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「人工知能が今できること」の誤解を解く!ブラックボックスを克服する人工知能の未来~Shannon Lab株式会社代表取締役 田中潤氏インタビュー~

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「人工知能が今できること」の誤解を解く!ブラックボックスを克服する人工知能の未来~Shannon Lab株式会社代表取締役 田中潤氏インタビュー~

Shannon Lab株式会社代表取締役 田中潤(たなか じゅん)氏


とかく「人間を凌駕する」と喧伝される人工知能。そんな無敵な人工知能が登場して、人間は仕事を奪われてしまうという脅威論をよく聞きます。しかし人工知能がどこまで進化しているのか、私たちは単に知識がないだけなのではないでしょうか。「誤解だらけの人工知能」の著者でShannon Lab株式会社代表取締役 田中潤氏に教えていただきました。






■人工知能を開発する作業とは


――Shannon Labが提供している人工知能サービスを紹介してください。

この会社は、2011年にカルフォルニア大学の博士課程途中に立ち上げたものです。これまでの実績としては、中小企業庁の経営革新サポートに、アコースティックレンズマイクのシステム「ケアエージェント」が採択されています。たとえばiPhoneでSiriに話しかけるとき、周囲が騒がしい市街地では自分の声をちゃんと認識してくれませんが、アコースティックレンズマイクを使えば、騒音の中でも距離を測定して音声を認識してくれる高指向性の特殊マイクです。発話者の後ろの音はカットし、特定の距離の空間の音を拾う特殊な指向性のマイクで、現在特許出願中です。これを介護現場で使っていただければ、音声マイクを介して利用者と会話することで、体調管理や生存確認を行えるようになります。


――ほかにはどんなサービスがありますか。

企業の商品に対する「おいしかった」「パッケージが嫌い」などという消費者のSNS 上の発言を自動収集して、それを人工知能が5段階評価する「ネガポジ(誹謗中傷)判定サービス」を提供しています。人工知能の評価と人間が行った評価を照らし合わせた精度の調査をしてみましたが、一致率は90%まで上がりました。人工知能のほうが人間より正しく判断しているケースもあり、かなり高い精度だと思います。


他には、SNS上の発言の性別やボットかどうかを判定したりするシステムや、長文はまだ研究段階ですが、短文ではかなり精度が高い人工知能による自動文章生成システム、思い浮かべた映画のタイトルを当てる心理ゲーム「脳クラゲ」といったものも開発しています。


――人工知能システムの開発過程について教えてください。

まず、機械学習の手法やアルゴリズムを決め、収集したデータをデータラングリング (データ分析前の下ごしらえ処理) にかけます。どのデータが適しているかを調べるために、何回も検証を繰り返します。その成果によって、次はチューニングと学習を繰り返し、さらにデータを追加してチューニングし、学習していく。製品化までには、こうした検証を繰り返して、モデルを完成させなければなりません。全体に、時間がかる地味な作業が多いですね。人工知能というと瞬時に何でもできるように思っている人がいますが、研究、開発、そしてデータ収集には膨大な労力と時間がかかります。


――検証作業に時間がかかるのですね。

ディープラーニングは、通常の機械学習より検証が多いのです。ディープラーニング以前の機械学習では、SVM (Support Vector Machine)という学習モデルが有名ですが、千回、1万回、10万回とシミュレーションを重ねていくうちに、ある値にモデルが収束していきました。しかしディープラーニングではモデルが収束しないため、大量にモデルを作って、どのモデルがいいかを検証しなくてはならない。ディープランニングは過学習しにくくなり、高次元のデータが使えるようになったというメリットもあるのですが、良いモデルができるまでの道のりが長いという特徴がありますね。



■人工知能ができることの正しい知識を伝えたい

人工知能ができることの正しい知識を伝えたい


――このたび、著書「誤解だらけの人工知能」を上梓されました。この本を書いた理由を教えてください。

人工知能には正しい定義というものがなく、研究者の間でさえ曖昧です。それではまともに議論にならないはずですが、ある意味、議論になってしまうのは日本だけではないでしょうか。一般の人が思い浮かべるのは「人間より賢いコンピュータ」というイメージで、完全にSFの世界と混同してしまっていますよね。その定義を前提にしてしまうと、話が進まなくなってしまいます。


――とかく人工知能についてはイメージが先行しがちですね。

人工知能に関するイメージばかりが先行して、今すぐ何でもできるかのように話が"盛られて"しまっており、それがビジネスをしにくくしているという面があります。「テレビでできると言っていた。できますよね」などと勘違いしている人が多いんです。実際に実現するには大量のデータが必要で、10年後、20年後にできるようなことが、あたかも2~3年後に実現するかのように誤解されていて、メディア、世間一般、企業経営者の間で、知識がまだらになってしまっている。だから、いざビジネスの現場に応用しようとすると、基礎の基礎から認識を合わせなければならないことが多く、非常にやりづらいところでした。


そんな状況から、羅針盤になるような本を書かなくてはいけないと思うようになり、書いたのが本書です。人工知能に関して誤った認識を払拭し、どれくらいの年月がたてば、どれくらいのものができるのかという具体的な事実を書いています。たとえば、2014年に、「2020年になくなる仕事」という記事が話題になりましたが、丸はずれの内容で、ただの脅威論になってしまっています。そんなことも本書で指摘しています。


――人工知能の3つの核となる技術として、画像認識・音声認識・文脈解析を挙げていますね。

基礎研究の域を出ていない技術が多いので、拡大解釈されないように現実的なラインを掲載しています。まず、画像認識のオープンソースはすごく優れているということができます。ディープランニング単体で成り立っている機械学習は、ほぼ画像認識だけだと思います。ディープランニングが一気に注目されるようになったのは、CNN(畳み込みニューラル・ネットワーク、Convolutional Neural Network)というモデルで、画像認識の精度が飛躍的に高まり、ビジネス利用も現実的なものになりました。


音声認識については、隠れマルコフモデルという古いモデルがあり、それを使って初期値を作り、ディープランニングをかけることにより精度が上がりました。最近、iPhoneのSiriの認識率が良くなったことが感じられる人は、結構多いのではないでしょうか。


文脈の解析では、文章を300次元のベクトルに変換する仕組みがあります。この5年ほどで、ディープランニングと文章のベクトルの解析はかなり進み、精度も上がっています。先ほど紹介した当社の「ネガポジ判定サービス」でも、人工知能の精度は人間とあまり変わりません。今年中には人間の精度を超えるだろうと思っています。


――フィンテックで使われているブロックチェーン技術についても重要性を指摘しています。

ブロックチェーンの分散管理技術は、個人のデータを蓄積していく箱としても使えるので、AIと組み合わせることで新しい価値を提供できるようになるだろうと期待しています。Webサイト上のレビューなどがお店の信用度を表現するのと同じように、日頃の行動がブロックチェーンに蓄積されていけば、個人のよさや信用度を担保できる技術になっていくのではないかと思います。



■人工知能が「なぜ」を獲得するとき

人工知能が「なぜ」を獲得するとき


――ディープラーニングでは、アウトプットの理由を説明できないと言われていますね。

ディープラーニングが「まだ科学ではない」などと言われるのですが、その理由がブラックボックスということです。科学とは、誰がやっても同じように再現できるものですが、ディープラーニングには再現性がないのです。内部構造が複雑で、何がどうなっているのかわからない、完全なブラックボックスです。なぜか特徴はとれているけど、どこがどう特徴になっているのかはわからない。だから、次のステップはディープラーニングの中身をもう少し解析することになります。ブラックボックスの内部を人間が理解できる形にもっていくことが次の課題で、ここ最近は世界中でこの研究に注力しています。


――それができれば、人工知能は将来的に「なぜ」を獲得できるようになる。演繹法(ディダクション)による理由づけと説明されていますね。

たとえばリンゴがあり、それを正しくリンゴだとニューラルネットワークが理解するということです。リンゴの特徴を人間がひとつずつ書き出して、プログラムしても、10万年かかっても人工知能は理解できるようにはなりません。しかし、「ある物を何をもってリンゴとするのか」ということを大量の文章や画像から自動的に解析し、かつ、りんごはぶどうや車とどういった点で違う特徴を持つのか説明できることが演繹法(ディダクション)による「なぜ」の獲得の始まりです。


――シンギュラリティ(人工知能が人間の脳を超える技術的特異点)については、懐疑的に捉えている研究者もいますが。

シンギュラリティが実現すると言われる2045年までには、20世紀の仕事はほとんど人工知能に代替されていくことは確かでしょう。ただし、それはあくまでも「20世紀の」仕事であって、21世紀の仕事は、これからいろいろなものが出てくると思います。ちょっと前まで、ユーチューバ―のような遊びみたいな仕事も考えられなかったように。



■人工知能と競う必要はない

人工知能と競う必要はない


――人間の仕事が人工知能に代替されていくと、働き方は変わるでしょうか。

当面は、仕事が部分的に人工知能に代替されていくでしょうね。日本では一人のビジネスパーソンがいろいろな仕事を行っていて、いわば何役もこなしていますから、そのたくさんの仕事のうちのいくつかがなくなるという感覚ではないかと思います。比較的ゆるやかな変化ですね。アメリカなどでは、仕事ごとに人が分かれていますので、それが人工知能に置き換わることで、その人の仕事がなくなってしまうということが起こるかもしれません。人工知能時代には失業者が増え、人工知能を使える人は生産性が高くなっていきますから、貧富の格差は広がりそうな気がします。


――日本人は仕事がないと不安になってしまう人が多そうです。

日本人は働き者で、労働が大事ですよね。でも人間から人工知能にバトンタッチできるものは、どんどんしていけばいいと思います。僕は数学だけやって暮らせたらどんなにいいかと思っています。本当は趣味だけやって暮らしていけることが理想ですよね。


むきになって人工知能と競う必要はないのです。幸せは、働き方ではなく、その人の生き方で決まるのではないでしょうか。ひと昔前は、仕事をするなら正社員なんて言われましたが、派遣社員でも好きな仕事、おもしろいと思う仕事ができたらいいという時代になった。それなら、人工知能に仕事を奪われても、おもしろいと思うことができたらそれでいい。僕は、人間の幸せは、様々な欲求を満たされることの積分値で決まると思っているので、いいことが多ければ幸せなになれると思います。




著書とともに





いずれ訪れるシンギュラリティが人間の働き方を変えることはたしかなこと。しかしその前に、法規制や倫理問題をはじめ、人工知能社会には多くの超えるべきハードルがあります。人工知能を脅威とばかり捉えるのではなく、技術の進化や課題を正確に把握する力を私たちは持たなければなりませんね。




プロフィール


田中 潤(たなか じゅん)

日本人工知能学会/アメリカ数学会所属
専門:確率、測度論、経路積分、論理、ファジー論理、ファジー測度を含む現代論理学。論文多数出版。現役数学者であり、データサイエンティスト、スーパーエンジニア。

アメリカの大学で数学の実数解析の一分野である測度論や経路積分を研究。アメリカの大学教授にも 難易度が高いといわれている研究ジャーナルアメリカ数学会マンスリーでも数学論文を発表している。カ リフォルニア大学リバーサイド校博士課程に在籍中に2011年「ShannonLab」を立ち上げるため帰国、こ れまでの研究成果や技術を生かして、対話形式で有名人を当てる推測エンジン「Mind View」や、テキスト対話エンジン「Deep Love」など数々の人工知能エンジンを開発。開発する際は常にpythonを愛用。ここ数年で人工知能がホットな話題となり、数理研究とビジネスモデルの双方の視点からアドバイスを行 い、企業の人工知能ビジネス立ち上げも多数手がけている。コンサルティングを重ね、人工知能サービスの商品化するためのビジネスプランを練り企業との共同研究開発も行っている。



著書

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性newwindow」(共著、光文社新書)[外部リンク]








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年4月23日




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