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経営者に聞く!

不便な時間を減らして豊かな時間を生む無人ストア事業

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久保 渓氏(600社オフィスにて)(※)

久保 渓氏(600社オフィスにて)(※)



わざわざ外に出なくても、「徒歩1分圏」で欲しいものが買えるようになったら――。コロナ禍で在宅勤務が増えてテナント離れが進むオフィスや、マンションの共有ロビーで文具や生活雑貨、食品を買える「無人ストア」サービスを展開しているのがスタートアップの600社。代表の久保渓氏にお話を伺った。



■決済機能のサービスを武器にアメリカから帰国



――久保さんはアメリカで大学を卒業、そのまま現地で起業されたのですね。


大学の専攻はコンピューターサイエンスとポリティカルサイエンスのダブルメジャーで、在学中にITの未踏事業に携わって自分で開発したWebサービスを公開し、いくつか売却したりしました。卒業後もコンピューターサイエンス学士号の経歴を生かして、シリコンバレーで2年ほど自分の会社をやっていました。



――帰国したのは、日本にビジネスの商機を見出したから?


2010年にアメリカでクラウド事業を起業したわけですが、Webサービスには必須の決済機能が日本では整備されていないと思いました。アメリカで当たり前のように利用していた決済サービスが日本でも受け入れられるのではないかと思い、2012年9月に帰国し、翌年5月にウェブペイ株式会社を設立しました。その後2015年にはLINE株式会社のグループ傘下に入っています。



――日米の違いについてはどう思いますか。


一長一短あると思います。


アメリカで展開した海外向けサービスは、アメリカでは流行らなくても、フィリピンやブラジルで流行ったりして、すぐにグローバルなユーザーがついて、メディアでもグローバルに取り上げて頂くことが多かったです。敗者復活ではありませんが、北米だけが市場ではない。自分がいる市場だけがロケーションではないんです。


これに対して、日本で立ち上げた事業はWeb決済というフィンテック事業でしたから、金融機関とのつなぎ込みとか契約形態とか、すべてを日本所管でやっていかなければなりませんでした。そのためマーケットが自ずと日本に向いていくので、一定の市場規模はあるにしても、日本国内向けの閉じた事業になりました。


アメリカにいたときは、いわば「日本代表」のような形で日本から支援を頂いたり、下駄を履かせていただいたこともありました。日本でのビジネスは下駄はないけど(笑)、言葉も通じやすく、慣習も常識もなじみがあるのでビジネスがしやすい。パートナーシップの構築はアメリカより容易で、さまざまな企業から支援をいただき、当社のビジョンに共感してくださったパートナーシップが得られました。



――「WebPay」のサービスについて教えてください。


今では「PAYPAY」や「LINE Pay」など、個人利用のスマホ決済サービスはたくさんありますが、「WebPay」はクレジットカード決済サービスで、他の決済サービスとはちょっと違います。


例えば、従来はECサイトに決済機能を組み込むのは専門的な知識が必要で、組み込みに3カ月くらいかかるのが一般的でした。WebPayを使えば開発工数が減り、迅速に開発できるので、最速で当日に使えるということが大きな特徴です。当時としては画期的で、この10年の流れとしては、フィンテックのメインストリームになるサービスだったと自負しています。振り返ると、良いタイミングで社会変革のど真ん中の事業ができました。



――最終的にはLINE株式会社に売却された。


はい、LINE株式会社に買収されてグループ会社になり、「LINE Pay」の立ち上げに参加して、LINE経営者の素晴らしい振る舞いを見て勉強させていただきました。売却しない未来もあったかもしれませんが、今でも後悔はしていません。複数の選択肢から意思決定していくのが経営者の仕事でもありますので、事業をバイアウトする選択肢は常にあります。



――「LINE Pay」は非常に伸びていますね。


「Web Pay」は開発者向けの裏方的なAPIサービスであるのに対し、「LINE Pay」はウォレットサービスですから、別サービスではあります。より大きなプレイヤー同士の戦いになると予想していましたから、「LINE Pay」のたどった道筋を振り返ると、多くの人にアプローチできるフィンテックの潮流が生まれたことは良い経験だったと思っています。



■10兆円規模の可能性がある市場を作る

無人ストア・サービス「Store600」。(※)

無人ストア・サービス「Store600」。(※)



――その後、創業されたのが今の600株式会社です。


妻がつわりになったとき、都会のど真ん中にいても日常的なものがなかなか手に入らないという経験をしました。高層ビルで働いていたので、お昼休みはエレベーターに長い列ができ、降りるのに非常に時間がかかるんです。そこで、オフィス内に徒歩1分で何でも買えるようなコンビニがあればいいなと思って、2017年5月末にLINE株式会社を退職し、600を立ち上げました。



――オフィスの共用部やマンションのロビーなど、人が集まるところに設置する無人ストア「Store 600」を提供されています。どのような場所への導入が多いですか。


最近はマンション、中でも新築マンションの引き合いが多いですね。不動産デベロッパーでは1棟に導入が決まると、他の棟に導入されることも増えています。居住者に恩恵が高いことが評価されていると実感しています。今は関東が中心ですが、全国対応できますので、今後もどんどん設置を進めていきます。



――当初は冷蔵庫のような"箱"でしたが、今ではどんな機能がありますか。


最初はオフィス向けの無人コンビニで、いわばクレジットカード決済機能をもった冷蔵ショーケースでした。そのタイプは今もありますが、マンションなどでの提供では、意匠性が高く、アプリで購入できる無人コンビニを展開しています。マンションでは冷蔵ではなく、常温の商品に絞り、キッズスペースでおもちゃを売るなど品揃えも工夫しています。子育て世帯からのフィードバックもいただいています。



設置する場所に合わせて品揃えは異なる(同社ホームページより ※)

設置する場所に合わせて品揃えは異なる(同社ホームページより ※)



キッズスペースの品ぞろえにはおもちゃも。(※)

キッズスペースの品ぞろえにはおもちゃも。(※)



面白いのは、オフィスとマンションでは利用者が気にするところが違うということです。オフィスでは「ここで買えます」ということがわかりやすいポップなデザインでしたが、マンションでは自己主張をしない高級家具のようにしました。



――コロナの影響は受けましたか。


2020年4月の緊急事態宣言時にはオフィスに製品補充しに行くこともはばかられるようになり、オフィス自体を解約した企業もあって影響は大きかったですが、夏にはオフィスの必要性が見直されて一定の人が出社を再開し、そうすると福利厚生も必要になるので、新たな需要が生まれました。


マンションのほうは需要が切迫しており、商談や成約がどんどん進みました。共用設備をどのようにニューノーマルに合わせていくかというご相談をいただくことも多かったですね。



――今後も伸びていくと考えますか。


弊社は「徒歩1分圏内」「50メートル商圏」のコンパクトな市場にフォーカスしています。マンションでいうと居住区内の小さなコンパクトな商圏を一つの市場と見立てます。今のコンビニ市場と同じくらい、国内だけでも10兆円規模の市場が広がる余地がそこにあるとみています。



――巨大市場ですね。


もちろん、マンション向けの常温筐体というワンプロダクトだけでそれを達成できるとは思っていません。温度帯も冷蔵・冷凍、いろいろなものが出てくると思いますし、場所もマンションやオフィスだけでなく、例えば工場や病院など、人が集まるところに置ける可能性があります。またパートナーシップも柔軟に考えています。マンションでは日鉄興和不動産様とご一緒させていただいていますが、今後はもっと多くのパートナー様とビジネスの機会を広げていくつもりです。



――需要や市場はアフターコロナも広がりつづけるでしょうか。


今はコロナ感染をおそれて短時間でも人と接触するのが嫌な方がいます。今後も人との接触を嫌がる傾向は高まると思います。コロナの感染拡大がなくても、ネットでの購入は増えたと思います。配達員と顔を合わせるのも嫌がる人が一定数います。女性の場合は防犯上の理由でドアを開けたがらない。そんなとき、マンションのロビーに「Store 600」があれば、誰とも接触せずに自分のタイミングで買えます。自分のタイミングで非接触でモノを買えることに非常に価値があるわけです。そうした需要は今までは目に見えませんでしたが、コロナで広がった。それに相性が合う方にとっては定着すると思います。


スーパーの宅配サービスがやっていたようなことをより進化させたり、いろいろ最適化しながらやっていきます。



――自販機業界でも新サービスをスタートさせているそうですね。


2021年6月に、「Vending Hero(ベンディングヒーロー)」という自販機DXサービスをスタートしました。商品を補充するルートオペレーション業務を効率化するサービスです。今までは勘と経験に頼っていて複雑でシステム化できず、なかなか現場に定着していませんでしたが、弊社は自社で物流までやっており、かつテクノロジーのエンジニアもいてノウハウがあります。自販機業界向けの汎用的なサービスとして提供していきます。今年だけで10万台の契約を締結しており、非常に伸びています。



毎日の自販機訪問計画をAIが自動算出する「Vending Hero」。ルート担当毎の補充本数の推移や売上金額、販売ロス率など、様々なデータをダッシュボードで可視化する。(※)

毎日の自販機訪問計画をAIが自動算出する「Vending Hero」。ルート担当毎の補充本数の推移や売上金額、販売ロス率など、様々なデータをダッシュボードで可視化する。(※)



先ほど言った「50メートル商圏」を10兆円市場と捉えると、自販機業界も巻き込んでいく話になります。自販機業界を10兆円市場にしていく切り口もありますね(笑)。「50メートル商圏、1分で何でも買える」市場は実に幅が広いんです。



■メリハリのきく週休3日の働き方で社会を変革する

(※)

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――600をどのような会社にしていきたいですか。


一定のリノベーションをできるという確信が得られたら、グローバルに展開していきたいと思います。チャレンジする領域は国内マーケットに限りませんから、グローバルに展開する企業に成長させていきたいです。


弊社もまだ成長過程にあり、上から目線で語れる立場ではないのですが、日本に帰国してから感じるのは、リスクを負ってでも社会の変革に挑戦していきたいという会社が大小問わずたくさんあるということです。弊社のようなスタートアップ界隈だけでなく、日本を代表する企業も含めて、社会全体を変革していこうというエネルギーが日本社会にある。素晴らしいと思うし、そういう社会変革に自分も携わっていきたい。志を共にする方々と取り組んでいきたいですね。



――社会をどのように変革しますか。


結局、今は「無駄な時間」が多すぎると思うんです。例えば買い物の行き帰りの時間とか、宅配で待っている時間とか、ものを手に入れるために無駄に費やす時間が多い。だから弊社は、時間を大切にする会社ということを軸にしています。無駄な時間をなくして、家族のためだったり、自分の将来のために勉強したりする本当に使いたいことに時間を使える世界、時間の価値をより上げて大切なことに使える世界が、私たちの実現したい世界です。


スタートアップとして常に社会変革に携わり、社会を一歩でも二歩でも前進させることに貢献していきたいので、「徒歩1分商圏」を通して時間の価値アップを実現し、社会を豊かにできればと思います。



――600は創業以来、週休3日制だそうですが。


水・土・日を定休日としています。1週間だとだらけてしまうから、メリハリがきくように月火、木金という2日単位で考えるんです。週に2回〆切がある、2回アウトプットを出していく。従業員のパフォーマンスと働きやすさの最大化を目指した結果で、週5日働くよりもパフォーマンスを高められると思っています。迅速に意思決定しながらチームを進めていける組織を組んでいます。副業も認めています。



――少数精鋭主義でしょうか。求める人材は?


愛・誠実さ・責任感・柔軟性・仲間を助ける利他性・局面を変える力という600社が掲げる6つのバリューを持った人です。スタートアップでは局面を打開していくことが常に求められます。日常業務だけで仕事をした気になっていては状況は改善しません。常に状況改善が求められますから。


仕事ばかりしているとタコツボ化というか、世間のニーズが分からなくなりますから、多種多様な人が集まって、多種多様な価値観を充実させ、仕事の価値に転換していくことが必要だと思います。


弊社のサービスは小売り事業で、キッズスペースに様々な月齢のおもちゃを置いたり、時にはタピオカ等の流行りものをすぐ置いてみたり、プライベートで経た情報やトレンドや個々の価値観を事業に転換していくべきだと思っています。


だから男性社員には最低2カ月の育休を義務づけています。子どもが生まれるなどのライフイベントは人生の大切なタイミングです。当社ではプライベートに向き合うことはものすごく価値が高い行為なんです。


プライベートな生活で感じる不便さを事業に転換したのが無人ストアです。ちょっとしたものを買うちょっとした時間を減らし、余った時間を好きなことに使って豊かな生活を身近にしてくれる事業です。



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自販機ではなく「無人コンビニ」は、品揃えは一定ではなく、その近隣の利用者が「これがあったら」と思うものをセレクトしていた。人が集まるところには「ちょっとしたもの」需要があるが、そこにビジネスチャンスを見出し、「50メートル商圏」市場を打ち出した。周辺事業である自販機の補充システムでも商機を捉えつつも、週休3日制や男性社員の育児休暇取得を義務化するなど、働きやすさを追求しながらも社員の「働く」価値観を刺激するともいえる制度を整えていた。今後は「徒歩5分圏内」からどんな新しいビジネスが飛び出すだろうか、要注目だ。






プロフィール


久保 渓 (くぼ けい)

1985年、長崎市生まれ。高校卒業後、米国Carleton Collegeに進学。政治科学とコンピューター科学のダブルメジャーで卒業。2008年にIPA未踏事業に採択。同年、Webサービス売却を経験。

2010年3月にサンフランシスコで fluxflex, inc.(フラックスフレックス)を創業。 2012年帰国。2013年5月に ウェブペイ株式会社を創業。クレジットカード決済サービス「WebPay」をリリース。2015年2月にLINE株式会社の傘下となる。2015年3月よりLINE Payの立ち上げに参画。

2017年5月にLINE Payが国内3000万ユーザーを突破したのを区切りとして退職。2017年6月に 600(ろっぴゃく)株式会社を創業。無人コンビニ(自販機)の「600」を提供している。 


600株式会社コーポレートサイト https://600.jp/ [外部リンク]




編集・文:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※を除く)
取材日:2021年10月5日

         

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