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「カフェ風」を超える、真にクリエイティブなオフィスで生産性を向上させる ~株式会社CREARTH(奈良市) 角野浩司氏インタビュー

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角野浩司氏(株式会社CREARTH 代表取締役)

角野浩司氏(株式会社CREARTH 代表取締役)


デザイナーズオフィスをはじめ、店舗、住宅などのリフォーム、リノベーションを奈良市内で手がける工務店、株式会社CREARTH(クリアース)は2020年8月に新社屋を開設した。同社が得意とするのは、ニューヨークの倉庫街ブルックリンのような重厚でカジュアルな雰囲気のインダストリアルデザイン。デザインにこだわった新社屋は、人が集まり、働きたくなり、かつリラックスできる実験用のモデルハウス(プレゼン用物件)だという。デザイン性がもたらす働き方への効果について、角野浩司社長に伺った。



■コロナ感染拡大と社屋工事がバッティング。でもそれが良かった



― とても目をひく内装ですね。以前からこのようなデザイン建築を主にされていたのでしょうか?


もともとは小さい修繕や水回り工事、リフォーム、リノベーションなどを手がけていました。新社屋を開設するにあたり、事務所のデザインや設計を全部自分でやって、自分がかっこいいと思う事務所を作ってみたんです。意外にも、それがお客さんに「かっこいいじゃないの」と言ってもらえるようになり、そこからちょっとずつ認知されて、ご依頼が増えるようになりました。今はデザイン建築に特化しつつあります。


― コロナの感染拡大以降、ご依頼内容に変化はありましたか?


人の動線が変わりましたね。たとえば一般住宅では「玄関を入ってすぐの場所に手洗いが欲しい」という要望が多くなったりしました。また、リモートワークが増えたので、画面越しに映る背面を白い壁紙ではなく、おしゃれなもの変えたいという希望もあります。


もともとは一般住宅の需要が多かったのですが、コロナ禍で閉店した店舗の居抜き店舗の改装や、賃貸物件に付加価値を付けるための改修工事といった依頼が増えています。


コロナ以降、人々が空間に求めるものが変わってきたと思います。オフィス物件などでも、オシャレでかっこいいものへとシフトしていく潮流が生まれ、そんな需要に対する新たな自社の強みを生み出せていると思っています。


― コロナ禍での新社屋建設はいかがでしたか。


今のこの物件を購入したのは2018年で、2019年の正月明けから着工したのですが、たまたまコロナの感染拡大が重なってしまいました。でも、今思うとそれがプラスに働いたと思います。


― と言いますと?


4月ぐらいからコロナが本格化して、1か月ぐらい仕事が止まってしまったのですが、このオフィスはもうすでに建設が進んでいたため、毎日この現場に来て、職人さんたちと何回も打ち合わせをすることができました。


壁だけでも3回ぐらい塗り替えているんですよ。もともとこういうデザインが好きで「いつか建てよう」と思ってはいたのですが、コロナ禍が落ち着いてきた今のように現場があちこちあったら、ここまでこだわれなかったかもしれません。タイミングが良かったというのはそういう意味です。


ここはショールームとしても機能していて、見学にいらっしゃって、「これと同じようなかっこいいオフィスを作ってください」「ここまでオシャレな社屋にしてもらえるならあとは任せます」と言ってくださる方が多いです。



■細かいこだわりは無数! 人が集まる、働きたくなるオフィス




― 実際に働きやすいという反響が多いそうですが、見どころは。


まず、壁紙を使わずに独自に配合したモルタルを塗っているところです。コーティング剤を表面に塗っていますので、掃除や除菌などもしやすいです。ディズニーリゾートやUSJなどのテーマパークにも用いられているのと同じ「モルタル造形」の壁も取り入れて、部屋ごとに個性を出しています。



硬化前のモルタルを彫刻し、特殊塗装でレンガや石、木を本物そっくりに再現したモルタル造形壁。

硬化前のモルタルを彫刻し、特殊塗装でレンガや石、木を本物そっくりに再現したモルタル造形壁。



微妙なニュアンスを求めて、何度も道具を変えて塗り続け、独自の配合とコテ使いで理想的な濃淡と陰影を緻密に再現した。調合のノウハウは門外不出。

微妙なニュアンスを求めて、何度も道具を変えて塗り続け、独自の配合とコテ使いで理想的な濃淡と陰影を緻密に再現した。調合のノウハウは門外不出。



天井から吊された照明は、一見不釣り合いな大きさにも見えるかもしれませんが、アクセントとして立体的に空間を仕切る効果を生んでいます。


天井にはダクトレール(ライティングレール)を取り付け、好きなところにスポットライトを付けることができます。


また、廊下など、あまり明るさを求めないところにはフィラメント電球(いわゆる「エジソン電球」と言われる琥珀色のLED照明)を多用しています。



明かりの配し方次第で、集中したい、疲れをほぐしたい、気分を上げたい、といった気分もコントロールできるという。

明かりの配し方次第で、集中したい、疲れをほぐしたい、気分を上げたい、といった気分もコントロールできるという。



窓も広めに作っていて、周囲の緑を借景に取り入れていますし、エントランスから入ってすぐ目に入る螺旋階段は、オフィス全体のシンボルにもなっています。





......というように、細かいこだわりは、もう無数にあります(笑)。見学に来ていただけましたら、いくらでも詳しくお話します。


― モルタル塗り壁や造形壁、レンガ壁といった凝ったデザインには、どんなメリットがありますか。


壁紙と違って、手仕上げによって生み出される表情が「本物感」をもたらしてくれます。 塗り壁なのでひび割れが生じやすいというデメリットもありますが、そのひび割れ自体を味として楽しんだり、割れたところだけを補修して、その補修具合もかっこいいと思っていただけたりする方だと、気に入っていただけると思います。


― コスト的にはどうでしょう。高くつきそうですが......。


もちろん壁紙よりは数倍高いですね。こういう造形は一点ものですから。もちろん、予算に合わせて、一部に雰囲気のある壁紙を取り入れたりすることもできます。



■「そんなにかっこいいオフィスなら一度行ってみよう」


CREARTH オフィス全景

CREARTH オフィス全景



― デザイン性の高い、いわゆるデザイナーズオフィスは、ビジネスにどんなインパクトをもたらすと考えていますか?


当社にとっては、まず打ち合わせが大幅に減り、人件費や工期日程の短縮につながっています。


これまでは内装だけでも何回もの打ち合わせなければならなかったのですが、弊社オフィス自体をインダストリアルデザインのショールームとしてお見せできるようになってからは、クライアントへの提案が飛躍的に通りやすくなりました。外で打ち合わせをする機会がほぼなくなりました。


ある程度のイメージパースだけお見せして、「空間全部をお任せします」と言われることが増えました。あるシェアオフィスさんは、内装デザインを見た瞬間に即決で契約していただけました。奈良市内にはこういうブルックリンスタイルのデザイナーズオフィスを手がける工務店が少なく、金額についても特に何も言われないことが多いです。


また、こういうオフィスにしたことで求人広告への反響がすさまじく、採用には絶大な効果を発揮しています。インスタグラムで弊社の社屋の写真を見て、建築が大好きなスタッフが応募してきてくれ、今は一緒に働いています。


― おしゃれなオフィスや住宅を希望するクライアントは増えていますか?


そうですね、今も奈良市内のシェアオフィスをはじめ、オフィスデザインのご依頼をいくつもいただいています。一般住宅でも、「カフェ風住宅を作りたい」「一部を土足の土間のようなところを取り入れたい」という人も増えていますね。


― オフィスをリニューアルしたクライアントの反響は?


「居心地が良くて仕事がはかどる」「朝出勤するのが楽しみで、残業も苦にならない」「人を呼びやすくなった」という社長様もいます。移動しないからゆとりも生まれるんですね。ある電気店ではお客さんが事務所に来てもらいやすくなったそうです。「そんなにかっこいいオフィスなら一度行ってみよう」と。電気屋さんだからといって電気屋さんっぽいオフィスにしなくてもいいと思います(笑)。

私たちも工務店ですが、「いかにも工務店」といったオフィスにはしませんでした。先日も通りすがりの女性がカフェと間違えて、「コーヒー飲めますか?」と入ってこられました(笑)。


― 今後の展望や構想を教えて下さい。


オフィスの在り方について、こういう空間で働く良さをもっと認知してもらいたいです。従来のようなオフィスではなく、社員の気分が上がるオフィス作りも福利厚生の一つと考えています。「環境の良い職場作り」をテーマにこれからもやっていきたいと思います。


― オフィスの改装を検討している方へのアドバイスをお願いします。


このオフィスを作ったことで、「空間が人を作る」ということを改めて実感しました。おしゃれな空間にいることでスタッフの意識や行動が変わったと感じています。


たとえば作業スペースは黒をベースにしているので、ホコリがちょっと目立ちやすいのですが、かえって綺麗さを保ちたいという思いが働き、自然と頻繁に掃除が行き届くようになりました。ゴミ箱ひとつ買うのでもオフィスの雰囲気に合ったものを探したりするなどインテリアを気にするようになりました。この空間に合わせて、肩肘張らない自由な働き方ができる会社を目指しています。


「作業できればどんな場所でもいい」という考え方から、作業する環境に投資する考え方にシフトしてはいかがでしょうか。デザイン性にこだわることはムダではなく、投資以上の良い作用を生んでくれます。



■ポジティブなエネルギーが生産性を生む循環へ


併設のレンタルスペース「K-LABO STUDIO」

併設のレンタルスペース「K-LABO STUDIO」



ここで、同席していただいた、CREARTHで働く皆さんにも感想を伺った。


― このオフィスで働いてみてどうですか?


池さん  会社に来る足取りが軽くなりました。月曜日でも全然憂鬱になりません(笑)。仕事しているという感覚があまりないんです。気分が全然違うので、ひらめきやすいです。会社っぽくなく、かといって家にいるような感じでもなくて。最近、カフェで作業する人が多いですが、それは頭を働かせやすかったり活性化させやすかったりするからですよね。このオフィスは、その感覚に近いと思います。常に高揚感があって、すごく自由に働かせてもらっています。のびのびとしてリラックスした働きができるので、かたくるしさもありませんし、パフォーマンスや生産性が上がっているのを実感できます。


― CREARTHには転職で入られたそうですが?


池さん  前職のオフィスはまさに会社然としていて殺風景で、黙々と作業する感じでした。お昼ご飯も作業用のテーブルでそのまま食べるのが当たり前のような環境で、やすらぎもなく、ずっと仕事モードでした。ここでは仕事をする場と分けて併設のレンタルスペースでご飯を食べられるし、コンビニのご飯なのにカフェでご飯食べているような気持ちになれます(笑)。毎日コンビニご飯でも飽きません。空間が違うだけでこんなにも気分が変わるなんて、と思います。オン/オフの切り替えもしやすく、午後も頑張ろうという気持ちになれます。


― いいところづくめですね。ネガティブなこともありますか?


別府さん  あえて言うなら、作業していると時間を忘れてしまうことでしょうか。お昼を食べるのを忘れたり、気づいたら定時過ぎていたり。それほど集中できてしまいます。前職では早くお昼にならないかな、仕事終わらないかな、と待ち遠しい思いをしていましたが、今は「もうこんな時間なの!」と思うことが多いです。


― ネガティブなようで、とてもポジティブな話ですね(笑)。


池さん  受け身ではなく積極的に働けているので、とてもポジティブなエネルギーが社内全体に溢れているように感じます。「働かされている」のではなく、自分からやることを見つけて動けるのは、気持ちの面でも雲泥の差があります。社員一人ひとりのそういうエネルギーが、回り回って会社にも大きな影響を及ぼして、良い循環が生まれています。私はここで働くようになって1年4か月ほどですが、普通、環境に慣れてダレてしまうようなことがありますが、それがありません。毎日オフィスに来るたびに新鮮な気持ちがずっと続いているのは、このおしゃれなオフィスと自由な社風のおかげだと思います。



(左から)社員の別府さん、池さん、角野社長

(左から)社員の別府さん、池さん、角野社長





CREARTHが得意とするインダストリアル・ブルックリンスタイルは、長く工場や倉庫として使われていた空間の元の味わいを残し、古いものを活かして楽しむもの。壁に露出した電気や空調の配管やスイッチも、渋いヴィンテージ調度でした。エイジング技術によって、画一的だった製品が経年変化で個々に違った美しさを宿していく。角野社長はそれを「個性を吹き込む作業」と語ります。理屈抜きに、落ち着きや懐かしさが感じられる空間でした。






取材協力

株式会社CREARTH

20年余り建築一筋の角野浩司氏が2012年に設立した奈良市の工務店。住宅・店舗・オフィスのスタイルリノベーションを中心に、小さな修繕から一般的な改装工事まで、奈良市以外にも大阪・奈良・京都南部に実績多数。企業理念は「お客様とは一生涯のお付き合いを前提とし、あらゆる工事に真心を込めて取り組み、顧客満足を大切にします」。

コーポレートサイト https://crearth.co.jp/ [外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年3月30日 

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