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リーガルテックによって個人や企業のリスクをヘッジする ~日本リーガルネットワーク CEO 南谷泰史氏インタビュー

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株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO 南谷泰史氏

株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO 南谷泰史氏



法的にも認められ、サービス残業代請求の証憑にもなる残業時間記録アプリ「ザンレコ」が話題になっている。開発したのは、「泣き寝入りのない社会へ」を理念に掲げる株式会社日本リーガルネットワーク。提供サービス「ATEリスク補償/アテラ」は、日本初の弁護士費用の提供サービスで、弁護士費用を補償してくれる。変化が激しい業界で社会課題の解決に取り組む、同社の創業者・代表取締役CEOであり、自身が弁護士でもある南谷泰史氏に、コロナの影響も含めた働き方の変化、リーガルテックの急速な進展などについて伺った。



■社会課題を解決するために弁護士から転身


――南谷さんは司法試験に合格されて、法律事務所の中では日本でもトップクラスの西村あさひ法律事務所へ。その後、ビジネスの世界へ転職されていますね。


アメリカ系のボストンコンサルティンググループというコンサルティング会社に転職しました。弁護士としてではなく、一ビジネスマン、一見習いコンサルタントとして2年弱、勤務しました。ここでは弁護士の仕事はしていませんでした。



――弁護士の資格をお持ちなのに、コンサルタントへの道を歩まれた。


もともと弁護士になったのは、社会課題の解決に貢献したいと思っていたからでした。弁護士は素晴らしい仕事ですが、基本的に目の前の依頼者の問題を解決する仕事です。企業法務にしろ、個人間のトラブルなどの一般民事にしろ、個人・法人とも依頼者のトラブルが対象になりますが、私がやりたかったのはもう少し汎用的なことでした。構造的な解決スキルを身に付けたかったのです。


ボストンコンサルティングでは顧客の課題を解決する仕事で、面白かったのですが、もっと社会課題の解決につながる仕事をしたくて、法律関係のサービスは非常に価値があるのではないかと考え、リーガル系のサービスでベンチャー企業を立ち上げました。



――起業のプロセスをお聞かせください。


現在、当社の取締役COOである早野述久とともに立ち上げたのですが、早野とはもともと友人同士、弁護士同士でした。いろいろなビジネス案があったのですが、「ザンレコ」の構想が出たときに、そのサービスから始めようということになりました。



――「リーガルテック」で起業すると決めていたのですか。


テクノロジーはあくまで社会課題の解決のためのひとつの重要な手段だと思っています。コンサルタント時代はIT企業に関わることもありましたし、設立した2015年は今以上にベンチャー企業の中でIT系の占める割合は高かったので、自然とそうなったのかもしれません。


テック性の薄いサービスも考えてはいましたが、当時、ではどれをやろうかと考えたときにそうなったということです。



■被害者を救済し、加害行為を減らしていくために

株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO 南谷泰史氏



――スマホアプリ「ザンレコ(残業証拠レコーダー)」は、GPSで自動で残業時間の証拠を確保できるという画期的なアプリですね。


起業した友人も、スタートアップとしていけるのではないかと言ってくれました。そこで2014年末頃から準備を始め、2015年に設立しました。メディアの注目も頂いて、それなりにダウンロード数もありました。



――サービス残業が多いという職場実態があることを反映しているのでしょうか。


「ザンレコ」の証拠能力は裁判所でも認められるものですが、一方で、グーグルやアップルのOS設定に強く影響を受けてしまうという難しさもありました。使用方法などの技術的な問題もですが、「残業代を請求するのは難しくない」と分かりやすく伝えるのが難しかったですね。



――次に提供されたのは「ATEリスク補償/アテラ」ですね。


これは日本初の弁護士費用提供サービスです。被害者が加害者を訴えて勝訴すれば賠償金などを勝ち取ることになりますが、もし敗訴してしまうと手に入る金銭はなく、それでも着手金などの弁護士費用は支払わなければなりません。ATE補償はそのような敗訴リスクをカバーするサービスで、敗訴した場合のリスクを引き受け、うまくいった場合に料金をご負担いただくというものです。


もともと、起業当初から、金銭的理由で裁判に訴えることができずに泣き寝入りするケースが多いという認識があり、そういった問題を解決できればいいなと思ってました。


2019年末からサービス開始し、かなり多くのお問い合わせや、弁護士の先生方からの「積極的に利用したい」という声を頂いています。ニーズがあるし、社会課題の解決に貢献できると自負しています。



――想定していた利用者層は。


個人から中小企業、大企業まで、どこにでもニーズはあります。資金融通をする、つまり弁護士費用の立替えというサービスですが、敗訴リスクがなくなるという側面もありますから、大企業も使いますし、当然個人も利用します。業務委託したけど委託先から料金払ってもらえない中小企業や、事故など、利用範囲は幅広いです。


被害を受けて泣き寝入りするのは、必ずしも社会的な立場とは関係ありません。現時点では個人のご利用者が多いですが、企業からも問い合わせは多いです。


厳密には「アテラ」は個人向け、「ATEリスク補償」は法人向けになっており、細かい点で違いがあり、どちらも続けていきたいと思います。



――普通の人にとっては、訴訟はかなりハードルが高いことだと思います。


日本では、弁護士を使って訴えるのが良くないことのようなイメージがありますが、僕は間違っていると思っています。喧嘩両成敗などと言われますが、一方的に片方が悪いケースが結構多いんです。そういうときにちゃんと被害回復を求めていく、被害救済の手続きを取っていくことが、「悪いことをすれば報いがある」という社会状態を作ることであり、次の被害者を減らすことにつながると思います。きちんと法的な手続きを取ることが、誹謗中傷のような問題を減らす一助になるわけです。泣き寝入りをすれば加害者が図に乗ります。ちゃんと手続きを取って、払わせるべきものを払わせることは、今後の被害者を生まないために非常に重要です。



――利用者にとっては、最後の頼みの綱になりますね。


当社はあくまでサポートの立場で、被害者が接するのは弁護士ですから、「また利用します」というサービスではありません(笑)。でも、「このサービスを利用できなければ諦めようと思っていました」というご利用者の声は聞きますので、泣き寝入り寸前のところから、被害回復に向かう一助になっていると強く思っています。



――先生ご自身は弁護士の立場にはならないのですね。


当社はいわば業者のような立場ですし、コンプライアンス上、私は引き受けられません。ナンバーワン弁護士でもありませんし。各先生それぞれが依頼者の信頼を勝ち取って、知見のある先生が進めていただくのが一番だと思います。



――最近よく問題になる、ネット上の誹謗中傷問題についてはいかがですか。


誹謗中傷問題も、弊社のサービス対象になっており、敗訴リスクの引き受けや弁護士費用の立替えをした実績もあります。


誹謗中傷を書いてしまうほとんどの方は、相手の気持ちを考えることも、どんな帰結をもたらすのか、深く考えずにやってしまう方が多いと思います。弁護士を通じて手続きを取ることが常識として広まっていけば、そういった方が立ち止まって相手の気持ちを道義的に考えたり、ご自身も制裁を受けることがあると認識するようになるのではないかと思います。


ですので、今後も利用していただきたいです。


一般論として、法的な手段をとるということは、慰謝料や損害賠償を獲得して被害者を救済するという直接的な効果だけでなく、加害者に対する制裁という側面があります。


飲酒運転が取り締まり強化で減少したように、きちんと取り締まりを受けてそれなりの制裁を受けることが広まれば、加害行為がなくなっていくと思います。


アテラ/ATEリスク補償は、二段階で社会課題を解決するという理念です。一段階目は、金銭的に窮している方々がこのサービスを利用して弁護士に依頼できるようになり、被害救済、または回復ができることです。それが広まって、「悪いことをすれば制裁がある」ということが常識になり、加害行為が減っていくというのが次の段階です。



――素晴らしいサービスですが、ビジネスとして収益は出るのでしょうか。


勝訴の可能性は何%か、どのくらいの確率で回収できるか事前に審査をしていて、明らかに負ける事案、勝つ見込みのない事案には提供できません。もし提供しても誰も得しませんし。ある程度のマンパワーは必要になりますが、収益はちゃんと出てくると思います。



――社会に広がってほしいですね。


これまで日本では誰もやっていなかったサービスなので、ご理解をいただいたり、利用方法を知っていただくには時間がかかるかもしれません。どんなふうに審査をして、オペレーションを回していくか、基本的には社内で全部作っていかなければなりませんでした。いわば新しい産業を立ち上げているようなものですから、その点で難しさはあります。



■リーガルテックはどこまで進展するか

株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO 南谷泰史氏



――新型コロナ禍の影響は受けていますか。


サービス提供してからまだ日も浅いのですが、300件ほどの問い合わせがあり、うち契約に至ったものは約20件です。コロナの影響で裁判所が止まってしまったこともあり、現段階では目標には達成していません。サービス開始した途端にコロナでしたから、コロナ禍前後の比較は難しいのですが、今後、さらに金銭的に困る方は増え、リスクを取るのが難しい状況が企業・個人問わず増えていくと思っています。



――昨今、急速にリーガルテックが進展しています。AI導入についてはどう思いますか。


リーガル系のサービスはいろいろ出ていますが、日本では、クラウド契約や、契約書の管理、契約書作成など契約書関係が多いですね。海外では紛争関係のAIサービスなども出ています。広まりつつあるのは、契約書レビュー、M&Aの際のデューデリジェンス、不正調査などですね。深度はともかく、今後日本でもこうした動きは広まっていくと思います。


当社は紛争関係を取り扱っていますが、この分野は海外も含めてあまりAI導入は進んでいません。活用が難しい分野だと思います。契約書というのは、多種多様なように見えて書式などのルールが決まっていますが、紛争は人間の活動すべてが対象になりますから、バリエーションが桁違いに多いのです。


弊社でもAIの開発を進めておりますし、そういったフェーズも今後出てくるでしょう。ただ、AIを活用するといっても、SFのように弁護士が要らなくなることはそうそう訪れないと思っています。あくまで、今手作業でやっているうちの2割がAIでできるというようなことを予想しています。



――残りの8割は人間でしかできないと。


技術的に無理だと思います。あくまでも私の知見ですが、要するに人間が行うすべてのことをAIができる世界にならなければ、到底無理だと思います。10年、20年ではそのレベルに達することは無理でしょう。



――副業やテレワークが広まり、働き方が大きく変りつつありありますが、労働トラブルの性質は変わりましたか。


リモートワークにおける労働時間をどう把握するかという問題が出てきます。要件を満たしていれば労働時間になるという基準もありますが、労働時間に関する相談は今後頻繁に起こるでしょう。


もともと労働法をきちんと守っている企業は少なく、全体の3、4割ほどしかありません。中小企業でもきちんとしている企業もありますが、大企業でも守っていないところもある。守ってない企業にとってはリモートワークでも関係ないという感じです。



――海外ではどのような状況でしょうか。


海外の方が進んでいるので、参考にしています。弊社の株主であるOmni Bridgewayグループはリーガル×金融事業のグローバルリーダーカンパニーです。リーガルテックは非常にニーズがありますし、反面、立ち上げが大変なサービスです。


法務の知見、金融の知見、営業もウェブマーケティングも必要ですし、それぞれを効率的に進めるための技術要素も必要ですから、ある意味ではすべて必要で、一分野だけやっていてもできません。



――ご自身では、弁護士と会社経営者のどちらが天職だと思っていますか。


今の会社の仕事の方が納得感がありますね。もともとやりたいことが社会課題の解決の一助だったので。今の仕事は弁護士やコンサルタントなどの経験を生かせていると思っています。


基本的には「アテラ/ATEリスク補償」」をより日本社会で広めていく方向で事業展開できればと思っています。



――今後の展開についてお聞かせください。


現在、14名でやっていますが、事業が大きくなれば人員も必要になると思います。弁護士、弁護士をサポートする法務職、金融の知識がある方など幅広い職種を採用計画していますが、法務の知見は入社時点では必要ありません。今言ったようにいろいろな要素が必要になりますから、いろいろな職種を採用していくつもりです。



――アフターコロナの社会では、これまでになかった問題も発生するかもしれませんね。


弊社のやっていくことが変わるわけではありませんが、厳しい状況下ではリスクは取りづらくなるので、リスクをヘッジする当社のサービスがお役に立てる場面が増えるのではないかと思いますので、今後も社会課題を解決するためのサービスを提供していきます。



株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO 南谷泰史氏



「泣き寝入りのない社会」の実現は、まさに多くの人々の理想だ。残業記録アプリや弁護士費用など、困っている人を助けるための、いわば「周辺産業」にビジネスを見出した南谷氏。「社会課題の解決」のためのツールを追求する同氏の今後のさらなる活躍が楽しみだ。




プロフィール


南谷 泰史(みなみたに やすふみ)氏

株式会社日本リーガルネットワーク 代表取締役CEO

東京大学法学部卒業。西村あさひ法律事務所にて弁護士として勤務、ボストン・コンサルティング・グループにて経営コンサルタントとして勤務。2015年、株式会社日本リーガルネットワーク設立。


株式会社日本リーガルネットワーク[外部リンク]

アテラ/ATEリスク補償[外部リンク]

残業記録アプリ「ザンレコ」[外部リンク]



編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)

取材日: 2020年9月23日

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