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専門家に聞く!

スタートアップのメンターが過去の自分に向けて書いた教科書 失敗しないための「起業のサイエンス」とは?~株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー 田所雅之 氏インタビュー~

株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー・株式会社ユニコーンファーム代表取締役 田所雅之(たどころ まさゆき)氏

株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー・株式会社ユニコーンファーム代表取締役 田所雅之(たどころ まさゆき)氏



スタートアップのメンタ―として迷える起業家を導く田所雅之氏の著書「起業の科学 スタートアップサイエンス」。間違いだらけのスタートアップの心得を過去のものにした、失敗しないための「サイエンス」とは? 執筆を始めた背景とは? 新規事業の担当者などにも大いに参考になる、メッセージ満載のインタビューとなりました。






■日本の起業家を10倍に増やしたい!

――田所さんのお仕事について教えてください。

株式会社ベーシックのチーフストラテジーオフィサー(CSO)として、スタートアップの成長支援を数か月かけて行う「アクセラレイタープログラム」を担当しています。5社前後のスタートアップに対してメンタリング、戦術面の指導やフレームの提供などを行うプログラムです。ほかにも、週あたり10~13社のスタートアップを個別にサポートしています。


――「コンサルティング」ではなく「メンタリング」なのですね。

コンサルティングは、調査レポートを作ったり、手続きを代行したりなど、スタートアップ側にかなり踏み込みます。メンタリングは、フレームワークや事例は紹介しますが、リサーチなどは自分でやってもらいます。スタートアップはステージが進むにしたがって何をすべきかを見失いがちなのです。目指す到達点にたどりつくためのフレームや考え方を提供するのがメンタリングです。


――ベンチャーキャピタル時代に身につけられたノウハウでしょうか。

それが僕の強みですね。昨年の夏までの3年半、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで1500社ほどのスタートアップを評価して、400社くらいのアドバイザーメンタ―を勤めました。ステージも様々なスタートアップの課題を間近に見ながら「次に何をすべきか」を洗い出してきた経験はとても役だっています。


――CSOとしてのお仕事だけでなく、書籍やスライドなど多くのコンテンツを発信されています。

自分の使命はスタートアップの0から10くらいにいる人たちをサポートすることだと思っています。コンテンツ作りもその一環です。メンタリングをし、講演をし、蓄積したノウハウをコンテンツ化し共有して、成功するスタートアップを増やしていきたいのです。


――日本では起業家は増えているでしょうか。

日本は起業家が少な過ぎます。まずは、今の10倍に増やしたいと考えています。起業家が増えなければ、僕が人生を賭けているこのシーンが盛り上がりませんから。おかげ様で本は4万部くらい売れて、スライドは国内だけでも6万5000くらいシェアされているので、たぶん何十万、何百万人が僕のコンテンツに触れてくれているはずです。起業した方はそのうちの2千から3千人でしょうか。大企業もスタートアップ支援を行っており、以前と比べると環境はだいぶ整ってきました。10倍は夢じゃないと思っています。



■成功は「アート」、失敗しない方法は「サイエンス」になる

成功は「アート」、失敗しない方法は「サイエンス」になる 田所雅之(たどころ まさゆき)氏


――著書「起業の科学 スタートアップサイエンス」を書かれた経緯を教えてください。

2011年にシリコンバレーでスタートアップしました。日本でも2社起ち上げていて、真剣に成功したいと思っていたのでいろいろな資料や本を読みました。ですが、今思えばそのほとんどがミスリーディングでした。例えば、いきなり「人を雇いましょう」なんて書いてある。僕も、日本ではエンジニアを雇い、シリコンバレーでも現地人を雇いました。しかしこれが大間違い、最もしてはいけないことだったのです。


――人を雇うことは当たり前のようにも思いますが、どこがいけないのでしょう。

本にも書きましたが「プレマチュア・スケーリング(ユーザーがプロダクトにまだ定着していない段階での規模の拡大)」なのです。未成熟な段階でスケーリングしてしまうことが、スタートアップが立ち行かなくなる一番の要因です。僕自身、資金が尽きてスタートアップは結局失敗。実際に経験して初めて理解できました。その後、日本に帰ってきて4社目を起ち上げたのです。


――4度目のスタートアップで注意したことは何でしょう。

まず「プレマチュア・スケーリング」にならないようにミニマムで始めました。並行してスタートアップへのメンタリングも行っていたのですが、驚きました。9割のスタートアップがやってはいけないことをやっていたのです。これはなんとかしないといけない、と心から思いました。


――ご自身が失敗から学んだ知識を伝えようと考えたのですね。

成功は「アート」です。ここはなかなか方程式にできない。でも、失敗しないための方法は「サイエンス」です。やってはいけないこと、無駄なこと、スタートアップとして押さえなければならないことなら言語化、体系化できるはずだ、と考えました。まず、自分の経験で得たことを書き出すことから始めました。想定読者は、シリコンバレーで起業した頃の自分自身です。当事の僕が読んだら運命が変わる内容かどうか、そこを基準にしました。


――当初はウェブサイトのみでの公開でしたね。

スライドにまとめて少しずつ公開していきました。起業家や投資家とのやりとりをフィードバックして、ブラッシュアップを進めました。2016年に800ページ、それが1200ページにまでなり、シェアが約2万、ページビューも1週間で30万を越えました。このあたりでいったんまとめておこうということで、出版の運びとなりました。


――上梓後の反響はどうでしたか?

「教科書代わりに使っています」といったメールが毎日50件くらい来ています。日本にはスタートアップ向けの体系だった解説書はなかったので(おそらく英語圏にもないと思うのですが)、スタートアップの標準的な教科書として利用していただいているようです。おかげさまで、業界では知らない人のないコンテンツになりました。


――執筆時に想定していなかった反響などはありましたか?

スタートアップしたい人のために書いたのですが、新規事業を興そうという企業からの引き合いが多かったのは想定外です。講演依頼も大手企業からがほとんどです。ソフトバンク、三井物産、りそな銀行などで講演させていただきました。



■パワープレイでは勝てない

パワープレイでは勝てない 田所雅之(たどころ まさゆき)氏


――スタートアップが最も間違いがちなところは何ですか?


課題の検証です。深堀りするべきところを、とりあえずモノさえできればパワープレイで何とかなるだろうと考えているスタートアップが多い。ある起業家の話です。優れた製品を作っているのですが3年経っても全然売れません。話を聞いてみると、市場をしっかり検証していない。改めて調べてみるとまだ潜在的なニーズしかありませんでした。これでは売れないのも当たり前です。アップルやグーグルでも、市場を見ずにパワープレイすればまず勝てません。大切なのは、最初に課題をひたすら検証して、磨き上げておくことなのです。


――技術の点ではどうでしょう。スタートアップと新技術はセットのように思えます。

スタートアップにとって技術はもちろん重要です。ですが、その技術が本当に必要なのか、を検証しなくてはなりません。ICO(新規仮想通貨公開)やブロックチェーンを使いたいと言うスタートアップはあるのですが、既存の技術でも間に合うのにただ使いたいから言っているだけ、ということが少なくありません。


――「とにかくAIを使いたい」というように目的と手段が逆転してしまうのですね。

自分が使いこなせる技術があるからと言って、他の選択肢も考慮せず、その技術ありきで始めてしまうのは大きな間違いだと思っています。話はややそれますが、スタートアップはAIを使うべきではないと思っています。というのも、AIを使うとプロセスがブラックボックス化してしまうからです。ちゃんと前提を整えた上で徐々に自動化するのはいいと思いますが、最初からAIで、というのは順序が逆です。



■見せかけの『プロダクトマーケットフィット』

見せかけの『プロダクトマーケットフィット』  田所雅之(たどころ まさゆき)氏


――ほかにもスタートアップが陥りやすい問題があれば教えてください。

私も陥った「プレマチュア・スケーリング」と「見せかけの『プロダクトマーケットフィット(顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態)』」でしょう。これらは多くのスタートアップが直面する問題です。近年増えているクラウドファンディングによる起業の事例などではより明確なかたちで出てきます。


――日本でも定着してきたクラウドファンディングですが、どのような問題があるのでしょう。

確かに、クラウドファンディングはアイディアで資金調達するにはたいへん効率的な方法ですが、良し悪しがあります。クラウドファンディングで資金を調達したスタートアップのメンタリングを何社かやったのですが、どこも「プレマチュア・スケーリング」の問題がありました。


――どのようなところが、未成熟な段階での規模拡大にあたるのでしょうか?

例えばあるデバイスを出すとします。クラウドファンディングで2千万円集まりました。これで2千万円の売上が立つのですが、3か月後には500台を出荷する必要があるので、急いで工場を探し、ロジスティックスして、ペイメントしなくてはいけない。これはもう一般企業と何も変わりません。商品を出してみないとユーザーの真の声はわからないですよね。なのに、起ち上がったばかりの段階でバリューチェーンとサプライチェーンを最適化しなくてはいけないのです。これはまさに「プレマチュア・スケーリング」です。


――それでも商品が売れれば解決ですよね。

クラウドファンディングの大きな問題の一つは、ただの「人の興味本位ドリブン」になりがちなことです。ずっと売れ続ければいいのですが、クラウドファンディングで製品が届きました、使いました、面白かった。これで終わってしまうことがほとんどです。今後の商品展開につながる「ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験=UX)」になっていません。でも注文が入れば出荷しないわけには行かず、つい出し過ぎてしまう。これは成長戦略から見たら最悪です。僕はこれを「見せかけの『プロダクトマーケットフィット』」と呼んでいます。


――良い商品で顧客を満足させられた、と勘違いしてしまうのですね。

プロダクトだけのUXは弱いのです。グーグルやフェイスブックなどは、たくさんのUXを提供していて幅広い顧客セットを持っている。だから強い。課題検証も大事、技術力も当然大事なのですが、本当に大事なのはUXを突き詰めていくことなのです。


――前例のないUXを確立するのはなかなか難しそうです。

確かに、現代には代替案が溢れています。スタートアップが思いつくアイディアのほとんどは、グーグルとかフェイスブックとかインスタグラムとかの既存のソリューションでも解決できてしまう。そのアイディアが、代替案に対抗できるUXを持っているかどうかを、真剣に検討する必要があるのです。


――商品やサービスがマーケットにフィットできた場合、次にすべきことは何ですか?

「トランジションスケール」といって、規模を拡大するために自分の企業を変革する段階に入ります。プロダクトがマーケットにフィットして初めて、スケーリングを考えることができるのです。最終的なゴールは「ユニットエコノミクス」。顧客一人あたりの生産性を高めることです。小さなキャンペーンやマーケティングをいろいろやってみて、結果のよかったものをさらに投下していきます。それができたら、業務の棚卸をします。「だれのどんな課題をあなたは解決していますか」まで立ち返って全体を見直します。「だれ」というところを常に考えないと生産性は上がりません。


――スタートアップの注意すべき点を中心にうかがってきましたが、逆に強みとはなんでしょう?

既存企業が新規事業を始める場合と比較して説明しましょう。事業は4つ要素の掛け合わせだと思っています。「できるかどうか」の「Can」。「ユーザーの代替では満たされないニーズはあるのか、もしくまだ潜在的なニーズだけなのか」の「Needed」。「それをベースにして、どうビジネスモデルにするのか」の「Get Paid」。「そもそも創業者自身が、やりたいと思うかどうか」の「Want」。スタートアップは最後の「Want」については問題ありません。先天的にたっぷり持っている。


―― その事業をやるために生まれてきたわけですからね。

既存企業で新規事業を始める場合、リソースはたっぷりあります。すでに顧客との接点があるので、ニーズを集めることも簡単です。スタートアップと比べて、かなり有利なところからスタートできるわけですが、問題は「Want」、当事者がその新規事業をやりたいかどうかなのです。


――自分の意思とは関係なく上司に言われ仕方なくやる、ということもありますよね。

事業は掛け算です。「やりたい」気持ちが0であったら、ほかが全部高くても0になってしまうのです。ここはスタートアップも企業内の新規事業も変わりはありません。スタートアップは「Want」は1万以上あります。なぜやりたいのか、をしっかりと伝えることができる。そこがスタートアップの強みです。



■スタートアップのオフィスの必需品とは!?

スタートアップのオフィスの必需品とは!? 田所雅之(たどころ まさゆき)氏


――田所さんご自身は、いつもどのような環境でお仕事されているのですか。

決まった場所では仕事をしていません。1日のアウトプット量を大切にしているので、いろいろなところを回りながら仕事をしています。一人で集中して仕事をしたいときは、もっぱら、移動の電車の中です。座れたらパソコンを開けて、コンテンツにフォーカスします。電車の中はアウトプットに最適な場所ですね。


――まさしくノマド的な働き方をされていますね。これまでに訪問された企業で印象に残っているオフィスはありますか?

JT(日本たばこに産業株式会社)へ行った時、大きなホワイトボードがあったのが印象的でした。いろんな部署の人たちが、その周りに集まってミーティングしていたのです。 オフィスにどんとホワイトボードが置かれていて、ユーザー像やカスタマージャーニーなどが描かれてあるのはいいなと思います。


――オフィスの全員が目標を共有したり再確認できるような場所ですね。

スタートアップには、まずは大きなホワイトボードを買えとアドバイスしています。そこに多様な人間が集まって混じり合えば、創発しやすい環境が生まれます。例えば、エンジニアだけが集まって頭をひねってもいい仕事はできないでしょう。創発とは垣根を超える力なのですから。


――オフィスは、仕事をする場所ではなく、生み出す場所なのですね?

オフィスはダイナミックな場所であるべきだと思います。フリーアドレスになっていても、毎朝やることが決まっていて「さあ、始めましょう」では意味がありません。優れたテクノロジー企業に毎朝ルーティンでやるような業務は存在しません。毎朝、昨日の成果と今日の課題をマネージャーが吸い上げて、日々の変化に対応して動きます。スタートアップにとっては、アイディアを創発するという意味でも、カルチャーを決めていくという意味でも、常に変化していくことが大事だと思います。


―― スタートアップにふさわしいオフィスの例があれば、教えてください。

日本企業は部署ごとの担当業務が決まっていて、オフィスも区切られていることが多いですよね。僕は逆に「役割を決めるな」とスタートアップに言っています。シリコンバレーのある企業はカスタマーサポートをオフィスの真ん中に置きました。電話が鳴ると、エンジニアであろうが、デザイナーであろうが電話を取りに行き、お客様の声を聞き、それをベースにして技術を考えるのです。初期のスタートアップは顧客が求めている体験は何か、どのような課題を持っているのかを知ることが大切なので、カスタマーサポート中心のオフィスはとても有効だと思います。



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急成長中のビズリーチに学ぶ、ITエンジニアが心地よいワークスペースづくり (オフィス訪問[2])newwindow

国内のHR Techの先頭を走っているビズリーチさんのオフィス、エンジニアが仕事をしやすい仕掛け(ペアプログラミングデスク、クワイエットルーム等)、他の部署とも風通しを考慮したオフィススペース(ホワイトボード、スタンディングミーティングスペース等)が印象的でした。投資として一番のレバレジが効くのが、人と環境だと思います。ビズリーチさんは、その二つにうまく投資している事例だと思います。


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つまらない失敗は「サイエンス」で解決。「Want」の掛け算で変化やアイディアを生み出し成功「アート」を目指す。すべての仕事に共通する「気づき」をいただきました。
思い付いたことは大きなホワイトボードに書き出して可視化してみましょう。みんなで共有すれば働き方がサイエンスからアートになるかもしれません。





プロフィール


田所 雅之(たどころ まさゆき)

これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。米国シリコンバレーのベンチャーキャピタル のベンチャーパートナーを務めた。現在は、国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務める。また日本最大級のウェブマーケティング会社 BasicのChief Strategic Officerを務めながら、事業創造会社のブルーマリンパートナーズのChief Strategic Officerも務める。世界で累計5万シェアされたスライド "Startup Science"、発売後、3部門(経営、起業、イノベーション)で24週連続ベストセラー1位になった書籍 "起業の科学 スタートアップサイエンス"の著者である。



著書

起業の科学 スタートアップサイエンスnewwindow」(日経BP社)[外部リンク]








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年4月5日




         

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