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テレワーク化で顕在化した日本のマネジメントの弱点とは~髙橋豊氏インタビュー

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髙橋豊氏

髙橋豊氏


2020年4月、コロナの感染拡大を受けて多くの企業でテレワークが導入された。それから約1年半、企業はテレワークで「見えない部下」をどう管理しているのか。経営層と現場の管理職と社員にどんな意識の差が生まれているのか。調査をもとにした話題の書籍「テレワーク時代のマネジメントの教科書」の著者、髙橋豊氏にお話を伺った。



■全員が毎日出社する日常に戻ることはない


――この1年でテレワークはかなり浸透しましたが。


でも最近の朝晩の通勤電車を見ると、2020年の初めての緊急事態宣言時ほどには人が減っていないですね。いまだに会社に出社しければならない人が多いんでしょう。出社しなくてもできる仕事はありますから、会社側は真剣に、出社7割減どころか全員にまで持っていくべきだと思います。



――都内企業のテレワーク率はまだ64.8%ですから、まだまだですね。


コロナ禍はまだ収束していません。感染リスクを抑えることは重要です。そもそも通勤時間は非生産的ですよ。圧倒的にゲームしている人が多い。その時間を別のことに使った方がいい。新型コロナウイルス感染は収束しそうになったりまた拡大したり、という状況が続いているのに、企業は一時ほど真剣にテレワークは取り組んでいません。もっと積極的に進めていかなくてはいけません。



――ワクチンの接種率が上がり、アフターコロナも見えてきました。今後、テレワークはどうなるでしょうか。


社員全員が100%、家で働く完全テレワークにはならないでしょう。しかしまた全員が毎日出社するという状況に戻ることもないと思っています。どのラインが、会社で働く人にとって一番生産性が高くなり、コミュニケーションがうまく取れるものになるのか、社員を孤立させずに仕事ができるなのか。それを各社、各職場で見つけていかなければならないと思います。


かつてのように全員が出社しなければならないような会社は、人材に選ばれなくなりますね。東京にいないと仕事ができないということもなくなりました。会社にとって重要なのは、優秀な人材を獲得し、定着させること。世界中にいる優秀な人材を自分の会社に引き付けなければなりません。そのためには、住む場所の選択肢があるとか、テレワークをはじめとする新しい働き方で企業の魅力を発信しなければいけない。日本では大きな会社から変わっていくでしょう。



――大企業の方がテレワークに積極的ですね。中小企業はどうでしょうか。


本当はベンチャー企業や中小企業がいち早く取り組むことによって成長できる可能性があるんです。ところが、僕の体感では、中小企業の管理職ほど「会社に来ないといけない、直接会うことが重要」と思っている気がします。



――テレワークをやめて元に戻しはじめている会社もあります。


自信がなくて、部下に自分の考えていることを伝えることができない人、部下の話を聞けない人たちは早く元に戻りたいんでしょう。



■なぜ「目の前にいないと管理できない」のか

髙橋豊氏



――テレワーク化が進んだことで、マネジメントの本質が問われるようになっています。


一橋大学名誉教授の伊丹敬之先生は、「日本企業はバブル崩壊後、管理職教育を怠ってきた」と近著に書いています。私もその通りだと思いました。管理職を育ててこなかったから、テレワーク時代にうまく対応できないのだと思います。管理職の考え方が変わらないと始まりません。テレワークを拒否する「会わないとだめだ」という姿勢を、管理職の方々は変えるべきです。



――なぜ、会わないとダメなんでしょうね。


同じ空間にいるだけで、部下のことを見ているつもりになる思い込みですね。本当に部下が仕事をしているか、本当に困っていることは何か、結局分かっていないんです。じつは同じ場所にいるから分かるのではなく、話を聞いたり観察するから分かるのであって、同じ場所にいなくても、同じように話を聞いたりすれば分かるはずです。同じ場所にいなければならないと思い込んでいて、新しい形になったときにどうすればいいのかを考えなさすぎです。


僕はこの30年間、マネージャークラス、管理職育成のコンサルタントをやっているのですが、レベルが下がっていると感じます。今の若い人は能力が高いですから、良い管理職がいればもっと活躍できるんです。だからそういう管理職を作らないといけません。若い人の考える力は伸びているのに、組織を率いる人たちの力が落ちたんです。



――管理職のレベルが下がった原因は何でしょうか。


特に40代後半から50代のレベルが下がったのは、プレイングマネージャー化で忙しくなったからです。仕事が忙しいから部下の面倒が見られないと逃げているんですが、それではいけない。


バブル崩壊後、企業は少ない人数で大きな利益を出す方向に進みました。それで結局必要な人員が配置されないことにつながっている。これまではマネージャーの仕事をしなくてもよかったんです。私が社会人になったのはバブルがはじけた頃ですが、当時の部長や課長は全然忙しそうではありませんでした。毎日何をしているのだろうと思っていました(笑)。30年後の今、マネージャーはプレイング化が進んで非常に忙しい。要するにこの10年、20年の間に管理職はマネージメントしていないということなんです。プレイング化で、忙しく働くことが美徳のようになってしまった。



――マネジメントそのものについては問題にならなかったのですね。


マネージャーのミッションは、部下が担当している業務の問題を解決することですが、テレワークでそれがやりにくくなった。そもそも問題が見えいない。職場で同じ空間にいて良いことは、部下たちがやっていることを自分が座っているところから見えることです。電話の声からトラブルの発生を察知したり、立ち話している姿を見て、何人と話してるかとか、何かがうまくいっていないみたいだとか、そういう情報を得ることができた。それが目の前からいなくなってしまったので見えなくなった。オンラインで常時つながっているなら察知できるかもしれませんが、それもできない。誰が何を抱えてて、どんな問題が起こってるのか把握しにくいわけです。



――それがマネージャーの仕事だと。


問題点をどうやって早くつかまえるかが仕事ですから、報告されなければ気づけないようなら問題です。マネージャーは相談されなくても問題を把握できる状態を作らなければならないのです。


問題解決や動機付けなど、すべてはコミュニケーションの問題です。テレワーク時代のマネージャーは、ICTツールを使っていかにコミュニケーションを良くするか、相手との関係性を良くするかということに腐心しなければなりません。



――「マネジメントできる部下の人数は4人まで」とご著書に書いていましたが。


江戸時代に「五人組」という制度がありましたが、そのくらいがちょうどいい人数なんです。孫子の兵法の「謀攻篇」にも軍隊の最小単位は5人とありますし、リーダーが気を配ることのできる最大の人数は4人までという説もあります。自分を入れて5人、つまり4人の部下をちゃんと教えていくことが大切なのではないかと思います。



■「日本人は組織戦が得意」は幻想

髙橋豊氏



――ご著書には「若い人ほど見てほしがってる」ともありました。


パーソル研究所のテレワーク実態調査にもあるのですが、20代の若い世代は不安がっています。上司はちゃんと見てくれているのか、このままでいいのか。どう仕事を進めていけばいいのかが確立されていない年代で、あきらめてしまった年代でもないから、もっと教えてほしい、見てほしい、という感覚を持っているのでしょう。



――最近、ジョブ型の採用が話題になっていますが。


日本と海外では、人材採用の考え方が元々まったく違います。海外は仕事がありきで、仕事に合わせて人を採用しますが、日本はそうではない。仕事があろうがなかろうが、将来を見すえて必要そうな人材をプールしておくための採用です。仕事も曖昧、働く場所も曖昧です。曖昧さがない海外の手法を、曖昧さで仕事を回している日本に導入するなら、それをどう日本流に消化するかということが重要になります。



――単純にジョブ型に移行するわけではない?


海外のように完全に仕事に合わせて採っていくような採用にはならないでしょう。ただし、グローバルで人材獲得競争をしているAIなどの最先端IT分野ではジョブ型で採用する必要がある。国内の企業だけでなく、グローバルな人材獲得競争ですから。アジアで近い中国にどんどん人材を持っていかれてしまいます。自分のやりたいAIの仕事に専念できる環境を用意する会社が日本と中国にあり、日本は年収500万円、中国は年収5,000万円だったら、どちらを選ぶと思いますか?



――たしかに、わざわざ日本の会社を選びませんね。


専門知識が必要な仕事になればなるほど、グローバルな獲得競争になります。スポーツでもメジャーリーグに行きたい選手のほうが多いでしょう。それと同じです。日本、中国、アメリカの企業があったとして、やりたいことをできるのが海外の企業だったら、若い方だったら尚さら、海外に行くでしょう。



――そういう人材の取り合いになっていると。


様々な国のトップ人材をいかに自分の会社に採用するかで、これからのDX時代に勝てるかどうかが決まります。今までの日本の企業のように、優秀だけど尖っていない中間的な人材を採用していると、競争がグローバル化してる今は勝てません。今後は、そういう中間的な人材には払わなかったような金額で才能ある若者を獲得するケースが増えるでしょう。



――収入の下克上という感じですね。


中小企業もチャンスです。大きな企業だと人事制度を壊して採用するのは大変ですが、中小企業はトップがやると決めればできてしまいます。優秀な人材を早く獲得して、大企業と組んで新しい市場を切り拓いていけば、中小企業がもっと大きくなるチャンスがあります。今の中小企業の経営層は、残念ながらまだ古い価値観にとどまっているように見えます。「そんな人材はうちには来ないよ」と思い込むのではなく、面白い仕事があるならそれに見合う金額のサラリーを提示すれば、必ず人は来る時代になります。日本では特別な才能が必要になる最先端分野では人を育てられませんが、今後は最先端の若者の採用と、従来の採用方法の二刀流が必要じゃないかと思います。



――採用した人材の活かし方も課題ですね。


チームや組織にかかわる仕事を20年以上してきて、思うことがあります。日本人は組織戦が得意だとか、集団戦で勝ってきたと言われますが、本当は組織戦は得意ではないのではないか。なぜなら、上から言われたことを言われた通りにやってきたからです。特に団塊ジュニアの世代。スポーツの世界では「いいから言った通りにやれ」と言われますよね。小学校は一応民主主義で、学級委員会とかあるけど、僕らは基本的に先生に言われたことをやってきました。大人になって会社に入ってからも、じつは組織で働くチームワークを何も習っていないんです。


じつはチームワークや組織で何かをするには、それではダメ。言われたことだけをやってると、隣にいる人との間に目が向かなくなりますが、その「人と人の間」が問題なんです。みんなで役割分担して、「間」の仕事をこなしていくのが組織です。それは本人がそう考えてなければできません。「いいからやれ」ではできないんです。


これまでは先人がやったことをその通りにやればよかったのですが、今は何が正解か分からない世界です。



――それも、テレワーク時代になって明らかになった管理職の問題ですね。


ただし、どんな企業でも、組織を率いる人たちの能力をアップすればチャンスはあります。



――中小企業でもですか?


そうです。平均身長が低く不利だった日本女子バスケットボールチームが、外国人ヘッドコーチによって世界2位の世界最先端のバスケットができるようになった。やり方を考え、工夫すればできるんです。身長の差を埋めるには、相手には遠くからシュートをさせ、自分たちは遠くからシュートすればいい。


それと同じように、大きな会社が勝つ時代から、やり方を工夫すれば小さな会社でも勝つことができ、大きな会社から資金を得てやりたい仕事を連携してできる時代になった。中小企業でも、マネージメントを変え、部下のモチベーションを上げて正しい仕事をさせれば活躍できる。中堅・中小企業も大企業とやっていけるんです。


テレワークだから「見えない」などと思考停止していないで、今の環境下で成果を出すには何をすべきかを考えた方がいいです。「会わなきゃダメなんだ」というのは本質的ではありません。人を動かすために自分は何をしなければいけないのか、よく考えて行動すべきだと思います。



髙橋豊氏



テレワークが普及して、便利なICTが多く生まれている。しかし最終的には、上司の管理能力は人間力なのかもしれない。「失われた30年」と言われるが、管理職教育もやはり失われてきたのではないか。今後大きく変わるのは働き方だけではなく、マネジメントも大変革していかなければならないことを痛感させられた。






プロフィール


髙橋 豊 (たかはし ゆたか)

株式会社パーソル総合研究所執行役員。

大手建設会社で総務人事担当、その後、電機メーカー子会社で採用および研修担当を経て、日本能率コンサルティングで組織開発コンサルティング、管理職・経営層のコーチング担当。

大手IT企業などを対象に1000を超える事業のコンサルティング経験有。

パーソル総合研究所ではデジタルラーニング本部長も兼任。


パーソル総合研究所[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2021年8月5日

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