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効率化が正義とは限らない。あえてムダにこだわる「丸亀製麺流」の働き方 ~株式会社トリドールHD 小野正誉氏インタビュー

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小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)

小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)



外食産業業界では厳しい環境が続いています。人口減少や中食の台頭を背景とした顧客数の縮小、慢性的な人手不足、価格競争の反動で起きる利益率低下など、問題は山積み。これらに対処するべく、「効率化」「低コスト化」を大きなテーマにした企業間競争が激化しています。


ところが、セルフうどんチェーンの「丸亀製麺」は、「必要なムダは省かない」「他社と同じ土俵に乗った競争はしない」と公言、独自の店舗運営を行っています。現場で何が起きているのでしょう。同社を運営する株式会社トリドールホールディングス社長秘書・IR担当の小野正誉氏に伺いました。




■丸亀製麺の店舗で輝く「中高年パートナー」


――小野さんのご略歴を簡単にお聞きしたいです。


学卒後、外食とは関係ない会社で1年間働きました。そのあと、先輩と共に起業に参画し、以降は外食の世界でいろいろな仕事をさせてもらいました。広報・渉外担当をはじめ、経営企画室室長、取締役など様々なポストを経験しただけでなく、経営主体が変わってしまう状況にも遭いました。そんな中で、ある程度「やりきった」という感覚がありましたので、次のキャリアを考えるようになりました。



――トリドールHDからお声をかけられて?


いいえ、採用試験をパスしました。2011年の入社ですが、この頃すでに外食産業には斜陽が差しており、市場全体が縮小傾向の中、過当競争でパイを食い合う厳しい環境になっていました。その中で丸亀製麺を中核にしたトリドールは力強く成長を続けていた。2006年に東証マザーズ、08年に東証一部に上場を果たし、店舗数も売上げもうなぎ登りに拡大していました。元気のない外食産業にあって、私から見たトリドールは輝く星のような、憧れの会社だったんです。首尾よく採用されたことはラッキーだったと思います。



――そして、現在の社長秘書というポストに就かれたのですね。


はい。2014年、入社3年目のことになります。



――3年目で最もトップに近い場所に就かれたのは大抜擢だと思いますが、どんな経緯だったのでしょう。


いきなりのことでした。丸亀製麺もトリドールも、若手社員に大きな仕事を任せたり、パート社員を店長に据える制度があるなど、思いきった人材登用を行うのは珍しくありません。私の場合もそのひとつだったのではと思います。社長に近いポストといっても、実務としては粟田(貴也氏=トリドールHD社長)のスケジュール管理や、彼が社内外で講演などを行う際の資料作りといった業務が主で、業績を左右する一大事に携わっているわけではありません。ただ、秘書という業務の性格上、粟田に帯同するケースが多いですし、その生の声に触れる機会がたくさんあります。それは私自身にとって非常に大事なことで、毎日得がたい経験をさせてもらっていると感じます。大変ありがたいですね。



――丸亀製麺の皆さんの働き方について伺います。御社の店舗の構成員比率には他社にない特徴があるそうですが。


お気づきのお客様も多くいらっしゃいますが、弊社の店舗では、他社に比べて40歳以上のパート・アルバイト社員の方がたくさん活躍されています。彼ら彼女らのことは「パートナーさん」と呼んでいるのですが、中高年のパートナーさんが非常に重要な戦力になっています。



――詳しくお話しいただきたいです。


弊社は全国に約830店舗を展開しており、その8割以上が地方のロードサイド店です。各店のターゲットは当然地元の方ですから、お客様により近い、地域の「生活者」の方に店を守ってもらいたいとわれわれは考えています。土地勘も働きますし、お客様との会話もスムーズです。パートナーのおばさんが若いお客さんに気さくに話しかけるシーンは想像つきますが、その逆は、ハードルが高いかもしれません。中高年者が持っている勘や機転、また人生経験が自然と接客に生きるのです。



――「土地勘」というのは、たとえばどういうことですか。


地元で暮らしていなければわからない生活情報です。たとえば「明日は○○町のお祭りだからみんなそっちに行っちゃう。店に来る人は少ないだろうね」とか、「日曜日は〇丁目の××小学校で運動会があるよ。お昼はお弁当を食べるけど、夜はお客様が増えるかもしれない」といったことです。こうした情報に精通していることも、中高年パートナーさんならではの強みです。



――なるほど。そういうパートナーさんが定着してくれれば理想的ですよね。


おっしゃる通りです。「店を守ってもらいたい」というのはそういう意味で、単に時間を切り売りして働くのではなく、店で働くやりがいを感じてもらい、それをモチベーションとして、店と、ひいては弊社と深いリレーションシップを持ってもらいたいと考えています。そのために、弊社には基準を満たしたパートナーさんにお店を任せる「パートナー店長制度」があります。



――外食チェーンでは、社員の店長さんがパート・アルバイトを指揮して店舗運営する場合が多いと思いますが。


弊社でも、そういう店舗はたくさんあります。しかし、社員の店長には異動がつきものです。ずっと大阪でやっていた人が急に仙台の新店で店長になるというようなことが出てきます。これまで頑張ってきて愛着もあるエリアから、まっさらな地域で一からやり直さないといけません。信頼関係を築いてきたパートナーさんとの関係も白紙に戻ってしまいます。その点、「生活者」としてのパートナーさんには、地元に対する強い愛着が自然にキープされています。見知った顔同士イキイキ働き続けられることは、現場にとっても強みになるだけでなく、パートナーさん自身のモチベーションにつながっているのです。そういう人達を中心にお店を運営してもらった方が、より地域に根ざしたよい店作りができるのではないか、と考えています。




■中高年パートナーが醸し出す本場・讃岐の「風情感」

小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)


また、中高年パートナーさんは、じつは弊社店舗のデザインコンセプトとも高い親和性があります。



――それはどういうことでしょう?


うどんの本場といえば讃岐。弊社の店舗はどれも、本場の製麺所を再現した内装・デザインになっています。店内には大きな製麺機が置かれ、生地を切っている傍らでは釜でうどんを茹でている。トッピングの天ぷらやサイドメニューのおにぎりは、お客様の見ている前で作られています。出来たて、茹でたてのおいしいうどんをお出ししている、という臨場感を、商品だけでなく店の中全体から発信しているのです。



――なるほど、わかってきました。そういう風景、世界観によりふさわしいのは......。


そう、若い人ではなく、中高年のパートナーさんです。讃岐でも、実際の製麺所を切り盛りしているのは40代以降の「おっちゃん」「おばちゃん」世代が多いのではないでしょうか。それを再現したいコンセプトを持っていますから、白髪まじりの渋い男性、目尻にシワがあったりするおやじさんの作ったうどんの方が、おいしそうに見えますよね。女性も同じ。元気な若い女の子もいいですが、割烹着の似合う、気さくで人生経験豊富そうなおばちゃんが作る天ぷらが、よりおいしそうですよね。



――うどんをおいしく食べてもらうための演出の一部になっていると。


演出と言ってしまうと身も蓋もないですが(笑)。丸亀製麺は、セントラルキッチンで作られた料理を簡単調理で出す店とは本質的に違います。毎日各店舗で粉からうどんを打ち、注文があってからお客様の目の前で調理し、お出しする。商品に対しては絶対においしいという自負を持っています。私たちがやっているのは、おいしいうどんをよりおいしく食べていただくための店舗づくりです。「臨場感」や製麺所の「風情感」も一緒に味わっていただこうということです。



――当のパートナーさんたちも、そういったことを意識しているのでしょうか。


自分の働いているシーンがお店に合っていて、お客様にも伝わるのだということは、自然にわかってもらっていると思います。丸亀製麺のやり方が自分の輝ける働き方であり、だからそこで働く喜びを感じる。長く働こうとも考えるでしょう。そういうパートナーさんと手を取り合って、これからもおいしいうどんを提供していきたいですね。




■「お客様を感動させるには」その答えはマニュアルにはない

小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)



――外食企業といえば、マニュアルでオペレーションを管理し、省力化・効率化するのが常識ですが、御社の取り組みは少し違うように感じます。


弊社にもマニュアルはあるのですが、そこに示されているのはごく基本的なものだけです。実際の店舗で何をやるのかということについては、スタッフの裁量に任されている部分が多いと思います。



――その方がよいという経営判断があったのでしょうか。


1970~90年代にかけて、日本の外食産業は飛躍的に発展しました。その原動力となったのがマニュアルです。「チェーンオペレーション理論」にもとづき、マニュアルによる調理や接客レベルを平準化することで短期間に多数の従業員を養成し、コスト管理と組み合わせて大量出店を可能にするという戦略でした。しかし、急拡大した市場規模が97年頃から減少に転じると、チェーンオペレーションによって成長してきた企業は、効率化以外に打つ手がなくなってしまいました。



――外食産業にとっての冬の時代ですね。


マニュアルは、外食チェーンのサービスを一定のレベルで平準化することに大きく貢献しました。マニュアルがオペレーションの明確なガイドラインになったので、従業員は要求レベルを理解して訓練に取り組むことができました。実現されたサービスも当時の顧客の要求水準を満たしていましたから、チェーンオペレーションは外食産業の「勝利の方程式」になりました。



――マニュアルに書いていないことはしなくていいと。


マニュアルの記述は、明確である分、「これをやりなさい」「ここまでやりなさい」、つまり「これ以上はやらなくてもOK」という、従業員の改善意欲をスポイルするものでもあったと思います。市場環境の悪化に伴う改訂で、それがいっそう明らかになりました。それを裏返せば、マニュアルの記述は最低限にして、従業員が自ら考え行動することによる伸びしろを担保した方がいい、というのが弊社の立ち位置だと言えるかも知れません。



――なるほど。


弊社のめざすところは「お客様を喜ばせる・感動させるために何をすればいいか」ですが、その答えはマニュアルの中にはないと思います。「ベビーカーでお越しのお客様には、テーブルまで料理を運んで差し上げる」「雨に濡れて店に入ってきたお客様にタオルをお貸しする」というようなことは、弊社のマニュアルに記載されていません。それは「マニュアルに書かれているからやる」ことではないと思うからです。思いやりとか気遣いはいわば「ヒューマニズム」の範疇で、自然に行動に表れてくるものだろうと思うのです。お客様の感動は、そういう中から育まれるのではないでしょうか。



――そういう意味でも、中高年のパートナーさんが多いことが有利に働いたかもしれませんね。同じことが効率化でも起こったのでしょうか。


チェーンによっては、調理やフロアオペレーション、つまりお客様と直に接する場所まで効率化の対象になってしまいました。これはムダだからやらなくていい、このオペレーションの時間を縮めたいからこの工程を省こう......。それでは対面サービスの質が下がってしまいます。いったい誰のために、何のために効率化しているのか、という話です。



――丸亀製麺はそうではないと。


いや、偉そうに言えるほどでもありません。たとえば、店内で大きな面積を占める製麺機を外せば、席数は今よりずっと多くなる。うどん生地をセントラルキッチンから供給する仕組みに変えれば、コストメリットはあるでしょう。おそらく収益も上がります。けれど、「それでは丸亀製麺の持ち味が失われる」というのが弊社のスタンスです。製麺機は、麺を作る工程から始めて出来たてを提供するという弊社のやり方の象徴です。これを外したら、「お客様のために」という弊社のサービスの根幹が覆ってしまう。そこは効率化してはいけないのです。



――ムダとわかっていても必要なものは省かないわけですね。


より正確には、数字的な改善だけをターゲットにした、他社との効率化競争はしないということでしょうか。


弊社では、通常1時間あたり8人のスタッフで運営することを基本にしています。これを7人に減らせば効率は上がります。そういう効率化を行っているチェーンもあるかもしれませんが、それをしたら確実にサービスの質が低下します。それはダメでしょう、ということです。繰り返しになりますが、われわれの目指すのは「お客様に喜んでいただき、感動していただく」ことですから、それを阻害するような省力化・効率化はあり得ません。そこ以外を効率化して対処していきます。




■ITに人間が合わせるのではなく、人間にITを合わせる

小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)



――マニュアルがベーシックなフロアルール的なものにとどまっているなら、店舗スタッフの教育はどのように行われているのでしょうか。


ざっくり言うと、映像教育とOJTの2本柱です。ベーシックなルールについて映像とマニュアルで理解してもらい、後日のOJTに備えてオペレーションの概略と基本を見ておいてもらいます。ほかに、上級管理者やエリアマネジャーからのメッセージを見てもらうこともあります。



――OJTはどのように行っていますか?


これがなかなかのくせ者でして。これまでだと業務が忙しい中でやらなければならないので、日替わりで新しいパートナーさんに教育していました。しかし、それではAさんとBさんでは、同じことを教わっても内容が微妙に違って伝わっており、混乱してしまうケースがあったのです。中には、仕事について行けずに辞めてしまう人も出て、対策しなければなりませんでした。



――どんな対策ですか。


指導スタッフを固定し、マンツーマンで仕事を教えられるように「トレーナー検定」という制度を導入しました。これは一種の社内資格で、新しい人に教える担当はあなたとあなた、教え方はこれこれで、ということを決めてトレーナーを養成したのです。この制度が浸透すると、入社3ヵ月以内の離職率が激減しました。この仕組みは一種のメンター制度としても機能することがわかってきたので、現在は1店舗に4人のトレーナーを置くことを目標に、さまざまな年齢のトレーナー育成に取り組んでいます。



――仕事の省力化・効率化という点はどうでしょう。


いろいろな試みをしていますが、わかりやすいのは現場のIT化でしょうか。社内SNSの「トークノート」や帳票管理システム「i-reporter」を導入し、事務方の管理時間や会議時間を短縮しました。これらのシステムへのアクセス端末として、全店舗にiPadを支給。帳票作成を省力化して、QSCチェックを始めとする報告・連絡をより簡単に、スピーディーに行えるように改善しました。



――お客さんの目に触れないところでしっかり効率化の手を打っているわけですね。


IT導入の妨げになるのは、新しいシステムへの対応力にばらつきが出ることです。なぜそうなるかといえば、既存のシステムに人間を合わせようとするから、知識やデバイスへのなじみ具合によって使いこなしに差が出るわけです。逆に考えれば、使いやすくカスタマイズされた、ユーザーフレンドリーなシステムを作り、使う人に合わせたIT導入を実現できれば、大きな効率化効果が期待できます。



――システム開発には、お金も時間もかかりますが。


そうですね。しかしここで妥協してしまうと十分な成果は得られません。日常業務の中で迷いなく自然に使えるシステムに磨き上げる時間は、惜しむべきではありません。中高年パートナーさんでも直感的に使えるiPadの導入もそのひとつです。最初は尻込みする人もいましたが、画面をタッチするだけ、しかも最小の回数で報告用の帳票が作れるとわかると、ハードルは一気に下がりました。ITへのスムーズな移行が実現したのです。



――背後のシステムを知らなくても、手に取ったiPadをタッチするだけなら簡単ですね。現場に優しいシステムというか。


すでに成果が上がっています。これらのITシステムの運用によって、当時、全店舗での総作業時間が2400時間も削減されました。今後にかけて、IT化の推進は避けて通れない必須のプロセスです。使いやすく、働きやすくという改善ベクトルをしっかり抑えることが重要だと思います。




小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)

小野正誉氏(株式会社トリドールホールディングス 社長秘書・IR担当)








戦略的発想というより、地に足の着いた経営哲学に支えられた人との関わり方で差別化を実現している丸亀製麺。パートナーさんの働き方は、店舗の効率化に四苦八苦する他社とは一線を画す、非常に興味深いものでした。


もうひとつ特記しておきたいのはトリドールHD本社オフィスです。昨年9月に移転した渋谷ソラスタのオフィスは、ABWを導入した斬新なデザイン。オフィス家具はなく、オシャレな椅子やテーブル、ソファで自由に仕事ができるようになっています。取材したカフェスペースにはつねにBGMが流れ、ここで仕事することもOK。小野氏によると「外食産業のマイナーイメージを払拭したい。自由な働き方ができる会社もあるとアピールしたい」「休日にはドラマや雑誌の撮影にオフィスを提供することもある」とのこと。当記事のカメラマンはしきりにロケ単価を気にしていましたが、ちゃんとWebで案内されているので、教えてあげようと思います。








プロフィール


小野 正誉(おの まさとも)

株式会社トリドールホールディングス 経営企画本部 社長秘書・IR担当。

1972年奈良市生まれ。神戸大学経済学部卒業後、大手企業に就職するも1年で退社。その後、外食企業で店舗マネージャー、広報・PR担当、経営企画室長、取締役などを歴任。2011年より「丸亀製麺」を展開する株式会社トリドールホールディングスに勤務。転職してわずか3年で社長秘書に抜擢。入社後8年の間、国内外に1700店舗以上を展開するグローバルカンパニーに至るまでの成長の軌跡を間近に体験する。

日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー。


著書

メモで未来を変える技術』(サンライズパブリッシング)[外部リンク]

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?─非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(祥伝社)[外部リンク]

「丸亀製麺」で学んだ 超実直! 史上最高の自分のつくりかた』(ゴマブックス)[外部リンク]





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2020年1月27日

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