みんなの仕事場 > オフィスの考え方 > 50歳は「幸せな独立」の準備を始めるべき年齢 〜株式会社FeelWorks 代表取締役 前川孝雄氏インタビュー

50歳は「幸せな独立」の準備を始めるべき年齢 〜株式会社FeelWorks 代表取締役 前川孝雄氏インタビュー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

前川孝雄氏

前川孝雄氏


50歳を機に社内での地位や人生の後半戦を考え、将来に向けて「独立」を計画するビジネスパーソンが増えています。しかしコロナ禍で先行きが見えない今、独立を成功させるにはどうすればいいのでしょうか。著書「50歳からの幸せな独立戦略」で、会社で培った経験値を活かす「ローリスク独立」を推奨する、人材育成専門家集団FeelWorksグループ代表の前川孝雄氏に伺いました。



■「起業」と「独立」は似て非なるもの


――FeelWorksの業務内容を教えてください。


FeelWorksでは「日本の上司を元気にする」というヴィジョンの元に、2008年から「上司力研修」プログラムで400以上の会社を支援してきました。「人を大切に育て活かす社会作りへの貢献」を理念として掲げていますが、人は現場で仕事を通じて育っていくもので、その成長を支えるのは上司です。「上司がいかに部下を育てるか」をサポートする研修をベースに、コンサルティングや組織風土改革にも携わります。



――前川さんご自身も講師としても活躍され、ご著書も多いですね。


企業対象のものだけではなく、学生を相手に青山学院大学では10年間にわたって正規課程の授業を受け持っています。学生が将来に希望を持って働けるようにフィールドスタディやディスカッションをさせる授業です。本に関しては、今回出した「50歳からの幸せな独立戦略」(PHPビジネス新書)で33冊目になります。



――好評のようですね。


「上司力研修」を通じてミドル世代の悩みを聴き続けてきたので、このような本の必要性には以前から気づいていました。2019年の「50歳からの逆転キャリア戦略」(PHPビジネス新書)は発売2カ月で4刷と反響が大きく、この本はその実践編で即に重版になっています。



――「50歳からの独立」は、20〜30代の独立とどこが大きく違いますか。


20〜30代は、チャレンジをして新たなものを積み上げて行く資源獲得へのモチベーションがありますが、それが40代後半〜50代以降になると、資源を失うことをいかに避けるかということにシフトすると言われています。つまり、50代は守りに入るわけですが、裏を返せば、守るべきもの、積み上げて来たものがあるわけですから、独立と言っても、新しい事業を起こすというより経験値を活かしていくことを意識すべきです。



――ご著書でも「起業と独立は違う」と書いていらっしゃいますね。


人によって定義は様々でしょうが、「起業」は読んで字のごとく、業を起こすこと。ヒト・モノ・カネに投資してリスクを取りながら新しい事業を立ち上げる。ベンチャー企業、特に短期間で上場を目指すスタートアップ企業などは、確かに社会的インパクトは大きいかもしれませんが、潰れる可能性も高い。一般的には、起業から10年以内に9割の会社が倒産すると言われています。


これに対して、「独立」とはひとりで立つこと。それまで会社から給与を貰っていたのが、顧客から報酬を稼ぐというスタンスに変わります。会社にいたときの経験値を中核に働くので、仕事の中身はそれほど変わりませんが、それまでは会社が自分のキャリアや人生のオーナーとも言える存在だったのが、今度は自分自身がオーナーになるということですね。



■生殺与奪の権を会社に握らせるな

前川孝雄氏



――独立を考え始める人が多いのは、50歳前後でしょうか。


40代後半から50代になると、転職マーケットが非常に限られて来ます。また、会社の中でもポストオフが近づき、定年も視野に入ってくる。たとえ管理職としてバリバリ活躍していても、役員になるのが難しくなって社内に居場所がないと感じるようになると、独立が非常に有力な選択肢になって来るわけです。



――会社を辞めて独立というのは、リスクを感じて尻込みする人も多いのでは。


私がお勧めしているのは、できるだけリスクのない「ひとり社長」になる、ローリスク独立です。まず、人は絶対に雇わない。特に正社員を雇ったりすると、税金はもちろん、社会保険料という固定の大きな負担を強いられますから。人手が必要なときにはパートナーシップ、アライアンスを組んだり、業務委託すればいいのです。仕事場も最初から家賃負担がある事務所を構える必要はなく、自宅を利用したり、今はバーチャルオフィスもあり、リモートワークも可能です。


また、今勤めている会社で同じ仕事を続け、雇用形態を正社員から業務委託に切り替えるのもソフトランディングできる方法です。



――高年齢者雇用安定法が改正されました。企業側は4月以降、「高年齢者が希望するときは70歳まで継続的に業務委託契約を締結する」という選択肢を導入する努力を課されます。


独立を考えている方にとっては大きなチャンスです。いきなり独立と言っても雲をつかむような話になりますが、業務委託であれば、まず自分の業務内容を整理して、「この業務をこれだけの報酬で継続して受けます」と勤め先と話し合い、契約すればいいのです。法律がそれを推奨する形に変わりつつあるのだから、渡りに船です。 



――同じ仕事を業務委託で受けることにはどんなメリットがあるのでしょう?


業務委託に切り替えると、空き時間が増えます。無駄な会議への出席、社内手続きに必要な書類の作成などをしなくて済むようになります。正社員は役割が曖昧で、自分の業務と関係のない仕事をさせられたり、上司の目を気にして不必要な残業をしたりが日常茶飯です。ところが、いわゆるジョブ型雇用の延長ともいえる業務委託の場合は、自分の仕事を終えればさっさと帰ってもいいわけです。正社員だったときにはフルタイムで行っていた業務も、週2日で終わらせるようになれば残り3日を他のことに費やせるので、先々2社3社と顧客を増やしていくことも可能です。



――なるほど、そうすれば収益も上がっていきますね。


複数の顧客がいれば、1社がダメになっても他がある、というリスクヘッジにもなり、心の安定にも繋がります。


大多数のビジネスパーソンにとっては、ひとつの会社からの給与が唯一の収入源でしょう。今人気の『鬼滅の刃』の登場人物、冨岡義勇の名言で、「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」という台詞がありますが、50代以降のビジネスパーソンに特に伝えたいのは、「生殺与奪の権を自分の勤める会社に握らせるな!!」ということです。この本にも書きましたが、独立はリスクではなく、むしろリスクヘッジなのです。



■自分の経験を商品に変える「商売人のスキル」

前川孝雄氏



――特別なスキルや能力がないと独立できないと思う人が多いのでは。


まず会社からの評価が絶対的な評価ではない、ということに気づいてほしいですね。「自分は平凡なサラリーマンで、出世もしていないし、何のスキルもない」というように自己評価の低い方が、会社の外では異なる評価をされるケースも少なくありません。


ある大企業の営業職だった方は、自分のことを、「成績も低い並の営業マン」と認識していたのですが、実は会社でエクセルを使って営業データを整理するフォーマットの作成に携わっていました。そんなことは誰でも当たり前にできると彼自身は思い込んでいたのですが、紹介を通じて出会った中小企業の経営者が興味を示し、「うちの会社に合わせたヨミ表(営業の進捗管理表)のフォーマットを作って欲しい」と頼んだのです。同じような依頼が続き、彼はそれをきっかけに、エクセルで営業のヨミ表を作って中小企業をサポートするビジネスを立ち上げました。もう10年以上続いています。



――特別なスキルや資格はなくても、まずは自分の経験値を客観的に評価してみることが大切なのですね。


逆に資格を取ったからと言って、独立に成功するとは限りません。私はリクルートで情報誌「ケイコとマナブ」の編集長をしていました。一生懸命勉強して税理士や公認会計士、弁護士の資格をとった方たちを取材する機会もありましたが、中には独立しても経営がうまくいかなかったり、結局は会社員に戻ったという例もたくさん見てきました。



――となると、独立して成功するために必要なことは何なのでしょうか?


もちろん資格を学ぶことはよいことなのですが、それを活かして稼ぐには別のスキルが必要なのです。独立に向けて自分が会社でやってきたことを棚卸して整理し、それを体系的に学び直したり補強したりするために資格は有効です。しかし、多くの人が軽視しがちなのは、それを商品やサービスに変えるという作業です。一番大切なことは、顧客を見つけ出し、顧客の立場になって考えることでしょうね。顧客は何に困っているのか、自分の経験値を活かすことでどう喜んでいただけるのか。私は「お役立ち」と呼んでいますが、スキルや知識、経験があるだけではダメで、それをいかに顧客に役立つものにして対価をいただくか、という商売人としてのスキルを鍛えないと成功しません。



――会社にいる間にそれを身につけるのは難しそうです。独立後に仕事をしながら鍛えていくのでしょうか?


できれば独立してから3年ほどは、利益を考えずに、とにかく顧客を見つけて自分の経験値を全力で提供して喜んでもらう。対価については業界相場を調べて、ビギナーなのだからエントリーラインの価格を提示します。「お値打ち」と思わせる価格を設定し、経験値を高めて、徐々に対価を上げていく。すると顧客の期待値が高まる、それに応えるスキルと経験をさらに磨いていく、という循環を作れると理想的です。



――独立に向かないタイプは?


考え過ぎる人はダメですね。動く前にリスクばかり考える人はうまくいきません。頭が良い人にその傾向があるのですが、私はセミナーや講演で大企業の部長、グループ会社の社長クラスの方たちにも「まず会社村から出て行動するように」と言っています。行動すれば必ず失敗する。どれだけ緻密に考えても、期待通りの成果は得られないものです。でもその失敗をスピード感を持って経験値にどんどん変えていく。そうすれば必ずうまくいきます。



■コロナ下でピンチをチャンスに変える

前川孝雄氏



――コロナショックはどのように影響するとお考えですか?


コロナショックは100年に一度の厄災と言われていますが、私たちは、阪神・淡路大震災、東日本大震災も経験していますし、リーマンショックの洗礼も受けてきました。かつては100年に一度だった厄災が、現代では10年に一度のペースで起きていると考えた方がいいかもしれません。


ダライ・ラマは「もし問題の解決が可能であるなら、何も不安に思うことはありません。解決に向け行動すればよいのです。もし、問題の解決が不可能であるなら、不安に思うだけ無駄です」と言っています。今は大変な思いをしていても、自分ができることに目を向けること。艱難辛苦をどう学びに変換していくかということが大切です。


コロナショックは、以前から変革すべきだったのに何とかなるからと先延ばしにしていたことを「待ったなし」に変えた側面があります。良い例がリモートワークです。働き方改革が叫ばれる中でもなかなか進んできませんでしたが、一気に浸透しましたよね。


同じことは個人のキャリアにも言えることで、会社にいたままで何とか逃げ切れるかな、と思っていた方の意識を変えるきっかけになるのではないでしょうか。



――アフターコロナを見すえて独立を考える人が増えそうですね。


そうです。ただ考えるだけではなくThink future, Act now で、他人が現状を見て不安で萎縮しているときに、コロナを乗り越えた5〜10年後の未来を考えて、今、虎視眈々と準備を始めるという気持ちでいた方がいいですね。



――ピンチをチャンスに変えられる側面もありそうです。


遠隔で営業しやすくなり、商圏が全国、さらにグローバルに広げやすくなりました。そこで自分が提供できる商品、サービスをきちんと絞りこみ、光らせることができれば、チャンスは広がります。



■会社に勤めながら5年10年かけてコツコツ準備して、60歳で「幸せな独立」をする

前川孝雄氏



――お話を伺っていると、独立することに前向きな気持ちになります。


大切なのは「幸せな独立」ということです。


私は人間として幸せに生きていくのに大切なことは心の安定で、そのためにビジネスパーソンにとっては「働きがい」を高めることが大切だと考えています。


しかし日本企業では50代以降になると、経営層になるごくわずかな人材を除き、管理職に昇進する人も多いとはいえ、99%は従業員の立場止まり、その後は重要な役職も与えられず、精神的にしんどい状況が続いてしまいます。ただ、これは会社の中での出世を自己尊厳と結び付けてしまっているからです。そうではなく、自分の働きがいに目を向けてほしい。「働きがい」とは、読んで字のごとく、人のために動く喜びです。



――65歳定年だとしたら、10年以上もその状況が続くわけですね。


平均寿命が70代前半だった頃は、定年後の余生は5~10年でしたが、人生100年時代では、定年後、再雇用後にも20〜30年以上の時間があります。かりに年金、蓄えが十分で経済的な問題がなくても、人は社会との接点がなくなると心が不安定になってしまいます。真面目なビジネスパーソンほど、仕事ばかりして趣味もなく、地域との繋がりもない方が多いですから、定年後に生きるための平衡感覚を失ってしまうのです。


まずは50歳で自分の人生について考え、家族、特に配偶者と改めて向き合ってみる。仕事一辺倒で家事や育児は妻に丸投げしていた人もいるでしょう。ここでお互いのやりたいことを確認して、妻にもやりたいことがあれば応援する。そうすれば自分の独立にも応援してくれるかもしれません。



――確かに、独立には家族の理解、協力が必要ですね。


人生100年時代、「定年再雇用」ではなく「ひとり社長」のローリスク独立を目指して、50代から「幸せな独立」の準備を始める。定年退職後の65歳からとりかかるのでは遅すぎます。最近は副業も解禁されつつあります。会社で認められないなら、休日にボランティアでスタートしてもいいのです。会社に勤めながら、50歳から5年、10年かけてコツコツ準備し、60歳で勇気と自信を持って定年、独立するのがベストですね。



前川孝雄氏



会社を辞めて独立するというと、リスクの高い「挑戦」というイメージがありますが、お話を伺ううちに、自分のスキルを客観的に把握し、時間をかけて準備をすれば、それほどハードルは高くないと感じるようになりました。そのためのノウハウが詰まっているご著書「50歳からの幸せな独立戦略」に感銘を受け、「幸せな独立」の準備を始める40〜50代のビジネスパーソンが今後も増えていくだろうと思います。






プロフィール


前川孝雄(まえかわ たかお)

株式会社FeelWorks 代表取締役。

1966 年、兵庫県明石市生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。

㈱リクルートで『リクナビ』、『ケイコとマナブ』、『就職ジャーナル』などの編集長を務めたのち、2008 年に㈱FeelWorks 設立。「上司力研修」「50 代からの働き方研修」、eラーニング「新入社員のはたらく心得」「パワハラ予防講座」サービスなどで400 社以上を支援。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。2011年から青山学院大学兼任講師。2017 年に㈱働きがい創造研究所設立。2020年から情報経営イノベーション専門職大学客員教授。(一社)企業研究会・研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業・審査員なども兼職。現場視点のダイバーシティ・マネジメント推進、リーダーシップ開発、キャリア論、コミュニケーション設計に定評があり、講演活動や書籍・教科書執筆、コラム連載、TVコメンテーターなど活動は多岐にわたる。


著書

PHP研究所「50歳からの逆転キャリア戦略」[外部リンク]

PHP研究所「50歳からの幸せな独立戦略」[外部リンク]

大和出版「本物の『上司力』」[外部リンク]

ベストセラーズ「「働きがいあふれる」 チームのつくり方」[外部リンク]

PHP研究所「上司の9割は部下の成長に無関心―「人が育つ現場」を取り戻す処方箋」[外部リンク]

扶桑社「コロナ氷河期」[外部リンク]

など多数





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2021年1月6日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。

オフィス家具を探す

家具カテゴリー トップはこちら 家具カテゴリー トップはこちら