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介護離職をしない、させないための「プロジェクトとしての介護」

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画像:NOBU / AdobeStock (※)

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家族などの介護のために会社を辞めてしまう「介護離職」が10年間で約2倍に増加しています(大和総研「介護離職の現状と課題」[PDF: 外部リンク])。介護者当人の人生を大きく左右してしまうことももちろんですが、人手不足が深刻化する中、企業にとっても介護離職は大きな損失となるため、その対策を整備することが急務になっています。


高齢者人口が増え、介護は誰もが直面する身近なできごとです。性別も年齢も関係なく、介護に直面する日は誰の身にも迫ってきています。


介護離職は、介護に直接向き合う介護者だけの問題ではなく、社会全体で取り組むべき問題です。政府は「介護離職ゼロ」を推進していますが、その取り組みはどこまで社会に届いているでしょうか。


進みつつある介護離職の現状や対策、企業の取り組みをご紹介します。



■身近なリスク「介護離職」の深刻な現状


介護について、漠然としたイメージしか持っていない方もいると思います。


自分はまだ若いから関係ないし、親も健康だから大丈夫、と安易に考えていると、自分の首を絞めることになりかねません。


総務省統計局のまとめによると、2017年における介護者人口は627万6,000人で、そのうち有業者は346万3,000人、無業者は281万3,000人となっており、有業者が占める割合は増加傾向にあります。さらに、パート従業員より正社員の割合が高いことが、問題の逼迫性を示しています。


要介護(要支援)の認定者数は2017年4月時点で633万人と17年間で約2.90倍、今後も増加が予想されます。(内閣府「要介護度別認定者数の推移」[PDF: 外部リンク])。


一方、少子高齢化の影響により働き手が減少しているにも関わらず、介護や看護のための介護離職者の数は 2017年には約9万人と、2010年代より約2倍に増加しています(上記大和総研データ)。


介護をしている正社員の7割が40~50代であり、職場で責任ある立場の管理職が多く、今後、介護離職が急増すれば、労働力不足の問題はさらに深刻化し、経済損失につながることも懸念されます。


さらに、介護をしている従業員の8割以上が、雇用形態を問わず、介護休業等の制度を利用していないこともわかっています(総務省「介護施策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」[PDF: 外部リンク])。


そのような中で、政府は「介護離職ゼロ」を目指し、具体策として、介護の受け皿の拡大とともに、仕事と介護の両立が可能な働き方の普及を示しています。介護離職を深刻な問題と捉え、介護離職防止に積極的に取り組む企業もあります。厚生労働省が発表した「仕事と介護を両立できる職場環境」のシンボルマーク「トモニン」を掲示し、自社の取り組みをアピールする企業も増えています。



■介護問題を人事部に相談する人は「ほぼゼロ」


介護をしている約4割の人が、仕事を離職した状態で介護にあたっているのが現状です。介護離職をしない、させないためにはどのような対策をすべきなのでしょうか。


女性活躍推進事業・仕事と介護の両立推進事業をしている株式会社 wiwiw(ウィウィ)の執行役員 寺西知也氏(仕事と介護両立支援部)にお話をうかがいました。



株式会社 wiwiw 執行役員 寺西 知也氏(仕事と介護両立支援部)

株式会社 wiwiw 執行役員 寺西 知也氏(仕事と介護両立支援部)



寺西氏によれば、介護について会社の誰にも相談しない人の実態は約3割にものぼるとのこと。相談できる雰囲気があるかどうかがとても大切だといいます。




当社が厚生労働省の委託を受け、平成26年に全国100社に調査した結果、現在介護をしている方の内4割弱の方は勤務先の上司に相談しているのですが、人事部に相談している人は非常に低く、ほぼゼロに近いという状況になっていました。また、上司も含めて誰にも相談していない人は約3割でした。介護について相談したい気持ちを持っている人は多いのですが、何かしらの理由で相談できない雰囲気があるようです。やはり相談ができる雰囲気がある職場ほど、就業継続率が高くなっています。仕事と介護の両立支援において、相談できる雰囲気があるかないかということが非常に重要だということがわかります。


株式会社 wiwiw(ウィウィ)の執行役員 寺西知也氏(仕事と介護両立支援部)



会社での日常会話の中で、介護や病気といったプライベートな事情について話すのは、よほど切羽詰まった状態になってからというのが実情のようです。一切相談することなく辞めてしまう人の中には、責任ある管理職の立場で、そのようなプライベートな話は会社に持ち込んではいけないと思っている人も多いそうです。


介護者当人の立場に立てば、会社を離職してしまうことの最大の問題は、収入がなくなってしまうことです。その後に再就職するとしても、受け入れ先があるかどうかはわからない中での離職は非常に危険です。


そもそも会社を辞めずに、今の会社での仕事と介護を両立することはできないのでしょうか。




介護を両立することについての基礎的な知識がないと、何をどうすればいいのかわからず、やることの多さに混乱してしまいます。特に初動では、入院やその後の受け入れ先を探したり、また、状態によっては介護認定の手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなど、短期間の間にやるべきことがたくさんあります。多くの方が、この状態がずっと続くのではないかと不安に陥っててしまいます。そして、仕事と介護を両立できる自信がなくなり、その結果、退職してしまう人が多いと感じています。


介護は、対象者の状態に応じてやるべきことがつねに変化します。たしかに最初の数カ月程度は対応することが多いのですが、その後は安定する期間が続くこともあります。"今"の大変さにフォーカスしがちですが、少し先をみて自分自身のキャリアや生活のことも考え、介護をすることがとても大切です。そのためには、状態に応じて介護休業を取得したり、時短勤務や介護休暇で半休を利用するなど制度を活用したり、外部サービスを適切に利用することで、仕事と介護を両立することは可能です。


(同)



■介護離職をしない、させないために何が必要か



――従業員個人としては、どのような対策が可能なのでしょうか。



まず、大切なのは、当事者意識を持ち、介護に直面する前から準備をすることです。


75歳以上になると、4人に1人の割合で要介護認定を受けているというデータもあり、特に40代・50代の従業員は高い割合で注意が必要です。また、介護というと老親のことと考えがちですが、配偶者や子どもを介護している方も少なからずいます。最近は、20~30代の若手が、祖父母や病気の親の介護をしている割合も増加傾向にあります。まずは、年齢、性別問わず、従業員一人ひとりが、自分も当事者になりえる可能性があるとことを自覚することが大切です。


そして、両立の仕組みに関する情報や、それをサポートする外部サービスなどの情報を積極的に収集し、事前の準備を進めていきます。事前の準備をしておけば、介護のどの段階で何をするのかを想定でき、先を見すえて介護にあたることができます。


たとえば親がどういう介護を望むのか、介護になった時に兄弟姉妹や親族と介護というプロジェクトをどう分担していくのかを確認する。他にも、介護や保険制度のサービスを把握したりすれば、いざ、介護に直面しても冷静に対応できるでしょう。準備をせずに、突然、介護者になってしまうと、一人で抱え込んでしまい、離職をする割合が高くなります。


また、ケアマネジャーなどの介護の専門家や会社の上司や人事担当に相談することももう一つ大切なポイントです。


介護に直面したことを相談することで、自分が知らなかったさまざまな情報を得ることができ、両立の選択肢を増やすことができます。



――会社の側でとりえる対策には、どんなことがあるでしょうか。



国が介護離職ゼロに取り組む後押しもあり、ひと昔前と比べしっかりと課題意識をもって取り組んでいる企業も増えてきました。両立支援の運用・定着のために各企業担当者の方々が試行錯誤しながら日々取り組んでいます。今後は、従業員の「両立の質」を向上させることが、各企業の課題になってくると思います。


そのためには、職場レベルまでその支援を浸透させる必要があります。本社の人事担当者が主体で取り組むことが多いですが、事業所や工場等では、本社と理解度に差があることが多いので、各事業所の人事担当者が両立推進者としての両立支援の基本を理解し、従業員から相談があった時に適切に対応できるよう育成する必要性があります。弊社でもそのサポートを昨年から実施しています。


(同)



寺西氏によれば、仕事と介護を両立してもらうための対応策には次のようなものがあります。



仕事と介護の両立のための対応策



このうち、従業員に対する情報提供では、介護者になっても仕事と介護が両立できるということを従業員が理解し、両立をするための情報をインプットする。管理職の意識改革・育成では、介護のことを相談できる職場の雰囲気を作るために、管理職を対象にマネジメント研修などを実施する、そして仕事と介護の両立推進者の育成では、両立支援を定着できるようにする。会社だけでできないことは、専門家やサポート会社を利用して一緒に推進していくことが重要だとのこと。



「介護や病気という話題はセンシティブなものなので、やはり話しにくいということがあります。たとえば、管理職の側から『介護セミナーを受けてきた』という話題をきっかけにして、介護問題について話ができるようにすることも、話しやすい雰囲気につながるのではないでしょうか」と寺西氏はアドバイスします。



■育児・介護休業法と、ケアハラの問題


政府の推進する「介護離職ゼロ」の目玉になっているのが、2017年1月に改正施行された育児・介護休業法です。この法律により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族1人につき通算93日間の休業を3回を上限として分割取得できます。




育児・介護休業法は、3回に分割して介護休業を取得できるようになるなど、より柔軟になり、使いやすくなりました。93日を「介護発生期」、「介護体制再構築期」、「終末期」という3回に分けて取得できます。従業員に対しては、ただ単に分割取得ができることだけでなく、それぞれの期間に何をすればいいのか、本来の目的(介護のみをするのでなく、両立をするための制度)に合わせて介護休業制度を活用できるように人事部から情報を提供することが重要です。


また、介護休暇は、1年に5日、半日単位で休暇を取得することが可能になり、これも介護両立体制の維持のために、通院の付き添いやケアマネジャーとの打ち合わせなど、丸一日休まなくても利用できるようになりました。介護者にとっては、制度を拡充して時間単位で取得できるとさらに利便性が高まると思います。


(同)



――シフト勤務など、時短勤務制度を利用しにくい場合はどうすればいいでしょう?



シフト勤務でも仕事と両立しながら介護をしている人は大勢います。シフト勤務での時間帯が両立をしていく上で難しくなった場合やその可能性がある場合は、本人は無理をせず早めに会社に相談することが大切です。そして、本人がどのような働き方をしたいのかを話し合いの場を設け、本人が望む働き方ができるように上司が調整していく必要があります。上司だけでは解決できない場合は、人事部がサポートしていくことも必要です。


そのとき、単純に9~17時等の通常勤務の職場に配置転換するという対応策では、本人のキャリアにとってマイナスになってしまうケースもあります。あくまでも本人と適切なコミュケーションを図ることで、仕事内容や量を調整し、本人が中長期的に活躍できる環境を整えることが大切です。


また、ケアハラにも注意が必要です。本人のキャリア形成に必要な仕事を大変だと思って過剰配慮して与えなかったり、自分の介護観(介護は妻がするもの、介護になったら施設に入ればよいなど)を押しつけたり、介護制度の利用や取得について嫌味を言ったりすることもケアハラにつながります。


(同)



ケアハラは育児・介護休業法の考え方に反する行為です。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律には、「事業主は労働者からの介護休業申出があったときは、当該介護休業申出を拒むことができない」と明記されています。介護を理由に人事評価等を下げるような不当な扱いや、介護による制度利用に対する嫌がらせは、ハラスメント行為となり、法令違反となります。



■時短勤務でも生産性を上げるには「働き方改革」の取り組みが必要


介護者にとって、最大の問題は「時間がない」ということです。会社の側としては、時間に制約がある従業員に対応することによって、生産性が低下するのではないかという懸念も出てくるかもしれません。




介護に関する制度では、休業や短時間勤務といった働き方ができますが、大きく働き方を変えてしまうと本人の収入にも直結しますし、モチベーションにも影響する恐れがあります。そこで、従業員が介護者になった場合、これまでの働き方をあまり変えずに、今までの働き方ができる方法を探すことが上司や会社の大切な役割になります。


先ほどお話ししたように、介護には対応に追われる時期、安定する時期があるので、自分が今どのような状況にあるかということを伝え、上司の情報をアップデートすることが非常に重要です。上司がその状況に合わせて仕事や働き方の支援をできますから。


また、残業が多いという人は、まず「定時で帰る」ということがスタートになります。定時で帰るだけでは両立できないという場合は、期間を定めた上で短時間勤務するのがお勧めです。介護で一番大変な時期に、一時的に短時間勤務をするようにしても、上司や同僚にサポートしてもらえる環境があれば、両立しながら働くことは可能です。


働き方改革に応じた諸制度が整備されていない場合は、まず、突発的な休みをサポートできる体制を構築することから始めるべきでしょうね。仕事を分散して従業員をカバーできるようにする(ダブルアサイン)、情報の共有、会議時間の調整、仕事の見える化、といった改革にも取り組むことが必要になります。


(同)



1提示で帰れる2職場全体で柔軟な働き方ができる3場所や時間にとらわれずに働ける




この3つの取り組みが、仕事と介護を両立するためのポイントになります。つまり、いわゆる働き方改革ということです。長時間労働が恒常化する職場では、早く帰りにくいという暗黙のルールが生じる可能性が高いです。業務効率化を進めて労働時間を削減することが重要です。これらを抜きにして介護離職の取り組みを進めることは難しいと思います。逆に、働き方改革を積極的に推進している会社であれば、介護離職の問題も起こりにくくなります。


(同)



■仕事と介護の両立に取り組む企業事例


wiwiwでは、多くの企業に対して、仕事と介護の両立支援サービスも提供しています。この課題で先進的に取り組んでいる企業事例をいくつか紹介していただきました。



○カゴメ株式会社の場合~課題意識が高く積極的取り組みを推進

カゴメ株式会社では、ダイバーシティを重視した経営戦略から女性活躍推進を進める中で介護問題への取り組みを始めました。


介護の基礎知識を深めるため、2017年に仕事と介護の両立支援セミナーを全国各拠点6ヵ所開催、300名が参加しました。このセミナーは2年目も開催され、認知症をテーマに勉強会のスタイルで行われました。参加者は600名と倍増し、同僚との相互理解が深まりました。


3年目にも、実際にお子さんを介護している従業員の声をきっかけに、「パートナーの精神疾患や病気(ガン)の治療」「子どもの障がいや難病との両立」をテーマとしたセミナーを開催。このセミナーに参加したことで自分を開示する人が増え、社内の風通しが良くなり、会社へのエンゲージメントが深まりました。


介護を自分ごととして考え、対話するという形で取り組むことによって、職場の風土が改革され、コミュニケーションが活性化し、相互理解、仕事と介護の両立につながりました。



○ANA(全日本空輸株式会社)の場合~グループ一体となって仕事と介護の両立支援を推進

ANAでは2007年に「いきいき推進室(現ダイバーシティ&インクルージョン推進室)」を立ち上げ、仕事と介護の両立支援も積極的に取り組みはじめました。


グループ企業全社がアクセスできるイントラネットに、「7つの事項を宣言するワークライフバランス」を支援するメッセージが経営トップ層から発信されました。中には、「会社も職場も必ず理解してくれる。介護を理由に仕事を辞めないで」という役員直筆の写真付きメッセージも掲載されており、介護中の従業員からは「勇気づけられた」「退職に悩んでいたが踏みとどまった」「安心した」という反響があったそうです。


その他にも、次のような取り組みを実施しています。



・介護セミナーを年4~5回実施

・51歳以上の従業員は仕事と介護の両立セミナーの受講必須

・ロールプレイングがメインの介護に直面した部下の管理者向けマネジメント講座(部下とのコミュニケーションの具体的な方法や働き方改革の関係を学ぶ)

・キャリア支援室に相談窓口を設置し、相談できない人のための話しやすい風土を作る(キャリアコンサルタントの資格を持つ従業員が対応。キャリコンサルタントは介護セミナー受講必須)

・外部相談窓口設置

・セミナーや相談会は家族同伴を推奨



■「介護」をプロジェクトとして考える



――介護の問題というと、とかくマイナスのイメージがありますが。



介護をマネジメントできる力を、ビジネススキルと同じように考えてほしいです。すべてのビジネスパーソンが介護の両立についての知識を理解し、仕事と同じように、プロジェクトとしてスケジュールを立てて介護チームで対応していくことが理想です。


自分自身の負担を減らし、両親・兄弟姉妹・親戚など、できるだけ多くのメンバーや外部サービスを利用し、介護にあたることをお勧めします。自分は方向性や方針を決定するキーパーソンであると意識すれば、負担も軽くなります。そして、専門的なことは外部サービスなどの専門家に任せ、家族は精神的なサポートに徹することをお勧めします。


介護当事者は目の前のことしか見えなくなってしまうので、先を見ながらご自身の働き方・キャリアプランを考えてほしいですね。


(同)



今後、介護しながら働くのが当たり前の「大介護時代」が到来します。


そうした時代を先取りするために、介護についての知識やノウハウを持つことは、たしかにひとつのビジネススキルと言ってもいいかもしれません。介護離職の問題に手つかずの企業は、まず新入社員研修にビジネススキルとしての介護知識を伝える研修も組み込むことから始めるべきかもしれません。


家族のことなるとどうしても視野が狭くなりがちになってしまいますが、自分は介護というプロジェクトのキーパーソンであると自覚すれば、全体像をつかみ、事前に家族と話しあって役割分担を決めておくこともできそうです。


「準備する・相談する・両立のポイントを押さえながらキャリア形成する」という介護と仕事の両立が当たり前のことになる日もすぐ近くに来ています。







取材協力

株式会社wiwiw[外部リンク]








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年7月31日




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