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高齢化問題はロボットで解決!グランドデザインを武器に異色の技術者がめざす「ロボットと人間のコンヴィヴィアルな未来」~千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏インタビュー~

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏



ロボットと聞くと、コミックやアニメに登場する、空を飛び、人間と会話できる2足歩行の姿を想像してしまいます。しかし実際には、すでにカメラや家電製品、自動車、住宅に至るまで、様々な分野にロボット技術が盛り込まれ、歩かなくても、飛ばなくても、私たちの生活を支えてくれています。では、その先にはどんな未来があるのか。福島原発や熊本地震の救助ロボットで知られ、多くの実用化プロジェクトを展開中の千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長の古田貴之氏に、「ロボットのいる未来社会」について伺いました。



■すごいのはアトムじゃない。天馬博士だったんだ


――古田さんは、「鉄腕アトム」に憧れて、ロボットを作る道に進んだそうですが。


実際には少し違うんですけどね。


私は2歳半から7歳まで、インドで暮らしていて、修行に来ていた藤井日達さんという日本人の高僧の方と仲良くなり、毎日バナナをもらっては正座して説話を聞いていたんです。


その合間に、「すごいんだよ鉄腕アトム。10万馬力だし、お尻からマシンガンが出るんだ」と藤井さんに言ったんです。すると、その後の藤井さんの説話で、とても印象に残る言葉がありました。「人の目に見えるのは物事のほんの一部でしかない。本質は目に見えない部分にこそある」。その言葉にしたがってアトムを見たとき、「本当にすごいのは、アトムを作った天馬博士なんだ」と気づいたんです。もっとも、これは何歳のことかわからないので、自称では「3歳でロボット開発を志した」ということにしています(笑)。



――その後、大病をされて奇跡的に回復されたとか。


中学生の時です。脊椎の疾患で車椅子の生活を余儀なくされ、余命宣告まで受けました。病院で同室の患者さんが次々に亡くなり、やるせない気持ちでしたが、奇跡的に回復して退院することができたのです。「人生は一度きり。ならば死に際しても悔いなく満足して逝くことが大切だ」と思いました。これが現在にも通じる私の人生観です。人生は自己満足でできている。それを一生懸命追い求めることが人の一生なんです。私の人生とは「ロボットで人を幸せにし、幸せな未来をつくる」ということです。死ぬまでに良いロボットをたくさん作り、みんなが幸せに暮らせる世界を作りたいと思うようになりました。



■文化、未来を創る夢を実現するために立ち上げた「fuRo」

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏



――その後、大学や企業と共同で、ロボット開発に関わられていくわけですね。


大学でもロボットの研究開発をしていましたし、その後、企業や省庁とも共同で開発に取り組みましたが、成果は満足のいくものではありませんでした。



――どういう点でですか?


まず、大学の研究生だけでは、最終的に人の役に立つ「製品」が作れないということがあります。研究者というのは、あくまで研究をしたいわけですから、私が期待していたように、技術を駆使して人の役の立つモノづくりをするというベクトルではない。また、同じような技術分野の人間ばかりが集まっているので、新鮮な発想にも出会えませんでした。


一方、官や産との共同では、話し合ってある程度の理念は立てるけれども、開発主体がないんです。場所も予算もない。新しいアイデアが出ても、「それを誰がいくらで作るのか?」というところでつまずき、先に進めない。また、ここでも人材が不足しており、私がやりたいプロダクトを一緒に作れる関連技術分野の仲間ができませんでした。



――作りたいロボットを開発する環境がなかったのですね。


私の希望とあまりにも乖離した状況でした。私は単にロボットを作りたかったのではありません。それはあくまで前段で、その先に、ロボットを社会に普及させることによって、新しい文化や社会の未来を創りたかったのです。料理人が料理を作るだけの存在ではなく、食文化をリードする存在であるのと同じです。そういったことを実現するには、組織づくりから自分でやっていくしかない。何しろ、前段であるロボット開発の段階で暗礁に乗り上げていたわけですから。



――それが現在の「未来ロボット技術研究センター」につながるわけですね。


ここは「fuRo(フューロ)」という愛称で呼ばれています。私は千葉工業大学の常任理事を務めており、企業でいえば経営の中枢になりますので、ここに直轄の拠点を作ろうと思い立ちました。そしてそこに、高度なロボットを開発するために必要になる、様々な技術分野のトップランナーたちを集め、総合的な開発に取り組もうと考えたのです。最近では、AIや、SLAM(3次元マッピングを行いながら、その中での自分の位置を特定して、自律運動を可能にするシステム)の技術者をヘッドハントしました。ロボットは単なるメカではなく、多くの技術の複合体です。人材面が整わなければ優れたものは作れません。fuRoという体制ができて、初めて企業との共同開発も実りあるものになるのです。



■技術だけ、プロダクトだけで社会は変わらない。グランドデザインが未来を創る

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏



――fuRoは、産学共同によるプロダクトがとても多いですね。


お互いの狙いや強みがかみ合うので、当然といえば当然です。企業からすると、実現したいコンセプトを持っていても、それをロボットで実現するための基盤がない。そこは私たちがやる。私たちからすると、完成したロボットを量産し、社会に普及させる販売手段は持っていません。そこを企業に負ってもらうわけです。ビジネスとして成功すれば、まさにWin-Winの関係が築けます。



――直近で、企業との共同開発で実現したものは何でしょう。


パナソニックが製造販売しているロボット掃除機があります。SLAM技術を搭載しており、掃除機がカメラやレーザーセンサーで作成したマップ上を動いて、もれなくお掃除をしてくれます。従来のロボット掃除機はこれができなくて、障害物にガンガンぶつかり、やみくもに部屋を駆け回っていました。ものにぶつかってもいいように丸いフォルムをしていたわけです。それに対して、三角形のフォルムなのは、衝突対策が万全だからです。



SLAM機能を搭載したロボット掃除機

SLAM機能を搭載したロボット掃除機(※)



――複合的なロボット技術を持ったfuRoだからこそ、共同開発実績も多いのでしょうね。


よく、大学の研究室や官民の研究所が、「こんなに素晴らしい技術を開発しました」「画期的なロボットができて、社会の未来が拓ける」という発表会を開きますが、私が思うにあれはほぼ全部ウソです。私は口の悪いので「ハイテク詐欺」などと呼んでいます(笑)。どこがウソか。ロボットの機能を飛躍的に高める「目」ができたとか、改善されたAIができたというのは、ほとんどが中途半端なハギレの技術であり、それらを融合させたロボットを誰が作るのかという視点が欠けているんです。これでは「ロボットを作った」とは言えません。



――ときには、ロボットそのものを作り上げたという発表もありますが。


それだけでは足りないのです。スペックだけで語れない部分を盛り込まなければ、本当に役に立つロボットを作ったとは言えません。どんなことに使うロボットで、社会とどのような親和性があるのか。そのためにどんな工夫や技術が投入されているのか。ビジュアル、デザインはどうか。どんな方法で社会に普及させるのか。これが普及することで仕事や生活のシーンがどう変わるのか。こういったことを総合的に考えた上でなければ、技術的に優れていても、社会に普及するロボットにはなりません。



――モノができただけでは、ゴールではない。


優れたロボットを作ったのであれば、それを広く社会にアナウンスし、広め、利用してもらうための戦略が必要です。ロボット掃除機でいえば、メーカーは、掃除機を作るためだけに私たちと手を結んだわけではないでしょう。掃除機を含む様々な生活家電をラインアップし、それを統合した新しい住宅のあり方、そういう住宅が集合した先進的なコミュニティの姿までを見すえたグランドデザインの1ピースとして、このロボット掃除機を位置づけているはずです。



――グランドデザインがなければ、優れた技術も単発で終わってしまうのですね。


そういうことです。企業とのアライアンスができ、事業計画も走っていて、法整備が必要な場合はそれもやる。私はそこまで考えてアクションしているグランドデザインの上で、今、あるロボットを社会に送り出そうとしています。その話をしましょうか。



――ドキドキします。



■高齢化社会のライフスタイルを変える「ILY-A」のグランドデザイン

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏



「ILY-A(アイリーエー)」という1人乗りの小型モビリティです。収納・運搬用の「キャリーモード」、電動三輪車になる「ビークルモード」、立ち乗りができる「キックスケーターモード」、ショッピングカートや手押し車、ベビーカーなどに使える「カートモード」の4つに変形する、未来型モビリティです。



――どんなロボット技術が使われているのでしょう。


ビークルモードでは、このサイズの車両で初めて、スマートストップと自動操縦が搭載されています。このため、人の飛び出しなどにも対応できる安全走行ができます。ここでもSLAM技術が貢献しています。キックスケーターモードでは、地面をキックした動作をAIが感知し、車輪がモーターのギアから外れて自動で人力走行に切り替わります。カートモードでは、パワーアシストの働きにより、女性や高齢者の弱い力でも動かせることができます。



――かなり欲ばりな仕様ですね。


老若男女、誰にとっても使い勝手がいいように、いろいろ考えました。これだけの機能を小さなボディにつめこんだモバイルは、世界にも例がありません。事業化計画も進んでいて、アイシン精機から2019年に市場投入されることになっています。



4つのモードに変形する小型モバイル「ILY-A」

4つのモードに変形する小型モバイル「ILY-A」(※)



――電動三輪車ということは、ビークルモードでは公道を走れるのですか。


そうです。そのために何年も経産省のNEDOに通いつめ、つくばで実証実験を続けた結果、道路交通法の解釈を変更することで、公道を走らせることができるようになりました。それだけでなく、近く発表される新しい車両規格「L6」にも対応しています。すぐにも利用できるよう、怠りなく準備をしてきました。


こうして販売の道筋をつけただけではなく、さらに、「デパ地下大作戦」という仮称の大規模試乗デモを企んでいるところです。実現すれば、きっとILY-Aを世界にアピールする最高の機会になります。



――そういった周到さが「グランドデザイン」なのですね。


まだ続きがあります。私は、このロボットで少子高齢化問題の解決をもくろんでいるのです。日本は北欧と並んで、世界で最初に高齢化の大波に遭遇する国ですが、このILY-Aを利用する高齢者が増えれば、高齢化社会に大きな転換点を与えることができる、高齢者を元気にし、社会を元気にし、日本を元気にすることができると思っています。



――高齢社会対策というと、介護支援などのイメージが強いですが。


介護をしないでいいというつもりはありません。ただ、「高齢化で病人が増える。寝たきり老人の介護で社会保障費がショートする。国が傾いていく」とマイナスのことばかり言っていても始まらないと思うんです。寝たきりになる将来のためにお金をため、家でじっとしているお年寄りがたくさんいます。もっと外に出てもらえばいいと思います。元気に楽しく生活してもらい、どんどん文化や経済の中心でいてもらう。眠っているお金は社会に還流させ、それで社会全体を活性化する。それが私の考えなんです。ILY-Aは、そういうアクティブ・シニアの新しいライフスタイルにおける「足」になれると思います。



――どんな利用シーンを考えていらっしゃいますか。


電動三輪、キックボード、手押し車ですから、基本的には近距離の移動です。500メートル先のコンビニに行くのに車を出す人はいませんし、自転車やバイクはちょっと怖かったり、危ない気がする。歩くのもかったるい。ILY-Aなら、その隙間を埋められます。性能的にもデザイン、使い勝手からも、老若男女が使えます。高齢者専用車というわけではなく、高齢者でも若者と同じように便利に、楽しく乗りこなせる、新しい「近隣用の足」になるでしょう。



■グランドデザインされたロボットで「コンヴィヴィアルな社会」を作りたい

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏



――ILY-Aがアクティブ・シニアの増加を加速し、高齢化社会の閉塞状況を変える、と。


ひとつのプロダクトが実現することとしては、稀有壮大な感もありますが、様々なサービスやシステム、インフラと連携することで、衣・食・住にわたる大きな社会的変革も可能になると考えています。


たとえば、私たちは積水ハウスと共同で健康管理・支援システムの開発に取り組んでいます。住宅に取りつけた各種センサーが脈拍や心拍数をチェックしたり、トイレに組み込んだ分析装置が尿や便の異状を知らせてくれたりする、意識せずに健康管理ができる住宅です。この住宅とILY-Aがネットワークでつながれば、日々健康であることを確認しながら、安心して外出できるようになります。そういう広がりを持ったプロダクトにすることで、より未来の展望もひらけるわけです。



――グランドデザインでは、最終的にどのような社会を想定しているのでしょうか。


ひと言でいうと、「コンヴィヴィアルな社会」を作りたいということです。コンヴィヴィアル(convivial)は、オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチが提唱した概念です。なかなか良い日本語訳がなく、辞書には「宴会的」「共愉的」などと出ていますが、私は「みんながワイワイ楽しく盛り上がっている」という捉え方をしています。


「みんながワイワイ盛り上がっている楽しい社会」へのアプローチはいろいろあるのでしょうが、ロボット技術者の私にできることは、グランドデザインによってコンヴィヴィアルなゴールを設定し、そこに合致したプロダクトを生み出すための技術を追求することになるかと思います。



――それが成長した「天馬少年」の見る未来なのですね。


情緒的に言うと、私の娘が大人になるこの先20年ほどの間に、少しでも日本の社会をよくしたい。そのために自分の持っているロボット技術を使いたい。まわりを見渡して、20年後の社会をよりよいものにしようという意志とビジョンを持った人は少ないと感じませんか。



――SFだと、高度に発達したロボットが叛乱を起こしたりしますが、ロボットは人間の仕事や働き方をどのように変えるでしょうか。


まったくナンセンスだと思います。ロボットはあくまで人間の操る道具で、火薬や包丁と同じ、人間の生活をより良くするものです。包丁は人を刺すから悪いものなのか。火薬は戦争に使われるから存在してはいけないのか。そんなことはない。ロボットやAIも同じです。悪用されるリスクがゼロとは言いませんが、ロボット自身が意思を持って人間を滅ぼすことには、現実味はまったくないと私は思います。


私の考えるロボット像は、人間を助けてくれる道具であり、時にパートナーであり従者でもある存在です。人々の仕事を強力にサポートして、これまでできなかったことを可能にし、すでにできていることはより高い生産性で行えるようにしてくれると思います。



千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏

千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長 古田貴之氏








お忙しい古田さんですが、予定時間を大幅に超過してお話しくださり、語り口の猛烈な勢いに、開発にかけるエネルギーの一端を見た思いでした。急ぎの開発には2週間でも徹夜で取り組むそうです。映画やアニメがお好きで、とりわけ、あるアニメに登場する可変型のメカが大好きだとか。そう知ってからILY-Aを見直すと、シャープなフォルムや、変形によって複数の機能を実現するところなど、もしやアニメの影響が......。そんな楽しい想像も許してしまうところに、fuRoのプロダクトの親しみやすさがあるように思います。







プロフィール


古田 貴之(ふるた たかゆき)

工学博士 1968年、東京都生まれ。 1996年、青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中途退学後、同大学理工学部機械工学科助手。2000年、博士(工学)取得。同年、(独)科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。2003年6月より千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長。









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2018年11月29日




         

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