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「幸福度の高い社会」を目指す独自経営で未来を先取り~ワンピース 久本和明氏インタビュー

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久本和明氏(株式会社ワンピース 代表取締役 ※)

久本和明氏(株式会社ワンピース 代表取締役 ※)


アパレル事業等を展開する株式会社ワンピースは、赤字から7年で売上は7倍、純利益は4倍の経営改革をなしとげた。その原動力になったのが、「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界を作る」という理念に基づき、社員一人ひとりが自立・自走して幸せに活動できる組織だった。究極のSDGsとも言える「ワンピース式経営」について、代表取締役・久本和明氏に伺った。



■7年かけて開発した「ワンピース型経営」


― 事業内容をご紹介ください。


大学を中退してインターンシップ後に起業し、いろいろな事業を試した中で、古着のオークション代行が一番うまくいきました。中でもワンピースの売れ行きが良かったので、中古ではなく新品のワンピースを販売する事業に転換し、今の形ができました。現在はファッションEC販売事業を中心に11ブランドを立ち上げています。女性はリアルでもネットでも服が好きですので、トータルスタイルサロンサービスや試着会なども行っています。また、いろいろな服をたくさん着てもらいたいので、返品・交換無料にしました。


― 理念は「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」とありますが......


もともと、世の中には幸せを感じていない人が多いような気がしていたので、創業当時から「社会全体を幸せにしたい」という想いがありました。当社ブランドのターゲットは40~60代の女性で、社内スタッフもその年代が多いのですが、なんだか全体的にあまり幸せそうに見えなかったんです。だからファッションの力でどうにか幸せになってもらいたいと思いました。


― 幸せそうではない、というのは?


日本は幸福度があまり高くありません。特に、将来に不安を感じている若者が多いことには愕然とします。なぜ幸せではない人がこんなに多いのか。今は、お金のために働くことが困難な時代です。労働イコール幸せとは言えないんですよね。そうした状況を解決できないか、どうしたら今後、持続可能な社会を作れるのだろうかと考え、まずは自分の会社を見直そうと思いました。


ワンピースの価値観は3つ。フラットな組織(ホラクラシー組織体系によって、役職がなく、メンバーそれぞれが自身のロール(役割)を自身で模索し働く)・個人>会社(自分自身が何をしたいのかに基づく意思決定)・多様性(様々なフィールドのメンバー)。(※)

ワンピースの価値観は3つ。フラットな組織(ホラクラシー組織体系によって、役職がなく、メンバーそれぞれが自身のロール(役割)を自身で模索し働く)・個人>会社(自分自身が何をしたいのかに基づく意思決定)・多様性(様々なフィールドのメンバー)。(※)



― 見直した結果、どのような会社になりましたか。


フロー経営、ティール組織、アメーバ経営、チームビルディング、モンテッソーリ教育、ブランド経営、ファシリテーション、MQ会計、老子、大自然といった先人の知恵をベースに、7年かけて開発したのが「ワンピース式経営」です。指示命令管理なし、役員も役職もいない上下関係をなくしたホラクラシー組織体系で、給与も福利厚生も、会社のルールはみんなで何でも話し合って決めています。給与も利益分配制です。今では、社員一人ひとりが自立・自走して幸せに働き、世代交代しても次世代にも続く組織となりました。


― 社員が自立していなければ成り立ちませんね。個人事業主のような感じでしょうか。


はい。自由であるということは、反面、責任を伴います。それが自立ということになります。世の中には会社に守ってもらいたいと考える人もいますが、それでは自走できません。会社の側が社員に頼りすぎるのも同じです。


― 社員が自走するために必要なものは?


人には内発的動機(自分で決めたこと)と外発的動機(他人が決めたこと)があります。内発的動機ではエネルギーを最大限に発揮できますが、外発的動機ではやる気が出ないそうです。内的動機で無我夢中になっている状態をフローと言いますが、フローエネルギーを発動している時に幸せを感じるのだそうです。だから、自分が関わったことやみんなで決めたことは、集団のフローにつながりやすくなります。


― たしかに、自分がやりたいことなら、言われなくても行動しますね。


会社の仕事は、普通、指示命令による行動、条件付きの外発的動機しかありません。「これをやってくれたらこれをやります」という条件が付いていると、やる気にはつながりません。


だから、内発的動機にもとづいて自分がやりたいことができる環境が必要なんです。フロー状態になるためには、無条件の受容・信頼も必要です。無条件で「大丈夫だよ、いいよ」と言ってくれる無条件の受容によって、自発的に行動できるようになり、前に進むことができるわけです。内発的動機と無条件の受容・信頼、この2つがそろうとフロー状態になります。


― コロナ禍をきっかけに広がった在宅勤務にも通じそうです。


在宅勤務が一般化したのは良い傾向だと思います。働き方はもっとシフトしたほうがいいと思います。当社も必要に応じで在宅勤務を取り入れています。リアルで話したほうが良い場面では会社で集まり、必要なければオンラインミーティングでも十分仕事ができます。最終的に対話で解決することは大事ですね



■お金をかけなくても物が流通することを証明




― 物々交換の活動について伺います。


幸福度が高いと言われるフィジーでは、適当というか、所有の概念がないそうです。人を助け合うことも日常的で、自分の物もみんなの物という感じで、物がなくてもシェアして助け合うという文化があると、お金がなくても幸福度が高くなるようです。そこから物と物の交換というアイデアが生まれました。


「ぐるり」はお金を使わず物と物を交換し、お金を必要としない世界を世の中に広げて、みんなで体験して、自分や周りが困ったときにお互い助け合えたら、お金がなくて苦労することのない社会ができると考えて個人的に立ち上げた物々交換のオンラインコミュニティです。本社のある兵庫県加古川市中心にリアルでも開催しています。


Facebookコミュニティ「ぐるり(物々交換掲示板)」https://m.facebook.com/groups/251208873396797/や、兵庫県加古川市などで交換会を開催。(※)

Facebookコミュニティ「ぐるり(物々交換掲示板)」https://m.facebook.com/groups/251208873396797/や、兵庫県加古川市などで交換会を開催。(※)



また、ぐるりとは別に、アパレル業界が深刻な服の廃棄処分問題に直面していることから、服をシェアリングする交換会を、お付き合いのあるマルイさんを中心に開催しています。「新しい服との出会い」と「廃棄処分問題」の両方を解決し、地球にも女性にも服にも良い社会を作るための試みです。



マルイ有楽町店で開催した「服の交換会」(※)

マルイ有楽町店で開催した「服の交換会」(※)



― まさにSDGs的経営ですね。


やってみてわかったのですが、おしゃれはコストをかけなくても楽しめるんです。お客様もコストがかからずたくさんの服が着られるので、それがおしゃれを楽しむ原動力になっていると思います。今後、全国的に広がっていくといいなと思っています。


― 0円交換会では利益を得にくいと思うのですが、会社はそれで大丈夫なのですか?


全然大丈夫ではありません(笑)。実は、最初は会社を通して「ぐるり」をやるつもりはなかったんです。これを会社に還元するという意味では、今後ユーザーが増えたタイミングで有料のコミュニティを作りたいと思っています。


それでも「ぐるり」を続けている理由は3つあります。


一つ目は「義」ということです。日本の歴史上、「徳」というものがあって、その中に、自分だけではなく人のために正しいことをする「義」があります。「義」をベースに考えると、短期的な利益を超えた正しさを誰かが実践しなければ良い社会にはなりません。できる範囲で正しいと思うことをやっていくことが使命だと思っています。


二つ目は「持続可能性」です。100年後も持続していくためには、「作って・売って・捨てる」という社会には限界があると思います。今、人類が崩壊しないためには少しずつギアチェンジしていくことが必要です。


三つ目は「脱成長性」です。世界の経済は今以上には成長していかないという予想があります。お金がある世界を作れば作るほど、人間関係が希薄な社会になっていきます。でもコンビニでお金を払えば物は買える。信頼関係がなくても取引をできるのは、お金があるからです。物がない時代は物をたくさん作って利益をのせて流通すればよかったのですが、物があふれている現代では、利益を載せて物を流通することはものすごく難しくなりました。物はたくさん持っていてお腹いっぱいの人に物を押し付けるのは、商売として難しいのです。


でも、「ぐるり」ではこれまでに4万着の服が流通しています。お金をかけなくても物が流通することを証明できたわけです。ボランティアスタッフは服の交換会の雰囲気を楽しんでいて、利益を追求しなくても信頼関係と幸福度を上げることができることを体感しています。



■衣食住・教育を0円にする




― 今後のビジョンや目指していく社会は?


幸福度を上げていくためには、衣食住・教育が0円に近いような社会を作る必要があるという考えにいたりました。


今までは物を所有することが豊かさになっていましたが、最近では、物をシェアリングして流通させることで個人が豊かになれるようになった。お金をかけずSNSなどで情報をシェアすることでコンテンツが増え、何だか楽しいし、面白くなっていますよね。YouTubeなども、編集は大変だそうですが、それを労働と捉えるのか、楽しみと捉えのるか。


― たしかにお金のためにSNSに参加している人は僅かですね。


衣食住・教育が0円に近くなるということは、生活にかかる物や住む場所をシェアしたり、助け合うことができれば、お金がないという不安がなくなるということです。そうすれば労働から解放される社会に変わります。ベーシックインカムのような考え方です。それが日本中に広がれば、今の半分の時間だけ働いて自由な時間が増えますから、それを使って家族の団らんが増え、好きなことができ、誰かのために何かをしようとする人も増えて、幸福度が上がっていくのではないでしょうか。


― 農業(お米作り)もしているそうですが、それも同じ考えから?


農業はプライベートで個人的に始めたものですが、最近は脱都会暮らしが増えているので、自分で作って食べることが今後スタンダートになっていくと思っています。


― ワンピース式経営はどの企業でも実現可能でしょうか?


当社の経営の仕方がどの企業にも当てはまるとは限りませんが、社会情勢を見すえて相当なエネルギーをかけて取り組まないと、当社のような取り組みは難しいと思います。言うなれば、ガラケーからスマホに変えるくらいの大変さというか (笑)。


やはり大事なことは、内発的動機にもとづいて自分のやりたいことができる環境を作ることです。誰かに言われなくても前向きに行動ができるからです。


自分の経験から言うと、うまくいかない状態が続いたときには、自分の考えを捨てて変容することも大事です。一度、自分を疑ってみるといいですよ。持続可能な会社、時代に合わせて変化できる組織づくりが必要です。







使っていない服をみんなでシェアしあうことで、服がみんなの共有資産に変わる。ワンピースが作っているのは、「価値ある服をつくる→価値ある服を残す→価値ある服を譲る→価値ある服を使い続ける→楽しみあう」という循環だ。衣食住・教育=0円が実現して社会を変えたいという久本さんのフローが感じられた。もはやコロナ前には戻れないように、社会も個人も変容するべき時が近づいているのかもしれない。






プロフィール


久本 和明(ひさもと かずあき)

株式会社ワンピース代表取締役。非営利団体『ぐるり』創設者。1984年、兵庫県生まれ。明治大学在学中にベンチャー企業にてインターンを経験。大学を中退して独立後、2007年、23歳の時に株式会社ワンピースを創業。「人々の毎日に、幸せや歓びや感動の溢れる世界をつくる。」というコンセプトのもと、経営者も従業員も、分け隔てなくみんなが幸せに働ける組織の在り方を追求。ティール組織、アメーバ経営、フロー理論、老子、日本文化、チームビルディング、ファシリテーション、コンセプトデザイン理論などを研究、実践。7年間の挑戦を経て、指示・命令・管理・評価がないにもかかわらず、社員が自分で考え、決め、行動するワンピース流の経営手法を確立。また、社会全体の幸せを目指したプロジェクトも複数運営している。


著書

僕たちはみんなで会社を経営することにした。(クロスメディア・パブリッシング) https://www.cm-publishing.co.jp/9784295405894/[外部リンク]


株式会社ワンピース  https://onepeace-net.com/[外部リンク]

ワンピース式経営 https://onepeace-ka.com/[外部リンク]



編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年3月16日

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