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専門家に聞く!

ITを活用して視覚障がい者の就労機会を増やしたい ~日本点字図書館 長岡英司館長インタビュー

日本点字図書館長・常務理事 長岡 英司氏

日本点字図書館長・常務理事 長岡 英司氏



東京高田馬場にある日本点字図書館は、視覚障がい者のための点字図書・録音図書の製作・貸出などを行う日本最大の視覚障がい者用図書館です。早稲田大学をはじめ多くの学生が往来するこの街には、日本視覚障害者センターや東京ヘレン・ケラー協会などもあり、点字ブロックが整備され、白杖を持つ人の姿も多く見かける、視覚障がいに優しい街と言われます。


人生の半ばで視覚を失う人も含め、視覚障がいをもつ人々が職場に復帰し、働きつづけるための環境について、自らも視覚障がいをもつ長岡英司館長(常務理事)をはじめ、職員の皆さんにお話を伺いました。




■きちんと叱ってくれる恩師に恵まれて


――長岡館長のご経歴を教えてください。


長岡 幼児期から弱視で、子どもながらに将来仕事に就けるのか不安でした。完全に見えなくなったのは中学1年生。忘れもしない、東京オリンピック前年の昭和38年12月18日水曜日でした。盲学校卒業後、点字受験で立教大学理学部数学科に入学しました。当時はちょうど視覚障がい者の大学進学の機運が高まった時期で、盲学校の生徒たちが立ち上がって、駅頭で署名を集めたり、大学の門戸解放運動を展開しました。周囲の受験生はみな決まっていく中、私が進んだ理数科は、願書を受理しても受験させてくれない大学もあり、なかなか受験できませんでした。結局、盲学校の先生が交渉してくれて、立教大学をフェアに受験できました。今では点字受験の制限時間は一般の1.5倍あるのですが、昔は時間延長なしです。国語の漢字問題などはゼロ採点ですから、かなりハンディがありましたね。


大学院では、大変厳しい先生のゼミに入っていました。私が黒板に書いた数式を「読みづらい」と指摘したり、電気をつけ忘れると「みんながびっくりするから気をつけなさい」など叱られました。普通は誰も遠慮して言えないこともきちんと指摘してくださるので、本当に偉い先生だと思いました。我々は、周囲が気を使って、とかく甘やかされて育っていますから、そうやって怒られることは本当に良かったんです。



――卒業後の進路は。


長岡 キヤノンに入社し、福祉機器部門で、アメリカの「オプタコン」という、墨字(目で読む普通の文字)を触覚で読み取るための電子機器の輸入販売に携わりました。私自身、学生時代にその機器を使っており、コンピューターから出力されたものを自分で読んでいました。



今では珍しい盲人用文字読取装置オプタコン。長岡氏の手慣れた操作で、今でもちゃんと印刷された文字を読み上げる

今では珍しい盲人用文字読取装置オプタコン。長岡氏の手慣れた操作で、今でもちゃんと印刷された文字を読み上げる



キヤノンは今ほどには視覚障がい者を受け入れる体制が整っていませんでしたが、そこでも事業部長さんが適切に対応してくださり、その方の下で経験できたことはよかったと思っています。たとえば社内移動の際には、周囲に分かるように必ず白杖を携帯するようにと言われました。それまでは慣れた建物内では白杖を使っていなかったのですが、今ではその習慣が身につき、白杖を持ち歩くようになりました。


それでも慣れない環境で毎日働くのは大変でした。カナタイプを使って文字を打ち、資料をオプタコンで読んだり、晴眼者に読んでいただいたり。周囲は晴眼者ばかりで、視覚障がい者に慣れていない方も多かったので、その環境にこちらが慣れるのにも時間がかかりました。


結局、キヤノンには2年半ほどお世話になり、所沢の国立職業リハビリテーションセンターに転職しました。



――そこで、情報処理技術者試験の点字実施を実現されたのですね。


長岡 センターにはまだ視覚障がい者のための職業訓練科目がありませんでした。大阪の施設では1972年から視覚障がい者のためのコンピュータープログラマー養成を始めていたので、所沢でもやってはどうかと提案したのですが、なかなか聞き入れられない。そんなところへ労働省キャリア官僚が次長として着任され、耳を傾けてくれました。そのうちにハローワークの人もだんだん理解してくれるようになり、10年間で約30人の視覚障がい者の就職や復職を支援しました。最初のうちは、私自身が求職者とハローワークに間違われたりしました(笑)。


今のように企業が障がい者を進んで採用する時代ではありません。企業の信頼を得るため、公的な資格を取得する制度が必要だと考え、情報処理技術者認定試験を点字で受験できるようお願いしたのです。見学に来てくれた議員の皆さんにも働きかけました。


その後、障がい者対象の筑波技術短期大学の情報処理担当教員に転職するよう声がかかり、助教授となりました。リハビリセンターと同じように授業や就職指導を担当していましたが、10年ほどして学内外の障がい学生のための支援の仕事をするようになり、定年退職後に現在の日本点字図書館の仕事に移りました。



■点字図書館の活動を知ってほしい!

右から長岡館長、野村勝之氏(総務部事業部部長)、石出恵氏(同総務課課長)、山田和子氏(総務部総務課)

右から長岡館長、野村勝之氏(総務部事業部部長)、石出恵氏(同総務課課長)、山田和子氏(総務部総務課)



――日本点字図書館では、図書館として点字図書を貸出すだけではなく、様々な取り組みをされていますね。


長岡 点字図書を製作して全国に提供開始したのは約80年前です。その後、貸出を録音図書に拡大し、1970年代からは視覚障がい者のための用具開発・販売事業を始め、約2年前からは4つ目の大きな柱として、「自立支援事業」を始めています。人生の半ばで視覚を失った方々は、障がいを補う技術、一人で白杖を持って歩くこと、点字の読み書き、ICT機器の操作、家事動作を覚えることなど、さまざまなスキルを身につけなければなりません。そうした社会支援は、公的な支援や民間の寄付などがなければ成り立ちませんので、当館事業の意義や目的を知っていただく広報活動、啓発活動を行っています。



館内1階では様々な用具を販売している

館内1階では様々な用具を販売している



――近隣の方を対象にオープンオフィスを開催されているそうですが。


長岡 オープンオフィスも広報活動の一環で、近隣の方々に当館の事業を広く知ってもらうという目的があります。当館の業務を体験していただくというコンセプトです。


当館の組織は、点字図書を作る点字製作課、録音図書を作る録音製作課、図書の貸し出しを行う図書情報課、用具販売部門、自立支援部門などから成り立っています。オープンオフィスでは、録音製作課で朗読を録音してCD化したり、点字製作課で点字のカレンダーを作ったりする体験をしていただきます。「昔からあるけど中に入ったことがない」という近隣の方も多いので、オープンオフィスに来ていただいて、業務を体験して理解を深めてほしいと思って企画しています。



高田馬場駅からほど近い点字図書館は鎖が全面に垂れ下がるファサードが印象的。建築家鈴木エドワードの設計で、鎖は「知の滝」を表しているという。

高田馬場駅からほど近い点字図書館は鎖が全面に垂れ下がるファサードが印象的。建築家鈴木エドワードの設計で、鎖は「知の滝」を表しているという。



膨大な録音図書が並ぶ

膨大な録音図書が並ぶ



図書の朗読を録音するブース

図書の朗読を録音するブース



――視覚障がい者向けの図書は、今では点字と録音があるのですね。


長岡 当館ではまだ点字の方が蔵書数は多いのですが、利用数は録音図書の方が圧倒的に多くなっています。



――点字図書の製作は昔にくらべると楽になったのではないでしょうか。


長岡 パソコンの導入で能率が飛躍的に改善されました。点字の自動変換も進んできましたが、間違いはどうしても出てきますから、人手を省くことはできないんです。一方、録音図書では自動読み上げの技術はかなり進歩し、人が読む肉声に近くなっていますが、まだまだ人でなくてはならない面もあります。特に文芸作品では、自動音声のアクセントや抑揚の微妙な違いなどが聞く側にとってストレスになるので、人の声で読んでほしいという需要が根強くあります。将来的にもAIなどでは代替できない業務だと思います。



――働く環境という意味では、昔とはだいぶ変化していますか。


長岡 これは大きく変わりました。20~30年前までは、視覚障がい者には事務的な仕事はできないといわれていました。今ではPCが普及し、画面上の文字を読み上げてくれるソフトもありますし、インターネットにアクセスして情報を受け取ったりすることも可能です。格段に変わりました。



――館内のスタッフにも視覚障がい者の方がいらっしゃいますね。


野村 視覚障がい者がいる職場は日常的な風景です。視覚障がい者の採用は以前は全盲の方が主でしたが、近年ではロービジョン(弱視者)の方も採用しています。ロービジョンの方は一人ひとり見え方が違います。はっきり見えない、暗く見える、視界の一部だけが見えるなど様々ですから、どう配慮すべきか判断が難しいので、実体験していただき、その方の見える範囲でできる仕事は何かという線引きをして、周囲もその方の障がいの度合いを理解することから始めました。どんな障がいでもそうだと思いますが、障がい者とともに働くには、できることとできないことを正直に教えていただき、周囲がサポートをすることが必要なんです。



野村勝之氏(日本点字図書館 総務部事業部部長)

野村勝之氏(日本点字図書館 総務部事業部部長)



――どのような配慮をされていますか。


石出 勤務初日にはレイアウトをきちんと説明します。フロアには誘導ブロックを引いていますが、口頭でも説明します。機材や設備以外では晴眼者がマンパワーでフォローしなければなりません。たとえば床に何か物を置いたときは必ず伝えておけば、注意して歩いてもらえます。館内のドアも原則すべて引き戸にしています。



石出恵氏(日本点字図書館 総務課課長)

石出恵氏(日本点字図書館 総務課課長)



長岡 文書を作る作業は、文章を書くことはできますが、レイアウトを整えるのはなかなか難しいのです。表が含まれる文書は自動読み上げではなかなか理解しにくいので説明してもらわなければなりませんし、初めて行く場所には同行が必要です。このようにいろいろな形の支援をしてもらっています。視覚障がい者にとって、周囲の人たちによる支援は働くうえで欠かせません。総務の山田さんは、私の仕事を日々手伝ってくれています。


山田さんが休みの時は、ほかの職員がさりげなく代わりを務めてくれています。若い職員と飲みに行くこともたまにあります。視覚障がい者にとって周囲とうまくやっていくことがとても大切です。正職員、嘱託、パートなど合わせて150名ほどです。全盲、弱視者は約15名です。


野村 このような施設であっても、視覚障がいの当事者がいないと分からないことがあります。われわれ晴眼者だけではうまくいかないこともあるんです。



■視覚障がい者の当事者が働くことでサービスが実践的になる

日本点字図書館長・常務理事 長岡 英司氏



――「自立支援事業」でどのようなことができるようになるのでしょうか。


長岡 たとえば50代で視力を失った方が、当館の自立訓練を受けて白杖による単独歩行や点字の読み書きができるようになった事例もあります。その方が一人で選挙の投票に行き、点字投票をしたと、達成感に溢れたお手紙をくださいました。


人生の途中から視覚障がい者となると、仕事の仕方が変わります。たとえばパソコンを使っていた方は読み上げソフトを利用すれば、仕事を続けることもできます。人的な支援体制も含めて環境整備はとても重要です。


例えば、鉄道会社もさまざまな試みをしていますが、実際に視覚障がい者がそこで働いていれば、当事者の意見が反映されやすく、有効なサービスが実現するのではないでしょうか。そういう意味でも当事者の仕事への参加は重要です。



――視力を失った方が職場復帰することは不可能ではないと。


長岡 そうですね。就労支援の社会制度も整ってきています。雇用促進法などもありますし、企業も以前より積極的に採用するようになってきました。特別な環境整備が必要になりますが、助成金もありますので、就労を促進する大きな要因になっています。


福祉の究極は、就労だと思います。いろんな立場、制約のある方がいますが、何らかの生産活動に就くことのできる社会になればと願っています。



日本点字図書館長・常務理事 長岡 英司氏

日本点字図書館長・常務理事 長岡 英司氏








「権利において、義務において、晴盲二つの世界があくまでも公平でなければならぬ」――長岡氏が敬愛する日本点字図書館の設立者、故・本間一夫氏は、晴眼者と視覚障がい者の公平な権利についてこのような言葉を残しています。働くことについても同じように公平であるべきという長岡氏の思いを感じました。






プロフィール


長岡 英司(ながおか ひでじ)

1951年生まれ。1970年、点字受験で立教大学理学部数学科に入学。

1977年、立教大学理学研究科修士課程修了とともにキヤノン株式会社に入社。

1979年9月、国立職業リハビリテーションセンターに転職。情報処理科の職業訓練指導員として、10年間で約30人の視覚障がい者の就職・復職を実現した。その間、情報処理技術者試験の点字による実施を関係方面に働きかけて実現し、自らも2種試験と1種試験に合格した。

1990年4月、筑波技術短期大学情報処理学科助教授となり、2000年4月には同短大教育方法開発センター助教授、2003年同教授、2005年10月に筑波技術大学障がい者高等教育研究支援センター教授。

2016年3月同大学院定年退職。4月より名誉教授。2016年4月より日本点字図書館勤務。

2017年4月より現職。著書

『数学&情報処理点訳ガイド』(国立大学法人 筑波技術大学 障碍者高等教育支援センター、2015年)ほか著作多数


日本点字図書館 [外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2020年1月22日

         

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