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コンセプトは「未完」!住信SBIネット銀行のオフィス移転プロジェクト[後編]

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お話しを聞いた 千田康匡さん(住信SBIネット銀行 総務部長)と吉田祐一さん(同 総務部マネージャー)

お話しを聞いた 千田康匡さん(住信SBIネット銀行 総務部長)と吉田祐一さん(同 総務部マネージャー)


住信SBIネット銀行は原則テレワークなしの全員出社勤務型です。オフィスでの社内外コミュニケーションの活性化、執務環境の改善など、「働きたくなる」オフィス環境の構築を目的として、2024年4月、六本木一丁目の本社オフィスを、同年7月には中野駅前の新規オフィスをオープンしました。そのうち、今回は六本木一丁目の本社オフィスを紹介します。








■面積は2倍、会議室は3倍に

― まず、移転プロジェクトの経緯からお願いします。


吉田さん  当社は2007年の銀行開業以降、預金量・口座数の伸びに応じて社員数を増やしてきました。結果、移転直前の本社オフィスは「むぎゅうむぎゅう」の状態でしたし、急いで構築した他のオフィスも人員飽和が近づいていました。そこで、都内4拠点に分散したオフィスを六本木地区、中野地区の2拠点に集約すると共に、1人あたり面積も他社と劣らない程度まで回復させ、生産性と社員の就労意欲の両方が高まる、出社勤務前提の良質なオフィスに変貌させることが移転の目的でした。その中で、経年劣化著しい「くたびれた」オフィス什器も一新することや、来訪者数の増加に合わせた十分な数の来客会議室、社員の休憩エリアを確保すること等を実施しました。加えて、高いデザイン性を持たせ、社員が取引先や社員の家族に「自分が働くオフィスを誇れる」ようにしたいと考えました。


規模で言うと、移転前が約1,800坪、移転後は約3,600坪と約2倍の増床になります。社員含めた就労者数は六本木が約650名、中野が約600名です。



吉田祐一さん(住信SBIネット銀行  総務部マネージャー)

吉田祐一さん(住信SBIネット銀行 総務部マネージャー)



― 「むぎゅうむぎゅう」の状態というのは、どんな状況だったのでしょう


千田さん  私は4年前に転職で入社したのですが、当時から「むぎゅうむぎゅう」でした。入社した初日にびっくりしました(笑)。私の後に転職で入社した女性に聞いたら、転職エージェントから当社にオフィス見学の申し入れをしたけれど、情報管理を理由に断られたそうです。まあ、断るほか無いでしょうね(笑)。見せたら辞退されるのは分かり切っているし。


会議室は来客用・社内用含めて5・6個くらいしかなくて、取り合いが日常茶飯事でした。会議中に次の人が会議室ドアの前にわざと立って、早く開けろとプレッシャーかけてくるわけです。当然、会議室内の空気の入替えはできないから、もわっとした生温かい空気が常時漂っているのです。これでは辞める人がいてもおかしくない、今回の移転は、従来の良くない部分を一新する千載一遇のチャンスと思いました。



千田康匡さん(住信SBIネット銀行 総務部長)

千田康匡さん(住信SBIネット銀行 総務部長)



― 移転前からの社員にとっては、今は夢のようなオフィスかもしれませんね。


千田さん  そう思います。私自身もいくつもの会社を拝見してきましたが、当社オフィスほどの高い質の会社は、なかなか見たことがありません。これからオフィスを改装するので事例を見たい等、ご関心ある方の見学は大歓迎です。


― プロジェクトとしては2023年6月にスタートして10ヶ月で移転されたとのこと。かなりタイトですよね。


吉田さん  世間一般のスピード感で線表を引くと、予定期間からはみ出してしまう状態でした。これではスピードが全然足らない、とすぐに分かりました。オフィス移転・拡大を決めたのが2023年6月、そこから10か月後に六本木オフィス開業、13か月後に中野オフィス開業と2拠点を同時に進めました。手戻りできる時間も予算も無いので、常に「全集中」でした。


千田さん  吉田さんから「通常の倍近いスピード」が必要との感触を聞いて、すぐに進捗と予算管理の助っ人が必要だと判断しました。私と吉田さんが無理しても勝てる戦いではない、腕の立つ助っ人として発注者である当社側に立つPM会社を投入することにしました。そこで、什器メーカーも含めて有力なPM会社に電話して選定コンペ参加を依頼、短時間の準備期間にも関わらず、トップ自らが来社されて意気込みを示して頂いた明豊ファシリティワークス株式会社に決めました。


吉田さん PM会社の選定コンペに先だって、千田からRFP(提案依頼書)の作成を指示されました。千田は大規模システム開発のPM経験があり、RFPの重要性を知っていたからです。そこで、千田と共に、Excelに思い付く限りの項目を書き出し、体力の限り書き込む作業を数日実施しました。来客会議室の数から執務デスクのディスプレイのサイズまで、粒度は不揃いでしたが、考えられるものは全部入れました。


― 会議室はいくつ作ったのですか?


千田さん  構築開始初期に、取締役会で六本木と中野の両オフィスで3倍増の60室にするというKPI(数値目標)を示しました。当時、設計がそれほど進んでおらず60室できるという確信は無かったのですが「これくらい高い目標を掲げないと、社員の期待に応えられないな」という肌感がありました。口にした以上、後は、やるだけでした。結果的に、新オフィス移転後の半年で約6,000名の来客があり、規模を拡大した効果が見えました。



■リーダーシップで決めなければ良いオフィスは作れない

千田さん



― プロジェクトメンバーの構成は?


千田さん  総務部長(私)を統括とし、部長を含めて社員3名が事務局となりました。少なくとも3か月に1回は取締役会に進捗報告して経営層の理解を得ていましたが、経営層・管理職も男性が大半で、事務局の3名も40代の男性のため、将来的に会社の中核を担う若手社員、今後さらに増えていくであろう女性社員の意見を取り込む目的で、若手・女性分科会を設置して要望・意見を吸い上げました。


― 各部署から代表を出してもらって、というようなチームは組まなかったのですね。


吉田さん  はい。部署の代表として参加してもらう形式ですと、参加者にとっては、所属部署目線での最適化が到達目標になります。部署毎の目線ではなく、もっと高いところに視座を据えてもらいたく、そのようなプロジェクト態勢にはしませんでした。


千田さん  短時間勝負ですから、リーダーが一番勉強して、強いリーダーシップで引っ張る形が必要と考えていました。明豊ファシリティワークス社の助けを得て、裏付けとなる情報を収集し、ポイントを絞って関係者にヒアリングして進めました。


― そういった方々の意見であらためて気づいたことは?


千田さん  印象に残っているのは、若手・女性部会で個人用ロッカーに関して意見交換した際の出来事です。個人用ロッカーに付属するコート掛けは、男女別や禁煙・喫煙者別の区分けを設ける他社事例を聞いていましたので、当社はどうするかの意見を聴きました。その際、ある女性から「当社は毎年成長しているのに、反比例して個人用ロッカーは小さくなってきた。これ以上、個人のプライバシーを削らないで欲しい」との意見がありました。なるほど、確かにそうだなと思いました。企業成長は社員の犠牲のうえに立つものではなく、社員も成長が実感できる=待遇が良くなったと感じてもらう必要があります。そこで、六本木オフィスの個人用ロッカーのサイズを拡大すると共に、職場への私物持込が禁止されている中野オフィスでは、より多くのプライバシー空間を確保すべく、コートもブーツも傘も入る大型の個人用ロッカーとしました。



中野オフィスのロッカー

中野オフィスのロッカー



また、六本木オフィスでは、個人用ロッカーの一番下の段は共有とし「底上げ」しました。一番下は使いにくいですからね。



六本木オフィスの個人用ロッカー。防災グッズの収納スペースとし

六本木オフィスの個人用ロッカー。防災グッズの収納スペースとし"底上げ"している。



― なるほど。


吉田さん  中野オフィスの話題を1つ追加すると、中野オフィスでは個人のスマートフォンを執務スペースに持ち込めないことから、家族からの着信有無をチェックするためロッカースペースに椅子が欲しいという意見がありました。そうであれば、もっとしっかりしたスペースにしようと、ロッカースペースの隣に、1人でくつろげるIKEAのハイチェアやリクライニングチェアを並べたスペースを設置しました。このスペースは、特に女性社員に好評のようです。



中野オフィスのリラックススペース

中野オフィスのリラックススペース



吉田さん  社員に椅子の色などを聞くと、男性より女性社員の方が関心をもって意見を出してくれます。当社だけかも知れませんが、女性社員の方が職場環境の改善に意欲的で、よく気が付いてくれますね。個人用ロッカーも白だと手垢がつくという意見があって、六本木オフィスは黒色にしました。


千田さん  本当は中野オフィスの個人用ロッカーも黒色にしたかったのですが、主要な什器メーカーはどこも生産しておらず。きっとニーズがあるので、アスクルさんで製品化するといいと思います(笑)。また、アスクルさんの豊洲ショールームはすごく参考になりました。




■青空を取り戻す!

吉田さん



― 全体のコンセプトはどのようにして立てたのでしょうか?


千田さん  当社はテレワークをしない「出社率100%」の働き方が主軸です。また、多くの社員は外出せず長時間オフィスで執務します。このため、オフィスの中に「セカンドプレイス」、「サードプレイス」を設け、オフィスを出ずとも気持ちの切替えが図れるような設計にしています。



執務スペースとは別のイノベーションエリア。

執務スペースとは別のイノベーションエリア。



眺望は高層階オフィスにとって有益な資産です。「眺望をだれもが享受できるオフィス」を実現するため、窓側付近には幹部社員の席等を設置せず回廊(窓際回廊)にして、予約不要にて利用できるミーティング席・カウンター席を設けることで人流を引き込みました。



窓際回廊

窓際回廊



移転前の本店オフィス(泉ガーデンタワー18階)も高層階だったのですが、窓側ギリギリまで幹部社員のデスクを設置したことから、遠慮のため、いったん下げたブラインドを上げるのが難しく、閉じたままの状態でした。結果、18階に関わらずオフィスが暗く、その日の天気も、太陽の移ろいも感じられない状況でした。


― 「青空を取り戻す」というのが、移転プロジェクト開始時からのコンセプトと伺いました。


千田さん  はい、事務局メンバーの共通の想いでした。ブラインドが下りているため、オフィスエリアに入ると季節感が無くなり、地下室とも思えるようでした。移転後のオフィスも高層階でしたので、次こそは青空が見えるオフィスにしたいと考えていました。


そこで辿り着いたのが「窓際回廊」です。ヒントになったのは日本家屋です。日本家屋には「縁側」があり、縁側廊下から障子を通して柔らかくなった光が居間に注ぎます。これをヒントに、窓際に回廊を設ければ外の光を眩しいと感じる人が減り、自然とブラインドが開くのではないかと考えました。


吉田さん  空調問題も同じで、窓際に近いほど中心部と室温が異なります。特に高層ビルは窓際にエアカーテンが入るので寒くなりやすいのです。そこで窓際席の人の体感に合わせて室内温度を上げてしまうと全体が暑くなりすぎるのです。


― デザインコンセプトについては?


吉田さん  エントランスのコンセプト構築は難しかったですね。銀行らしい重厚なものから、ベンチャー的なとんがったものまで、いろいろな案がありました。どこに軸足を置くべきか、事務局と明豊ファシリティワークス社で何時間も議論しました。


エントランスの空間

エントランスの空間



吉田さん  結果、明豊ファシリティワークス社のデザイナーさんのリードを頂き、「未完」というデザインコンセプトに辿り着きました。当社は創業して15年目と他銀に比して若く、これまでの歴史より、これからの未来の方が長い企業ですから、今を完成形と捉えるのでなく、私たちの次、そのまた次の社員が会社を創り続けていくことを念頭に置きました。


例えば、エントランスに入ると正面に立つ壁は「半製品」の塗り壁にして、未完成品=rowを印象づける狙いがあります。その壁に隙間を設け、隙間の先には現代的なシャトルエレベーターが見えるようにしました。この隙間は「未来の覗き窓」でもあり、壁をぐるっと回ると現代的な空間が出現するように設計しています。


また、全体的にすべてを設計し尽くすのではなく、什器を置かない空き空間をいくつか置いて、「縫い代」を持たせています。成長に応じて、その時その時、何が必要かと考えて、直しながら使い続けるためのものです。



「未完」を体現する

「未完」を体現する"塗り壁"とリサイクル瓶のかけらを用いた意匠



吉田さん  什器は、汚れが目立ちやすい白や、よくある木目を避け、見た目良い色配置を検討しました。とくに、デスクは表面積が大きく空間全体の色を支配しやすいため、いくつもの候補を手に取って見ながら、慎重に選びました。




■何でも頼めるコンシェルジュセンター

千田さん



― オフィスの運営についても新しいコンセプトを立てたそうですね。


吉田さん  まず、社員の日常身の回りの雑務を支援するコンシェルジュセンターを設置しました。


会社という組織の中で上手に生きていくには、その組織のルール、例えば掃除、ゴミ出しや備品請求等の方法を覚えなければなりませんよね。新卒中心の会社なら、そういうことを覚えて育ち、数年たてばうまく立ち回れるようになるでしょうけれども、当社では中途採用社員が9割以上なので「自然と身に付く」ための時間が足りないのです。


そこで、「何でも屋」として社員の日常身の回りを支援し、身の回りの掃除、整理整頓等を引き受けるコンシェルジュセンターを設置しました。


これにより、中途採用社員が本業で早く能力を発揮してもらえるようになった他、会議室等の共有スペースの掃除が行き届き、オフィス完成時の綺麗な状態を長く保つことができるようになりました。


千田さん  例えば名刺ひとつとっても、作り方なんてどこにも書いてない。そうすると部下にやらせて本業の仕事を止めさせたり、調べさせて答えを待つわけです。これが若い人の生産性を下げてしまう。コンシェルジェセンターの設置効果には、若手の活躍という側面もあります。



コンシェルジュセンターの案内

コンシェルジュセンターの案内



吉田さん  コンシェルジュセンター業務を外部委託することで、社員に遠慮が無くなり、きちんと頼めるようになります。業者に委託するメリットは、社員がちゃんと頼めるということです。同じ会社の人が本業の傍らで対応してくれると、悪いと思って遠慮したり、身内だからと甘えてしまうこともありますね。


― 例えばどんなことを頼めるのですか?


千田さん  明確なメニュー表が無く、お困り事は何でも頼めます。例えばパソコンの調子が...といったことでも大丈夫です。社内の誰に連絡すれば良いかを教えてくれて、ここに行ってください、とつないでくれます。よくあるのは、セキュリティカード忘れたという相談です。今後も幅広くお困り事の相談を受け付けたいと考えています。


吉田さん  オフィス全体の宅配便や郵便の受付も行っています。移転前のオフィスでは部署毎に受取りしていましたので、宅配業者さんをお待たせしてしまうケースもあったのですが、なくなりました。


千田さん  オフィスの固定電話も無くしました。固定電話があると、電話番のために昼休みに残らなければならず、本業のスケジュールに支障を来すこともありました。また、代表電話もないし、受付もありません。受付電話があると、若手が仕事の手を止めて電話対応することになります。雑務は立場の弱いところに集まります。弱い者いじめのような社会構造を変えていく一歩にしなければとの気持ちもあり、思い切って代表電話を無くしました。




■オフィスの"意外な使われ方"

吉田さん



― スペースなどの意外な使われ方などはありますか?


吉田さん  ラウンジですね。夜の時間帯の利用が結構増えてきました。事前に注文しておけば、社内セブンイレブンでお酒も買えます。コロナ禍以降は飲み会も減りましたが、ラウンジでしたら気軽に開催できます。我々としては非常に嬉しいですね。今後は、サッカーワールドカップのようなイベントの社内観賞に使ってまいりたいと思っています。


千田さん  ラウンジという場所を作ってみて気が付いたのは、「意外とみんな集まりたかったのだな」ということでした。コロナ禍でニューノーマルの世界になり、人が集まるということの楽しさに気が付きにくくなってしまいました。改めて、居心地が良いオフィスでの出社勤務の良さを実感しました。


― 実は皆さん、もっと話したかったのですね。


千田さん  そんな気がしましたね。


吉田さん  ラウンジは若い人たちが率先して利用しています。場所を探す手間もないですし、遠慮も要らないのが利用しやすいのかと。


千田さん  「飲みすぎない」という点と、出入りが自由で、いつでも来て帰って良い点が、ニューノーマルの世界にうまくハマったように思います。





さまざまな細かな工夫が満載されたオフィスでした。


余談になりますが、お二人は「みんなの仕事場」を読んでくださり、かなり研究されたそうです。各社がいろいろ考えて作ったオフィス写真がサンプルとして非常に参考になるとおっしゃっていただけました。


オフィス作りにおいて、施工会社などから「この辺はどうしますか」と聞かれることが多々あります。しかし発注者の側は専門家ではないので、適切な答えを持っていません。


知識の差があって発注者と受注者のコミュニケーションが成立しないようなときは、ぜひ「みんなの仕事場」を参考にしていただければ幸いです。


千田さん、吉田さん、ありがとうございました。



千田さん、吉田さん



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 住信SBIネット銀行のオフィスチェアを見せてください 【椅子コレ】






取材協力


住信SBIネット銀行[外部リンク]


編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2025年1月15日

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