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日本変革のヒントになるヨコハマのイノベーションとは 〜経済ジャーナリスト 内田裕子氏インタビュー~

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経済ジャーナリスト 内田裕子氏

経済ジャーナリスト 内田裕子氏



イノベーションをキーワードに横浜を考察した経済本『横浜イノベーション!』が話題です。同書では、横浜の歴史をひもときながら、同市が現在抱えている課題、イノベーションへの取り組み、IR(統合型リゾート)誘致などに言及しています。横浜は日本の縮図と明言する著者、内田裕子氏にお話を伺いました。



■本当は間違っている「ヨコハマ」のイメージ



――横浜に焦点を当てた本を執筆されたきっかけを教えてください。


お付き合いの長い出版社から、「地域に限定した経済本を書きませんか?」と提案いただいたのがきっかけです。私は今年の3月まで4年間、テレビ神奈川の経済番組「神奈川ビジネスUp To Date」で、200社ほどの経営者にインタビューを行ってきました。


横浜のみなとみらいは去年35周年を迎え、長い時間をかけてようやくあの広い土地の分譲を終えたのですが、そのタイミングで、みなとみらい21の土地売却を手がけていた三菱地所横浜支店を取材したところ、なぜ分譲に35年間かかったのかという疑問から始まり、これは終わりではなくむしろスタート地点だと感じ、またIR(統合型リゾート)の話も伺って、横浜は今、転換点にある、これは面白い!と感じて、横浜について書くことになりました。



――横浜の歴史を江戸時代まで遡って紹介されていますね。


地元の優良企業をただ紹介するだけの経済本ではつまらないので、そもそも横浜って何なんだろう?というところから掘り下げて書きたいと考えました。"今"をひもとくには、歴史や原点を探って、昔から連面と続いているものを知る必要がありますから。


横浜の歴史については、「ペリーが来航し、開港して、その頃から育まれた進取の気質が横浜にあるので、新しいものをどんどん取り入れてきた」というふうに語られることが多いのですが、実際には保守的で、イノベーティブから遠い人もたくさんいることが、テレビ番組のインタビューをしているときから感じていました。


役所が音頭をとって建物をどんどん建てて、ハードは優れているけれど、ソフトの面ではイノベーティブな人材はむしろ少ない。京都や金沢などに比べれば歴史が比較的浅くて何でもできるような土壌で、なぜクリエイティビティが発揮されないのだろう?と疑問を持ちながら書いたのがこの本ですね。



――「横浜人には進取の気質がある」というのは単なるイメージだと。


歴史をひもとけば、じつは横浜は外圧によって発展して来た街であり、自らの力で変わったことは一度もないということが分かります。ペリーと日本初のアメリカ総領事ハリスが開国場としてオーダーしたのは横浜ではなく、神奈川湊(現在の神奈川本町から青木町付近)でした。ところが幕府は、東海道沿いにあって江戸城に直結する神奈川湊には国防の観点から開港場を置きたくなかったので、横浜を選んだのです。横浜村の人にとっては思いがけず港町になったわけで、まるで棚からぼた餅ですね。



――望んだわけではないのに開港場となり、それ以降、港町として発展し、外国人居住者も増えた。


外国の商社ができて、ひと旗あげたいという商人が日本中から横浜に集まって来たんですね。戦後には、横浜は中心地のほとんどをGHQに接収されて復興が思うように進みませんでした。一方、そのおかげで歴史的建造物が残り、それが街の魅力になりました。横浜の本格的な復興が始まったのは1960年代でしたから、他の地域のようなスピード優先ではない、街をデザインするような復興が可能になったわけです。何か面白い運を持っている場所なんです。



■日本の縮図としての「横浜」

経済ジャーナリスト 内田裕子氏



――運もいいし、立地も東京の隣で、たしかに恵まれた場所という印象がありますね。


ただ、恵まれている場所だからこそ、人々は安穏としてしまうのですね。イノベーションの原動力は、「このままではだめだ」という危機感にこそあります。不便さ、窮屈さから解放されたいという気持ちがないと、人はイノベーションを起こそうとは思わない。横浜では、横浜村の住人として認められさえすれば、あとはのんびりと過していられますから。



――現状に満足し、イノベーションの必要性を感じていない人が多い?


そうかもしれません。ただ、今年2019年に横浜市の人口が減少に転じます。しかも、じつは日本で最も高齢化のスピードが早い都市と言われています。それに、横浜には企業の本社がほとんどなく、法人税収も少ないために、いよいよ安穏としていられなくなります。


それにもかかわらず、すでにビジネスで成功している70代を中心とした人々が重鎮のごとく存在しており、何か新しいことをやろうとする特に新参者に対しては冷淡な空気があります。横浜自体の将来を考えずに、まずは自分のテリトリーが侵されることを心配してしまう。これではイノベーションは起こりません。



――横浜は日本の縮図だというのは、そういうことなのですね。


その通りです。私は講演で日本中の街を訪れていますから、横浜を中心とした神奈川県には、"無いものが無い"ということがよく分かります。新幹線、港、JR、地下鉄、高速道路などのインフラ、箱根や葉山などの観光地があり、商業、農業、漁業すべてを網羅しているのですが、逆に"横浜、神奈川ならでは"のものがピンと来ない。同時に、高齢化をはじめ、日本全国で起こっているさまざまな問題もすべて持ち合わせています。そういう意味で、日本の縮図と言えると思うんです。


横浜にかぎらず、日本が抱えている課題を解決するためにはイノベーションが不可欠ですが、横浜は先ほどお話ししたように外圧によって発展した街なので、むしろ外から来る人を厄介者扱いせず、イノベーションをもたらしてくれる存在として歓迎すべきなんです。



■起こりつつあるイノベーション

経済ジャーナリスト 内田裕子氏



――外から来る人とは、外国人にかぎらず、他の土地から移って来た人、そして若い世代も含めてということですね。


そうですね。若い世代にはもっと横浜の未来について考えて積極的に行動してほしい。横浜は過渡期、転換点を迎えているので、今、横浜が何を決定するのかは未来に向けてとても重要ですが、いまだに決定権を持っているのは70代以上の重鎮たちで、彼らが決めたことを20代、30代の若者が背負っていくことになります。


でも、これからのAI、IoT、コネクテッドが当たり前のインフラになる社会で、デジタルネイティブ世代は70代の人々が想像できないような便利で豊かな世界を構築できるはずです。若者はちゃんと重鎮たちに異議申し立てをして、長い時間軸で横浜の街を豊かに成長させ、自分たちで横浜ブランドを再構築していくことを本気で考えてほしいですね。



――世代交代の必要性も、横浜だけでなく日本の抱える課題ですね。みなとみらいのニューカマーについてはいかがですか。


みなとみらいに京セラ、資生堂という日本を代表する企業が、R & D(研究開発)の拠点を置いています。京セラは研究開発部門約600人の大所帯がみなとみらいに移動しますが、同社の研究開発本部長にみなとみらいで最も期待していることをお伺いしたところ、間髪入れず「オープン・イノベーション」という答えが返って来ました。資生堂はグローバルイノベーションセンターという研究所をみなとみらいに新設しました。危機感をもち、新しい価値を生み出そうとしているイノベーティブな企業がみなとみらいにやって来ているんですね。ただ、このことはまだ意外に知られていないようで、私の本を読んで初めて知ったという方も多いようです。



■カジノができたら横浜はダメになるか

経済ジャーナリスト 内田裕子氏



――昨今、横浜へのIR(統合型リゾート)誘致が話題になっています。


歴史をひもとけば、横浜はもともと開港場として始まり、貿易の為の商品を取り引きする様子はまるで博打場でした。本にも書きましたが、開港と同時に金儲けと好奇心、冒険心の塊のような商人が横浜に集まってきて、初代英国総領事が横浜居留地の外国人社会を「ヨーロッパのはきだめ」と呼んだと記している本もあります。


当時、横浜では騙し騙され、悲喜こもごものドラマがたくさんあったはずでしょう。ところが、横浜というとなぜか美しいイメージを持っている人が多い。自分たちのアイデンティティや歴史に目を向けず、むしろそれを覆い隠すように、アーバンデザインの名のもとになんとなく美しい景観を作って、横浜は健全な街だと思い込んでいるんです。そしてギャンブルは横浜にふさわしくない、カジノなどできたら横浜はダメになると心配しています。



――「美しい港町」は横浜の誤ったイメージだと?


IRはカジノのイメージが先行していますが、一流のエンターテイメントを享受でき、高級ホテルやレストランがあり、世界のエグゼクティブが集まり、24時間楽しめる場所です。4万人の雇用を生み、1兆円の経済効果が試算されています。ギャンブル中毒者が増えることを懸念する声もありますが、AIやIoTの時代、カジノへの入場制限は顔認証で簡単にできますから。


IR誘致は国の施策なので、外圧から繁栄を生み出すという、まさに横浜の"勝ちパターン"を期待できます。「内田さんの本のおかげでIRの奥深さに気づいたので、きちんとIRについて勉強することにしました」という感想を送ってくれた横浜市民の方もいました。



――『横浜イノベーション!』は横浜内外からの反響も大きかったようですね。


横浜の方からは「よく書いてくれた!」という声もありました。外の人からは「横浜の知らなかった面を教えられた」という感想もありました。


私自身、この本で新しい横浜論を展開できたと自負しています。何もない漁村だった横浜のダイナミックなサクセスストーリーは、外国人をはじめ、外からやって来た人からもたらされたもので、その歴史がある横浜だからこそ、外圧をうまく活かしてイノベーションを起こそう、という提案をこの本を通してできました。変化を恐れる、いわゆる重鎮の方たちには、イノベーションで街がよくなれば元からの住民も潤うと気づいてもらいたいし、イノベーションの担い手となる若い方たちに、もっとこの本を読んでほしいですね。




■お気に入りの記事はこれ!



――「みんなの仕事場」でお気に入りの記事を教えてください。


サイトを拝見しましたが、どの記事というよりこのサイト全体が好きですね。まず私は家具が好きですし、居住空間はヒトの頭と心に大きく影響すると思っていますので、「働き方改革はオフィスから」、という考え方に大賛成です。社員にマインドセット促す手段としてオフィスのリニューアルするのは、経営者の改革への本気を表すのにわかりやすいと思います。かかる費用が決して安くないことは社員に伝わりますから。私は企業取材が多いので様々な企業を訪問していますが、エントランス入って、ぱっとオフィスの設えを見るだけで、ああ、なるほどね、と瞬間的にわかることがたくさんあります。それくらいオフィスのというのは経営者の頭の中が表れます。ちょっと怖いですよね。働き方改革は私が講演で必ず話すトピックです。たとえば、フリーアドレス、カフェ併設など実施した会社がその後どう変化したのか。業績に良い影響は現れたのか、詳しいBefore、afterの記事があったら助かります。


あと私も経済ジャーナリストとして、つねに多様な組織のリーダーにインタビューをしていますので、「専門家に聞く」の記事は気になりますね。中でも「アイツらの気持ちがわからない!」の記事は、まさに今の日本中の職場の悩みが的確に書かれていて、興味深く拝読しました。他のインタビュー記事にも経営のヒントがたくさんあると感じました。今後は注意して拝見したいと思います。



アイツらの気持ちがわからない!新入社員とのバリューギャップを埋めるには~ツナグ働き方研究所所長 平賀充記氏インタビュー~




経済ジャーナリスト 内田裕子氏 (著書とともに)

経済ジャーナリスト 内田裕子氏 (著書とともに)








人口減少、世代交代の必要性など、歴史的転換点を迎える横浜が抱える課題は日本中のあらゆる地域にも当てはまるものです。課題解決に欠かせないイノベーションは新しいものを取り入れることで生まれるもの。外圧、外から来る新しいものがもたらすイノベーションによって発展をとげた横浜が迎える近未来は、地域経済、ひいては日本経済改革のヒントになるのではないかと感じさせられました。






プロフィール


内田 裕子(うちだ ゆうこ)

経済ジャーナリスト

玉川大学文学部芸術学科卒業後、大和証券に入社。トレーダーを経験後、広報部へ異動。同社の社内TV放送「大和サテライト」 のキャスターに抜擢され、マーケット情報や経営者・アナリストとの対談番組へ多く出演する。2000年より経済ジャーナリストとしての活動を始める。 テレビ朝日系「サンデープロジェクト」の経済特集チームで取材活動をした後、 BS日テレ「財部ビジネス研究所」に出演。老舗企業の経営者にインタビューする「百年企業に学べ」を担当。 2015年4月〜2019年3月までテレビ神奈川の経済番組「神奈川ビジネスUp To Date」 にメインキャスターとして出演した。現在、BSイレブン「財部誠一の異見拝察」に出演中。 経営者のインタビューを得意とし、上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで規模、業種を問わない。

講演講師、パネルディスカッションのモデレーター、上場企業の社外取締役も務める。現在、横浜市港湾審議委員。師匠は経済ジャーナリストの先駆者である財部誠一。


著書

横浜イノベーション! 開港160年。開拓者の「伝統」と、みなとの「みらい」(PHP研究所)[外部リンク]

三越伊勢丹モノづくりの哲学 新たな挑戦はすべて現場から始まる(共著・PHP新書)[外部リンク]

『負けない投資』(PHPビジネス新書)[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年11月1日

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