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オフィスは経営哲学や組織作りの実験室 ~Legaseed(レガシード) 近藤悦康氏インタビュー

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近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)

近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)


新卒採用で社会を変えることができるかもしれない。「新卒採用は世界を変える活動だ」とするレガシードの近藤悦康社長は、筆記テストと面接中心の人材採用プロセスを「きわめて危険なもの」と言う。戦力になる人材はどうしたら採用できるか。企業の採用活動を成功へ導くサービスとは何か。近藤氏にお話を伺った。



■今欲しい人材ではなく、5年先の未来を作る人材を採る


――レガシードの事業内容は


「人と組織の問題を解決するコンサルティング」です。世間には採用、教育、人事制度など組織まわりのコンサルティングを提供している企業はたくさんありますが、当社はその中でも新卒採用を切り口にコンサルティングを提供しています。


経営というものは「人」だと思っています。「人」がいなければ、事業を創造することも会社を発展させることもできません。「人」の調達が会社の成長を決める最大要素であり、どれだけ優秀な人材を自社に入れ、事業を促進させられるかが肝になります。


ですから我々は組織の入り口管理が一番大事だと考え、会社で活躍する人材を採用できる仕組みづくりをコアビジネスにしています。


また、採用の仕組みづくりの次に課題になるのが、採用した人材が現場で活躍し、長く働き続けたいと思える組織環境をどのようにつくっていくかです。伸びていない会社の社員は辞めたがります。働く環境の整備だけでなく、会社の未来の可能性をどのように創るのかが大切です。会社を成長させる事業計画を策定し、経営者そのものの考え方を広げていかなければ、会社は成長しません。我々の仕事は、その指導にまで及びます。



――どんな採用課題を持っているクライアントが多いですか。


中小企業は、即戦力が欲しいと思い中途採用から始め、成長するにつれて新卒採用を実施します。しかし、新卒採用の場合、採用活動をしてから実際に入社するのは翌々年、実績を上げリーダーになるのは入社後2、3年後ですから、5年後に活躍する人材を獲得する必要があります。


会社が5年後にどんな状態になっているか、採用した人材をどこでどのように活躍させたいかから逆算して、今を設計しなければなりません。そういった「新卒採用のやり方が分からない、自信がない」企業様を相手に、今欲しい人材ではなく、5年先の未来を創る人材とはどんな人材かを考え、その人材を採るために会社の魅力を上げていく支援を行っています。



■我々の商品はすべてこのオフィスにある

近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)



――大変ユニークなオフィスですが。


当社はBtoBで法人様が相手なので街に店舗を構える必要もなく、本当はオフィスを凝る必要はありません。ではなぜおカネをかけたかというと、収益につながるからです。



――どういう意味でしょうか。


我々のお客様は中小・ベンチャー企業、すなわち成長性のある企業の経営者です。通常の会社であれば、問い合わせをいただくと営業担当がその会社を訪問し、ヒアリングし、ご提案すると思います。しかし当社は新卒中心で組織を創っており平均年齢26歳ですから、「こんなに若くて人や組織の課題を解決できるのか」というギャップが生まれて、様子見ムードからスタートします。


レガシードの社員は人間力もありますし、実績もノウハウもありますから、伝える力も持ち合わせているのですが、先方の会社はアウェイですから、ムードを作るのが難しい。やはり戦いはホームでやった方がいい。自分たちの城を見せ、共感していただき、提携したいと思ってもらえる状況をつくろうと思ったんです。そこで、「そのユニークなオフィスに行ってみたい」と思わせるオフィスを作りました。アウェイで提案するケースに対し、ホームで提案したケースの成約率は4倍です。オフィスの内装におカネをかけることは、そのように顧客獲得率をあげていくことにつながるんです。我々は「プロフィットオフィス」と呼んでいます。


また、毎日のように全国から経営者が見学・訪問に見えるので、社員も良い意味で「見られている感」があり、環境を整える意識が向上しますし、副次的効果としてリクルーティングや社員のモチベーションに向上にもつながっています。



オフィス中央には長生きすると言われるバオバブの木のモニュメント

オフィス中央には長生きすると言われるバオバブの木のモニュメント



オフィスコンセプトは「都会のオアシス」

オフィスコンセプトは「都会のオアシス」



Legaseedの経営者コミュニティの会員になると無料で使えるラウンジ

Legaseedの経営者コミュニティの会員になると無料で使えるラウンジ



オフィス全体に空気触媒「セルフィール」を散布しウイルス対策を施している

オフィス全体に空気触媒「セルフィール」を散布しウイルス対策を施している



――クライアントの反応はいかがですか。


我々は奇想天外なオフィスで驚かせたり感動したりして帰ってもらうのが目的ではありません。このオフィスによって、レガシードが大事にしている価値観や、働いている社員のエネルギー、集中度合いや生き生きした明るさ、なぜこのようなことに力を入れているのかを伝えることが目的です。


私たちはコンサルティング会社です。コンサルタントが所属している会社自身の経営がうまくいっていて、組織づくりがうまくいっている方が説得力があるでしょう。レガシードは会社全体が実験室なんです。


平均年齢26歳、創業8年でこの状況を作ることができた。我々の経営哲学や組織づくりそのものが、我々の商品です。そういうことを、オフィスを見ることで、言葉ではなく視覚的に伝えたいと思っています。



■やりたくて就活しているわけじゃない「学生の視点」

近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)



――レガシード創業前から採用の事業に携わっていたそうですね。


前職は社員20名ほどの人材育成の会社でした。毎年20~30名を中途採用するのですが、同じくらいの人数が辞めていくので、社員数30名をなかなか超えられない会社でした。


せっかく自分が入った会社を業界1位にしたかったので、入社1年後に結果を出せる人間を採用して組織化しようと思い、新卒採用を担当したいと申し出たんです。


「うちみたいな小さい会社には、有名企業や大手をしのぐ優秀な人材は来ないのでは?」と言われましたが、「小さな会社でも優秀な人材が来れば大きくなる」と説得しました。



――結果は出せましたか。


1年目の応募が1千人、2年目には1万人、4年目には2万人になって、毎年15、6名を採用することができました。就活生の20人に1人が応募してくれる会社になり、入社したい会社ランキングにも出るようになりました。名だたる企業の中に無名な会社があるので、メディアも注目してくる。その結果、いろいろな企業から問い合わせをいただくようになりました。そのため、採用モデルを企業に提供する「採用コンサルティング」の事業を立ち上げました。自分でゼロから挑戦したい気持ちが湧き、2013年11月にレガシードを立ち上げました。退社してから約1年半でした。



――どんな採用の仕組みを作ったのですか。


当時の学生はポジティブに就活を楽しんでいるわけではなく、社会に出るためにやらなきゃいけないからやっていたんですね。そのため、必ずしも会社をきちんと理解したうえで入社を決めているわけではない。そこで、学生視点に立った採用の仕組みにガラッと変え、学生が受動的ではなく能動的に参加できる仕組みを作ったんです。


例えば野球選手を採用するのに筆記テストと面接では選考しません。球を投げさせて打たせ、練習風景を観察するはずですよね。つまり、企業は活躍する人材を採用したいのに、活躍するかどうかは選考段階では判断できていないのです。


会社説明会だけでは、学生はその会社のことを深くは理解できません。一方的に30分説明するより、資料をドサッと置き、4人くらいで15分かけて資料を読み解き、10分でまとめ、5分でプレゼンした方がよほど理解が深まるのです。


今はインターンシップも珍しくありませんが、20年前はそんな言葉はありませんでした。採用活動の中にインターンシップを盛り込んだことも初の試みでした。



■20代でも一番打てる人を一軍の最前線に

近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)



――レガシード自身では、どのようなことを採用基準にしていますか。


大きく分けると人間性と能力です。人間性とは心の姿勢です。いろんな表現がありますが、素直なことだったり責任感だったり、人としてどうかということです。いわば一緒にいて気持ちがいいなと思えるかどうかということ。思えない人は、心の姿勢が合わない人です。そういう人が組織に入ると不純物になりますから、その人もいづらく、周囲も違和感があります。ですから心の姿勢が合わない人は採りません。


ただし、人間性が抜群でも、もちろん能力がなければ活躍できません。能力の指標はいくつかありますが、思考力、行動力、影響力の3つの掛け算だと思っています。


思考力は頭の中で創り出したいゴールから逆算して、何をすればそこにたどり着くかを考えられるロジカルシンキング。達成までのシナリオを頭の中で創り上げていけるかということです。


行動力はスピードと継続性と追求。すぐできるか、長くできるか、深くできるか。頭が良くても行動ができない評論家タイプでは結果が出せません。行動が抜群でも絵に描いているシナリオがマズかったら頑張っても結果が出せません。


もう一つ大事なのは影響力。これは自力以外の他力を使う力です。成果とは自分でやるか、人の力を借りるかです。新卒は経験がないわけですからそもそも自力がありません。だからいかに他力を使って自分の結果につなげるか。何でもいいんです。先輩の力、上司の力、使える力を何でも使って自分の結果につなげていくことが必要です。



――コンサルティング業界は人材の流動が激しいと思いますが。


経営者ですから長く一緒にやりたい気持ちもありますが、人は流動するという前提に立って、良い人材を毎年のように入れる仕組みを構築することが大事だと思います。上の人が抜けた方が下にとっては良い意味でチャンスになったりしますから。


若いときに成果が出ても継続して成果が出る保証はありません。たとえばこの会社でこれまでの20年間活躍した人を5人選んだとしても、20年後にまたピックアップしたときに同じ5人になるとは限らない。まったく違う5人になっているでしょう。ということは、今選ばれる5人は早くやめた方がいいかもしれない(笑)。離職は健全なことなんです。


今話題の野球の大谷翔平選手は20代ですね。でもビジネスの世界では、あれだけの実力を持っていても、大手の企業は年功序列もあり、20代を一軍に起用しないでしょう。ビジネスもまた収益を上げてお客様に感動してもらう戦いなのに、40代、50代ばかり起用するのはおかしな話です。20代でも一番打てる人を一軍の最前線に立たせるべきなんです。



■新卒採用を変えることは社会のイノベーションにつながる

近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)



――最近の就活生に時代の変化を感じますか?


よく、昔の学生と今の学生の違いを聞かれますが、人間の本質的な感覚は変わりません。ただ就活のやり方、プロセス、オフラインからオンラインとか、インターンシップが併用されるようになったり、ジョブ型雇用が少しずつ広がったりしていますね。



――採用活動もコロナの影響を受けていると思いますが。


学生の動きでは、オフラインを希望する学生が多いです。合同説明会など、リアルで参加する学生数はだんだん戻ってきていますし、オンラインとオフラインどちらでも参加可能という場合にはオフラインを希望する学生の方が多いです。



――オンラインではやはり限界がありますね。


例えば、普通、結婚相手をオンラインで決めることはありません。筆記試験と面接では本人の活躍度合いは分かりません。そこにメスを入れるのが当社です。


就活は短くて2,3カ月、長くて半年ですが、企業が学生と接する時間は、説明会2時間、筆記テスト30分、面接30分から1時間で、正味5,6時間でしょう。一方的に説明する2時間とペーパーの試験、面接官が30分いろいろ聞いて、企業側が見極めたと思っても、学生側はその会社で命を懸けて働きたいと思えるでしょうか。抜本的に採用のプロセスを変えていくことが求められているんです。


インターンシップを併用して数日間~数カ月一緒に働き、お互い見ていくという採用活動にシフトしていく兆しが、最近ようやく見られるようになりました。



――コロナ禍によって在宅勤務などが広がりましたが。


仕事の内容や専門性にもよります。個人でも成り立つような仕事なら、オフィスは必要ありません。しかしコンサルティングやクリエイティブ、一人では完結しないチームの仕事、専門性が身についていない若い人を育成しながらチームを確立するような仕事は、リアルな場でやることが必要です。


我々の業務の8割は新人を含めてチームを結成して作り上げていく仕事ですから、多くの社員が出社を希望しています。



――リモートワークできない会社は選ばれなくなるだろうという意見もありますが。


それはないでしょうね。リモートワークができるかどうかということはどうでもいいと思います。新卒で、リモートワークができるからという理由でその会社を選ぶ確率は極端に少ないと思います。



――今後の展開については?


新卒採用を成功させるならレガシードが一番、というブランド構築をしていきます。


新卒採用は会社の未来の業績を高めるものですが、今働いている人たちに刺激を与えるものでもあります。大谷翔平クラスの選手が採用されてくるのですから(笑)、一軍の自分たちも脅かされる。既存の社員に良い意味での危機感、成長や変化を伝える、下からのボトムアップです。


また、企業だけでなく社会への変革も行っていきます。企業の入り口を変えるということは、学生の意識を変えることに繋がります。例えば、すべての会社が「全員2カ月働いて実績を出さない限り入社させません」と言ったら、多くの学生はSPIや筆記テストの練習などしている場合ではなくなり、2カ月の実務でどれだけ結果を出すかということにフォーカスしなければならなくなります。社会で求められる力を学生時代から身につけなければならなくなったら、学校教育やキャリアセンターの在り方、ひいては学生の取り組み方も変わります。社会への大きなインパクトです。


新卒採用を変えるということは、企業とそこで働く社員、これから社会に出ようとしている学生、その学生を育てる教育機関まで含めて、社会をイノベーションする取り組みなんです。だからそこに対する価値を創造することも目標です。



――昨今は働き方が多様化し、ワークライフ・バランスも課題になっていますが。


1日は24時間しかありませんから、一番幸せを創造しやすいのはプライベートだと思っています。実際、世の中のほとんどのビジネスはプライベートのビジネスです。旅行や飲食・ゲームなど諸々が消費活動ですから一番お金が落ちる。快適さ、利便性、生産性が大きくなり、お金が投下されるので変化も多様です。


一方、働く時間は、昔より幸せ度合いが高まってるとは思えず、学生が学ぶ時間の幸せ度も上がってるとは思えません。家族の時間は、離婚が減ったり虐待が減ったりというニュースはなく、むしろ増えていますよね。


1日24時間が充実すれば人間の幸福度が上がるのですから、注力されていない分野の幸福度を上げるのもレガシードの宿命なんです。


現在は働く時間にフォーカスしていますが、次は学ぶ時間、家族との時間、またそれらのベースは健康ですから、睡眠・食事・運動という生活習慣を整える分野で事業を促進していきます。


会社の理念も「はたらくを、しあわせに」ですが、人間として大事な時間をどう幸せなものにしていくかという方向に事業を広げて、「生きるを、しあわせに」を事業化していきます。


すでに種は撒いており、世の中が認識するのは5年後くらい先になるでしょう。



近藤悦康氏(株式会社Legaseed 代表取締役社長)



レガシードのオフィスでは毎朝、社員全員で清掃をするそうだ。朝の陽ざしの中、清掃用具を片手に社員同士が挨拶を交わし、それから各自の業務に邁進する。仕事の開始前のひとときからも「チーム力」を垣間見ることができる。新卒採用から社会が変わる可能性に今後注目したい。






プロフィール


近藤 悦康

株式会社Legaseed 代表取締役

1979年 岡山県生まれ。

新卒採用支援のLegaseedを創業。

同社は年間1.7万人を超える学生が応募する人気企業に。常識を覆す独自の採用手法が話題。


著書

一瞬で社員の心に火をつける シンプルな手帳」(日本経済新聞出版)[外部リンク]

他多数


株式会社Legaseed[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2021年7月13日

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