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セルフブランディングのためのビジネスカジュアルとは?働き方改革時代の仕事着ファッション、その極意

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画像:Beeboys / AdobeStock(※)

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(編集注) 本記事は、2020年2月20日、3月11日に取材しました




働き方の改革が進んでワークスペースが多様化すると同時に、そこでの「ドレスコード」にもまた変化が起こっています。


かつては男性の仕事着といえば当たり前のようにスーツ一辺倒でしたが、近年ではそこからの脱却が見られるのです。



2019年9月、三井住友銀行が原則スーツ着用とされてきた行員の服装を見直し、年間を通じて自由化したことが話題になりました。東京と大阪の本店限定ではあるものの、お堅いイメージのある銀行の企業文化を変えようとする取り組みです。パナソニック、伊藤忠など、「スーツ」のイメージの強いメーカーや商社も相次いで仕事着の自由化を発表しています。


こうした状況に、とくに男性のオフィスワーカーの中にはひそかに戸惑う人も多いかもしれません。今回は、そんな方のために、ビジネスカジュアルの極意をご紹介したいと思います。



■カジュアルフライデーからクールビズへ


まず日本企業における仕事着の歴史を振り返ってみましょう。


年配の方なら、1990年代半ばの「カジュアルフライデー」を覚えているかもしれません。


「カジュアルフライデー」は1980年代の米国で生まれた運動で、当時勢いのあったシリコンバレーの新興企業のトップや社員がカジュアルな服装で仕事をしていることから、「金曜日はカジュアルな服装で仕事をしよう」と呼びかけ、伊藤忠などの企業や金融機関、省庁・自治体で取り入れられましたが、広く普及することはありませんでした。


「金曜日」に限定したことが逆効果となり、1日だけのために服を用意するのが面倒、訪問先がスーツ、ネクタイをしていたら、こちらもしないわけにはいかないなど、肝心の社員の側での盛り上がりが今ひとつだったためと言われています。



次のブームは、夏場のノージャケット・ノーネクタイを定着させた「クールビズ」です。


これは「カジュアルフライデー」の約10年後、2005年の動きで、小泉首相(当時)の「夏場の冷房費の節約」の命を受けた環境省が主導して始めた運動でした。6月1日~9月30日の夏季期間は冷房の設定温度を28度に下げ、服装も軽装にという方針で、「節電」という大義名分もあったため、多くの企業が採用。2007年の調査では採用企業は4割近くにのぼりました。


さらに2012年には、前年の東日本大震災による電力不足に対応するため、服装規定を緩めた「スーパークールビズ」が登場しました。


環境省内ではポロシャツ、アロハシャツが解禁され、さらにTシャツやジーンズもTPOに合わせた着用ならOKに。2017年の日本気象協会の調査によると、クールビズは約6割の企業で実施されており、日本企業にしっかりと根を下ろしたと言えそうです。


今ではノージャケット・ノーネクタイはオフィスにおけるごく普通の風景となり、さらに一歩進めた服装自由化の下地ができつつあると考えられます。



参考:日本気象協会「全国各地のクールビズ事情を調査!~tenki.jpラボVol.12」




■「服装自由化」の現状はいかに


男性ビジネスパーソンの服といえば、全国で展開する紳士服チェーン各社が思い浮かびます。 メンズ・レディーススーツ専門店のAOKIを訪問し、ビジネスマンの仕事着の自由化の背景、企業の取り組みについて、商品MD部部長の和田裕次氏にお話を伺いました。



株式会社AOKI本社(神奈川県横浜市)

株式会社AOKI本社(神奈川県横浜市)



――仕事着の自由化がオフィスで加速しているように見えます。


和田氏 2000年代のクールビズの頃からゆっくり進んできた流れに、2018年頃から勢いがついたという印象です。


ひとつには、「クールビズ」の期間が延長されたことがあります。当初は「6~9月」が「5~9月」になり、暑い日が続く場合は10月も対象期間に入れるようになりました。


5~10月といえば半年です。1年の半分が「ノーネクタイ・ノージャケット」期間となったために、いっそのこと通年でのノーネクタイを考えてみようかという流れで、自由化に踏みきりやすい環境が整ってきました。



――今では「スーツ」のイメージの強い大手企業までが自由化されつつあります。


和田氏 日本企業における服装の自由化は、まず、社会が直面している「節電」という課題への取り組みとして始まったものです。


しかし現在、進んでいる自由化はそれとは性格が異なり、企業内の課題や戦略面など「働き方改革」とリンクしたビジネス面からの要請が背景にあります。目的が明確であり、その分、一気に進んでいるように思います。


第一の目的は、ブランディングです。


オフィスワーカーの自由な服装は、魅力ある職場をアピールする一要素として、イメージアップやリクルート対策として考えられています。オフィスの移転などと合わせて企業イメージや企業文化を刷新する施策例も多いように思います。


第2の目的は、社員の創造性の向上や、社内のコミュニケーションの活性化です。


「毎日着る服を選ぶ」という行為は、感性への刺激にもなりますし、上下関係、部署の違いによるコミュニケーションの敷居を下げます。こうしたことが「働き方改革」が目指す生産性向上策のひとつと捉えられています。


さらに、企業ごとにもさまざまな目的があるようです。中には、女性の服装は自由なのだから、男性も自由にしよう、というジェンダーフリーの考え方から自由化に取り組んだ例もあるそうです。



――服装自由化は産業界全体に広がっている流れなのでしょうか。


和田氏 見直しを検討している企業まで含めればかなり増えていると感じます。


お堅いイメージの銀行が服装自由化に踏み切ったことが話題になりましたが、生保や鉄鋼関係といった企業でも見直しが進んでいます。


ただ、クールビズ同様、すべての企業が自由化することはないかと考えています。服装自由化にすることでの狙いや目的が明確な企業が導入し始めているのが現実です。


今後は、程度の差はあれど、「スーツ一辺倒」から「スーツも含めたきちんとした仕事着」といった多様性・自由化の流れは広がっていくでしょう。




■自由化によって「何を着ればいいの問題」に直面する男性たち



――実際には、どのように服装の自由が指定されているのでしょうか。


和田氏 実際には、すでにクールビズを採用していた企業が、通年で、内勤の人に「ネクタイをしなくていい」「クールビズに準じる服装でいい」というかたちで実施していることが多いと思います。


もうひとつの流れは、一定の部署に導入されていた自由化を他の部署に拡大するという動きです。装自由だったIT企業などでも、営業職はスーツとされてきましたが、これも全社的にドレスコードを緩和した事例があります。


中には、「スーツ禁止」というルールで、スーツ、ワイシャツ、ネクタイのような従来型のビジネスウエアを禁止している企業もあります。社員の個性をより尊重し、創造性を刺激していこう、という取り組みですね。



――これまではスーツのみだったのに、いざ自由化されると、どう取り組んだらいいか、困ったりはしませんか。


和田氏 近年、服装規定について、ご相談を受けることが増えました。


そもそも、男性社員の服装を明確に規定していない企業も多いのです。そうすると、自由化するために新たに規定を作る必要が出てきます。


自由化すると言っても、いきなり裸足にサンダルで来られても困ってしまうが、とはいえ、「あれはダメ、これは禁止」では本来の目的からそれてしまいます。


こうした問題は経営戦略部門や総務部門が担当することがほとんどですが、本業とは異なる「着衣の自由化」を指導しろと言われても戸惑いますし、社員からも、「自由と言われても困る」という声が上がります。


当社にいただく相談の多くは、「自由度は高めながらも、ビジネスにふさわしい服装にしたい」というものです。推奨するパターンを提案するなどして、規定作りもサポートさせていただいています。



――すぐに浸透するものなのでしょうか。


和田氏 具体的なところはわかりませんが、多くの企業では何らかの成果を実感されているようです。効果がなかった、逆効果だったから元に戻した、という話は聞いたことがありません。


長年培ってきた企業文化もあり、浸透に時間がかかる事例はあるようです。会社からはカジュアルでいいという方針を出しているのに、「何を着ればいいかわからない」といった不安から、従来のスーツスタイルを選んでしまう方も多く、「カジュアルな仕事着の入り口になるようなもの」を提案してくださいという要望もいただきます。



――一気にカジュアル化するわけではないということ?


和田氏 自由化された企業の方々の服装を拝見すると、それまでと同じようにスーツを着ている方もいますが、チェックシャツやトレーナー、綿パンのように一気にカジュアルに振れている方が多いようです。


全体でみると、ビジネスウェアと休日のカジュアルウェアの両端に振れていて、真ん中が空いているわけです。


自由化してもラフすぎるのは避けたい、というご相談には、ON/OFFの間の「ビジネスの場でも違和感がなく着られるカジュアル」をご提案しています。



――ファッション音痴の男性だと、難しく思ってしまいそうです。具体的にはどういう服装でしょうか。


和田氏 難しいものではありませんよ。ご提案すると、皆さん、「なるほど」と納得してくださいます。


まず、「ジャケットは羽織りましょう」というところから始めます。その上で、ジャケットや持っているスーツを活かしてカジュアル感を出す方法をアドバイスしていきます。


勘違いしがちなのですが、自由といっても、あくまでもビジネス上の服装なことは変わりませんから、おしゃれかどうかということより、まずその場にふさわしいかどうかが重要です。そこを押さえた上で、組み合わせ方のコツを知れば、工夫も楽しくなっていると思います。




■「カジュアルな仕事着の入り口」の基本テクニック



――もう少し具体的に教えてください。これは必須というアイテムはありますか?


和田氏 最初のジャケットとしてお勧めしているのは、無地調のネイビーのジャケット(一般的にテイラードジャケットと言われるタイプ)です。


同色のパンツを組み合わせたスタイルもできる「セットアップ」と呼ばれるものがおすすめです。こちらは上下別々で購入が可能です。



ネイビーのジャケット+パンツの組み合わせ (画像提供 : AOKI)(※)

ネイビーのジャケット+パンツの組み合わせ (画像提供 : AOKI)(※)



和田氏 ネイビーのセットアップの良いところは、組み合わせの範囲がとても広いことです。 ジャケットのインナーやパンツの色を変えればカジュアルなコーディネートもできますし、白系のシャツと合わせてネクタイを着ければ、スーツとしても着られます。月火水はスーツ、木金はジャケット、というようにハイブリッドで使いたい人にも使いやすい組み合わせです。


さらに着回しの幅を広げるなら、2着目のジャケットとして、無地調のグレーのジャケットとグレーのパンツのセットアップをお勧めします。こちらも、ネイビーの同系色のネクタイと組み合わせれば、スーツとして着ることもできますし、コーディネートしやすい色です。



グレーのジャケット+パンツの組み合わせ (画像提供: AOKI)(※)

グレーのジャケット+パンツの組み合わせ (画像提供: AOKI)(※)



――この2種類のジャケットとパンツから発展させていくのですね


和田氏 ネイビーとグレーのジャケットが揃うと、組み合わせの幅がグンと大きく広がります。


たとえば、パンツを交換してみましょう。ネイビージャケット+グレーパンツ、グレージャケット+ネイビーパンツという組み合わせにするだけでも、カジュアル感が強くなります。



ネイビー、グレーのジャケットを入れ替えてみる (画像提供: AOKI)(※)

ネイビー、グレーのジャケットを入れ替えてみる (画像提供: AOKI)(※)



和田氏 次は、パンツの色を変えてみましょう。手持ちに、白、ベージュのパンツがあれば、組み合わせてみてください。カジュアル感がほしい場合は、白にするといいでしょう。



ネイビーのジャケットにパンツの色を変える (画像提供: AOKI)(※)

ネイビーのジャケットにパンツの色を変える (画像提供: AOKI)(※)



――ジャケットの中には何を着ればいいですか。


和田氏 白と青のワイシャツがあれば大丈夫です。織りが入っているものもいいですね。お勧めはポロシャツです。ゴルフ用ではなく、「ビズポロ」と呼ばれる台襟がついているものを選んでください。


ジャケットを着ても襟がきちんと見えるように作られているので、カジュアル感を出しながらも、キチンとした見た目になります。



ジャケットに「ビズポロ」を組み合わせる (画像提供: AOKI)(※)

ジャケットに「ビズポロ」を組み合わせる (画像提供: AOKI)(※)



和田氏 ジャケットにはTシャツも組み合わられます。インナーをTシャツに変更すると、カジュアル感がより強いスタイルになります。



ネイビーのジャケットにTシャツを組み合わせてみる。カジュアルが強いスタイルに (画像提供: AOKI)(※)

ネイビーのジャケットにTシャツを組み合わせてみる。カジュアルが強いスタイルに (画像提供: AOKI)(※)



――だんだん、今どきの感じになってきました。


和田氏 の組み合わせもあります。基本はネイビーにはブラウン、グレーには黒ですが、カジュアル感を出すなら、これを入れ替えても大丈夫です。もし許可されているなら、カジュアル感の強い服装には同系色のスニーカーも良い組み合わせです。


また、状況によってはネクタイを付けることもあるでしょう。お持ちのタイから色を合わせて選べばいいのですが、ニットのタイがあると表現の幅が広がります。ネイビーのジャケットに、ブラウンのニットタイ・靴という組み合わせもいいと思います。



ネイビーのジャケットに、ブラウンの靴と、同系色の体を合わせる (画像提供: AOKI)(※)

ネイビーのジャケットに、ブラウンの靴と、同系色の体を合わせる (画像提供: AOKI)(※)



――なるほど、こういう組み合わせなら、応用していけそうです。さらに発展させるとするとしたら?


和田氏 差し色の選び方などがポイントになってくると思いますが、最初からそこまで突きつめてしまうと難しくなってしまいます。


まず間違いのない組み合わせとしてネイビーとグレーを軸にしたコーディネートを基本形として押さえ、そこから少しずつ差し色を試していくのがお勧めです。それなら大きく崩れることはありません。


自分なりのファッションを考える楽しさもだんだん見えてくると思います。最初から踏み込み過ぎて、面倒くさくなったら元も子もありません。




■仕事着のスーツから新しい「オフィス文化」が生まれる


スーツ市場は、団塊の世代のリタイアや若年層の人口減少による影響で、徐々に縮小していると指摘されています。紳士服を手がける企業では、2000年代からこの流れを見越し、レディーススーツやカジュアル部門の強化、異業種への参入など多角化を進めてきました。


さらに近年の服装の自由化の中で、市場環境は大きく変化しつつあります。



――業界大手であるAOKIはどのように捉えているでしょうか。


和田氏 オフィスにおいて服装の自由度が広がったことは、むしろ、これまではなかった仕事着の文化が育っていくことにつながると考えています。スーツやカジュアルな着こなしも含め、セットアップを幅広く強化していきたいと考えています。商品の組み立てから、店舗での接客面まで、「こう着てほしい」「こう着てはいかがですか」という具体的な提案に力を入れていきます。



――全員一律のスーツとは異なり、個々人が十人十色のセンスで選びはじめると、商品ラインナップも多様化しそうですね。


和田氏 「カジュアル」という言葉ひとつをとっても、人や環境によって捉え方はまちまちです。スーツだけを着てきた人なら、ノーネクタイだけでも十分カジュアルと感じるでしょう。逆に、普段着で仕事をしている人は、ジャケットを羽織っただけでもフォーマルと感じます。いつもTシャツで仕事をしているから、襟のついたシャツを着ただけで気持ちが引き締まるという人もいます。


当社には、ビジネスマンにふさわしい装いの提案において長年の蓄積がありますから、それを活かして、幅広い方に納得いただけるセットをご提案できます。



――新しい市場が生まれる可能性もありますね。


和田氏 女性の場合は、オフィスカジュアルというスタイルがスタンダードでオンとオフの線引きがあいまいです。また、TPOに合わせて着る服のバリエーションが豊富で、お手持ちのアイテムを上手に運用しています。今日は寒いからこのコートにしようと選ぶのがごく普通です。男性の場合、多少の寒暖の差はあっても、今までは同じコートを着るのが普通でした。


男性は仕事着と普段着の境界が明確だったので、カジュアルと言われると、一気に「休日カジュアル」になってしまいますが、色も濃いし綺麗なOFF用の服ならジャケットに組み合わせてもいいでしょう。服装が自由になったということは、できることの幅が増えたということなのですから。


そういうONとOFFの間、「ビジネス上のカジュアル」というスタイルを作っていきたいと考えています。







服装の自由化は「スーツ」か「カジュアル」かという2択ではなく、より幅広い自己表現の手段が与えられたとも言えるわけです。


「企業が仕事着の自由化を進める理由は、ブランディングや創造性やコミュニケーションの活発化にある」と和田さんは指摘します。そこから新しい企業文化が生まれることも考えられます。個人の創造性やパフォーマンスが重視される「働き方改革」時代においては、「仕事着選び」もまた重要な行為のひとつなのかもしれません。







■オフィスのパーソナルブランディング~勘違いの自己表現にしないために


服装自由といっても、ビジネスの場ですから、やはり自ずと引かれるべき一線があるはず。


そこで、企業の人材教育やタレント、文化人のパーソナルブランディングを手がけるs.enceの代表、綱島伸氏に、仕事着におけるパーソナルブランディングのポイントについて伺いました。綱島氏は、原宿の美容室「WHiTE omotesando」で日々老若男女の要望に応えているヘアスタイリストでもあります。



s.ence代表 綱島 伸氏

s.ence代表 綱島 伸氏



――仕事着は、パーソナルブランディングにおいてどのような意味を持つのでしょうか?


綱島氏 「人は見た目が9割」とよく言われます。もちろん一番大切なのは中身ですが、見た目が相手の判断に影響を与えてしまうのは避けられない現実です。


子どもに「いやな先生はどこが嫌いなの?」と聞くと、「キモいから」という答えが返ってきますが、そもそも嫌いになった入口は、表面的な「見た目」であることが少なくありません。これは大人にも当てはまります。


話し手が聞き手に与える影響力を表す「メラビアンの法則」によれば、選択を強いられた人が相手から受ける影響のうち最も強いのは、相手の見た目(視覚情報)で、じつに55%です。口調や声のトーン(聴覚情報)が38%、一番肝心であるはずの話の内容(言語情報)はなんと7%にすぎません。人は無意識のうちに相手の見た目に影響されてしまうものなのです。 ビジネスシーンでは、調整や交渉など毎日たくさんのコミュニケーションが行われます。「見た目」の大きなパートである服装は、とても大切な要素です。



――想像以上に「見られている」わけですね。


綱島氏 まず、「見られている」ということを意識し、それを前提として身だしなみを考えていきます。


見苦しくないことは仕事着として大切ですが、それだけではもったいない。より効果的に「自分を見せる」ことに考えることは、決して損にはなりません。


実際に、「見た目」を変えることで、立ち振る舞いや態度が驚くほど変わった事例をたくさんみてきました。何もいきなりトレンドを語り始めるということではなく、「自分を見せる」という視点を持ち、いくつかのポイントを押さえれば、驚くほど見た目を変えることができます。



――ビジネス上のファッションで、押さえるポイントとは?


綱島氏 ズバリ、「さわやかさ」と「清潔感」、これに尽きます。


会社が許す服装の範囲は様々だと思いますが、この2点が押さえられていれば、まず間違いないと思います。


コーディネートだけでなく、服の劣化や清潔さも含まれます。おしゃれな装いをしていてもヨレヨレだったり、汚れていたり、においがついていたりしたら台無しです。出かけるときに、この身だしなみで大丈夫か、「さわやかさ」と「清潔感」が保たれているか、見直してみてください。



――「何を着たらいいかわからない」という人にアドバイスをお願いします。


綱島氏 まずは「トラディショナル」です。


それぞれの世代で、アイビーやアメリカントラッド、コンプレなど、なじみのあるトラディショナルがあるはずです。


長く着ることができて、浮き沈みの少ないのが「トラディショナル」のよいところですから、それをベースに、「さわやかさ」と「清潔感」というキーワードで考えれば取り組みやすいと思います。



――とくににお勧めする服は?


綱島氏 「さわやかさ」と「清潔感」は、洗いやすいものを身につけることがポイントなので、自宅で洗えるウォッシャブルのスーツやジャケットがお勧めです。


オーダースーツは着心地もよく長く着られますが、洗いにくいので部分的に黒ずんできたりして、「爽やか」や「清潔感」の賞味期限は長くありません。


ウォッシャブルスーツは、紺、グレーの洗えるジャケットとジャケパンの組み合わせで2〜3万円ほどです。企業努力で品質もとてもよくなっています。洗いながら使い込んで、「爽やかさ」や「清潔感」が維持できなくなったら、また新しい組み合わせを楽しむという使い方がいいと思います。



――「はじめの一歩」のような基本となる組み合わせがあったら、教えてください。


綱島氏 あるIT企業の社長から、いつも黒のタートルに黒のデニムという感じの服装で内勤をされている40代のプログラマーのコーディネートを依頼を受け、毎日の着回しが簡単にできて工夫できる基本的なアイテムを揃えて、「2週間着回せるアイテムを揃えます。5万円持ってファストファッション店に行ってください」とお願いしました。


まず、ネイビーのジャケットを選びました。


ジャケパンは、同じネイビー、ベージュ、白を選んで、これで「1 トップ、3 ボトム」。


ネクタイはしないということだったので、ボタンダウンのシャツ、白とブルー系の素材違い、、ブラウンのタートル 、ペラペラでない鹿の子素材の T シャツ、ベストのように着られるカーディガンの、5種類。


これで、「1 トップ、 3 ボトム、 5インナー」となり、1×3×5で15通りの組み合わせができます。何も考えず組み合わせても月の半分は着回せるわけです。


このセットアップはとても実用的です。みなさんにも参考にしていただけると思います。コーディネーションをしっかり整えておけば、着回していくことは難しいことではないのです。



――コストパフォーマンス抜群ですね。


綱島氏 お店で実際に15種類を着てもらったのですが、とても満足していただけました。立ち居振る舞いにも自信が出てきたと社長にも感謝していただきました。


「見た目」を変えることで自信が生まれ、周囲とのコミュニケーションも生まれて、モチベーションや発信力に繋がった、という事例は決して珍しくないことなのです。それがきっかけで、自分の立ち位置や社会の中で求められる役割さえ変化することもあります。



――さらにもう一歩、レベルを上げるなら?


綱島氏 次に取り組むなら、追加アイテムと差し色で変化を作っていくことになります。


チーフを胸ポケットにさす、タイの素材を変えるといったあたりから始めるといいでしょう。これは比較的わかりやすいと思います。


チーフは、紳士服チェーンやファストファッション店で、様々な色合い、模様のものが安価に入手できます。


お勧めなのがスポーティーなアイテムです。会社が許容するなら、生地が伸びるジャージ素材の上下とか、白いスニーカーなどは表現の幅を広げてくれます。


差し色はちょっとレベルが上がるので、まずは基本的な色とコーディネートの考え方を紹介しておきます。


ひとつは「ワントーンコーデ」と言われる、同じ同系色のものを合わせるコーディネート。 白いシャツやポロシャツ、白い靴下で、ジャケットとパンツ、カーディガンはグレーというという組み合わせにすると、よりさわやかさが強調されます。


もうひとつは、「反対色のコーディネーション」です。


たとえば真反対にあるような色、クリスマスカラーと呼ばれる緑と赤。阪神タイガースの黄色と黒などの反対色を差し色として選びます。ネクタイなどから始めるとわかりやすいです。


さきほど紹介したIT企業の方にフィッティングした、紺のジャケットに白やベージュのパンツという組み合わせも、反対色のコーディネートで、「ワントーンコーデ」に「反対色」を差し色として入れるという差し色の基本です。グレーと白のワントーンに赤を入れるという感じです。


差し色やアイテム選びは慣れてくると、とても楽しいものです。ぜひ、試していただきたいですね。



――注意すべき点は?


綱島氏 ある年齢になると男性はどうしてもお腹が出てきますから、パンツを選ぶときにはゆとりがあるほうがいい。ストレートのものだとシルエットがどーんとして、おじさん体型が強調されてしまいます。


業界用語で言う「テーパード」という足元の方が少しスリムになってるタイプを選ぶと、お腹が横幅に出てきてもシルエットが逆台形になり、見た目のバランスに立体感が出ます。


「3首(首・手首・足首)」を出すと、スリムに見えるといわれています。


首は、丸首よりもVネックのほうが首が少し長く見えます。


手首は、手を下ろしているときにジャケットにかかるかかからないかぐらいで、作業するときに手首が見える状態にすると、手が長く見えます。


パンツもくるぶしよりちょっと上ぐらいにして足首が見えると、足が長く見えます。


こうしたテクニックは上級です。購入の際にお店で相談するといいでしょう。



――服装自由化を推進する企業側にアドバイスをお願いします。


綱島氏 企業文化によっては、自由化がなかなか定着しないという話を聞きます。社員の意識を変革するために、いっそのことイベントにしてみてはどうでしょう。


社員向けの福利厚生のパーティなどでは、落語家や芸人を呼んだり、総務の皆さんは企画に頭を悩ませていますが、そこで服装の自由化を組み合わせるわけです。


ある企業に提案して実施された企画ですが、年代ごとに社員をピックアップし、イメージが変わるようにコーディネートし、ヘアスタイルも合わせてセットしました。いつもの仕事ぶりを撮影して大画面に流した後で、そこでコーディネートしたご本人に登場してもらい、ビフォー/アフターを見せて投票してもらいました。これは盛り上がりました。拍手を送られた社員はもちろん嬉しいですし、自信にもつながります。見ていた社員も、こんなに変わるんだ、試してみたいという気持ちになります。会社の本気度も伝わります。


自由化を定着させると同時に、新しい企業文化が生まれる良いきっかけになるのではないでしょうか。




s.ence代表 綱島 伸氏

s.ence代表 綱島 伸氏







日々、パーソナルブランディングのサポートをしている綱島氏は、「自分の見られ方」にヒントがあることに気づいている人はあまりいない。自分の中の力に気づくことが重要」と語ります。経験や人間関係の人脈ばかりがビジネスマンの能力なのではなく、自分自身をよく知り、適切に見せることも同じように大切とのこと。


「見られ方」を意識することが「自分のを知る」につながるのなら、仕事着の自由化は自分の能力を向上させる、貴重な契機と言えます。


ビジネスシーンでのファッションですから、相手を不愉快にさせない、TPOに合わせるといったことも大事ですが、自分自身や周囲の環境にまで影響を与える「スキル」のひとつと見なしてもいいのではないでしょうか。


仕事着の自由化によって日本の男性ビジネスパーソンがおしゃれになれば、ワークスペースの変革もさらに進むのではないでしょうか。







取材協力

株式会社AOKI [外部リンク]

WHiTE omotesando [外部リンク]




編集・文:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日: 2020年2月20日・3月11日

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