小林クリエイト株式会社は工業計測用記録紙の分野で最も歴史ある国産メーカーである。脳波計や心電計、地震計、温度計、湿度計、水量計などに使われる高精度の工業計測用記録紙では国内トップシェア。印鑑登録証明や駐車場の駐車券、電気・水道・ガス検針票など、身近な記録紙の多くを同社が作っているという。今では、自動車業界で使用される紙やシステムも同社製品である。そんな同社が、コロナ禍によるリモートワーク拡大などを踏まえオフィスをリニューアルし、働き方を改革した。今回はそのオフィスを紹介するとともに、プロジェクトのリーダを務めた藤林城司氏(東京オフィス エリア統括部長)に、リニューアルプロジェクトについて伺った。
――御社は印刷会社といっても、普通の印刷会社とはかなり異なりますね。
情報を媒体に付与する様々なソリューションを展開しています。ものづくりにこだわって、紙と紙を貼り合わせた帳票、カードが合体した紙、レーザーマーキング技術を使ったカードなども開発しており、アウトプット媒体にこだわった印刷会社です。最近では、RFIDを活用し働き方の効率化に寄与するソリューションなども提案しております。
――グループ内での東京オフィスの位置づけは?
東京は売上面でも人材面でも最重要の戦略拠点です。約140名の従業員がおり、企画支援部隊と営業部隊、デスクワーク部隊があります。中でも企画支援部隊はここから全国に企画の発信やサポートをしています。これまでの経験・知見を使い応用したソリューション開発も東京と名古屋で行っています。
――働き方改革の取り組みはコロナ前から進めていたのでしょうか。
少子高齢化で生産人口が少なくなっても生産を維持するため、働き方改革は取り組んでいました。テレワークもテスト的にやっていたのですが、本格的にはコロナが始まってからです。コロナで否応なくテレワークに移行しはじめたのが2019年12月、3月くらいにはコワーキングスペースを準備し立ち上げました。
リニューアルプロジェクトの社内文書より(※)
――営業拠点をサテライトオフィスとして活用したのですね。
横浜、千葉、埼玉、西東京の各拠点を有効活用し、みんなが働けるちょっとしたスペースを作りました。どこでも働ける場を提供し生産性を上げようと考えたわけです。
――コロナのビジネスへの影響はどうでしたか?
メインの取引先である国内製造業が停滞し、人の動き方が変わった事で、駐車券等の需要が減少しました。しかし一方で巣籠需要が拡大し通販業界で使用される伝票の需要が増加したため売上減少を最小限に留める事が出来ました。
――リモートワークが拡大して、出社率はどのくらいになったのですか。
企画部門が週1回、営業が週2回程度の出社となっています。管理者になると営業部門でも基本週1回で、リモートでコミュニケーションをとるようになりました。コロナ禍初期の企画部門の出社は5・6名程度まで減少(出社1割まで減少)し、4階フロアはガラガラの状態となりました。
――そこまで人が減ったら2フロアも要りませんね。
そこで内部経費を落とし、生産性を上げながら働き方を変えるために、思いきってオフィスをリニューアルし、多様な新しい働き方ができるようにしました。対人関係やミーティング方法が変わり、仕事も変わり、生活様式も変わった。これからはコロナウイルスと共生していく時代です。働き方も生活も変えていかなければいけない。そういった背景がありました。
藤林城司氏(小林クリエイト 東京オフィス エリア統括部長)
――リニューアルのコンセプトは?
プロジェクトで目指したのは、テレワークを前提にしたウィズコロナ空間で生産性を上げるということでした。私は、生産性を上げると言う事は、社員を元気にすることが重要と捉えています。従来は通勤に往復1時間半ずつ、計3時間かかっていました。疲れ果てて帰るよりも家の近くや家で6時か7時まで仕事をし、終わったらすぐお風呂に入れたほうがずっと体に優しいですよね。そして元気になってその活力を仕事に生かして欲しいのです。元気になって生産性を上げるために仕事も家庭も充実させるという循環です。だから、コンセプトは「元気になって生産性を上げる」ということです。
――プロジェクトメンバーは何名くらいですか?
9名です。基本的には各部門から選抜されたメンバーで、若い人がほとんどでした。
――まずは断捨離からスタートしたそうですが。
各社員が自席に保管していた私物や資料を2か月かけて断捨離、並行してオフィスのレイアウトを決めていきました。断捨離は必ずしも全員が前向きになってくれず苦労しました。時代背景や働き方を変える必要性を繰り返し訴え、ワンフロアにしようと呼びかけながら処分していきました。結果、資料を含めた保管品の6、7割はゴミだったのですが(笑)。
配布されたキャビネットバッグ(通称「きゃびば」)。個人の荷物はロッカーに移動し、このバッグをフリーアドレスゾーンに持ち込む。
足下に「きゃびば」を置いて仕事。
――印刷会社ですから、紙は多かったでしょうね。
そうなんです。残さなければいけないもの、思い切って捨てなければいけないものがあり、迷ったら断捨離か電子化しなさいと指示しました。しかし、製品ごとにサンプルと仕様書をまとめた封筒【帳票管理封筒】や、テスト品・仕様にまつわるドキュメントなど膨大な資料があり、それは捨てられませんでした。
――サンプルもあるのでデータ化できないわけですね。
紙の質感や色、イメージなどは現物がないと、お客様から問い合わせがあったときに対応できなかったりします。他のものを断捨離した後で、各部門で保管していた帳票管理封筒をカウントし必要スペースを割り出し、ラテラルという引き出しの什器をあてがっていったのですが、什器数を割り出すのに苦労しました。最終的に各部門単位で誰でも検索できるように順番通り並べた事によって効率化に繋がりました。
ラテラルに収納整理された帳票管理封筒。保管と廃棄のルールも定めた。
――断捨離後の仕事の仕方はどのように変わりましたか。
紙文書はデジタル化し、ワークフローも電子印鑑などを導入し、どこで仕事をしても滞らないような仕組みを作りました。会議なども事前にデータ共有するようにしました。仕事の進め方をデジタルシフトさせたので、紙の量はかなり減ったと思います。
スペース割りにも思い切りが必要でした。以前は各フロアに倉庫を設置していたのですが、オフィスを倉庫として使用する事は、勿体無い事ですし会議室も利用頻度が低かったので、思い切って会議室も小さくし倉庫も一か所だけにしました。
――会議などは?
基本リモート会議になり、どこからでも会議に参加できます。どの部門も今はリモートになっていて、朝礼なども、自宅や外出先、オフィスからなどから各自参加しています。研修やロールプレイング等、会って人とコミュニケーションをとりたい場合は会議室に集まることもあります。
営業部門・企画部門にはスマートフォンを支給し固定電話をなくしました。かかってきた電話はスマートフォンに転送できるようにしました。
視力の弱い方向けにノートパソコンだけでは見にくいのでモニターを用意し、配慮もしています。
――コミュニケーションツールは何を利用されていますか?
Live OnとZoomとGoogle Meet、GoogleカレンダーやGoogleチャットなどを使っています。また会議資料等はGoogleドライブで共有しています。断捨離のときに共有できるものは捨てていきました。チャットは課やプロジェクト、管理職チャットなど複数分けて使っています。リニューアルプロジェクトも、「新オフィスから未来創造チーム」という名前を付けて、情報を共有しコミュニケーションしていました。
――社内の評価はいかがですか?
フリーアドレスはみんな上手に使ってくれていると思います。フロア中央にシンボルツリーを置いて、緑があるほっとする空間が好評です。これまでは自部署の人としか話せていなかったのが、フリーアドレスになって他部署の人と話す機会ができたという声も多かったです。
更に管理職も他部門のメンバーと交流出来る事により、部門の垣根を超えたイノベーション創出に期待が持てる様になってきました。
オフィス中央のシンボルツリー。
フリーアドレスゾーン
視線がぶつからないおしゃれな衝立。
オフィスのチラシを作ってお客様に配布したのですが、社外の評判も「印刷会社っぽくないですね」と好評で、リニューアルを検討しているお取引先様との会話のきっかけになったりしています。
ミーティングスペースを減らしたため、共有スペースまで来客を受け入れることにしましたので、お客様と会議室で打ち合わせすることも増えました。
来客との打ち合わせにも使う会議室。
芝生風のカーペットはこの部屋のこだわりポイント。
――意外な使われ方をしていたところはありましたか?
リフレッシュ用の休憩スペースが、ちょっとした打ち合わせなどでも使われています。
また、ちょっと離れて電話をしたい時などもこのスペースを活用しています。
お茶やお菓子も用意してあるリラックススペース。
――集中スペースは活用されていますか。
集中して仕事をしたい時等は、外周に設置している集中ブースで仕事をされる方も多いです。
しかし最近のパソコンは周囲の音をかなり拾ってしまうので、完全閉鎖型の防音ブースが必要だとわかったのです。そこで新オフィス立ち上げ後に一人用の閉鎖型ワークブース【アイリスチトセ製】を導入しました。
皆便利に使っています。
アイリスチトセの1人用スマートワークブース「TELECUBE」
集中ブースはいたるところに
外を見ながら作業できる
打ち合わせブース
プリンターやコピー機などはキャビネットで囲んで防音
昇降テーブルがある一角は、他拠点からの出張者のタッチダウンスペースとしても使われている。
一連のリニューアルが終わった後も、入口にデザインラッピングをしたり、防音ブースを入れたり、倉庫の耐震を強化したりしています。受付にもボードを入れて、若手チームが3か月に1回リニューアルしています。みんな楽しみながら良いデザインを描いてくれて、受付けにお越し頂いたお客様に好評です。
エントランスのデザインボード。デザイナーチームが3か月に一度新作を披露する。
エントランスから執務室はガラス張りになっている。
――今の若い方はデザインが上手ですよね。
私たちも本当に嬉しく見ています。みんなで作ることは大事だと思います。協力してひとつのものを作るプロセスを若いメンバーで経験し、そのエネルギーを会社のオフィスに反映出来る事は価値があります。周囲からも若手に感謝の言葉を頂けるので、そういった活動をこれからも進めていきたいです。
――今後の課題についてはいかがですか。
テレワークでは新人教育は難しいです。私の部門は若いメンバーが多く、全員が20代の課も有り毎年新卒が入ってくるのですが、OJTがなかなかできないですね。コロナ下では、お客様のところに行けず、行っても会えなくなりました。ある程度関係性を結べているお客様ならリモートで商談ができますが、新人には難しいので、そこが課題になっています。今後どの会社でも同様のことが課題になるのではないでしょうか。
――リモートでは、先輩の仕事ぶりを見る事が出来なくて、仕事の最初から終わりまでを一緒にできないですね。
営業目標管理などについては個々個別の目標設定をしており、標準化が出来ていませんでした。しかしこれからの時代は生産性を上げるためにも、目標を可視化することも必要だと思っています。人材教育と生産性の見える化が今後の課題。言うなれば、自由と責任を如何に両立出来るかと言う事だと思います。
フリーアドレスを入れたことによって、いろいろな部門の人と顔を合わせられるようになった今、部門長や課長が組織としてチームの一体感を出していくことが課題だと思っています。だから私は自分を部長と呼ばなくていいよ、藤林さんと呼びなさいと言っています。自分も若い人たちをニックネームで呼んでいます。
――フラットな組織ということですね。
変なおじさんだなと思われているかもしれませんが、若手は育てばエネルギーを発揮してくれます。
仕事に厳しい面もありますが、フランクで強いチームを作れる場にしたいですね。
※
明るく多様なゾーンで働き方を選べる小林クリエイトのオフィスは、とても居心地が良い空間と感じられた。エントランスの黒板アートなど手作りのアットホームな雰囲気も訪問者を温かい気持ちにさせてくれる。今後のDX化にも強みをもつ同社が、ニューノーマルの完成形とも言えるこの新オフィスでさらにビジネスを加速していくのが楽しみだ。
1937年創業、本社は愛知県刈谷市。1952年頃にビジネスフォーム(コンピュータ用紙)の開発に成功し、コンピュータ普及とともに飛躍的に拡大した需要に応え、ビジネスフォーム印刷のリーディングカンパニーとなる。計測用記録紙の国内シェアは1位。
1990年より顧客のデータ処理を受託開始。生産ラインの部品調達システムを開発し、東京情報処理センターを開設。医療分野でも血液検査用プリンターなどを開発。2013年に印刷工場を大規模植物工場に改装し農業ビジネスに参入、レタスやサラダ菜など5種類の葉物野菜を栽培しています。
また富士通と連携して植物工場・施設園芸向け生産管理ソリューションも販売している。
コーポレートサイト https://k-cr.jp/ [外部リンク]
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の写真を除く)
取材日:2021年10月21日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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