小林クリエイト第10工場の最上階ラウンジ。まさにくつろぎのためのエリア(詳しくは記事後半を参照)
愛知県刈谷市の小林クリエイト株式会社の第10工場を訪問しました。
「みんなの仕事場」では2021年に、同社の東京オフィスを訪問し、当時のコロナ禍下で進められたオフィスと働き方の改革プロジェクトを取材しましたが(「国内記録紙シェアトップクラスの小林クリエイトがオープンした「コロナと共生するオフィス」」)、今回ご紹介する工場は、本社工場敷地内に建設した地上5階建ての建物。工場内はAGF(自動搬送フォークリフト)を走らせ、1階の自動倉庫から3階~5階の生産現場に製品や部材を運ぶ最先端のスマートファクトリーで、そこで働く皆さんの職場を見せていただくことになりました。
ご対応くださったのは中根章さん(執行役員 BPO担当本部長・新工場準備室室長)、後藤英斗さん(経営企画部課長)、上垣達也さん(BPO管理部係長)、丸山一寿さん(新工場準備室)と、什器検討ワーキングメンバーの方々です。
・パレットのベンチがあるエントランス
・情報処理サービスを集約した最先端のスマートファクトリー
・くつろぎと生産性に特化したハイブリッド工場
・オフィスツアー~会議室エリア
・オフィスツアー~休憩エリア
・オフィスツアー~オフィスエリア
・オフィスツアー~リラクゼーションエリア
小林クリエイトの本社は愛知県刈谷市にあります。創業したのは東京都北区ですが、1956年に本社工場を拡大移転しました。
広大な敷地にはいくつもの工場がありますが、今回取材する第10工場は南門を入ってすぐの建物です。
外観の特徴的な連続したプレートは、創業製品である「折りたたみ記録紙」をモチーフにしています。
同社は1937年創業、業務用帳票・記録紙、ソフトウェア機器の開発・販売、情報処理サービス、アウトソーシングサービスを主事業とするBtoB企業。たとえば試験で使われるマークシートやスポーツの観戦チケット、宅配の伝票、行政からの通知物など、一般の人も知らないうちに同社の製品・サービスに触れている身近な企業でもあります。
エントランスで目を引いたのは、倉庫や工場でお馴染みの「パレット」で作られたベンチでした。木製パレットを重ねて造作したベンチと周りのグリーンのイメージの組み合わせが面白いですね。
エレベーターで2階に上がります。
といっても、1・2階部分で高さが10mもあり、通常のビルであれば3階ほどの高さになります。
カウンター横の黒い引き出しは、外からも中からも引き出せるようになっていて、入室しなくても中に書類の受け渡しができる仕組みになっている
中根章さん(執行役員 BPO担当本部長・新工場準備室室長)
― この工場は11月から稼働開始だそうですね(取材日は2024年10月)。何人の方が働く予定でしょうか?
中根 ここ本社工場の敷地内の他の建物も含めると700名ほどが働いていますが、そのうちのBPO事業と物流管理の部署に所属する250名ほどがこの第10工場に入る予定です。機械を稼働させ、オペレーションして処理を行う生産部門、生産管理部門、設計部門、開発部門、物流管理部門などが入ります。生産現場のオペレーターだけでなく、生産管理、物流管理のデスクワークに近い担当者もいます。勤務時間は8時~17時が定時ですが、生産現場では昼夜2交代のシフト制もあります。
― 10番目の工場として、どのような位置づけなのでしょうか?
中根 ここは当社の主要事業の一つである、個人情報など機微な情報を扱う情報処理サービスに特化した拠点で、そのため他の工場よりセキュリティを強化しています。「帳票」などの大量印刷は別の工場で行っており、ここではデータを処理して印刷した帳票にあて名などの個別の情報をプリントするサービスを中心に行います。
― 新工場のプロジェクトについて教えてください。
中根 経営会議でプロジェクトが承認されたのが2023年1月で、元々ここには物流棟があり、それをデータ処理サービスの拠点に建て替えるというプロジェクトとして立ち上がりました。それまでは個人情報を扱う業務が複数の棟に分散されており、棟間を移動する時間や手間があり、セキュリティ面でも課題がありましたので、それを集約するというものでした。
また、情報処理以外にもビジネスフォーム(帳票)など膨大な物流業務の効率化も課題でした。これらの課題を解決するために、RGV(軌道搬送台車)やAGF(自動搬送フォークリフト)によって無人で現場間移動を行う省人化されたスマートファクトリーになっています。アウトソーシングサービスでは部材のピッキングが必要になりますので、これをロボティクス倉庫とAGFの構内自動搬送網で自動化しています。これまで点々としていた部材などの運搬を自動化し、作業を開始するときに部材が自動で用意されるようにしました。これまでスペースがなく外部保管していた部材も自社保管できるようになり、保管費用の削減にもつながります。
パレットが前後左右に移動するロボティクスファクトリー。高さ9メーターの昇降機が4か所あり、上下移動も。工場内の1階から5階まで走行するAGF用の昇降機も2機ある。
― 基本的なセキュリティの考え方はどのようなものですか?
中根 まず、取り扱う情報の種類に応じて5つのグレードを区画に設定しています。
グレード1はどの従業員でも入れる共用エリアで、記録紙やビジネスフォームの製作などを行う区画です。この会議室などがあるグレード2からはセキュリティエリアとなり、入室ゲートでの入退室記録や所持品確認が必要になります。さらにグレード3は、帳票のプリントや封入・封緘、圧着などの加工処理を行う作業エリアです。データの送受信や編集を行うグレード4への入室はさらに厳しい入室制限があり、生体情報を登録した作業者の静脈認証が必要です。データの保管エリアであるグレード5は最高レベルで、ごく限られた人間しか入室できないことになっています。グレード4以上で作業する者については社員証のストラップと着用する作業着の色をオレンジにして区別していますから、ガラス窓越しにでも分かるようになっています。
通信ネットワークのセキュリティも強固なものを採用し、セキュリティレベルが高いエリアから低いエリアへのやり取りは制限され、個人情報の保護を特に意識したセキュリティを実現しています。
ワーキンググループメンバーの皆さん
― プロジェクトはどのように進めたのですか?
中根 新工場準備室を立ち上げ、機械設備やセキュリティのことを含めて全体を管理しました。什器検討は今いるこのミーティングスペースも含めて、デザインなどについては社長の思いもあり、これからの担い手である若手メンバーを集めたワーキング形式で協議をしながら決めていきました。
後藤 若手メンバーのワーキンググループは2023年10月中旬頃にキックオフして、BPO本部がこの工場に入ってくるということもあり、そこに直結する部門の各所属から1名ずつ若手メンバーを6名人選して、2024年5月中旬頃まで計画から検討まで進めてきました。
後藤英斗さん(経営企画部課長)
― 新オフィスのコンセプトは?
上垣 社長の思いや新工場準備室の考えを聞き、我々若手として「くつろぎと生産性に特化したハイブリッド工場」というコンセプトを掲げました。新工場として生産性を高めることはもちろん、オンとオフを意識して働きたいと思ってもらえるくつろぎや安らぎなども考えながら、什器の色味やレイアウトを重点的に考えていきました。
エントランスにパレットを使って木や緑を添えているのも、「生産性」と「安らぎ」の両面の組み合わせを意図したものです。
― なるほど、そうだったのですね。完成までに試行錯誤したことはありましたか?
上垣 セキュリティを強化している建物なので、どういうレイアウトを組むとセキュリティを担保できるか、セキュリティを担保した上でどういったくつろぎの場を提供できるのか、配置を考える上では試行錯誤の連続でした。また、セキュリティという堅苦しい言葉を意識しながら、どのようにリフレッシュ空間を作るか、個人情報を守りながら、みんながリラックスできる空間はどうあるべきか、メンバー内で議論しながら進めました。
上垣達也さん(BPO管理部係長・若手ワーキングリーダー)
― 「やすらぎ」「リラックス」というのは、いわゆる「工場」のイメージとは違いますね。採用面などにおいてもアピールメリットがあるのではないでしょうか?
中根 そうですね。この建物は8月に竣工したのですが、従来は別の会議室で行ってきた新入社員内定式は、やはり新しい工場のきれいな場所でこれから入社いただく方の心をつかみたいということもあって、この建物で行いました。その段階ではまだセキュリティが稼働していなかったので、そういったことは今年限定ですが、最新設備をアピールすることは採用の面でも重視しています。
また、セキュリティ工場ではあるものの、5階には一般社員が自由に使えるラウンジもあり、サウナも設置してあるので、くつろぎやゆとりのある職場としてPRしていきたいと思っています。
丸山一寿さん(新工場準備室)
― サウナがある工場! 面白いですね。
丸山 後ほどご案内しますが、かなり本格的なサウナを作りました。先日もメディアの取材を受けたのですが、サウナを活用したコミュニケーションの活性化については、社長の強い思いもあります。この11月から一般社員にも開放する予定です。
ということで、ここからは各エリアを写真でご案内していきます。
まず会議室が並ぶエリア。
会議室は5つあり、一番広いものは、稼働パーテーションで二つに区切れるようになっています。
この会議室は社外の方を迎えてのセミナーやプレゼンテーションなどに活用されています。
椅子は机と椅子が一体化したものを採用。これはアスクルのライブショールームを見学した際に一目惚れして採用を決めたそうです。
机を置いてしまうと、どうしても人の座る位置が決まってレイアウトもフレキシブルにできませんが、この椅子なら、横並びに置いたり、丸く置いたり、集まりを2つに分けたり、いかようにもできるのがメリットです。さまざまなシチュエーションで役立ちそうですね。
似たような家具は他にもありますが、テーブルが小すぎてノートPCを置けなかったり、ドリンクホルダーがなかったりして、この椅子がベストとのこと。資料を広げてもある程度余裕があるサイズということで、こだわりのチョイスだそうです。
こちらはオーソドックスな会議室で、配置は同じですが、白が基調の部屋と木目を基調とした部屋の2つがあります。
さらに、少人数でのミーティングや1on1などにも便利そうな小さい会議室もありました。ソファー席にすることで少しカフェ的に話ができたりするような配置がポイントです。
Web会議にもよく活用されているそうです。
この部屋は中根さんがWeb会議でよく使うお気に入りとのこと。
木目が落ち着く休憩エリア。右手奥がオフィスエリアになる。
次に、オフィスエリアとひとつづきの休憩エリアに入っていきます。
丸山 普通に4人掛けのテーブルを置いて、個々人がくつろいでもらえるようにしています。座ってパソコンやモバイルを見たりできるようにしました。
当社は別棟に食堂もあるのですが、棟移動をしなくても、ここでお弁当を食べたりできるようにポットや電子レンジを置く予定です。軽食なども置いて、電子決済端末も付けました。
― 空間づくりで苦労したところはありますか?
上垣 一番意識したのは、視界を遮るものを置かずになるべく広く見えるようということです。セキュリティに閉ざされた空間というイメージを与えないように、開放感を感じてもらいたいということを意識してります。
色味については、あまり様々な色があふれると複雑になってしまうので、落ち着いていてクリーンな清潔さを感じさせることも意識して、白をベースに、グリーンや木目などを配しました。
ちょっと苦労したのは、執務室と休憩室がひと続きのワンフロアなので、どのように空間を区切るかということです。どうしたらが働きやすく、かつ休憩しやすい空間を築けるかということには悩みました。こういう什器を置けばそれぞれのエリアを見にくくできるとか、開放感も感じてもらえるとか、ラダーのようなパーテーションを置いて少し見えるようにしようか、そういった工夫をしました。
エリア奥には吸音パネルつきの家具ブースが並んでいます。
丸山 ここは「クワイエットエリア」ということで、静かにしてくつろごうというゾーンです。奥に行くと個室のようなレイアウトにしています。お昼休みにここでくつろいで、ウトウトしたりもできます(笑)。
次に、仕切りの向こう側のオフィスエリアに入っていきます。
木目とグリーンが基調のという柔らかい雰囲気がこだわりを感じさせます。
丸山 こちらに入るのは、物流管理部、BPO管理部です。この奥には、生産現場の管理者や製品仕様書を作るチームも入ります。
デスクは、普通の濃い木目ではなく、削った時の薄くなっている木肌がすごくいい感じの色目を使っています。
― 窓際収納の天板も同じ木目ですね。
丸山 什器そのままだと天板もスチールですが、同じ板をわざわざアレンジして載せています。実は結構いいお値段するのですが(笑)、どうしても机と色目を合わせたいと、若い人たちがこだわりました。
― すごく統一感がありますね。
丸山 こだわった甲斐があったと思っています。
― このオフィスは固定席ですか?
丸山 現状は固定席ですが、OAフロアですし、いずれはフレキシブルな働き方もできるように、机周りも机と引き出しが一体になっていないものを選ぶなど、アスクル様にもアドバイスをいただきながら什器を選定しました。他の工場や他地域から来た人が仕事をできるようなタッチダウンスペースも作りました。
丸山 将来的にはフリーアドレスも導入していきたいので、PCもデスクトップからほとんどノートPCになっています。
衣装ロッカー
さらに奥には男女のロッカールームがあります。
2階の見学を終え、いよいよサウナのある5階に上がりました。
入り口からいきなりラグジュアリーな雰囲気になっています。
「樹木」が「ロール原紙」になり、「印刷」「加工」され、全国へ「出荷」されていくさまを表現しているモニュメント
丸山 このエリアは、セキュリティと関係なく、社員なら誰でも入れるリラクゼーションエリアです。家具は地元企業であるカリモク家具さんのものが中心で、社長が選んだものとのコラボレーションのような形になっています。
キッチン設備もあり、このエリアで料理を作ることもできるようです。
簡単なパーティーを開いたり、内定式や懇親会などでの交流の場として活用していくとのこと。
さまざまなゾーンのあるエリアで、こだわりを感じます。
このエリアにフィンランド式サウナの入り口があります。
更衣室、休憩スペース、水風呂を備えた本格的なものでした。
後藤 先日、日本サウナ学会の方もお越しいただきました。このエリアのオフィスサウナでも一、二を争うようなグレードと評価していただきました。
中部経済新聞にも「オフィスで〝整う〟サウナ導入広がる 交流促進、組織力向上へ」という記事が出たほどの本格的な施設で、記事によれば愛知県内の企業オフィスにサウナを導入する動きが広がっているのだそう。
中根 名称は「キートスサウナ」といいまして、フィンランド語で「ありがとう」という意味です。当社の経営理念にも「お客様から『ありがとう』と言われる企業を目指します」とあるので、そこから命名しました。
― あまりに本格的なので、びっくりしました!
※
最後に、AI搭載の掃除機ロボットが稼働しているところを見せていただきました。無人運転できれいに汚れが落ちるので、毎日掃除しても手間を感じないそうです。
というわけで、今回は、最新のスマートファクトリーの生産性とやすらぎ・くつろぎが共存する非常にユニークなオフィスを堪能させていだきました。
ご案内くださった小林クリエイトの皆様、どうもありがとうございました。
取材協力
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2024年11月6日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。