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ポスト・コロナ時代は住まいが仕事の質を決める 〜Airbnb Japan 長田英知氏インタビュー

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長田英知氏

長田英知氏



新型コロナ禍でリモートワークが普及し、外出や移動が自由にできなくなったことにより、ビジネスパーソンの在宅時間が増えました。ポスト・コロナ時代に仕事場も兼ねる住まいはどのような価値基準で選べばいいのでしょうか。『ポスト・コロナ時代 どこに住み、どう働くか』の著者であり、Airbnb Japan株式会社 執行役員の長田英知氏にお話を伺いました。



■オンラインテクノロジーはコロナ以前に完成していた



――長田さんの活動内容を教えてください。


現在、Airbnb Japan株式会社の執行役員として事業開発、様々な企業とのパートナーシップの構築などを行っています。また、デザイン分野での仕事も多く、グッドデザイン賞の審査員や京都芸術大学の客員教授を務めております。



――グッドデザイン賞ではどのジャンルの審査を担当しているのですか。


毎年少しずつ担当が変わるのですが、昨年はシステム・サービス・ビジネスモデルのユニットリーダーを務めました。サービスデザイン分野でアプリ、ビジネスモデル、システムなどを審査するのが主な仕事ですね。また、2018年には「働き方を変える」というテーマで、応募作品を横断的に俯瞰し、次なる社会に向けた課題や可能性を探し出すフォーカス・イシュー・ディレクターという役割も担当させていただきました。



――2018年ということはコロナ・ショック前ですが、その頃から働き方に関するテーマを携わっていたのですね。


はい、もともとはスマートシティ事業やインフラ事業など、都市のハード面に関わるコンサルティングに携わっていましたが、やがて都市で暮らし、働く人々をいかに幸せにするかというソフト面に関心を抱くようになりました。人々がより豊かな暮らしを送るためには、「いつでも、どこでも」働ける社会の構築が必要であり、そのためのテクノロジーも整っていたはずなのですが、様々な法規制や商習慣に阻まれて、うまく進んでいませんでした。



――それがコロナ・ショックで一気に加速したと。


そうです。新型コロナ禍で人の移動や集会が制限され、リアルなつながりが難しいということになったとき、はじめて都心の会社オフィスに出社して仕事をして、プライベート空間である家に戻るという従来のワークスタイルに対する疑問を皆が抱くようになったわけです。一方、リモートワークを支えるオンラインテクノロジーはすでに市場に存在し、オフィスに頼ることなく働ける土壌は出来上がっていたことが、コロナ・ショックによるリモートワークの急速な普及につながったのだと思います。



■変わる「住まい選び」の基準

長田英知氏



――リモートワークが当たり前になり、住まいに対する意識、住まい選びの基準も変わりつつあると感じます。


日本では多くの企業が都心にオフィスを構えています。しかし都心は家賃が高いため会社の近くで住まいを探すのは難しく、郊外から満員電車で通勤するのが一般的でした。しかし郊外の物件でも、通勤に便利な駅に近い物件はそれなりに家賃が高くなるため、今度は広さを犠牲にする。その結果、ひとり暮らしならワンルーム、家族がいてもあまり広くない物件が選ばれるわけです。しかし仕事は外で行い、休日も外に遊びに出かけるライフスタイルの人にとっては、自宅には生活するための必要最小限のスペースがあれば十分と考えていたわけです。



――ところがコロナ禍によって自宅が仕事場にもなってしまったわけですね。


プライベートな場所で仕事や勉強をするようになると、同居家族がいる場合は、広さや部屋数を確保できないことがお互いにとってのストレスになります。またオンライン会議でプライベート空間が映り込んで仕事関係者に見られるのが嫌だ、という声もあります。



――広さが住まい選びの大きなポイントになっている。


リモート中心のワークスタイルに一部の企業はシフトしはじめていますが、そのような企業に勤める人は電車に乗る頻度も減るので、駅から離れていても部屋数や広さがあり、多様なライフスタイル・ワークスタイルを可能にするだけの包容力がある物件に住む人が増えていくでしょう。また、たまの出勤で公共交通機関の密を避けるために、自動車通勤を選ぶなら、駐車場を安価に確保できる場所がいい。そう考えると首都圏の私鉄が沿線開発を行ったベッドタウンは、現在、高齢者しか住まないオールドタウンと化しているところも多いのですが、多少古くても広い床面積を確保できる住宅の費用対効果に注目して、若い家族がリフォームして住むという動きも増えてくるのではないでしょうか。



■生活環境を評価するための「1:10:100の法則」

長田英知氏



――都心・新築にこだわらなければ、安価で広い家に住むことができますね。


はい、でもただ安価で広ければ良いわけではなく、在宅時間や地域にいる時間が長くなることを考えると生活環境もとても大切になります。すなわち周辺環境や利便性を評価し、その地域に住むという感覚を持つことが重要になります。



――ご著書『ポスト・コロナ時代 どこに住み、どう働くか』には、「1:10:100の法則」という評価の方法が紹介されています。この法則は長田さんが考案されたものですか?


はい、そうです。


まず「1」は、住居から1キロ圏内、徒歩10〜15分でアクセスできるエリアです。スーパーやコンビニなどの商業施設、銀行や学校、病院など日常的によく利用する施設やインフラについて評価します。私の場合は日常の買い物ができて、おいしいものが食べられる店があって、あとは自然に少し触れられる公園があるといいですね。



――コロナ禍で自由に移動や外出ができないので、自宅周辺の環境は重要ですね。


この「1」のエリアが日常生活の質を決めると言ってもいいでしょう。たとえロックダウンのような状況になっても、毎朝散歩をすれば気持ちがいいと思える環境が身の回りにあれば、乗り切りやすくなります。


次の「10」は、自動車、バス、バイク、電車などで10分程度で到達できるエリアです。豊かな生活を送る上で必要な施設は人によって異なります。ある人にとって、それは本屋やカフェだったり、飲み屋だったりするでしょう。また運動が好きな人ならゴルフの練習場やテニスコートなどを求めるかもしれません。またリモートワークが中心となってコワーキングスペースを利用する人は、この10分圏内のエリアにあると利便性が高いでしょう。



――趣味やライフスタイルで大きな違いがありそうですね。


そうですね。そして最後の「100」は、自動車や電車で行ける100分圏内のエリアです。年に数回訪れるような観光スポットやアミューズメント施設、山や海、温泉などへのアクセスを評価します。私は横浜に住んでいますが、年に数回、東京の美術館を訪れたり、箱根・鎌倉・葉山などの観光地を訪れるので、そうした場所へのアクセスが気になるわけです。



■ワーケーションや都心複数拠点なども現実的になる

長田英知氏



――毎日通勤する会社を基点に物件を探すのではなく、自分の住みたい場所で家を探せる時代になったわけですね。


例えば地方のリゾート地に移住したいと思っても、これまでは仕事をリタイアできるだけのお金の余裕がある人以外は難しかったわけです。ところがリモートワークが進み、極端に言えば沖縄にいてもパソコンひとつあれば仕事できるようになりました。そうすると、誰もが好きな場所に移住できるようになりますし、さらに言えば場所を転々としながら働くノマドワーカーになることもできます。


コロナ・ショックは、ハンコに代表されるようなリモートワークを妨げる業務・制度のバリアを解消する役割を果たしました。あとは「仕事はオフィスでするべき」という"なんとなく"の社会的・心理的なバリアを乗り越えることができれば、生活のQOLと仕事を両立させた新しいワークスタイルが可能になります。また普段は都市部に居住しながら、時にワーケーションでリフレッシュするという働き方も可能になるでしょう。



――観光地やリゾート地でのリモートワークですね。


金曜にリゾート地で仕事をして、そのまま週末の休暇に入ったり、 夏の間はずっと避暑地の別荘やセカンドハウスを借りて仕事をしたり。ホームシェアの浸透でリーズナブルに滞在できる物件が増えてきたことで、私のまわりにもワーケーションをしている人が増えています。職種にもよりますが、会社に行かなくても仕事が完結する環境が整っていくにつれ、ワーケーションは今後普及していくでしょう。



――平日は都心の自宅に住み、週末はセカンドハウスで、というパターンから、セカンドハウスでのリモートワークが長くなり、それなら購入しようかと考える人が増えるかもしれませんね。


そうですね。地方やリゾート地に主な拠点を据え、都心の住居は用事があるときのみ利用するというスタイルも考えられます。


また、都心に住む利便性を大事にする人が、都心部に複数の住居を持つケースも考えられます。経済的に難しければ、主となる住まいは駅からの距離や築年数で妥協しつつ、仕事や趣味の部屋を自宅の近隣もしくはオフィスの近くに確保すればいい。



■融通性、多様性のある不動産が価値をもつ

長田英知氏



――そこまで変化が大きいと、不動産に対する見方、考え方も変わりますね。


これまでの不動産の資産価値は、駅までの近さという利便性と築年数によってほぼ決定されてきました。今後、テレワークが浸透してオフィスに行く頻度が下がれば、駅までの近さより、広さや住環境が大事になります。


またAirbnbのような民泊サービスが広がりはじめてから、自宅の部屋を貸して収益を得る人が増えています。駅から離れた場所にある住宅でも民泊による収益が得られる物件は、居住のみに利用されている不動産と比較して、その資産価値に大きな変化が生まれてくるでしょう。



――たしかに人を宿泊させるとしたら、駅近の狭い物件では難しいでしょうね。


山奥にある築100年の旅館に歴史や風情を感じて、高い宿泊料を払って泊まりに来る人がいます。民泊を行なっている住宅もそういう付加価値を付けられる可能性があります。またそう考えると、これからは融通性、多様性のある不動産の価値が高くなるでしょう。



■「この空間にいられるのだから頑張ろう」と思えるか

長田英知氏



――住まいの選択肢、自由度が増えすぎて、逆に決めるのが難しくなりそうですね。


家を選ぶ際には、仕事のためのワークスペースを確保できるかどうかなど機能面をチェックすることが大事であることはいうまでもありません。ただ、ポスト・コロナの時代において、自宅は今まで以上に人生の長い時間を過ごす場所となるため、機能面以外の要素も大事になってきます。その要素とは情緒的な価値、すなわちそこにいることで自分が幸せになれるか、愛着を持てるか、ということです。今は世の中が大きく変わるタイミングなので、多くの人が新しいチャレンジをしていかなければなりません。そういうとき、「この空間にいられるのだから頑張ろう」と思えることが、住まいを選ぶ際の大事なポイントになるでしょう。



――「物件選びには機能的な視点と情緒的な視点が必要だ」とご著書に書いているのは、そういう意味なのですね。


私がお世話になっている小山薫堂さんが率いる会社は、仕事を受けるときに3つの基準を設けています。「その仕事は①新しいか? ②楽しいか? ③誰を幸せにするのか?」というものですが、この仕事という言葉を住宅に置き換えるとそのまま物件選びの基準として使えると思います。すなわち「新しい」は新築ということではなく新しい体験を与えてくれる家か、「楽しい」は居心地よく団欒できる場所か、「誰を幸せにする」については、そこに住む人だけでなく遠方に住む家族、親戚や友人など訪ねて来る人のことも含めて考えるとよいでしょう。



――仕事をする場所でもあるけれども、それを第一義的には考えないと。


はい。オフィスの場所によって住む場所を決めなくてはならないという縛りがゆるくなった分、自分は何が好きで、どういう生活を送りたいのか、その地域にコミットできるのか、ということをつきつめて考える必要があります。その結果、選んだ住まいが仕事の質にも影響していく。そういう時代を迎えているのだと思います。



長田英知氏







新型コロナ禍によってこれまでにない変化が起こり、中でも、家や住まい方には大きな変化が起こっています。自分や家族にとって理想的な住まいとは何か、と悩むビジネスパーソンに、長田さんのご著書『ポスト・コロナ時代 どこに住み、どう働くか』は様々な指針を与えてくれることでしょう。






プロフィール


長田 英知(ながた ひでとも)

Airbnb Japan株式会社 執行役員。

東京大学法学部卒業。日本生命を経て、埼玉県本庄市の市議会議員に全国最年少当選(当時)。その後、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社、PwCアドバイザリー合同会社等で戦略コンサルタントとしてスマートシティやIoT分野における政府・民間企業の戦略立案および新規事業構築支援に携わる。2016年、Airbnb Japan株式会社入社、2017年より現職。そのほかの外部役職として、2018年度よりグッドデザイン賞審査委員、2019年4月より京都芸術大情報デザイン学科クロステックデザインコースの客員教授を務める。


著書

プロフェッショナル・ミーティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)[外部リンク]

いまこそ知りたいシェアリングエコノミー」(同上)[外部リンク]

ポスト・コロナ時代 どこに住み、どう働くか」(同上)[外部リンク]

たいていのことは100日あれば、うまくいく。」(PHP研究所)[外部リンク]

「論理的思考だけでは出せない答え」を導く あたらしい問題解決」(日本実業出版社)[外部リンク]





編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2021年4月6日

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