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群馬県太田市の"ABW全部入りオフィス"~日東システムテクノロジーズ[後編]

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日東システムテクノロジーズの新オフィス(※)

日東システムテクノロジーズの新オフィス(※)


群馬県太田市のIT企業、株式会社日東システムテクノロジーズのオフィスを訪問しています。前編では、ABWのあらゆるゾーンが揃った贅沢なオフィスをご紹介しましたが、後編ではこのようなオフィスを作ることにした背景や実現の過程、社員の皆さんの実際の働き方などについてご紹介します。








■「最高のチーム」と「色褪せないミッション」があれば

青木稔さん(代表取締役)と木口明日美さん(総務部人事・広報)

青木稔さん(代表取締役)と木口明日美さん(総務部人事・広報)



ひと通りオフィスを見せていただいて、大変感銘を受けました。ここまで力を入れている背景には、どのような考えがあるのでしょうか。


青木さん  自社製品を作る上でデザインが良くない、わかりやすくないと、どうしてもお客さんが離れていってしまいます。だから中小企業でありながらちゃんとデザイン専門部署を設けてデザインに力を入れてきました。経営にもデザインを取り入れるようになったのはこの社屋を作ってからですね。


デザインというものが人の意識を変化させるような影響を及ぼすことに改めて気づきました。そこで製品も、働く環境も、デザインを考えて作り上げていくことに重きを置くようになりました。


― デザインと言うと見た目の美しさのことと思われがちですが、色や形、レイアウトといったものが働く人に与える合理的な影響を及ぼすのは間違いありませんね。


青木さん  気分によって働きたい場所を変えたりすることがありますから、空間デザインは行動に大きく影響すると思います。単なる見てくれということを超えて、事業や業界をデザインしていくというような視点を持つようになりました。


― 経営する上で「最高のチームと色褪せないミッション」を大切にしているそうですが。


青木さん  自分たちにしかできないものを生み出すことで、社員みんなで豊かになっていきたい。自分たちのミッションを陳腐化させずに実現するには「最高のチーム」が必要です。色褪せないミッションを共有して一緒に楽しくワクワクしながら仕事するチームを目指しています。


「最高のチームと色褪せないミッション」。この2つがあれば、事業はうまくいき、世の中に価値を提供していくこともできますから。




■デザイン会社を使わず自分たちで内装を決めた



― このオフィスへの移転は2021年だそうですが、その前は?


青木さん  旧オフィスは、30年前に50名ほど入れればいいというつもりで建てたのですが、最終的には100名ほどが働く状況になっていました。トイレが混雑したり、会議室も常に埋まっていたりしていました。社員は自動車通勤ですから駐車場も4箇所借りていました。とにかく「ものが足りない」「場所が足りない」状態で、フラストレーションがたまってクレームの嵐でした(笑)。


木口さん  そうでしたね......。


青木さん  IT企業ですからリモートワークで出社率を下げることも考えましたが、自社製品の開発のためにはやはり企画が重要なので、リモートワークではそれを加速させることは難しいと判断しました。新しい社屋を作り、価値あるものをより快適に作れる環境を作るために移転を決意しました。


― コロナ禍で働き方にどんな影響を受けましたか?


青木さん  感染拡大当初はまだ旧社屋にいましたが、太田市でも緊急事態宣言が出て、完全にリモートワークに切り替えました。IT企業ですから即日リモートワーク対応できる体制ができていたのは良かったのですが、1ヶ月、2ヶ月経つうちにコミュニケーションが不足して、誰がどこで何をやってるかがわからなくなってきました。意思疎通もうまくとれなくなり、連絡なしに上がってきた成果物が予想と違っているので1週間手戻りしたりというようなことも起こりました。テレワークでスムーズに仕事をするのはなかなか難しいというのが実感でした。当時はマスク不足でしたから、会社で大量購入してみんなに配ったりして感染対策に努めましたが、事業の進みが遅くなっているということはひしひしと感じていました。


― リモートだけではうまくいかないという反省から、このオフィスで新しい働き方を実現するようになったのですね。


青木さん  移転計画は土地を取得して建築して、という4年越しの計画でしたから、コロナ前からスタートしていましたので、もともと考えていた「自席とABWの働き方」というコンセプトと、コロナ禍で得られた教訓がたまたまマッチしたということだと思います。計画を大幅に変更する必要がなかったのは、ある意味ラッキーでした。


― 今ではリモートワークはしていないのでしょうか?


青木さん  原則は出社で、理由がある人、理由がある日にリモートワークしている感じです。片道2時間ほどかかるところから通っている人は、週の半分リモートワークをしています。最近では減りましたがコロナにかかったり濃厚接触したりした人もリモートワーク。一時はかなりリモートワークをしていましたが、今は「万が一のときの」というイメージですね。


― コロナ禍によってオフィス不要論なども唱えられましたが。


青木さん  自社製品を開発していますから、コミュニケーションやコラボレーションはやはり欠かせないんです。IT企業だからこそ、リモートワークでのコミュニケーションやチームビルディングの限界をよく知っています。今のテクノロジーではこれ以上は無理だとわかるんです。だから、皆さんが家にいるより会社に来て働きたいと思う場所を作ったほうがいい。みんなが快適に働ける場所を作りたい。ここにいる方がより持続的に働けると思える場所を作って、社員の満足度を上げていくことを目指しました。


― 部門としてはどういう部門があるんですか?


青木さん  デザイン系の人たちの「デザインラボ」、総務・経理のバックオフィス部門があり、それ以外は製品・サービスの事業部門で分けています。学生募集系システムの部門、高校生向けの進学情報配信システムの部門、学内の成績・出欠管理システムの部門、病院系システムの部門というふうに6部門あって、部門ごとにIT技術者と営業の人たち、カスタマーサポートの担当者がチーム内に在籍しています。少ないチームで10名ほど、一番多いチームは50名近いです。


― 移転は皆さんでプロジェクトチームを作ったのですか?


青木さん  はい。ただ、プロジェクトチームで何から何までをやるのではなく、どういうレイアウトでどういう働き方をすれば効率よくなるのかを考えて、私がたたき台となる図面を作りました。といっても素人ですからエクセルの図面です。そして各年齢層、各ポスト、性別や家庭の有無がバラバラの人を20人ほど集めて、「私の図面に文句をつける会」を開き、「こういう施設があった方がいい」「うちの部署がここだとちょっとやりづらい」「これがこうなっていると不便」といった意見を吸収して取り入れる、ということを3、4回ほど繰り返し、「これがいい」という図面ができあがりました。


それで、今度はゼネコンさんを呼んでその図面を見せてコンペをしました。それから内装になるわけですが、非常に珍しいと言われるのは、いわゆる設計事務所さんやコンサルティング会社さんが一切入っていないことです。我々とゼネコンさんだけで作りました。


― デザイン会社を入れなかったのですか?


青木さん  そうです。だから例えば天井材とか壁材、床材、細かくいうと造作家具のメラミンなども全部我々が品番を指定してゼネコン会社さんに作ってもらったんです。


― 本当ですか! それはものすごい大変ですよね......?


青木さん  えらい手間でした。窓枠の色から何から何まで指定してやってもらいました。


― デザイナーさんがいたからそういうことができたのでしょうか。


青木さん  いいえ、みんな素人です。言ってみれば、ディープラーニングのようなやり方ですね。国内外の「このオフィスが綺麗だな」「かっこいいな」と思った事例をネットでピックアップして、その写真をみんなで見て、「この事例の良さは何か」「当社らしい内装、デザインは何か」ということを言語化していったんです。「ここはおそらく天井がこうで、床がこうだからいい感じになるんだ」というふうに言語化していくと、それで内装が決まってくる。AIに猫の画像を大量に学習させると猫を判別できるようになる、というイメージでしょうか。


― かっこいいと思う会議室の写真を大量に集めてイメージボードを作っていく、というような作業でしょうか?


青木さん  おっしゃるとおりです。もちろん内装材の種類などはわかりませんから、ゼネコンさんからカタログをいただいたり、種類を教えてもらったりして選んだり、イメージしたものがないときは「こういうものにしたい」とゼネコンさんに投げて調べてもらったり、ということをしました。


― 建設会社さんにも柔軟性がないとできないですよね。


青木さん  完成した後で、「本当に大変でした」と言われました(笑)。普通は設計会社さんがそういうことをやってくれるわけですから、ゼネコンさんが柔軟に対応してくれることはないと思います。


― 良い巡り合わせだったのですね。


青木さん  そうですね、ゼネコンさんも「やれてよかったです」と言ってくれました。




■グリーンのメンテナンスは社長と社員で!



― コーポレートサイトによると、全部で100鉢超、53種の観葉植物が設置されているそうですね。


青木さん  もともと私がグリーン好きで、目に映る草や木などのグリーンの量の割合が高いと生産性が上がるという研究結果もありますから、どちらを見ても必ずグリーンが視界に入るように設置しています。


メンテナンスは、会議室から外側は私の担当で、反対側は木口ともう1人が担当しています。上階にはもう1人担当がいて、植え替えから剪定まで、4人でメンテナンスしているんです。


― ええっ、業者さんではないのですか。かなり大変ですよね。


木口さん  はい、植物についてはだいぶプロになりました。弱ってきても、ちゃんと復活させられます。


― 素晴らしいですね。アスクルでもエントランスの植物を「園芸部」がメンテしていますが、社長も含めた3人で全部メンテナンスしている会社は珍しいと思います。


青木さん  当社はオフィスの掃除も全部自分たちでやるんですよ。8時出社なのですが、8時20分までは全員で毎日大掃除です。この中庭に面したガラスも綺麗にしていますが、それも社員が磨いているんです。業者さんレベルの綺麗さです。社員はみんなプロですよ。


― す、すごいですね......


青木さん  ちょっと変わっています。ファシリティマネジメントを社員たちがやっているわけですから。




■集中できる場所のニーズをくみ取っていきたい



― コーヒー、紅茶にアイス、お菓子も会社で提供していますが、福利厚生としては他にどんなことをしていますか?


青木さん  誕生日プレゼントと、年末のご家族向けプレゼントを配っています。福利厚生施設としてはトレーニングジム、マッサージチェア、仮眠室を完備していますし、宅配ボックスを設置して宅配の荷物を会社で受け取れるようにしています。昼食会は、チューターが新入社員を連れてご飯に行って親睦を深める予算を出しています。


木口さん  あと、洗車・給油のサービスというのがあって、専用ボックスに車の鍵を入れておくと提携ガソリンスタンドの人が給油して洗車して戻してくれます。オイル交換からタイヤ交換まで全部やってくれるんです。


― 重役気分ですね(笑)。


青木さん  そうそう、私も利用してるので、車を買ってから給油口を開けたことがないんです。あと、普段は仕出し弁当なのですが、キッチンカーにも週1で来てもらって、作りたてのイタリアンを食べてもらっています。


― 実際の働き方として、「コミュニケーション」と「集中」の割合はどのくらいでしょうか?


青木さん  イメージ的には自席に滞在している人が6、7割、席を外している人は3、4割という感じですね。意外に自席に留まる人が多いかと思うと、ずっと自席から離れてる人もいて、いろいろな傾向が見えてきます。旧社屋ではスペースがないので全員自席しかなく、「隣の人がうるさい」など好きな場所で働きたいという要望が多かったのですが、いざ自由を提供すると、意外にみんな自席に留まるんですね(笑)。車の色を選ぶのに白と黒しかないと不満だけど、30種類から選べると結局白か黒になるようなものでしょうか(笑)。


― ABWは働く場所を個人の裁量で決めるということですから、日本人の場合、どうしたらいいかわからない人も多いそうです。ある程度決められたほうが動きやすいのかもしれませんね。


青木さん  完全にジョブ型に移行すれば、どこで誰が何をやっていてもいいのかもしれませんが、日本の会社はやはり先輩や上司などとの関わりが強くて、チームで仕事をすることが重要になるのでしょうね。そういう意味では人材育成も含めて自席があるのは良いポイントだと思います。


まあデメリットとしては、両方用意するには倍の面積が要るということですが。


― それができることが、テナント料の高い都心の会社ではないという強味ですね。


青木さん  そうです。東京のテナントビルだと家賃の問題がありますが、ここのように土地が安くて広大だというメリットを存分に活かしていることになると思います。


― 今後改善していこうと考えていることは?


青木さん  オフィスはできて終わりではなく、新たなニーズに日々気づくことがたくさんあります。コロナ禍で働き方も変わり、今後は若い人が減って働き手に選ばれる会社にならなければなりませんから、常々時代に合わせて変えていく必要があると感じています。リモートワークも、ABWも、自席の概念も、2、3年ごとに見直しながらリニューアルしていくつもりです。


例えば、集中する場所として集中ブースを用意したのですが、実際にABWしている人たちを見ていると、集中したいからといって集中ブースを利用するとは限らない。ラウンジエリアの端のほうなど、「開放的な場所で集中したい」「ちょっとガヤガヤしている方が集中できる」というニーズもあります。そういう個々のニーズも汲み取って深めていきたいと思います。


―「さあ集中してください」という場所ではないほうが集中できることもあるわけですね。


青木さん  意外にそういうことがあるようですね。職種によっても違っていて、エンジニアは比較的暗めの場所、営業職やカスタマーサポートは明るめの場所を選んだりします。こもりたい人とこもりたくない人がいるようですね。







日東システムテクノロジーズのオフィスは、さまざまなABWの仕掛けのさながら集大成のようでした。また空間に余裕があるため各ゾーンが非常に効果的に機能しているように感じました。これに比べると、都心のオフィスがせせこましく見えてしまうほどです。


同社社員の半分はUターン、Iターンで県外から来る人とのこと。県内の企業としては珍しいそうですが、このオフィスを見るとそれが納得できます。今後も、社員の皆さんが誇らしく思えるこのオフィスから、すばらしいサービスが生み出されていくことを期待したいと思います。



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取材協力


株式会社日東システムテクノロジーズ

自社のオリジナルシステムやITサービスを学校法人、医療法人へ提供し、11年連続増収・増益と成長しているIT企業。開発から販売、アフターフォローまでをすべて自社で完結しており、お客様のニーズや自分たちのアイディアでより価値の高いサービスを顧客に提供しています。


日東システムテクノロジーズ コーポレートサイト[外部リンク]


編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2023年3月30日

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