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日本のオフィス・働き方が海外と決定的に異なるところとは? ~PLPアーキテクチャー 中島雷太氏インタビュー

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中島雷太氏(中島製作所代表・PLPアーキテクチュア駐日代表)

中島雷太氏(中島製作所代表・PLPアーキテクチュア駐日代表)


海外と日本とではオフィスはどう違うのか。日本よりABW(Activity Based Working)が浸透している印象の欧米のオフィス事情、そして日本と海外の働き方の軸の違いとは。ロンドンを拠点に活動する建築家・リサーチャー集団PLPアーキテクチャーの駐日代表、中島雷太氏に建築家の視点から伺った。



■日本人にはABWは馴染まない?

― 中島さんはロンドンで建築家として活動後、アブダビ、シンガポールでのプロジェクトに携わられました。帰国してからは外資系建築事務所を経て独立、建築・建設事業プロジェクトのマネジメントやアドバイスを提供する中島製作所を創業されました。

まず、海外のオフィス事情について伺いたいのですが......


企業によっていろいろなオフィスがあります。たとえば僕が駐日代表を務めているPLPアーキテクチュアのロンドン事務所は、大きなフロアで固定席です。設計事務所で働く建築家は自席の周りが本や図面の山になっていて、それを持って移動するは大変なのでフリーアドレスはやりたがりません。


一方で、経営コンサルタントなどはフリーアドレス大歓迎です。クライアントの会社に出向したり、プロジェクトベースで仕事したりすることが多いので自席を持つ意味がないからです。


業種によるのは、日本も同じだと思いますが。


― 日本でも海外流のABWオフィスが増えていますが、違いはありますか?


日本と欧米では文化の素地が異なるため、ABWや、フレキシブルなワークスペースの使い方に大きな違いがあります。


欧米ではABWはコロナ前から当たり前のようにありました。とくにアメリカ人は顕著で、自由にいろいろな場所で働くことが、高校生、大学生の頃から身についています。教室の床に座り込んで教科書を読んだり、芝生に寝転がって本を読んだり、自分の居心地の良い場所で勉強する。つまりABWです。


オフィスも同じで、ずっと自席に座って作業するのではなく、静かなところがよければカフェに行ったり、自宅にしたり、自発的に考えて自発的に選んで実現するだけのことです。


― 日本ではABWオフィスで逆に悩んでしまうワーカーもいるようです。


日本ではみんなが同じ行動をしていないとソワソワする人が出てきます。教育の結果、そのようにトレーニングされてしまっているのでしょう。


ラウンジで足を崩して会議資料を読んでいて態度がでかいと言われたりするのはABWとは逆方向です。その人にとってそのスタイルが一番頭に入るのに、咎められてしまう。何となく右へ倣え、というのが日本文化で、その根性が変わらないとABWが定着するわけがないと思います。


― 手厳しいですね。


例えばABWのフォーマットでソファ席を作ったり、ラウンジ席と固定席を分けたりすると、日本ではそこで新たなルールが必要になります。誰かがソファ席を使ったら、別な日は違う人が使うのが公平とか。そうでないとクレームが出てしまう。だからあらかじめ忖度して、予約制にしたりすれば、そもそものABWの意味がなくなるわけです。だったら固定席でいいじゃないかと。


だから正直に言うと、国民性を変えてまでABWを導入する必要があるのかと思うんです。日本人は、前習えで仕事するほうが圧倒的に楽だという人が多いんですよ。そういう人にとってはその方が生産性も上がるのでしょう。わざわざ欧米式にする必要はない。



■オフィスは集まることに意味がある



― すっかり浸透したリモートワークについては、どうお考えですか。


じつは、僕は圧倒的に反対です(笑)。


僕は仕事柄、昔からリモートワークでしたが、それが成り立つのは相手との圧倒的な信頼感があるからです。お互いを知り尽くして阿吽の呼吸がわかっているし、作業の内容も明確で自分が何をすべきか分かっている。向こうも僕を信頼してくれているわけです。


でも会社という組織で考えると、放っておいて仕事を100%できるわけではない人もいます。上司や先輩が軌道修正したり、人間的にもまだ仲間意識を作ってあげたりしないと生産性が上がらない人。特に新入社員は社会人として仲間に入れてあげるべきです。こういった人たちは、リモートで仕事をするのは限界があるわけです。


― リモートワークできる人とできない人がいると。


肌感覚を感じる距離に人がいることはすごく大事です。昨今は先輩・後輩、上司・部下というつながりも薄れているかもしれませんが、ある程度の人間関係があり、できれば思いやりも生まれる人づきあいがあって、初めて会社の機能がファンクションしていくのではないかと思います。


欧米のように、業務内容はこう、あなたの終業時間は何時で成果はこう、対価はこうです、という外部発注的な仕事が主流になるのならそれでもいいかもしれませんが、それは相当の覚悟がある人たちでないと成り立ちませんよ。個人事業主のように仕事するのはきつい。


僕も今ひとりでやっていますが、寂しいときは寂しいですもの(笑)。


― 仕事はリモートでできるからオフィスは要らない、とはならないわけですね。


リモートワークが拡大して、物理的距離を離していく方向になるなら、そもそも「会社」は要らないでしょう。「カンパニー(COMPANY)」というのはラテン語で「パンを分かち合う仲間」という意味です。集まることに意味があり、拡散するなら個人事業主だけでいいのです。


― アフターコロナのオフィスではコミュニケーションが重視される傾向ですが。


昔の日本の会社では、固定席の島のお誕生日席に部長が座って、部下を怒鳴ったりしていました(笑)。それはもう難しいわけですが、これからのコミュニケーションは、すごく細やかな気遣いが必要になると思います。何か注意したり大切な話をしたりするときには、話しやすい雰囲気、委縮しないような1on1の個室が必要になるなど、場面ごとにふさわしい設えが必要になります。どういう工夫ができるか、デザイナーの腕の見せどころですね。


僕らはお客様が気づかないような工夫をいっぱいしています。


これからのオフィスは「来たくなるようなオフィス」と言われますが、後ろ向きに「拘束される」場所ではなく、積極的に行きたくなる場所でなければいけない。そこまで意識に変わってきました。


― 来たくなるオフィスとは、どのようなものになりますか。


床や机、色彩、音響といった細かいところも非常に大事になって来ます。こうすれば和みやすい、リラックスしやすいというアイデアはたくさんあります。たとえば壁に絵をかけるだけで空気が全然違うわけです。1対1の話し合いはリラックスできる部屋を使ったり、プロジェクトで働くときは活気がある部屋を使ったり。昔は会議室といえば大きな机がドーンとあればそれで用が足りましたが、今後はそれではもの足りなくなるでしょう。



■「持ちつ持たれつ」の日本からの脱却



― 中島さんはロンドンの建築事務所PLPアーキテクチャーの駐日代表として、日本と海外の建築家の懸け橋のような活動をされていますね。


先ごろ、「建築設計における海外デザイン事務所との付き合い方~業務契約締結に向けてのガイドライン」という小冊子を2年がかりでまとめました。海外と日本での建築家の意識の違いを理解するきっかけにしてほしいと思って執筆したものです。


― 海外の建築家は日本とどんな違いがあるのですか。


プロ意識の違いです。日本では幅広く知識のあるゼネラリストが重宝され、実は職人気質のプロフェッショナル意識を持っている方がいないのではないかと思っています。


自分の業務領域をわかった上で仕事をするのはプロとしての大前提ですが、日本ではその領域がグレーです。設計者、施工者、デベロッパー、行政が責任を分担しており、持ちつ持たれつが多く、変な貸し借りがあったりする。業務領域があるようで、ないんです。


― ガイドラインでは、次の契約を考えて今の契約条件に妥協することを戒めていますね。


「次の契約で何とかするから、今回は我慢してくれ」と言われることが日本では珍しくありません。海外では仕事は一発勝負ですから、これは通じません。「今回は妥協して受け入れれば、何とか認めてくれる」という甘い考えではコテンパンにやられます。


中近東では日本のゼネコンが巨額の赤字を抱えて撤退したケースを何度も聞きました。その企業にプロ意識がないわけではなく、ビジネスの軸足、考え方の基本をどこに置いているかを勘違いして、そもそもの勝負ができなかったのではないかと思います。


― グローバル化に向けて日本が認識を変える必要性。建築の分野に限った話ではありませんね。


日本は何百年もかけて特殊な文化と商慣習、社会構造を作り上げてきましたから、国民性や国特有の文化を一朝一夕に変えられません。国・外交・ビジネス・個人のレベルで異文化とのコミュニケーションを考えなければいけません。


例えば中近東でローカルの人間と商売するなら、人間関係が絶対に必要です。いかにすばらしい製品でも、売り込むのは簡単ではありません。しっかり相手とコミュニケーションして、なぜこの製品が良くて、あなたに必要で、なぜこの値段なのかをちゃんと伝えられないと、本当の意味でグローバルビジネスはできないのです。



■一日の営みがオフィスビルの中に集約される



― 最後に、中島さんが参画している、日比谷公園を中心とした内幸町エリアの街づくり「TOKYO CROSS PARK構想」について、コンセプトなどお聞かせください。


マスターデザインという形で、全体のデザインと、「ノースタワー」、「セントラルタワー」という高層ビル2棟を担当しています。肝は、目の前に日比谷公園があることです。内幸町という町が再定義され、新たなアイデンティティが生まれます。街の人の流れが変わるくらいインパクトがある再開発になります。


― オフィスとオフィスビルの関係はどうなるのでしょう。


オフィスビルという入れ物が働く場所だけに独占されていると、そこでできることは限られてしまいます。ビルの中にジムや託児所など街の要素を凝縮させれば、さまざまな日常の営みをビルの中でできるようになります。産後の女性も働きやすくなるし、副業をしている方が半日ずつ働いたり、習い事でスキルを高めたりできるようになる。


つまり、そのような「場づくり(プレイスメイキング)」によって、こんなことを大切にして毎日を過ごしている、ということを演出できる施設がオフィスビル内にあることが大切になります。


街という広域を行ったり来たりして一日の営みを完成させていたのが、コンパクトにビルの中に集約される。そこに魅力を感じて、そこにいたい、働きたいと考える人も増えるでしょう。



「TOKYO CROSS PARK構想」ニュースリリースより(※)

「TOKYO CROSS PARK構想」ニュースリリースより(※)







仕事はコミュニケーションがあってこそ。仲間と働くなら最重要な要素だ。コミュニケーションを疎かにするなら個人事業主でも良いことになってしまう。リモートワークが一般化した今、その基本に立ち返って互いの信頼を培わなくては、リモートワークもABWもスムーズには進まないことを、中島さんのお話から学んだ。様々な視点を盛り込んだ内幸町の新しい街づくりにも期待したい。






プロフィール


中島 雷太(なかじま らいた)

東京都出身。1989年スイス ジュネーブインターナショナルスクール卒業後渡米。1993年米国ミズーリ州ワシントン大学建築学部修了。1997年英国ロンドン建築協会(AAスクール)ディプロマ課程修了。2001年英国建築家資格取得。英国王立建築家協会会員。
1997年から11年に渡り英国ロンドンにて建築家として活動。英国国内プロジェクトに始まり、ヨーロッパ、中東諸国での多数プロジェクトに携わる。主にオフィス、複合商業施設、ホテル、交通機関などの大規模プロジェクトを手掛ける。
2008年からアラブ首長国連邦アブダビにて新国際空港ターミナルプロジェクトに携わる。現地プロジェクトマネージャーとして、主にクライアント/プロジェクトチームコーディネーションからデザインマネージメント/施工管理全般に関わる。また現地法人の立ち上げから、事務所運営全般の責任者として、中東地域プロジェクトに多数関わる。 1年間のシンガポール駐在を経て2013年に帰国。ゲンスラー・インターナショナル・リミテッド東京オフィスにプロジェクトマネージャーとして勤務。主に外資系企業の日本事務所プロジェクトや日系企業海外プロジェクトを担当。
2017年4月 中島製作所を設立。代表を務める傍ら、英国・ロンドン本社の建築・設計会社であるPLPアーキテクチュアの駐日代表も兼務。


合同会社 中島製作所[外部リンク]


PLPアーキテクチュア[外部リンク]



編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年6月15日

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