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新型コロナ禍で苦境に立つ商店街をITで救う地域振興の新たな形「五反田バレー」

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画像:7maru / AdobeStock(※)

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新型コロナウイルス感染症の拡大により苦境に立つ商店街を救おうと、東京都品川区が「しながわ商店街応援プロジェクト」を始動させています。


全国の商店街が同様の窮地にあえぐ中、官民の連携による「アフターコロナ」を見すえた地域振興や産業集積の新たなモデルとして注目を集めそうです。


今回は「五反田バレー」を中心に進むITベンチャーと品川区の商店街の協業について取材しました。



■自治体、商店街、ITベンチャーがタッグ


品川区は、区内に集積する情報通信事業者の販路拡大やITスタートアップの支援を目的として、2020年度当初予算に関連予算を計上し、五反田バレーの企業と商店街による連携イベントを開催する予定でした。また、商店街を巡回してIT導入支援を行う「ITサポーター」を配置したり、製品・サービス導入時の助成金も交付する予定でした。


こうした施策の目的は、会計やマーケティング、予約サービスといった業務効率化ツールの販路拡大によって商店街の活性化を図ることにありました。


ところが新型コロナ感染症が拡大するにつれ、品川区商店街の売上は飲食店を中心に激減。品川区では、「支援金」「商店街店舗への販促支援」「デリバリー支援」を第一弾に、一般社団法人「五反田バレー」が連携事業としてITを活用した商店街販促支援などを盛り込んだ「しながわ商店街応援プロジェクト」を始動させました。


具体的な商店街店舗への販促活動としては、コロナ禍にあっても売り上げを作るためのノウハウなどを中心にとした情報を、記事や動画、オンラインセミナーなどを通じて定期的に配信するといったものです。


すでにネットのコンテンツプラットフォームである「note」で「しながわ商店街応援プロジェクト」のアカウントを立ち上げており、飲食店向けの「はじめてのECサイト構築方法」、美容室や整体院など向けの「オンラインでの新規販売網の獲得」といったコンテンツを発信しています。


今後は、オンラインセミナーや実際の店舗へのITサービス導入サポートなど、商店街店舗に必要な支援を順次提供していくそうです。



note「しながわ商店街応援プロジェクト」(※)

note「しながわ商店街応援プロジェクト」(※)


品川区商店街連合会の榎田氏は次のようにコメントしています。


「金銭的な支援ももちろん、この苦境を一緒に伴走してくれる人たちがいるということが、精神的な支えにもなっており、両面で支援をしていく必要性があると感じています。その点で、地域住人の方や市役所職員の方々に加えて、(社)五反田バレーのようなIT企業との連携も重要になってくると感じています」(五反田バレー プレスリリース[外部リンク]より)



■地元IT企業・商店街・行政の「三方よし」、五反田バレー


五反田バレーとは、東京都品川区五反田に拠点を置くスタートアップ企業6社が立ち上げた組織(一般社団法人)です。主な目的は、人材採用や資金調達など幅広い活動を同地に集う企業間で連携しながら、成長していくことにあります。


品川区とも協力協定を締結しており、五反田をスタートアップ企業の集積地としてアピールし、地域の活性化を図る狙いもあります。


設立したのはマツリカ、ココナラ、セーフィー、東京証券取引所に上場するfreee、トレタ、よりそうのIT関連6社。採用や広報など、それぞれの企業ではやりにくい部分を連携し、大手企業や地域の学校、商店街との交流にも乗り出しています。


代表理事の中村岳人氏に、商店街の支援や、近年ITベンチャーが集積する五反田のオフィス事情などについて伺いました。



「五反田バレー」代表理事の中村岳人氏(※)

「五反田バレー」代表理事の中村岳人氏(※)



――「五反田バレー」立ち上げの経緯について教えてください。


中村 もともと、IT化によって商店街の競争力を上げていくためにイベントを開こうと品川区の方と話し合っていて、区の予算も確保できたところでした。イベントで五反田バレーのツールを使ってもらえれば、地元の会社と五反田バレーに集まるIT企業の成長にもつながります。地元商店街、品川区、五反田バレーのそれぞれにとってメリットのある、いわば「三方よし」的な取り組みができると期待していました。



――それが新型コロナウイルスの感染拡大で変更を余儀なくされたわけですね。


中村 イベント企画を進めているさなかに新型コロナの話が出てきてしまいました。本来は大きなイベントを開いて、商店街の方々が集まることを想定していたのですが、そうも言っていられない状況になりました。延期したとしても、開催できるまで待っていたらそもそも商店街が危ういんじゃないのかという状況です。


そこで、イベントで特定の人をフォローするのではなく、商店街全体のコロナへの対応を考えて前倒しで動くことにしました。名称も「しながわ商店街応援プロジェクト」と変え、noteでの情報発信やサポートに段階的に継続して取り組むことになりました。


状況は刻一刻と変わっていますが、5月頃は店舗さんはどこも売り上げが半分以下、場合によっては10%まで減ったところもあると聞きました。飲食店や買い回り品を扱う小売店、美容室などのサービス業は致命的なダメージを受けていて、この状態が今後も続いていくと潰れかねないという危機感がありました。


秋・冬になると感染拡大の第二波が来ると言われていますから、売り上げ改善をして、秋・冬にも事業を継続できる状態をつくっていかないといけません。第二波が来て売り上げがまたゼロになってしまうのではなく、ある程度営業できる状況をつくるということを次の段階として考えています。



――商店街の実情はどのようなものですか。


中村 各店舗では家賃などの固定費がかかっており、そのうえで、集客できずに新規顧客が減っており、さらに既存のお客さんも外出しないのでリピーターも来なくなっている、接客もできなくなってサービスが提供できないという問題もあります。飲食では、食品を直接渡せなかったり、客単価が下がってしまったりしています。


こうした課題をすべて一度に解決することは難しく、公的な助成金などを活用して固定費にあてがいながら、まずはコロナ下でもサービスを提供できる状態をつくることが求められます。我々としてはそれを応援すること、新規のお客さんが入るようにPR活動を支援することにフォーカスしていきます。



――具体的には。


中村 予定している施策のロードマップとしては、まず第1ステップとして、誰にでもWeb上でお店の商品やサービスを見られる状態にして、それによりECサイトを始めたり、テイクアウトを始めたりできるようにします。


それがある程度できたら、第2ステップとして取り組みの枠を広げ、いろいろなお店があることをPRし、お店をまとめたサイトやアプリを作ります。


今、品川区さんや商店街連合会さんでは、お店を回り始めてもらっている段階に入ってきました。情報発信を続ける中で、やはり対面でのフォローが必要ということも分かってきました。対面でのフォローをある程度していけたら、ECやネットで商品を売れるお店さんが増えはじめるので、直接店に行かなくてもネットで買ってみよう、注文してみようという動きにつながればいいと考えています。


今回、コロナをきっかけに、「IT化していかないとお店が危うい」という危機感をもっていただきました。コロナに関連する情報は定期的に発信して、noteやYouTubeなどで動画配信も定期的に発信していきたいと思っています。



■小規模オフィスの多い五反田がリモートワークにマッチする理由



――お店という場が機能しなくなっていることが大きいですね。


中村 物理的にお客さんとつながる店舗という場が機能しなくなると、既存のお客さんに対してアプローチする方法がなくなってしまう。これはどの店も共通して抱えている課題です。お店が動かなくなってもお客さんと売り上げが作れるように今やれることを考えるために、我々のノウハウを提供できると考えています。


私自身は五反田バレーの株式会社Patheeで仕事をしており、知り合いにアドバイスをもらいながらnoteのコンテンツを作っています。こうした取り組みを続けるうち、お客さんの側に、「コロナ禍を経験して、LINEなどを通じていつでもお客さんにアプローチできるようにしておかないと」といった意識が芽生えています。


たとえば、食材のEC販売を常連さんに発信すれば、オフィス街で通りがかりの人に「ECやっていますよ」と呼びかけるよりも購入率は高くなります。


五反田バレーといっても、商店街は品川区全体で厳しい状況に陥っています。五反田バレーで働く社員は、東急池上線沿線や都営浅草線沿線など品川区周辺に住んでいる人が多く、生活圏が品川区周辺なので、地元を助けることで自分たちのノウハウを磨き、そこで働く自分たちの生活も豊かになっていければいいと考えています。



――五反田のオフィス需要についてはどうでしょうか。


中村 もともと五反田では、従業員数が100人を超えると入居できるオフィスが限られていました。100名以上だと2フロアを借りなければならず、数百人規模になると、チームを分けてビルを2棟借りなければなりません。「以前いた渋谷に戻ろうか」といった話も多いです。


そのようにオフィスフロアの広さが課題だった五反田ですが、今回のコロナを経て、リモートワークに耐えられる会社が増えてきています。増床のためにオフィスを移転すると社員の生活にも影響が出てしまいますが、新型コロナをきっかけに新しい働き方が広まると、オフィスを移転せずに済ませることもできるのではないでしょうか。


リモートワークの普及によって出社人数が減っていますから、オフィス自体は小さいままで維持し、イベントなどがあるときは大きな会場を借りることもできます。弊社だけでなく、いろいろな会社さんからそういった代替案を耳にします。


当社でも、エンジニアについてはほぼリモートワークで、全社で集まるのは月1回程度です。全社で集まるイベントがあるときには、五反田のコワーキングスペースを借りるなどして会場を確保すればいいと思っています。



■IT企業のノウハウを地域に活かすこと


冒頭にも書いたように、品川区ではもともと2020年度予算に五反田バレーと商店街の連携事業を組み込んでいたのですが、そこへ新型コロナが襲ってきて事業内容を変更せざるを得ませんでした。しかし、それによって、むしろ商店街のIT化という避けては通れない課題と真剣に向き合うきっかけにもなったようです。


一見、IT系のベンチャー企業は地域社会とは無縁に映るかもしてませんが、昨今ではそうした企業で働く若手社員が「職住近接」によって地域に生活している例も増えています。 自社のITに関するノウハウを地元商店街に還元すれば、自社の成長ばかりでなく、地域貢献にもなります。


五反田バレーと商店街の連携は、全国のモデルケースとなるのではないでしょうか。







取材協力

一般社団法人五反田バレー [外部リンク]

株式会社Pathee [外部リンク]





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2020年6月15日

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