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独立・起業のイメージを覆す「超・個人事業主」になるなら今がチャンス 〜 藤井孝一氏インタビュー

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藤井孝一氏



リモートワークが進み、企業が社員の副業を認めるなど、独立、起業しやすい時代になった。会社を設立せずに「個人事業主」としてビジネスを動かす人たちが増えているが、そんな新しいタイプの起業家たちの特徴や成功の秘訣は何だろうか。話題の書籍『超・個人事業主』を書いた藤井孝一氏に伺った。



■一人でも大きな事業を動かす「超・個人事業主」



――藤井さんの現在の活動について教えてください。


最近までコンサルティング会社を経営し、起業家の発掘、支援を行っていました。現在、会社の経営は他の人に任せて役員となり、フリーのコンサルタントとして活動しています。20年前から起業支援、指導を行う中で育って来た経営者たちのコンサルティングがメインの仕事です。その他に勉強会の主催、講演、著述も行っています。



――ご著書はなんと60冊以上。最新刊の書名「超・個人事業主」は、藤井さんご自身がお作りになった言葉だそうですね。


個人事業主とは文字通り個人で事業を営む人ですが、かつては、起業を志す人でも「個人事業主になりたい」という人はいませんでした。いずれ法人化したいけれど、まずは個人事業主としてスタートする、という人がほとんどだったのです。



――独立して、会社を設立するまで仮に個人事業主としてビジネスをするというイメージですね。


その通りです。ところが今、インターネットが普及して起業支援のサービスも充実しているので、個人でも大きなビジネスができます。ひと昔前なら事務所を借りて社員を雇うというのが「起業」のイメージでしたが、今は会社を辞めて独立して事業を始め、軌道に乗ってもずっと一人のままの人も少なくありません。



――パソコンと携帯電話があればビジネスができる時代になったわけですね。


実際、シェアオフィスを利用すれば自分のワークスペースを持てるし、打ち合わせも共有の会議室でできる。Googleカレンダーなどスケジュール管理ツールを使えば、秘書を雇う必要もありません。一人でもそのように大きな事業を動かしている人を、従来の個人事業主という括りで捉えるのはどうかなと思ったので、敬意を評する意味で「超・個人事業主」と名づけました。



――新タイプの個人事業主ということですね。「フリーランス」とはまた違う?


「フリーランス」というと、自分のスキルを活かして企業から仕事を受託するカメラマン、デザイナー、プログラマーのような職種が思い浮かびます。「超・個人事業主」は形としては一人だけれど、外部の人間と組織を作って一つのプロジェクトを動かす、例えば映画の製作委員会のメンバーのようなイメージです。



■起業家に必要な「稼ぎ力」とは

藤井孝一氏



――超・個人事業主には「稼ぎ力」が必要と書いていらっしゃいますが。


会社勤めの人にとって「稼ぐ」というのは給与をもらうことです。だから会社が倒産したり、リストラされたり、処遇や職場の人間関係が不満でを退社したりすると、別な会社に転職しようとします。しかしお金を稼ぐ方法は、投資をしたり事業を始めたり、他にいくらでもあるんです。税務申告書では「所得」は10種類に区分されていますから。それなのに、なぜか多くの人は給与以外の収入を得る方法を想像できない。まず、「稼ぐ」ということは、人に価値あるサービスを提供してその対価としてお金をもらうこと、という原点に立ち返るべきです。



――会社に勤めていると、その原点を忘れてしまう......。


組織にいても稼ぐ力は必要です。というか、それがちゃんとあるから給与をもらっているはずですが、会社勤めが長くなると、ただ出社するだけで給与をもらっているような錯覚に陥ります。成績が数字で表される営業職のような職種は別としても、経理や総務のような社内向けの仕事をしている人の中には9〜5時で会社にいれば給与がもらえると誤解してしまう人も出てきます。人にサービスを提供して喜んでもらうことがお金の源であり、稼ぐ力だと気づいてほしいんです。



――独立、起業を考えるなら、会社に所属しているときから「稼ぐ力」を意識すべきですね。ご著書には、「儲けのツボ」という興味深い表現もありましたが。


「儲けのツボ」とはいわゆるキャッシュポイントのことです。例えば税理士の資格を取得して税務報酬を得ている人がいます。でも、税理士としての収入=税務報酬と単純に考えず、企業のお金全般を診るコンサルタントになれば、もっと高い報酬を得られる可能性があります。節税や収益力アップのための不動産購入、保険加入などをアドバイスすれば、業者からも同時に手数料を取れるかもしれない。



――顧客に提供するサービスを増やす、と視点を変えるわけですね。


別な例をあげましょう。はじめは個人を対象にしていたダイエットのコーチングをしていた人が、そのままでは限界があると気づき、企業に目を向けました。企業にとって社員の健康管理、増進は大切なテーマです。そこで企業と契約することによって、収入が大きく増えて、安定する。このように、収入を増やすチャンス、「儲けのツボ」を自分で考えて作ることができることこそ「稼ぐ力」なのです。



■「人間力」を磨いて仕事につなげろ

藤井孝一氏



――稼ぐ力は「人間力」でもあるとのことですが。


人間力を鍛えると言うと、「聖人君子になるということですか?」「いい人にならなければいけませんか?」などと聞かれのですが、人間力とは、人とうまくコミュニケーションをとる能力のことです。仕事は一人で部屋に籠って、考えて、閃いたらお金が生まれるものではなく、「これを一緒にやりましょう」という人と出会うことで売上が伸びていくものです。


人付き合いが苦手という理由で独立する人もいますが、必ずと言っていいほど失敗します。売上は人が持って来るものだからです。



――「人間力」を鍛えるには?


勉強会や交流会などにどんどん参加して場数を踏むことです。最近ではソーシャルメディア上のコミュニケーション力も大事です。仕事用のアカウントを作って、試行錯誤して「人間力」を磨いていけばいいのです。



――他にもコツはありますか?


「頼まれごと」はできるだけ引き受けること。もちろん無理難題は断るべきですが、「自信がないから」「お金になりそうもないから」と断ってしまうと可能性もそこで途切れます。Webページ制作を頼まれて無料で作ってあげたら、結果的にメンテナンスで長期間の報酬を得ることになった人もいます。コンサルタント業だったら、起業したばかりの相手に無料で相談にのって実績を作ることも大事です。それがいずれ仕事につながっていきますから。



■最も重要な資源は「時間力」

藤井孝一氏



――「人間力」以外に大切なものは。


会まず「お金力」。独立するとお金の使い方にシビアになります。事業のために借金をしたり、投資したり。税金に関しても節税の努力をします。一方、サラリーマンの場合、仕事のお金は会社のお金なので、何か失敗をしても自分の給与が減ることはありません。個人のお金についても税金は会社が源泉徴収するし、節税と言っても医療控除など限られたものしかありません。



――税金をいくら払っているか知らないという勤め人もいますね。


勤め人は、住宅ローンなど以外の借金に「悪いこと」というイメージを持っていますが、自分で事業をしていれば借金が必要なこともあります。売上を伸ばすため、広告宣伝費用をかけるべきときにお金がなければ借金をするしかない。そのお金を使って、もっと大きなお金を手に入れると考える。勝負どころにお金を使えるかどうかという判断力も「お金力」です。



――「時間力」も大切と書いていらっしゃいます。


勤め人は出社して退社するまでが仕事の時間で、後はフリータイムです。しかし独立すれば24時間が仕事の時間であり、自分の時間でもありますから、それをどう使うかが業績に大きく影響します。昼間は寝ていて夜働いてもいいし、早起きして仕事をしてもいい。何時に何の作業をするかを自分で決めらます。私の場合、アウトプット、創作の作業は午前中にすると決めています。



――仕事の内容や自分が集中力を発揮できる時間帯を選んで作業ができるのも、一人だからですね。


自分で決められるという良さがある反面、ちゃんと考えて配分しないと、他人と差がついてしまいます。誰にとっても時間は1日24時間。それなのに業績に差がつくのは、時間の使い方に問題があるからです。時間あたりの生産性を高めるにはどうすればいいかを考えて、使い方を見直した方がいいでしょう。工夫すれば時間単価は10倍にもなります。そういう意味では、最も重要な資源は時間で、「時間力」を身につけることが何より大切ですね。



■今こそ超・個人事業主を目指すべきである理由

藤井孝一氏



――超・個人事業主になるのは今がチャンスなのでしょうか?


今は大チャンスだと思います。まず、リモート化が進みました。会社員でも在宅で仕事をする人が増えて、職場にいることで評価されるという価値観が根底から崩れました。通勤時間が節約でき、商談もリモートで行えば、移動時間も必要ない。成果さえきちんとあげれば余った時間は自由に使える。その時間を個人事業主としての仕事に当ててもいいわけです。


2つ目は、国が働き方改革の名のもとに副業を後押しし、企業も容認するようになりました。そして3つ目は先ほども話したように、シェアオフィス、スケジュール管理アプリ、会計ソフトなど、サービスやツールが進化したために、ひと昔前と比べて起業が容易になったことです。



■起業は会社を辞める前から始まっている

藤井孝一氏



――起業に興味はあるけれど何をすればいいのか分からない方もいます。


私は「好きなことをやりましょう」と言い続けています。ワイン好きが高じて、有料のワイン会を開催し、レストランのワインリスト作りなどのアドバイスをしている人もいます。親が漁師で、築地市場で働いていた人が「お魚コーディネーター」の肩書きで仕事をするようになったケースもあります。



――お魚コーディネーター?


魚料理をコーディネートするんです。最初は趣味でおいしい魚の食べ方の講座を開いていたのですが、受講者が増え、飲食店経営者なども参加するようになって、仕入れ先のアドバイスからメニュー開発まで行うコンサルタントになりました。さらに、地方自治体にふるさと納税の返礼品のアドバイスをするようになったり、というふうに仕事が広がっていきました。



――まさに趣味や得意分野をビジネスに活かしている例ですね。


今、後継者問題が話題になっていますが、元プロボクサーだった不動産会社の営業マンが、仕事を通じてボクシングジムの経営者と知り合ってジム経営を引き継いだケースもありました。元ボクサーという経歴も大きかったのですが、不動産の仕事を通じてコミュニケーションを取っているうちに、そういう話になったようです。これは先ほどの「人間力」とも関係していますね。



――この人なら頼める、任せられると思われたのですね。


他にも、焼き鳥屋の店主が「歳だから辞めたい」と言って、常連客の一人に「継いでほしい」と頼んだ例があります。このようなケースは、他人が作ったビジネスモデルをそのまま引き継げるメリットもありますね。



――藤井さんは起業を目指す人向けのコミュニティーの準備をされているそうですが。


起業に興味はあるけれど相談相手がいない人のために、まずは勉強会のようなものを開くつもりです。今までも勉強会を主催してきたのですが、今度は私が直接指導するのではなく、すでに起業している先輩たちの話を聞いてもらったり、相談に乗ってもらう場にするつもりです。ビジネスの話だけではなく、投資、税金、相続問題、健康、趣味などざっくばらんに意見交換できるコミュニティーにしたいと考えています。



――最後に、起業を考えているビジネスパーソンへのアドバイスをお願いします。


起業は、会社を辞める前から始まっています。会社にいるうちにやれることはやって、辞めるのは最後の最後というのが私の持論です。辞めてから始めては遅すぎるし、また会社を辞めることがゴールではありません。



――特に今は副業ができるようになった恵まれた環境だと。


もちろんリスクもあるので慎重になった方がいいのは確かです。ただ、起業した人たちをたくさん見ていますが、皆さん声を揃えて「会社をやめて良かった」「独立して幸せになれた」と言っています。私自身、20年前に独立して今に至りますが、後悔したことは一度もありません。起業に興味があるなら挑戦されることをお勧めしますよ。



藤井孝一氏



起業というと、広いオフィスを借りて多くの人を雇うことが成功例のようなイメージを持っていました。藤井さんのお話を伺って、一人起業で、しかも会社勤めをしながら事業を成功させたり、やりたいことを仕事にして幸せになっている人がいることが分かりました。今後、そんな超・個人事業主としてビジネスをする人がますます増えていくような気がします。






プロフィール


藤井 孝一(ふじい こういち)

経営コンサルタント(中小企業診断士)、株式会社アンテレクト取締役会長。

大手金融会社で営業・マーケティングを担当。その間、中小企業と起業家の活動をサポートする経営コンサルタントとしても活動、3年間の二足のわらじ生活を経て、独立する。特に、かつて「副業」とひとくくりにされてきた「在職中から、お金をかけず、低リスクで始める起業スタイル」を「週末起業」と名付け、その普及に東奔西走。「起業したいが、リスクが怖い」と考えるビジネスパーソンたちから支持される。この活動を加速させる目的で2003年「週末起業実践会」(当時は「週末起業フォーラム」)を創設。2万人を超えるビジネスパーソンに起業を指導し、多くの起業家を生み出す。

著書に『週末起業』(筑摩書房)のほか60冊以上。うち、多くが中国・台湾・韓国でも刊行されている。夢は「日本を起業家で溢れる国にすること」。1966年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。


著書

週末起業』(筑摩書房)[外部リンク]


超・個人主義』(クロスメディア・パブリッシング)[外部リンク]


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編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2021年12月22日

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