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オフィス移転に悩める企業に経営判断材料を提供~MACオフィス 池野衛氏インタビュー

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池野衛氏(MACオフィス 代表取締役社長兼CEO)

池野衛氏(MACオフィス 代表取締役社長兼CEO)


リモートワークが定着したとはいえ、出社割合はまだ流動的。コスト削減のためにオフィスを縮小すべきか、あるいは生産性を上げるためにむしろ拡大すべきかを決めかねている企業は多い。移転するなら賃料いくらのビルを選ぶべきか、レイアウトはどうすればいいか、フリーアドレスか固定席かなど検討すべきことは山ほどあるだろう。働く環境の最適化コンサルティングを行うMACオフィスの池野衛氏(代表取締役社長兼CEO)、野元篤氏(建築設計デザイン部部長)にお話を伺った。



■「そもそも移転すべきか」ということから考える



――貴社のサービスを教えてください。


池野 働き方改革もあり、コロナ禍もあり、ほとんどの企業様が働く環境に課題を抱える中で、オフィスを移転すべきかということをコンサルティングしています。オフィス仲介と設計デザインを融合した、働く環境を最適化するWEO(Working Environment Optimization)マネジメントというサービスを提供しています。



――そのような事業を始めたきっかけは。


池野 今ではオフィスレイアウトを行う会社も珍しくありませんが、90年代後半頃はCADも汎用的でなく、どこでもやっていませんでした。潜在的な必要性があったのに、大企業でも総務の方が手書きで面倒なことをやっていたんです。当時、大阪で私がある一室のデザインの図面を手書きしたらすごく喜んでいただけたことがありました。そこでビジネスチャンスがあるのではないかと掘り下げて、ホームページで「オフィスレイアウトを無料でします」と発信しました。そういうサービスをウェブ上で展開したのは我々が最初だと思います。



――反響はいかがでしたか。


池野 大反響で、初日から大阪に本社がある有名企業からお問い合わせをいただきました。 企業規模が大きくフレキシブルな会社では、事業の変化に合わせて頻繁にレイアウトを変更します。半期に1回か、早いと四半期に1回する企業もあります。WEOマネジメントサービスを正式に提供を始めたのは2017年からですが、現在までに20社にサービスを提供しています。



――移転を検討している企業に、移転しないことを提案したりもするそうですね。


池野 オフィスが手狭になったりして不動産会社に相談すると、不動産会社は移転してもらうのがビジネスモデルですから、本当に移転すべきなのかどうかはアドバイスしません。


我々は移転ありきではなく、移転すべきかどうかという事前の検証、妥当性を確認し、経営判断材料を提供してアドバイスします。移転か、残留か、何もしないか。レイアウト変更にとどまるケースもあれば、全面改修や増床、減床する企業もあります。什器の使い方をはじめ、いろいろな選択肢がありますから、それを知らずに企業トップが意思決定するのはよろしくないと思います。


移転するかどうかの最終的な意思決定はあくまでもお客様がするもので、私たちはその判断材料を準備しているのです。



――経営者に選択肢を提供すると。


野元 はい、それが当社のミッション「働く環境に新たな価値や選択肢を生みだす」につながっています。


WEOは、賃貸借契約と働き方の見直しを、企業の成長曲線に合わせて提案するサービスです。企業のステージによって投資できない時期もあるでしょうし、投資できるときはどこまでやるべきか、その時期に合わせてご協力します。



野元篤氏(建築設計デザイン部部長)

野元篤氏(建築設計デザイン部部長)



池野 上場準備中のベンチャー企業なら、お金をどのように使っていくのか、増員計画にあわせてどう箱を準備するべきか。パートナーだから、お客様が希望することに反対の案も出します。



野元 移転するかどうかだけでなく、今のオフィス面積をうまく使えているかという悩みも多いですね。



池野 現状のオフィスの課題もレポーティングします。現状のレイアウトでは限定的にしか課題解決できないかもしれないし、移転すれば解決できるかもしれませんが、それはケースバイケースです。



――移転する場合は、どんなことがポイントになるのでしょう。


池野 まずは適正面積です。例えば300坪のオフィスを賃貸していて今後新入社員も入ってくる企業だと、今までの総務は不動産会社に300~400坪の物件を見つくろってもらっていました。我々はそうではなく、300坪のままで増員計画に則った機能的なオフィスは作れないのかと提案します。場合によっては250坪のオフィスに移転できるかもしれません。賃料総額は同じでもグレードの高いビルの小さなオフィスに入ればブランディング効果も上がります。


まずは適正面積を出してから、お好みの立地条件にふさわしいビルを選びます。エリアには企業の好みがありますので、比較も含めて移転にかかるトータル費用をシミュレーションします。移転しない場合の家賃なども含め、ランニングコストやイニシャルコストで判断材料としてもらうわけです。



――オフィス移転で見落とされがちなことは?


池野 箱の使い方、運用面ですね。移転後のフォローまでのカスタマーサービスも我々の得意とするところです。



■コロナ禍でオフィスはどう変わりつつあるか

池野衛氏(MACオフィス 代表取締役社長兼CEO)



――オフィスを減床する企業は増えているのですか。


野元 今はリーマンショック時に迫る勢いで空室率が上昇しています。逆に入ってくるテナントもありますから、賃料はまだそこまでは下がっていませんが。我々も、「面積を最小限にしてグレードの高いビルに移転する」という提案をすることもあります。



――こちらのオフィスもSグレードの素晴らしいビルですね。


池野 ビルのグレードで選び、2012年頃に移転しました。上流の企業と付き合って差別化をはかる戦略で、グレードの高いビルを合わせた方が安心感を提供できるだろうと考えたんです。賃料は都内主要地区平均の1.5倍ほどです。



MACオフィスの本社オフィスは溜池山王のSグレードビル。見通しの良いワンフロアになっている。



MACオフィスの本社オフィスは溜池山王のSグレードビル。見通しの良いワンフロアになっている。

MACオフィスの本社オフィスは溜池山王のSグレードビル。見通しの良いワンフロアになっている。



――御社のオフィスでは、どんな工夫をしていますか。


池野 限られたスペースでポイントを押さえたオフィスができたと思います。あらゆるオフィス什器が揃っているわけではないので、まず我々の働き方を見ていただき、それからオフィス家具メーカーのショールームまでタクシーで案内したりしています。


フリーアドレス化に伴って書類はクラウド化し、極力ペーパーレスにしています。キャビネットも置いていません。


社員も60名になり、事業規模は拡大しています。2025年には100人体制、売上50億円を目指しています。大きな会社にしたいということではありませんが、「MACオフィスにしか創れないもの」を目指しています。



――今増えているオフィスはどのようなものでしょう。


野元 ウィズコロナが言われた時期には感染対策のためのソーシャルディスタンスが重視されました。大きい会議室を少人数で使っていたり、小さい会議室の需要も増えたと思います。


間仕切りで仕切るとコストもかかるので、家具で仕切れるブースが人気です。コロナ前は、集中ブースとして使っていたスペースが、今ではそこでWEB会議をするために使用されています。


最近は大企業でも大会議室の数を減らすことが多くなっています。コロナ禍で、サテライトオフィスという選択肢が増え、Sクラス、Aクラスのビルには貸会議室のテナントも入居していますから、大会議室は貸会議室を利用し、自社オフィスには個別の会議室を作るという傾向があるんです。


コロナ前までは、個別の会議室も「オープン化」、つまりアイデアを出し合うコミュニケーションのために執務室内にミーティングスペースとして設けるのが主流でした。ところがコロナ禍によって個室ブースが増え、小さな個室が必要になってきました、



――感染者数が減り、「ハイブリッド出社」の企業が増えていますが。


池野 何が適正かということは一概には言えないんです。ハイブリット出社でも何人が出社すればいいのかという割合を一律に決めることはできません。そういったことは社内ではなかなか分析できないので、我々が代わって分析を行うわけです。



――オフィスに対する考え方も会社によってさまざまなんですね。


野元 働き方は変わりましたが、オフィスに求められるデザインにはあまり変化はありません。会社には、会社でなければならないものを追求するようになりました。オフィスはなくならないと考えるお客様が多いですね。仕様面ではコロナ対策が標準になり、抗菌仕様でないとダメというお客様も多いです。


例えば自宅には高機能なプリンターなどはないので、それが出社する理由になります。働き方改革によってオフィス什器も省スペース化しましたので、導入の仕方次第でオフィス全体の省スペース化が図れます。


――フリーアドレスを取り入れる企業が増えていますが。


野元 スペースを効率化して多くの人が座れるようにするフリーアドレスは、20年ほど前からありましたが、この5年ほど、ABWなど働く場所を社員が選んで働くフリーアドレスが広まりました。


コロナ対策として、固定席とフリーアドレスのどちらがいいかというと、席の間を一定の距離で保つことが容易なので、フリーアドレスのほうが運用しやすいでしょう。固定席だと隣同士が出社しないようになど工夫が必要になるので、フリーアドレスを望むお客様が多いです。



――デメリットもありますか?


池野 ABWは社員の裁量に任せる働き方ですので、社員を管理体制下に置きたい経営者は今でも固定席ですね。フリーアドレスは効率性が落ちると考える経営者も少なくありません。


フリーアドレスの導入自体はそう難しいものではなく、むしろ運用が問題です。Aさんはいつもこの席、Bさんはこの席と席が固定化する傾向があり、それではフリーアドレスにした意味がありません。フリーアドレスの本来の効果のひとつは、いろいろな人とコミュニケーションを図ることでアイデアが生まれたりすることですから。出社してからサイコロ振って座る席を決めている大企業もあるそうです。


当社もフリーアドレスで、連日同じ席には座らないルールにしています。リモートワークも自由に設定させています。出社率は5割ほどですが、全員が出社しても席はあります。


野元 挨拶など声がけも活性化して、社員同士のコミュニケーションもよくなりましたね。



――働き方については、どんな課題が増えているでしょうか。


池野 人事制度や評価制度は改革が必要ですね。昔は固定席で、管理職が見渡すと部下が見えるのでどう働いているかは大体分かりました。それがリモートワークになると、ちゃんとケアしなければ、どこで何をやっているか分かりません。任せつつ、ちゃんと管理しないといけなくなりました。どういう働き方にせよ、会社は収益を上げないといけません。オフィスのあるべき形態は、それが成果につながっているかどうかでしょう。



――どのようなアドバイスをされていますか。


池野 働く環境の課題解決がマストですが、環境を作るだけでは働いている人の能力を向上させられるとは限らないので、離職を防止したり良い人材を採用したりすることを目標にするようにアドバイスします。


もうひとつはコストです。我々は例えばリーシングも設計施工も当社でやっているので、100のコストがかかるものを80や50でできます。フリーレントや工事期間、トータルコストをコントロールできることが当社の特長です。



――大企業だと決定までに時間がかかるのでは。


池野 足元の成果が良ければいいのか、3年後はどうなのか。キャッシュがあればどう使うのか。経営者は足元だけ見ていればいいわけではありません。足元が悪ければ籠城するのか、攻めて出るのか。籠城して成功した武将はいませんが(笑)、我々のご提案に対して籠城を決めた上場企業もあります(笑)。投資できるキャッシュはお持ちでしたが、あえてそれを使わずに籠城されました。



■空き家を書斎化する実証実験が始まる

池野衛氏(MACオフィス 代表取締役社長兼CEO)



――今後、オフィスはどのようなものになっていくでしょうか。


池野 オフィスにキッチンがあるのもいいですね。私は休日に料理をするので、社員にまかないを提供してみたいです。そこでまたコミュニケーションが生まれるはずです。今どき、飲みに行くコミュニケーションより、社員には健康にも気をつけてもらい、日常の中で会話が増えてほしいです。



――最近ではメタバースなども注目されています。


野元 今後はそういうバーチャルなオフィスが流行るかもしれません。すでにやっているIT系企業もあります。在宅勤務は孤独になる面もあります。オフィスなら同僚などがいつも隣にいることでメンタルヘルスもケアできる。今後はそういう課題もクリアしていきたいと思います。


池野 今後は在宅か出勤かだけではなく、シェアオフィスやコワーキングなどの選択肢も増えるべきだと思います。そういう意味で、今、空き家に着目しているんです。



――空き家ですか。


池野 空き家というと過疎化が進む地方の問題と思うかもしれませんが、実は日本でいちばん空き家数が多いのは東京なんです。国も自治体もこれといった対策をできずにいます。


具体的に我々の取り組みは空き家の書斎化です。古い空き家は個室が多いので、それをそのまま使っていただく。東京で書斎のある家は少ないですから、家では働きにくいという方も多いです。会社の近くまで行けばシェアオフィスなどもありますが、家の近所のカフェではウェブ会議はやりにくい。そういう住宅地にも空き家はあり、老朽化して社会問題化しているので、それを活用すれば三方よし、四方よしの解決法になります。


世田谷区にある100坪の空き家をリノベーションして書斎化する実証実験を2022年から始める予定です。最終的には多拠点展開して、WEOマネジメントサービスと結び付けたいと思っているんです。


企業にとっては、社員が出社しないならオフィスをコンパクトにでき、コストを削減できます。でも、在宅手当は出しても、シェアオフィスと法人契約している企業はまだ少ない。我々が多拠点展開して、在宅で働く方の自宅近くに空き家の書斎を提供できればと思っています。実証実験中にはいろいろな空間を作って、利用者の声を反映していきます。なるべく少額で利用できるようにしたいです。



――なるほど。


池野 これはどの企業もやっていないことです。シェアオフィスに代わるものではなく、働く場所の選択肢のひとつとして提供し、企業の福利厚生に入れていただければオフィスワーカーも喜びます。BtoB、BtoCどちらでもいいと思いますが、最終的には企業が社員のために我々と法人契約してくれるようになるといいと思っています。



池野衛氏(MACオフィス 代表取締役社長兼CEO)





コロナ禍で業績悪化によるオフィス縮小移転が相次ぎ、オフィスの空室率は上昇した。一方でサテライトオフィスなどの需要は増加しており、エリアによっては10~50坪といった小規模オフィスの賃料も上昇している。めまぐるしく変わる中で、企業のオフィス戦略の舵取りは難しい。アフターコロナに向けてオフィスの在り方はさらに大きく変わり、働き方の改革を大きく後押ししていくだろう。






プロフィール


池野 衛(いけの まもる)

オフィスストラテジスト

株式会社MACオフィス 代表取締役社長兼CEO

1971年大阪府出身。1994年京都産業大学工学部卒業。1996年大阪で両親の営む文具店を継承し、コピー機・FAX・パソコン等のOA機器販売に領域を広げた後、さらなるイノベーションを図り、株式会社MACオフィス(継承会社)の代表取締役社長兼CEOとしてオフィスコンサルティング事業のビジネスモデルを構築。2009年 東京進出を機に、スターティア(現スターティアHD、東証一部上場)を引受先とする第三者割当増資を実施すると共にオフィスファシリティ事業を譲受し、主たる事業としての基盤を強化拡大に導く。2012年 北京大学Executive MBA修了。2017年 「イコールパートナー」という考え方を見える化した同社の基幹技術「WEOマネジメント」をサービス化し、時流を捉えた内容が、働き方改革を推進する企業の経営者層に人気を博している。働く環境の最適化など、プランニング実績は1万件を超え、企業組織の賃貸オフィス戦略をサポートするコンサルティング会社として急成長中。


株式会社MACオフィス コーポレートサイト https://www.mac-office.co.jp/[外部リンク]


著書

業界の裏表を知りつくすプロ経営者が教える 賃貸オフィスの最強戦略』(東洋経済新報社)[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2021年11月10日

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