も進めています。人口減少や高齢化により日本におけるマンパワー不足はさらに進みます。高齢者や身体障害者など、幅広い人材を活かす必要が高まってくるでしょう。リモートワークなどでの対応もあるでしょうが、オフィスで一緒に仕事をするシーンも増えると考えています。


そこで、ユニバーサルなオフィス作りをサポートする製品の研究開発を進めています。発売中の「ウェルツ セルフ」は、歩けるけれど転倒の恐れがある、という方に向けた座ったまま移動できる椅子です。車輪が体の重心の位置にあるため、足の動きだけでスムーズに移動できます。


2020年に発売を予定しているのが、電動タイプの「ウェルツEV」です。通常の電動車椅子は大きいので、オフィス内で運用しようとするとレイアウト変更が必要になる場合がありますが、「ウェルツEV」はオフィス内限定なので小型化が可能になり、小回りもききます。操作レバーの高さも、標準的なデスクの下にすっぽりと収まる設計です。オフィスチェアに近いデザインにしており、特別感を与えることなくオフィスの中に溶け込みます。


(浅田氏)




「ウェルツ EV」(写真左)、「ウェルツ セルフ」(写真右)同社ウェブサイトより (※)

「ウェルツ EV」(写真左)、「ウェルツ セルフ」(写真右)

同社ウェブサイトより (※)




――今、ビジネスのあらゆる分野においてオートメーション化やAIの活用が進み、人間が介在する余地が減ると言われています。オフィスの「エルゴノミクス」化を追求する浅田さんは、ワークプレイスはどう変わっていくと思いますか。



単純作業はAIに置き換えられていくと思いますが、人でないといけないところは必ず残るでしょう。AI時代には、AI時代の新しいオフィスのあり方が、生まれるかもしれません。でも、それはAIのためではなく、そこで力を発揮する人のためのオフィスでしょう。オフィスは「人」が中心、という原則は変わらないのではないかと思います。


(浅田氏)








オフィスの在り方を決めるのは、あくまでもそこで働く「人」。


人がそこで働き続ける限り、人間を中心にした「エルゴノミクス」の研究が行き着くことはないのではないでしょうか。







取材協力

株式会社オカムラ

オカムラ いすの博物館


参考資料・サイト

はたらく姿勢を考える(株式会社オカムラ)

岡村製作所 オフィス研究所 浅田晴之、上西基弘、池田晃一著「オフィスと人のよい関係 オフィスを変える50のヒント」(日経BP社、2007年)

オフィスユースウェア・マネジメント研究会「いい会社はオフィスが違う」(NTT出版、2012年)

一般社団法人日本人間工学会ホームページ

一般佐団法人人間生活工学研究センター

一般社団法人ニューオフィス推進協会ホームページ




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年11月21日

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