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地方によりそい、都市への橋渡しとなるクリエイターの新たな役割 ~FROM NIPPONプロジェクト代表 境悠作氏インタビュー

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FROM NIPPONプロジェクト代表 境悠作氏



日本全国の伝統工芸の職人と連携し、現代の生活に合うさまざまな製品をデザイン・製造・販売する新しい様式のプロジェクト「FROM NIPPON」。立ち上げたプロダクトデザイナー・境悠作氏は、デザインシンキング」の手法にもとづいて、デザインと経営の相乗効果を目指しています。釜石市起業型地域おこし協力隊の一員として地方在住クリエイターとしても活動中の境悠作氏に伺いました。



■SDGsの観点も取り入れ、地方発の新たな事業を創出


――境さんの現在の活動内容を教えてください。


釜石市起業型地域おこし協力隊の一員として、2018年10月に岩手県釜石市に移住しました。起業型協力隊というのは役場勤めの形をとることが多いのですが、私の場合は2021年3月までの業務委託で、役場に出勤する必要がなく、起業を進めていく活動をしています。釜石市に住んで、自分で考えたり与えられたりするテーマに沿って事業を進めています。釜石市からは、森林資源の利活用(地元産材を活用して製品の開発と販路拡大を委託されています。製品がどんな方に売られていくのかというマーケット調査を行い、その結果から製品コンセプトをたててブランディングを立ち上げていくわけですが、自分もマーケット分析をお手伝いしたり、最終製品を作っていく仕事をしています。


この事業に参加することにした理由は、現在取り組んでいる事業と両立でき、さらに地元の素材に着目した新たな事業を創出できる可能性もあるからです。


都市部に住んできた自分は本当の地方を見ていないではという想いをずっと持っていました。林業のすごさや木材の可能性をより産地に近い場所で追求してみたいと思いました。



――成果物としては。


市内中心に活動を進め、地元のものを地元で支える仕組みを考えています。地域の土産品や、使い捨て可能な木皿(持続可能なforestry kitchen)などを製品化しました。これは林野火災の被災木を活用した木皿で、0.3ミリの木の板を3枚重ねて圧縮するという手法を使っています。



釜石鵜住居復興スタジアムに使用されているのと同じ尾崎半島林野火災被害木を活用した使い捨て皿「KAMAISHI FORESTRY KITCHEN」(※)

釜石鵜住居復興スタジアムに使用されているのと同じ尾崎半島林野火災被害木を活用した使い捨て皿「KAMAISHI FORESTRY KITCHEN」(※)



また、釜石地方森林組合にパートナーとしてご協力いただきながら、地元の木材、林業について学ぶ機会をいただいてます。地域木材を活用する仕組みに取り組んでいる森林組合の高橋幸男参事はとても知見の深い方で、日本の木材がなぜ海外産に比べて活用されないのか、林業が取り組むSDGsなどについて学んでいるところです。



――最近、林業とSDGsの関係は注目されていますね。


釜石市は早い段階で取り組みを始めており、森林認証の取得や排出権の取引にも積極的で、SDGsの成果が出てきていると思います。森林組合も2013年に新日鉄とバイオマス発電をコラボレーションしています。



■デザインシンキングを学んで「FROM NIPPON」を立ち上げ

FROM NIPPON卒業制作の漬かっている様子が見える漬物容器「tsukemono pod」。素材は吹きガラス(製造=猿江ガラス ※)

FROM NIPPON卒業制作の漬かっている様子が見える漬物容器「tsukemono pod」。素材は吹きガラス(製造=猿江ガラス ※)



――「FROM NIPPON」の核となる考え方はいつ生まれたのですか。


高校卒業後、アメリカで経営学を勉強したのですが、経済論理や経営論理を中小企業に当てはめるの無理があるという疑問を持ちました。より少ない資源で、企業の価値を伝え、持続可能な成長をもたらすサービスを模索した結果にたどり着いたのが、最近日本でもよく聞くようになった「デザインシンキング」です。デザインの思考法と経済を掛け算することを学ぼうとデザイン専門学校(バンタンデザインスクール)に入学し、2年間、プロダクトデザインを勉強しました。


一方、深刻な課題を持つ伝統工芸の会社を支援したいという想いを持っていたので、その専門学校の卒業制作プロジェクトとして、「FROM NIPPON」という形で実験的に取り組むことにしたんです。



――「FROM NIPPON」プロジェクトはそこからスタートしたのですね。


当時のプロジェクトでは、錦糸町の猿江ガラスさんにご協力いただき、高い技術をもつ吹きガラスの職人さんに漬物容器を企画して作っていただきました。


この経験から、日本の生活スタイルを世界に発信していくというコンセプトが自分の中でかたまりました。日本独自の面白い切り口にはどんなものがあるか、衣食住で分類していき、食分野の中でも特に「漬物」にフォーカスすることを思い立って、漬かっている様子が見える「tsukemono pod」を作りました。



――伝統職人さんとのお仕事はいかがでしたか。


できなかったこともありましたが、その時点でやりたいことは達成できたと思います。ただ、モノ自体は期待通りに完成したのですがが、しかしながら量産化することは難しい。多くの消費者の手元に届けるにはどうしたらいいのか、という課題が残りました。



――その後もプロジェクトを継続された。


会社勤めを経て独立し、全国の伝統工芸の職人さんたちと「FROM NIPPON」プロジェクトを継続しました。古来より伝わる曲げわっぱ技法で500年以上の歴史を持つ博多の玉樹さん、佐賀嬉野温泉の鋳込み焼物の肥前吉田焼さん、千葉県の万祝い染め鈴染さんといった方々です。手法へのこだわりはなく、中核に「生活」を置いて、それに対する最適な技術を考えて提案し、それが認められて、2016年に「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 福岡県匠」に選出されました。



曲物(吉野杉材)を用いた時計「magemon」(製造=博多曲物玉樹)

曲物(吉野杉材)を用いた時計「magemon」(製造=博多曲物玉樹)



現在では、伝統工芸はもちろんのこと、より広域のモノづくりに携わる企業や人々、もしくは地域の素材から考える製品開発支援の事業も行っています。


編集部注:「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」とは、地域の特色や技術を生かしながら自由な発想で新しいモノづくりに取り組む若き「匠」の全国や世界へ羽ばたくサポートをする、レクサス社が主催のプロジェクト。毎年全国から約50名の「匠」を選出している。



――今の課題はどんなことですか。


まだまだ広がる可能性があると思いますが、機械などの整備や、個人に情報が集積していて加工業者ネットワークの見える化が不十分な面もあり、効率的な生産活動や販売計画を立てることができていません。


購買力も都心に比べると弱いため、高い生産コストを販売価格に転嫁できないという課題もありますので、都心とのネットワークを確立し、販路を拡大したいと思っています。


林業に関しても製品化する予定ですが、材料は豊富にあっても加工できる拠点や、依頼できる地方クリエイターが少ないという課題があります。いろいろな角度から解決していこうと思います。



――伝統工芸をビジネス化することは難しいのでしょうか。


難しいですね。需要は最近また伸びているものもあるのですが、それに応えられるx供給体制が弱ってしまっています。組合などの組織がしっかり構築されているところはいいのですが、個人で営まれている職人さんの中には組合がなくなってしまった人もいて、ECサイトで製品を販売していたりしています。


そんな中で、5年ほど前から伝統工芸が再注目される動きがあり、製品にブランドロゴを入れるアウトドアブランドと伝統工芸のコラボレーションの事例もあります。



■地方に寄りそうクリエイターの需要

白磁(鋳込み手法)によるわさび醤油皿「山葵山(わさびやま)」(製造=224  porcelain ※)

白磁(鋳込み手法)によるわさび醤油皿「山葵山(わさびやま)」(製造=224 porcelain ※)



――今後の目標は何ですか。


将来的には、モノをデザインするだけでなく、事業者全体を支援できるデザイナーとして、経営的なことにも包括的に助言させていただけるような立場になりたいです。



――デザイナーでもあり、コンサルタントでもあるような存在ということでしょうか。


デザインの仕事は昔とは変わり、デザイン専門の「チーフデザインオフィサー」として外部顧問を迎える企業も増えています。そういったポジションが受け入れられる社会になってほしいですし、私自身もそれを目指したいですね。


東北広域でのお仕事も頂きつつ、地元のクリエイターさんとが食べていけるように案件のマッチング事業も立ち上げたいです。例えば行政の仕事は結構額も大きいのですが、行政案件を受託できるのは法人だけで、法人格のないフリーランサーは入札に参加できません。そこで法人格のある組織が代理で受託を受け、仕事を分割してフリーランサーに振るわけです。



――どんな壁がありますか。


長期的には、設備、それから体制ですね。モノづくり全般で言えることですが、機械が20年前のものだったりして、木材があっても製品を作る工場がなかったりする。モノが作れない、作りにくい環境なのが課題です。



――地方にはクリエイターのニーズはあるのですか。


地方にはクリエイターの数が圧倒的に少ないのですが、クリエイターを活用したい事業者も多くニーズは高いと思います。ただ費用面や、頼める人がいないために活用しきれていないのが現状で、事業計画があっても案件化できないことが多いです。例えばSNS発信したいと思っても、費用がどのくらいかかるのか、どこに頼めばいいのかわからないくて止まっていたり。デザイナーはそうしたことをつないでくれる存在として重宝されています。


私も福島など他の東北各県からデザイン依頼をいただくこともあり、県外出張もします。


ただし、地方が求めているのは、東京で地方の仕事をしてくれるクリエイターというよりも、その地方に住み、寄り添いながら中長期的な関係を築ける存在なんです。東京からリモートで関わることを希望される方も多いのですが、直接お試しで地域に移住してみて、巷で語られている地方移住の状況が本当のことなのか、実際にどんな課題があるのかを肌で感じてから判断した方がいいでしょう。



――クリエイターが地方で活動するメリット、デメリットは。


メリットは、決裁権者との距離感が近いことです。意思決定が非常に速く、地域の集まりに顔を出せば社長にも会えるので、コンタクトも取りやすいことは地方の強みですね。丁寧に進めれば注目されやすいので、仕事は結構あると思います。


デメリットは、地元のネットワークに入るきっかけが必要なことでしょうか。あとは、やはり東京とくらべて移動にとても時間がかかることです。特に岩手県は広いので、県庁まで片道2時間かかります。電車は1時間に1本ですし。どこに行くのも車なので、運動不足は深刻です(笑)。


また、東京では意識せずに最新トレンドに触れることができますが、こちらでは意識していても、否応なく最新トレンドには遅れてしまいます。ネットで情報を集めるといっても、検索に頼っていると、自分の好きな傾向ばかりになり、偏ってしまうのです。対して、東京では歩いているだけでも雑多な情報が入ってくるので、自分の趣向外のものも無意識に取り入れられます。そこを担保できれば、地方にどっぷり入っていてもやっていけるでしょう。専門があれば偏りもあまり気にしなくてもいいかもしれませんね。



――移住を考えているクリエイターへのメッセージをお願いします。


自分の強味をはっきりさせ、地域に寄り添う支援ができるというメッセージを伝えれば、だんだん信頼を得て、お仕事を頂けるようになると思います。競争が少ないので、都会よりいいかもしれません(笑)。


メディアが伝える「東京から見た地方」は脚色されたもので、良くも悪しくも正しく伝わっていません。正しい情報を伝えるだけでは問題を解決することはできませんが、まずは自分で体験してご覧になることが大事だと思います。


東京にすべての答えがあるわけではないし、居場所がないということもありません。自分にフィットする場所がどこかにあるはずという気持ちで、まずはお試しで東京を離れてみて、いろいろな場所を巡ることをお勧めします。



吉野杉材(曲物)を使用した木皿「隼波(ハヤナミ)」。(製造=博多曲物玉樹 ※)

吉野杉材(曲物)を使用した木皿「隼波(ハヤナミ)」。(製造=博多曲物玉樹 ※)



デジタル技術の発展によりどこでも仕事ができるようになったとは言え、都心と地方の距離や思いの格差は簡単に埋まるものではないかもしれません。そんな状況にあって、クリエイターは地方と都市とを橋渡しし、地方に寄り添うことができる貴重な存在になりえます。今後、クリエイターがかかわることによって、どんな日本の生活文化が世界に発信されていくか、楽しみに見守りたいと感じました。







プロフィール


境 悠作(さかい ゆうさく)

1988年 東京都生まれ

明治学院東村山高校を卒業

米国Warburg College(経営学専攻)、Northeastern University(経済学専攻経営学副専攻転校、無期休学中)からパンタンデザイン研究所プロダクトデザイン科卒業後、FROM NIPPONを立上げる。釜石市起業型地域おこし協力隊としても活動中。


FROM NIPPON[外部リンク]



編集・文:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 
取材日:2020年11月10日

         

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