家族とほどよい距離感を保ちながら仕事に集中できる「コモリワーク」(※)
コロナ禍によって在宅勤務が一般的になったものの、プライベート空間である家庭で仕事をすることに慣れず、戸惑いを感じる人も多い。大和ハウスグループのコスモスイニシアとリコーの共創プロジェクトから実現したワークスペース「コモリワーク」「ドマワーク」のアイデアは、同じ保育園に子供が通う子育て仲間つながりのプロジェクトから発案された。これらを採用したリノベーションマンションとはどのようなものか、コスモスイニシアの岸本泰明氏(流通事業部商品企画部建築課 課長)に伺った。
――テレワークを前提とした住宅は、どのような経緯で生まれたのですか。
本アイデアはもともとコロナ前の2019年から企画していたものです。当社では2012年にリモートワーク制度を開始しており、2015年には本格的にリモートワークを推進していて、2020年の2月にはzoom会議なども導入準備に入っていました。
そんな中で、今の住まいで仕事をするには不便があるという話が子育て等在宅勤務の多い社員から出ていました。
今回、たまたまリコーさんからお話を頂き、リコーの技術を使いながら当社の住まいづくりのノウハウを活用して一緒に新しい住宅をつくることになりました。
――オフィス機器メーカーは個人向け住宅にはあまり縁がなさそうに感じますが。
子育て仲間です(笑)。私の部下がこのマンションの担当者だったのですが、同じ保育園に通っていたリコーさんの社員の方からご提案があったんです(笑)。リコーさんでは、新規事業の創出に向けた取り組みとして、デザイン思考のメソッドを使った「価値創出プログラム」を社内外で展開しています。そのプログラムを用いてワークショップをやってみようということになりました。
――ビジネス領域の異なる二社が参加するワークショップとは面白いですね。
住空間×働き方をテーマに、両社から20名超が参加して、「ワーク・ライフバランス」ではなく、「ワーク」と「ライフ」の間のハーモニー、調和のある暮らしとはどういうものなのかというワークショップでした。
リコーさんの専門家にファシリテーションしてもらい、最新のワークショップツールも使いました。我々も商品開発のためのワークショップは行ってきましたが、今回のものは発想する方法が違っていて、新しい発想を生み出せました。
――参加したのはどんな方々ですか。
当社からの参加者は、商品企画・設計、新規事業、レジデンシャル事業などさまざまな部署から参加し、リコーさんは商品開発・企画、事業企画、営業、デザインを担当されている方々が参加されました。男女も問いませんでしたが、できるだけ子育て中の社員をチームに入れるようにしました。子育てを終わった方や単身者もいて、年齢層も幅広く、不動産に限定せず、ゼロベースでアイデアを出し合いました。
ワークショップの様子と、アイデアの一部(※)
――どんな進め方だったのですか。
最初に、両社で実際にテレワークを行っている方3名ずつに2時間ほどのインタビューを行い、そこから何が課題かを表に抽出するのですが、これはかなり大変でした。KA法というツールでインタビュアーの発言した内容から、「出来事」・「心の声」・「お客様の価値」を抽出する作業が、時間がかかるのと、未経験の作業でしたので、それぞれが混同してしまい上手く整理できない等の大変さです。
そこで、発想の元となる資料を作って、表を整理し、アイデアを15にしました。
――どんなアイデアが出たのでしょう。
例えば、ひとつひとつの「困りごと」に対して、本当に困っている部分を抽出し、根源に辿りつくようなことを行ったり、スキルやノウハウをどのように組み合わせるとどう解決できるかを考えたり、リコーさんの360度カメラで困りごとを解決するアイデアなど、従来はなかったような発想で、多様なアイデアが出されました。15件のアイデアの中には、「家で働いて逆にオフィスでは遊ぶ」など、突拍子もないアイデアもありました。
その中から「コモリワーク」「ドマワーク」という2つのアイデアが実現したわけです。
コスモスイニシア流通事業部 商品企画部 建築課 課長 岸本泰明氏
――コロナ禍でテレワークが広まった今、まさにタイムリーなマンションが生まれました。
テレワークはすっかり定着しました。もちろん住まいとして皆さんご覧になるわけですが、「どうやって家で仕事をするか」ではなく、「家のどこで働くと一番集中できるか」と考えるようになりました。だからマンションを内覧する際にも、「ワークスペース」がどうなっているかが優先順位の上位にあります。
このプロジェクトがスタートしたのは2019年春から夏にかけてですから、当時はまさかここまで在宅ワークが一般化するとは予想もしていませんでした。ワークショップの成果をできるだけ早く商品化したかったので、仕入れ部門、販売部門とともにどのマンションで具現化するかを話し合い、その時期に所有していた物件から、早稲田大学に近い立地の物件に「コモリワーク」を導入することとしました。
コスモスイニシア資料より(※)
――商品化にあたり工夫したポイントは。
テレワークでよく聞く話ですが、リビングで働いている人は、他の家族からすると邪魔なんですよね(笑)。働く側も、資料やパソコンをテーブルの上に置きますから、食事のたびに片付けては出すのが不便です。だから独立したスペースを設けることにしました。
とはいえ、完全個室にしてしまうと、せっかく家で働いても家族の存在は感じられなくなってしまいます。ただ働くのなら囲ってブースにすれがいいのですが、それでは働く場所が単に家になっただけですから。誰かが料理をしていたり、お子さんが遊んでいたりという家族の雰囲気を感じながら、安心して働いてほしかったのです。
仕事スペースは、家族の存在を身近に感じ、生活感を持ちながら、仕事のアイデアを出せる場所にしました。キッチン側から入れるようになっています。収納場所としても使えるようにしています。
――働く場所を設けることで、家そのものの在り方が変わりますね。
家族の団らんのための場から、そこで働くという要素が加わりました。その要素をどう入れていくか、働くときと団らんのときのスイッチの切り替えをどうしていくかということが課題になりました。
在宅で働く人が最初にぶつかる壁は、働くスイッチをいつ入れるかということです。そこで、働くマインドになる物理的なステップを設けて、そこを上がるとスイッチが入るようにしました。
お子さんがいるときでも、お子さんとは目が合わないけどお子さんの様子が見えるようにしました。
――デザイン上の苦労はありましたか。
家の中に3次元の空間を作るわけで、マンションは広さも限られますし、天井も高いわけではありませんから、苦労しました。使える寸法を最大限に有効に使い、細かいところまで利用できるように苦心しました。
一番苦労したのが、ワークスペースの小窓でした。リコーさんの短焦点プロジェクターという製品があり、投射する映像を窓ガラスにピッタリはまるように調整しました。オフィス映像を映せば、オフィスにいる感覚になります。
現時点では短焦点プロジェクターはまだ高価ですが、今後は価格も下がり一般化していくでしょう。上から吊るす一般的なプロジェクターだと機器を外すのが大変なため、「コモリワーク」では裏表どちらからでも使えるよう短焦点プロジェクターにしました。
ガラスは旭硝子のグラスクリーンという専用ガラスです。細かい粒子が入っていて、この画面でプレゼンテーションを受けることもできます。パソコンの画面では出せない迫力も伝えられますし、映画も観られます。ちょっと秘密基地のような感じですね。
スクリーン投影可能な小窓(※)
映像の調整には苦労しましたが、5年後くらい先の生活をイメージしました。オフィス機器や画像技術が進んでも対応できるような部屋にしたかったんです。
――なるほど。将来の変化にも対応できる。
もともと当社では住まいの可変性を重視して商品企画を行っており、都心部の面積がコンパクトな物件では、リビングと洋室を緩やかに繋げた大きなワンルームに住みたいという声に応えて、間仕切りを微調整できるようにしている物件もあります。家はいったん完成していますが、窓付きの壁にしたり、窓がない壁にしたり、仕切りを変えたり、というカスタマイズが可能なものです。
――取り入れたかったけどできなかった仕様はありますか?
本当は住まいの中に働くスペースを2か所作りたかったんです。共働きの方が多いので、そのためにはワークスペースも2つあったほうが良いですから。
1か所だけだと、交換して使う家庭が多いようです。ご夫婦の力関係とか、テレビ会議をする人優先とか、会議の相手で決めるとか。ちなみに我が家では圧倒的に妻が優先です(笑)。「私の会議の相手は社長なんだけど」と妻に言われて、それは譲るしかありませんよね(笑)。
外付けモニターを使うような職種では、モニターの優先順位も重要です。
当社の中でも住まいの廊下に机を持ってきてテレビ会議をしているものもいました(笑)。廊下だと背景を気にしなくてもいいし、部屋の音が入りません。リビングには家族がいて、席を外すと場所を取られてしまったりするので(笑)、小さな机を置いて廊下に避難したそうです。
――コスモスイニシア自体は、もともとリモートワークを実施していたのですね。
2020年4月に緊急事態宣言が発出され、それまで社員の3割ほどだった在宅勤務者がいきなり8割に増えて会社のサーバーに大変な負荷がかかりましたが、2月の段階でいち早く総務担当が2つの対応を進めていました。1つは自宅のネットワーク環境が整っていない場合に備え、会社支給のiPhoneの通信容量を拡充しテザリングに耐えらえるようにしたこと。もう1つは当社管理サーバーへの負荷分散と容量拡充を実施したことです。さらにノートパソコンもよりスペックの高いものにリプレースし2020年中に全従業員への配布が完了しました。Zoomを使用した全社総会などは、部署でTeamsを併用するなどでコミュニケーションをとれるようにし盛り上がりました(笑)。
――コロナ禍での新入社員研修などはいかがですか。
新入社員研修はZoomで行いました。6月くらいまでは在宅勤務で、実際の出社は7月からでしたね。対面なしでの研修は、資料を作ったり、ワークショップの方法を模索したり準備が大変でした。対面でなければできない研修と、非対面でも行えるものがあることがわかったので、2021年は両方を使うと思います。
研修を行う方も受ける方も、だんだん慣れていくと思います。社会が変わっていくでしょう。
動画に抵抗がない世代ですから、コンプライアンス研修なども今年から動画で行っていますし、宅建業法などの講習も、法務担当者が作った動画を指定の期間内に見てレポート提出という形式です。
――会社としては、コロナの影響をどのように受けていますか。
2021年3月期連結決算見通しは、営業利益ゼロ予想と発表しています。ホテルの宿泊事業も行っていますが、この数年伸びていたインバウンド需要がほぼなくなりました。ただしアウトドアリゾート事業は、笠間市で利用者減少が課題となっていた公共施設を再生した宿泊施設「ETOWA」が好調です。この事業は千葉県木更津市で2号物件を推進中です。
もちろん全体的にコロナの影響を受けていますが、マンション販売は営業ができなかった一時期を除けば比較的堅調です。リノベーションマンションも通常以上の売れ行きです。
コスモスイニシアはずっと住宅を手がけてきましたが、最近はオフィスについても提案をしています。2018年には、都心ではなく家の近くで働く「職住近接」というコンセプトのレンタルオフィス「MID POINT」をオープンし、2020年7月までに4施設をオープンしました。完全に家で働くのではなく、家から外で、最寄り駅あたりの場所で仕事したいというニーズに応えています。
――今後の展開について教えてください。
「どこでも働ける」ということが一般化してきていますので、今後、環境の良い場所の価値がどんどん上がっていくのではないでしょうか。
都心部は働くだけでなく生活の利便性が高い。どこに行くにも便利という優位性は揺るがないでしょう。一方、湘南エリアや軽井沢、山中湖、那須のようなエリアでは、セカンドハウスやワ―ケーションなど、通勤せずに豊かに暮らせるニーズがあります。
まったく会社に行かなくてよくなることは難しいので、やはり出やすいところが求められると思います。その意味で交通利便性の高い都市は強いですね。
今後どんな暮らし方が一般的になるか。通勤に使っていた時間をどう使うのか。料理をするようになるならキッチンを広くしたり、息抜きするスペースを充実させたり。さまざまなアイデアがありますので、いち早く商品化していきたいと思います。
コロナ禍で大きく普及したテレワークによって、住宅事業、マンションデベロッパーは、これまでにない環境作りの最前線に立たされている。ワークショップを重ね、練りに練った「ワーク」と「ライフ」の空間が、アフターコロナの働き方の未来図になるのが楽しみだ。
コスモスイニシアは、新築マンション・一戸建、リノベーションマンションなどの住まいを提供するレジデンシャル事業、投資用・事業用不動産の開発・仲介・賃貸管理などを行うソリューション事業、ファミリー・グループでの中長期滞在に対応するアパートメントホテルなどの開発・運営を行う宿泊事業を展開。社会の変化とニーズの多様化とともに事業領域を拡大し、都市環境をプロデュースする企業へと進化を続けている。
ミッション『「Next GOOD」 お客さまへ。社会へ。⼀歩先の発想で、⼀歩先の価値を。』 の実現に向けて全ての経営活動においてCSVを実践中。期待を超える安心や喜びをもたらす価値を追求し、商品・サービスの提供を通じて社会課題を解決するため、より多くの「Next GOOD」を、お客さま、社会と共に創っている。
コスモスイニシア コーポレートサイト[外部リンク]
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2020年12月9日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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