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NY修業で獲得したコミュニケーション術で日本人のビジネス意識を問う ~グローコム 岡本純子氏インタビュー

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岡本純子氏

岡本純子氏



コミュニケーションとは、端的に言えば人と人が話をすることだ。誰もがしていることだが、実は訓練が必要なほど難しい。12万部を突破した話題本「世界最高の話し方」の著者で、1000人の経営者・企業幹部の話し方を変えたコミュニケーション・ストラテジストのグローコム代表取締役・岡本純子さんに伺った。



■NYでグローバルスタンダードのコミュニケーション修業



――プロフィールには「コミュニケーション・ストラテジスト」とあります。どのようなお仕事なのでしょう。


言いにくいので、最近は「コミュニケーション戦略研究家」としているのですが、人生や社会のあらゆる課題がコミュニケーション問題ではないかと考えて、その戦略的ソリューションを科学的に研究しています。同時に、企業エグゼクティブにコミュニケーションを教える「伝説の家庭教師」(笑)としても活動しており、1000人以上の社長や役員・企業幹部にリーダーシップを高める話し方をコーチングしてきました。



――そういうお仕事をすることになった経緯は?


もともと文章を書くのが好きで、大学卒業後は10年ほど新聞記者を経験しました。その後はアメリカの大学院でコミュニケーションの研究をして、帰国後はPR会社で9年ほど働きました。取材する側からされる側になって、情報はこういう観点で発信するものなのかということがわかりました。その知見を活かして、経営者向けにメディアにどう対応すればいいのか指導する「メディアトレーニング」やトップのメッセージづくりの仕事に関わりました。もっと、トップにとって必要なコミュ力全体をコーチングすることはできないかと思い立ち、プレゼンやスピーチなどリーダーに必要なコミュニケーションスキルを包括的に勉強するために、ニューヨークに渡り、体当たりでコミュニケーション修業をしました。



――武者修業みたいですね。


学校ではなく、街中にあるコミュニケーションのワークショップやセミナーに参加しました。アメリカでは、社会人も学生もまるでスポーツクラブに行くように1回数千円を払ってコミュニケーションを習うんです。コミュニケーションの研究も科学として確立され、非常に進んでおり、先生もマニュアルも教科書も充実しています。「プレゼン術」だけではなく、「ストーリーテリング」をはじめ、「ボイストレーニング」「アクティング」、「即興劇」なども簡単に学べます。ボディランゲージの研究もすごく進んでいて、専門家も何千人といるほど。とにかく、手あたり次第に通って知見を積み重ねました。「恥ずかしがり屋研究所」(Shamed Research Institute)なるものがちゃんとした大学の研究機関として設置されていて、迷わず扉をたたきました(笑)。知らない人と話すのが苦手だったので。人脈づくりの鉄人に弟子入りして、パーティーで何人に話しかけられるかという課題を出されたりもしました。



――さまざまなコミュニケーションの方法が確立しているのですね。


日本人は、いかに自分を小さく謙虚に見せるかということに主眼を置きます。学校でもしゃべり方なんて教えませんよね。小さな"ガラス瓶"の中に自分を閉じ込めている。瓶の中の鏡張りで自分の姿ばかり見ている。それに対して、アメリカではとにかく自分を解放するんですよ。その作業は体を動かすことから始まります。日本人は"瓶"を壊して外へ出ないといけないんです。


多くのワークショップは、まずアイスブレイクから始まります。10分、20分のゲームで体を動かしたり、名前を呼んだり、ボールを投げて渡す真似をしたり。最初は名前や動きを間違えたらどうしようと恥ずかしくてしょうがないのですが、だんだん「もうどうでもいい!」と肝が据わってくる。日本人は、「恥」の殻に閉じこもりやすいので、そういう体験をひたすら重ねて、ぶち破っていくしかないのです。



――それがアメリカのコミュニケーション術なんですね。


そうです。アメリカで学んだ、日本にないグローバルスタンダードのコミュニケーション術を共有したいと思って、今の活動を始めました。


皆さん、コミュニケーション能力は生まれつきのものでどうにもならないと思っていますよね。私も恥ずかしがり屋で人前で話すことが苦手でしたが、修業したおかげで自信をつけるノウハウやスキルがたくさんあることがわかり、魔法のように克服できました。



■企業経営はコミュニケーションがすべてといってもいい

岡本純子氏



――そして帰国されて「コミュニケーション・ストラテジスト」になられたと。


個人でも企業でも、コミュニケーションには戦略性が必要なんです。日本では戦略性がない。良いものを作っているのに、伝える力がないから魅力を伝えきれずに、海外ブランドに負けてしまっています。こういう言葉を使えばもっと伝わるとコーチングすると、「たしかに伝わり方が違いますね」とおっしゃるのですが。



――ビジネスでは、コミュニケーションの問題はあまり指摘されてきませんでした。


日本の経営層でコミュニケーション、「伝える力」を重視している方は多くありません。「コミュニケーションって経営で重要?」という意識で、問題意識がないんですよね。


企業経営はコミュニケーションがすべてといってもいいと思います。よく決断力が重要などと言われますが、決断しても、それを伝える力も、人に同意させる力も、社員のモチベーションを上げる力もなくて、一体どうやって経営していくのでしょうか。


そこで、とりあえず上から変えていきます。「シャンパンタワー」と呼んでいるのですが(笑)、上層部がやるとそのスタイルが下に引き継がれていきます。



――なるほど。


特に、中間管理職以上のリーダー層は、コミュニケーションをアップデートする必要があります。今までは強権型、上意下達、上から下へ命令するコマンドコントロール型でやってきたのですが、それではうまくいきません。今さらスタイルを変えることは難しいでしょうけれど、「コミュレスまたはロス(言わないでおこう)」では、余計に悪くなります。生産性とコミュニケーションは密接に関係していますから、何らかの形でコミュニケーションがないと生産性も上がりません。


こういうことを声高に言っているのですが、なかなか通じません(笑)。イケてる社長をどんどん増やしていこうともくろんでいるのですが、まだまだですね。



――クライアントは大企業の方が多いそうですが、実際にどんなコーチングを行うのですか。


日本人の99%は自分の殻に閉じこめられているところがありますので、その殻を破るお手伝いをしています。「私の後についてやってください、リピートアフターミー!」(笑)と、お芝居のようなことをやっていただきます。そのノリに乗れる人ほどうまくなります(笑)。


皆さんが持っている内なるエネルギーを引き出すのですが、「変わりたい」という気持ちのある方から変わっていきます。お教えするのはすべて脳科学や心理学など学術的にエビデンスのある技術ですので、なぜ、これが「効くのか」をきっちり説明した上で納得いただきます。2時間ほどやると、皆さんずいぶんほぐれてきます。



――役職や年齢層で差が出そうですね。


年代や業界関係なく、「自分はこれでいい」と思っている人は成長の幅が少ないですね。自分に問題意識があって、「変えたい」という方はとても伸びしろがあります。


自信がある方というのは、自分のしたい話をしているだけで、相手の心を打つ話をできているわけではありません。コミュニケーションとは、慣れ、場数です。誰でも、いつでも、どこからでもうまくなれます。自分はまだまだ、と思っている方はその日のうちに変われるし、自信を持てるようになる。自信がなくてコミュニケーションできない人も、コミュニケーションを変えることで自信はあとからついてきます。そして人生も好転していくと思います。



――悩み相談もされたりして。


ありますね(笑)。皆さん、悩んでいらっしゃいます。ただ、実は自分の中にすでに答えを持っているので、それを引き出してあげるだけなのですが。



――女性リーダー対象にはどうでしょうか。


女性リーダーにもコーチングをしますが、私も含めて(笑)、女性は「私なんて」という方が本当に多いんです。これは日本だけでなく海外も同じですが、女性は人の目を気にしすぎる。人前で話すときも、「この人つまらなそうにしてる」ということが気になったりするのが女性の特徴。男性はそういうことが気にならない人も多く、時間が伸びても平気なんですね。女性は気づかいや気配りがあり、それで挙手できなかったり意見を言えかったりする。そこを遮断する力が必要なんです。


私自身、どうやったら人前で声をあげられるか悩んで、「私は役を演じている」と言い聞かせて人前に出るなど、いくつかソリューションを見つけましたので、女性の皆さんと共有したい。


男性には男性の悩みがあると思いますが、女性の悩みを解消するコミュニケーションを女性の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。



■人を打ち負かす剛速球ではなく、ゆるく受け止めてもらう球を投げること

岡本純子氏



――そもそも、コミュニケーションはどのように課題解決に結びつくのでしょう。


コミュニケーションというものは、人にとって「血流」のようなものです。根づまりがあると血液が通りません。つまり人とつながることができず、メッセージを伝えられないわけです。ちょっと変えるだけで根づまりが改善し、伝わりやすさが100倍になります。たとえば「ダイエット」ではぴんと来なくても、「くびれを作りましょう」と言えば伝わる、イメージがわきやすくなる。そういうことをお教えしているんです。コンテンツとデリバリー、伝え手の中に眠っている想いやエネルギーを蘇らせ、相手の心を動かしていく作業です。



――コミュニケーションに関して、ありがちな誤解とは?


「言って聞かせる」「正論を言う」「論破する」のがコミュニケーションだと思っている人が多いですよね。自分が言いたいことを如何に話して相手を説得するか、という剛速球を投げて、「自分はかっこいい球投げている」と悦に入っている方が多いと思います。正論であっても、今の時代、なかなか正論は通りません。剛速球より、ゆるく受け止めてもらう球を投げることがコミュニケーションには重要だと思います。



――働き方改革で、コミュニケーションのあり方が見直されました。


コミュニケーションが活発になると生産性も高くなります。制度だけ整えても改革は起こりません。オフィスも、いかにコミュニケーションを促進できるかという場づくりの面から考えていくべきです。


アメリカではオフィス内のウォータークーラー(水飲み場)がイノベーションの聖地と言われます。お茶を飲みながら「最近どう?」という偶然の出会いをいかに作るかということがシリコンバレーのトレンドでした。


日本でも増えたオープンオフィスはイノベーションを生まないという研究結果もあります。皆に見られているからおしゃべりしてはいけないと思って雑談が減ったとか。雑談を敵視してはいけないんですよね。スモールトークは人間関係の潤滑油なのですが、日本ではエレベーターでも「私語禁止」だったりします。私語って何? 公語ってあるの?って感じです(笑)。


コミュニケーション力は、自分の考え方をどう表現するかということから始まります。それを禁止することはやめた方がいいですね。



――リモートワークが一般的になったことも、コミュニケーションへの注目を高めました。


久々に人と会うと緊張する、という経験は誰にもあると思います。話し方は筋肉と同じなんです。継続的に鍛えないと言葉は出てきません。孤独の問題とも関係があり、一度ひとりになってしまうと群れに戻るのは難しいんです。人は社会的動物、ソーシャルアニマルと言われます。何万年も前から、一人になるということは死を意味してきたんですね。一度群れを離れると戻れなくなり、どんどん孤立していってしまいます。


コロナ禍でもオンラインというツールがあることはラッキーです。人間には非常に強いつながり欲求があるのです。リモートでのコミュニケーションも活用しつつ、コロナ後は、「つながってうれしい」と素直にリアルのコミュニケーションに戻っていければいいなと思います。



――「つながってうれしい」コミュニケーション、目指したいですね。


自分からアプローチしていく。そして、とてもシンプルなことですが、相手に興味を持つ。相手の話を聞きたいと思う。それだけで180度変わります。ちょうどこのインタビューのように相手の話を聞きたいというマインドになれば、緊張せずに話せるのではないでしょうか。話そうと思うのではなく、問いかけをするんです。


コロナ禍で思うことは、人と話したい要求のある人がすごく多いということです。自分の話を興味をもって聴いてくれる人に悪意を持つ人はいません。あなたの話を聞きたい、というメッセージを全身から発信できれば、うまく話せないとか、悩んだりする必要はないんです。



■誰よりもおじさまの幸せを祈っています(笑)

岡本純子氏



――ご著書「世界最高の話し方」は内容が非常に濃くて、全部覚えたくなりました。


書き上げるまでに2、3年かかったのですが、少し詰め込みすぎたかもしれません(笑)。一度読んで「なるほど」と思っていただいて、「今日はプレゼンだからこの章を読み返そう」とか、「今日は新しい人と会うからこの章を読もう」というふうに折に触れて読み返したいと仰って下さる方が多いです。ぜひそういう使い方をしてほしいですね。



――「世界一孤独な日本のオジサン」というご著書もありますが。


声を大にして言いたいのですが、私はおじさまが大好きなんです(笑)。おじさまとご飯を食べたりお話しするのが大好きで、おじさまに育てて頂いたと思っています。誰よりもおじさまの幸せを祈っている(笑)。あの本は、おじさま方、もしかして窮屈に生きていませんか、楽しくいきましょうという本でして(笑)。



――孤独は「死に至る病」「社会の課題」と書いていますね。


精神的・肉体的健康上、最も憂慮すべき問題が「孤独」です。人とつながりたい、話したいと思っていてもできない、望まない孤独。お腹がすいたら何か食べろ、のどが乾いたら、水を飲め、と脳が命令するように、孤独を辛いと感じたら、それは、脳からの「つながりなさい」というサインで、我慢すべきではありません。日本では孤独は美徳とされていて、孤独になれという本まであるほどですが、孤独と独立・自立はまったく別物です。


ひとりで生きていく力は必要ですが、皆さん、なんだかんだ言って、組織に依存して筋子のように生きているじゃありませんか(笑)。肩書や家庭がなくなると、自分は何者なのかわからなくなり、一人ひとりがイクラのようにペシャッと潰れてしまいます。会社・肩書・家庭を3Kというのですが(笑)、そこに依存している人が多いですね。



――今後はどんな活動を目標にしていきますか。


何よりも重要なのはこれから日本を引っ張っていく若い世代のコミュニケーション教育です。日本では読み書きは教えても、話す、聞く、対話の技術など教えられることはあまり、ありませんが、アメリカでは歴史の授業でさえプレゼンが必要です。何でも自分で調べて自分で発表すれば、考える力、話す力が養われます。ですから将来的には、コミュニケーションの学校のようなものをやりたいですね。メソッドを開発して教える人も育てたい。


今の人に幸福感が薄いと言われるのは、人とのつながり方にも関係しているのではないででしょうか。人は毒にもなるが、薬にもなる。伝えて終わりではなく、つながれるコミュニケーションをみんなに知っていただけるようにしたいです。



――ぜひそういったコミュニティを作っていただきたいです。


ネット上のコミュニティなど何ができるか検討中です。教祖みたいになるのは嫌ですし、自分が主役になるのが苦手で、オンラインサロンのように自分中心で何かするのが申し訳なくて。どう解消していけばいいのか悩みます(笑)。



岡本純子氏







ひと口にコミュニケーションと言っても、身近な挨拶からビジネスの交渉までさまざまなものがある。話し方やジェスチャーひとつ、心構えひとつで印象は180度変わる。それを「戦略」として訓練し、誰もが人と人のつながりを楽しくできたとき、どんな社会が出現するだろうか。岡本さんのコミュニケーション・メソッドが日本中に、そして世界に広がる日が楽しみだ。






プロフィール


岡本 純子(おかもと じゅんこ)

コミュニケーション・ストラテジスト。

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。英ケンブリッジ大学院国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。

読売新聞記者、電通パブリックリレーションズを経てコミュニケーションコーチ、企業PRコンサルタント、ジャーナリストとして活動。

株式会社グローコム代表取締役社長。


著書

世界最高の話し方――1000人以上の社長・企業幹部の話し方を変えた! 「伝説の家庭教師」が教える門外不出の50のルール」(東洋経済新報社)[外部リンク]

世界一孤独な日本のオジサン」(KADOKAWA)[外部リンク]


コラム執筆

東洋経済オンライン[外部リンク]

プレジデントオンライン[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2021年3月24日

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