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コロナで、オフィスは一気に二極化していくだろう ~プランテック総合計画事務所インタビュー

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坂井大輔氏, 河野香織氏

坂井大輔氏, 河野香織氏



建築設計を中心にさまざまなソリューションサービスを提供するプランテックグループは、クライアントにワークプレイス/ワークスタイル改革推進を提案を行う。自社のオフィス賃貸面積についても1/2に削減し、年間1億円の固定費を削減するなどの明確な成果を出した。株式会社プランテック総合計画事務所の坂井大輔氏(執行役員・一級建築士)、河野香織氏(執行部シニアスタッフ)に、グループの原動力について伺った。



■"作品づくり"ではなく、働き方にまで踏み込む


――坂井さんがプランテックで手がけられたプロジェクトをご紹介ください。


坂井 僕はプランテックが2社目なのですが、最初の大きな仕事は武田薬品工業の研究所(現・湘南ヘルスイノベーションパーク)のプロジェクトでした。以来、オフィスデザインの仕事も多数行いましたが、比較的、研究所や生産施設が多いですね。弊社の主要クライアントはメーカーが1/3から半分ほどです。


例えばゼネコンに全部お任せで設計施工を依頼すると、メーカーの生産現場の中に踏み込んだりすることはあまりありません。「こういうものを作ってくれ」とクライアント側から言われて場当たり的に作ると、全体で見たときに機能的に不整合ができてしまいます。当社では全体計画を立ち上げ、長期的な視点から「こうした方がいいですよ」というコンサルもしながら設計しますので、それで好評をいただき、メーカーからのオファーが伸びてきたと考えています。



――武田薬品工業の研究所というとかなり大規模ですね。


坂井 武田薬品工業の研究所はとにかく巨大な施設でした。30万㎡、東京ドーム6、7個分くらいの広さで、ビルのひとつひとつも巨大。全体でひとつの街のような規模です。そこで街路に見立てた空間構成にして、メイン通路で人が偶発的に出会うようにしました。メイン通路は誰もが行き交うので、そこにカフェや食堂、ライブラリー、会議室を配置し、マネージャーの皆さんにはメイン通り沿いのガラス張りの中で働いていただいて、社員たちが横を通っていくようなイメージで作りました。



武田薬品工業 湘南研究所 外観(※)

武田薬品工業 湘南研究所 外観(※)



――そういう設計にしないとなかなかコミュニケーションが生まれないのですね。


坂井 とかく研究者はこもりがちで、部屋から出てきてコーヒーを飲んでほしいと思っても自室にコーヒーメーカーを置いてしまう(笑)。規模の理屈で設計したところもあるので、当時は人の働き方の機微までうまく読み取れていないところもありました。ただ、今はさまざまな企業がテナントとして入る研究所になっているので、うまく機能しています。ベンチャー企業なども入って本当に賑やかな通りになった。最終的には狙い通りでした(笑)。



――働く人の機微というのは?


坂井 大阪に2年間ほど常駐したので、研究者の方がどんな働き方をしているかはなんとなく分かっていたつもりでしたが、部門の壁はなかなか壊せない感じがしました。当時15くらいある研究部門がきちんと連携するよう機能的に配置したのですが、移転前は何か見えない壁があったので、それぞれの研究を見える化することがテーマでした。


河野 設計事務所は"作品"を作るような感じに意気込んで、なかなか働き方まで踏み込まないことが多いんです。プランテックの創業者(故・大江匡氏)はそういう点に着目して、改善提案をクライアントにアプローチすることで仕事を増やしてきました。



――それまでは、できた後のことをあまり考えていなかったと。


坂井 考えないというか、作品と言ってしまうと設計者の自己実現のような側面もあるので、あまりそこまで踏み込んでいなかった領域なんです。


河野 業務プロセスを改善するには、クライアントの業務内容まで理解して、それをどうすればいいかということまで考えなければならず、かなり大変な作業です。


坂井 そのためには泥臭い調査もします。工場の現場に入って、どんなふうに製品を作っているか、どんな物流があるか、敷地の中外も含めてサプライチェーン全体を見て、どうあるべきかまで踏み込んでいきます。プロジェクトの上流にあたる企画段階でもコンサルティングを行っています。



――当時は東日本大震災の直後だったそうですね。


坂井 東日本大震災で起きた最も大きな被害は、天井が落ちたことです。そこで天井や設備の耐震はもちろん、普通はそこまでやりませんが、当社は、目が届きにくい工場内の機械の設置方法まで点検して補強のアドバイスもしてきました。



モランボン本社ビル(※)

モランボン本社ビル(※)



――北府中のモランボンの本社ビルも手がけられていますね。


坂井 かなり狭い敷地を目一杯使いました。斜線制限や日影規制などの法規制が厳しく、建物が規制によってどんどん削られていく中で、デザインをうまく融合させて多面体にしました。



――法規制というのは建築家の悩みの種ですね。


坂井 逆にデザインの原動力にもなると思っているんです。何もない更地に好きなように建ててくださいと言われると、それはそれで「何か規制はないの」と思ったり(笑)。



■社内の壁を取り払い、ワン・プランテックへ

坂井大輔氏(執行役員・一級建築士・設備設計一級建築士)

坂井大輔氏(執行役員・一級建築士・設備設計一級建築士)



――プランテック自体のオフィスについてお伺いします。オフィスを圧縮されたのはいつですか。


坂井 2020年5月の連休明けにこのスタイルに落ち着きました。来客スペースや会議室等のフロアを解約し、執務エリアを圧縮してお客様スペースを作りました。


河野 縮小したのは新型コロナのためではなく、その前からテレワークなどの働き方の多様性を考慮してきたんです。もうひとつの背景は、分社化によって異なる分野、異なる組織があり、壁ができはじめていたので、それをひとつに統合して「ワン・プランテック」として働こうという動きがありました。事業再編と働き方の多様化を進めていたところにコロナ禍となり、加速的にオフィス縮小を進めたわけです。



――組織に壁ができたとは。


坂井 一緒にやるべきものを別々にやったり、お互いの専門領域を取り合ったりすることが起こっていたのです。それぞれの業務はシームレスにつながっており、事業戦略を立てて評価しながら企画を作り、設計し、施工し、最後にアフターフォローまで行うという一連の業務を各専門会社で行うわけですが、それぞれがブツ切れになっているところがあった。お客様から見るとプランテックグループなのに、中身は各カンパニーが個別に対応していて、壁ができてしまっていたわけです。クライアント・オリエンテッドで考えて壁を取っ払い、あらためて一気通貫の「ワン・プランテック」で建築関係のサービスを提供できるようにしました。


河野 それぞれの規模が大きくなると、すべてのグループ企業がワンフロアに入ることは難しくなります。そこで空いているスペースに移動し、単体としてまとまったほうが働きやすいということになりました。



――それまでは、オフィスの借り増しをしてきたわけですね。


坂井 そうです。それでかえって心理的にも物理的にも距離ができてしまっていた。


河野 オフィスが6階と9階に分かれていて、部活動などのオフ・コミュニケーションはあったのですが、事業別のカンパニーとしては、どうしてもお互いに「自分たちの会社」という壁ができてしまっていました。今回の「ワン・プランテック」は経営的に大きな判断でもあったと思います。


坂井 グループ会社の経営者たちの仲が悪いわけではありませんが、それぞれ成果をあげなければならない中で線引きができて、「一緒にやろう」という雰囲気になっていなかったのは取締役や執行役員である僕らのせいもあったと思います。持株会社制ですから、それぞれ事業会社の目標があり、頑張らなくてはいけない。それで自然にそうなったと思います。各カンパニーが競い合い、高め合ってほしいというのが創業者の意図でしたが、その負の側面が表れたわけですね。


河野 創業者が存命の頃は、会長室や各会社の社長室もあったのですが、今では会議室エリア、カフェスペース、ミーティングスペース、執務エリアと分けて、基本的にはフリーアドレスです。役員も固定席はありませんから気軽に話しかけられます。



プランテック オフィス再編資料より(※)

プランテック オフィス再編資料より(※)



――フリーアドレスでも、定位置ができてしまったりしませんか。


坂井 なんとなくこのへんにいる、というエリアはできましたが、声をかけにくいということはなくなりました。上層部ともフラットに話せる社風がありますので。



――常時何名ほどの方がいらっしゃるのですか。


河野 出社率は半分ほどでしょうか。もともとノートパソコン所持率が高く、今では全員にノートパソコンと携帯電話を持たせています。だから比較的スムーズにリモートワークに移行できました。必要に応じて出社しており、うまくオフィスを利用できていると思います。



――今の広さがベストですか。


河野 働き方を見ているとまだ空きスペースがあるので、もう少し集約しても成り立つかもしれません。


今後、オフィスを持たない企業が増えると思いますが、オフィスを残したいという要望も一定数は残ると思います。人間は視覚的な生き物です。視覚で情報を得たり、対面で人となりを知ったりということができないと、スムーズに業務を進めるのが難しく、モチベーションも上がらないという面がある。リモートではどうしても限界があるのですね。ベースとなるオフィスはある程度残し、それとは別にリモートでも働ける環境が今後のオフィスの在り方になっていくかなと思います。



■コロナ後のオフィスは二極化が進む

河野香織氏(執行部シニアスタッフ)

河野香織氏(執行部シニアスタッフ)



――設計コンサルティングでは、オフィスで働く人たちの声をどのように取り入れるのでしょうか。


河野 お客様にインタビューして、働き方のあるべき姿をベースにオフィスを設計していきます。どのくらいのオフィスが必要かとご相談されて、スペースを一緒に探すところからお手伝いすることもあります。当社のスタッフには宅建免許も持っている者もいて不動産仲介もできますから、そういったことも含めて、必要な面積で必要な機能の備えたオフィスを作っています。



――コロナ禍によって、企業のオフィス環境への取り組みは変わりましたか。


坂井 コロナ前までは、働き方改革を背景に従業員が使うアメニティを向上させたり、働き方を自由に選択できるようにするというオフィス改修の動きが盛んでした。今はどこも二の足を踏んでいて、着手している案件は多くありません。今のオフィスの中で配列を変えてソーシャルディスタンスを保つ工夫をされている会社が多いですね。



――今後はどのような方向へ動くと思いますか。


坂井 おそらく一気に動きはじめるのではないかと思います。リモートワークを拡大してオフィスを縮小するのか、それともやはりオフィスは大事だからと拡充するのか。二極化の動きがどんどん出てくると思います。



――オフィスの役割も変わっていくと思いますか。


坂井 ルーティーンワークは家でもできますが、皆で集まらなければならないクリエイティブな作業では直接顔を合わせることが大事だと思います。


たとえば我々のような設計事務所は、デザイン業務ですから定型業務ではありません。顔を合わせることによるコミュニケーション深度が必要で、ほかの人の仕事を垣間見ることがすごく大事なんです。リモートワークでは、隣の人の仕事は見えませんから。そのへんに転がっている印刷物やサンプルとか、ホワイドボードの書き込みや貼ってあるメモなどをちらっと見て得た気づきが、自分の仕事につながったり、協業のきっかけになるんです。そういう意味で、オフィスはやはり大事だと思っています。



――自宅やオフィス、サードプレイスなど働く場所が分散しつつありますが。


坂井 どのような規模で分散するかは、試行錯誤が続くと思います。家では仕事できない人もいますし、本社を縮小していくつかのサテライトを準備するかもしれませんし、職住近接などもテーマになります。場所が多様化した方が今後の働き方には合っているでしょうね。随時、職場を選べるようになればいいと思います。


河野 地方では、自社ビルを他社に開放するような例が増えたら面白いと思います。今後、企業を横断するプロジェクトが増えていくと思うので、プロジェクトチームごとにスペースを使うような働き方ができればいいと思います。それまで見向きもされていなかった場所が使われるようになると、日本全体の活性化にもつながっていくのではないでしょうか。


その中で、大手町や丸の内はスペシャルなスポットになると思います。これまでのようなオフィスではなく、普段は全国で働いている人たちがそのスペシャルなオフィスに集まって何かをなしとげるような場所になれば、日本全体の不動産が活用でき、東京の新しい位置づけもできると思います。



■コロナ禍を機にみんながオフィスのことを考えるようになった

坂井大輔氏(執行役員・一級建築士・設備設計一級建築士)



――今はどんなプロジェクトを手がけているのですか。


坂井 ひとつは金沢で計画している1000㎡ほどの一部木造の支店オフィスです。金沢は「木質都市」を掲げており、その支店の場所も伝統的な街並みの風情が残っている場所なんです。クライアントは建築設備の専門工事会社なのですが、いろいろな取り組みをされています。今回は低層の建物に縁側的な空間を設け、外と緩やかにつないで自然の光や風を取り入れたり、逆に閉じて環境負荷を軽減したり、自然と共生する建築の在り方を模索しています。


もうひとつは超高層の本社ビルで、完全なインテリジェントビルです。日本であまり例がない、自動制御でスイッチがないようなシステムを入れることも考えています。



――なんだか両極端な2プロジェクトですね(笑)。


坂井 個人的には小さい方が楽しいですね(笑)。大型ビルはそれなりに醍醐味もありますが、期間も長くなりますし。今携わっている再開発ですと完成までに6年、7年かかるので、その間に心変わりしてしまわないかなと思うこともあります(笑)。



――今後手がけていきたいことを教えてください。


坂井 今、都内の再開発案件をやっています。徐々に開発が進んで発展してきている街の中で開発が進まず取り残された地域があるんですよね。事業者としては採算性も重要ですが、大きなものをつくることはそれなりに影響力がありますから、街や社会に対する責任があります。街や地域の発展を見すえた上で事業者と行政の想いをすり合わせていくことが課題ですね。


どうしたらより人間らしく働けるか。コロナを機に、誰もがオフィスのことを考えるようになりました。これまでは各企業が個別に働き方改革を進めてきていて、今のように全企業がリモートワークを強いられ、働き方を考えなければならなくなったことはいまだかつてないと。副業や兼業なども盛んになっていますし、オフィスの在り方も変わっていくと思います。



坂井大輔氏(執行役員・一級建築士・設備設計一級建築士)・河野香織氏(執行部シニアスタッフ)



ウィズコロナ、アフターコロナによって従来にないオフィス仕様が求められるようになった。建築物は何十年も残るが、オフィス環境のスタンダードは年単位で変わっていく。本来の「働く場」の目的を追求し、最大の効果を引き出すためには、プランテックのミッションである「当り前ではないことも当たり前にする」ことが必要だ。今後どのような、かつ当たり前でないソリューションが生まれるのか楽しみだ。






プロフィール


プランテック総合計画事務所

1985年4月11日設立。総合建築設計事務所。創業者は建築家の大江匡氏。

現在はグループ企業として施工会社の株式会社プランテックファシリティーズがある。

代表作は武田薬品工業湘南研究所(現・湘南ヘルスイノベーションパーク)(第54回BCS賞、第45回日本サインデザイン協会賞他、2012年日本建築家協会優秀建築選)、ソニーシティ(2007年日本建築家協会優秀建築選、グッドデザイン賞他)、玉川高島屋S.C南館(2005年グッドデザイン賞)、日本橋二丁目地区第一種市街地再開発計画(2020年グッドデザイン・ベスト100)など。


プランテック総合計画事務所[外部リンク]



編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2020年11月25日

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