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世界が注目する「日本の同族経営=ファミリービジネス」の秘密~日本経済大学大学院 特任教授 後藤俊夫氏インタビュー~

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)



日本では、「同族経営」はマイナスイメージで語られることが多く、ネガティブに見られがちです。しかし海外に目を向ければ、同族経営は「ファミリービジネス」という優れた経営形態として評価されており、盛んに研究されていることをご存じでしょうか。


日本でもようやくファミリービジネスの研究が立ち上がり、その優位性が次第に明らかになってきました。100年を超える長寿企業に顕著なファミリービジネスの強みとは何か、一般企業が学ぶべき点は何か。ファミリービジネス研究の第一人者、日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授に伺いました。



■長寿企業2万5000社の9割をファミリービジネスが占めている



――企業での実務経験もおありなのですか。


1966年から33年間、NECで勤務してきました。その間、ハーバードビジネススクールでのMBA取得、また現地駐在などで10年間米国で暮らしていました。99年に会社を辞め、教授として大学に入ったのを転機に、日本の老舗、長寿企業に関する研究を始めたのです。



――ファミリービジネスの研究に深く関わるようになったきっかけは。


長寿企業の研究に取り組む過程で、同族経営すなわち「ファミリービジネス」というものが、企業の長期にわたる持続的成長に大きく関与していることに気づきました。海外では何十年も前からファミリービジネスの研究が高い社会的評価を得ていることを知り、自分でも研究に着手し、データ採取などを始めました。2004年にデンマークで開かれた国際学会での研究発表で思いを強くし、いよいよ本格的に長寿企業のあり方をファミリービジネスという理論から分析する研究を進めることになりました。そのためには、当然、ファミリービジネスに精通する必要があったため、その研究にも注力することになったのです。



――ファミリービジネスとは、具体的にどのような企業形態なのでしょうか。


日本の法人税法では、「3人以下の株主が全発行株式の5割以上を持つ会社」を「同族会社」と定めており、これだと、厳密な意味で「同族」でなくても、3人の強い株主が牛耳っている会社はすべて同族会社だということになってしまいます。


私の定義を簡単に言うと、「一族の者が役員または株主の2人以上を占めたことがある企業」ということになります。親子や兄弟姉妹、配偶者や養子、あるいは祖父と孫のように、同時期であれ異なった時点であれ、2名以上の近親者が会社の経営または所有に強い影響力を持つ企業ということです。



――ファミリービジネスと長寿企業はどのような関係にあるのでしょうか。


日本には約260万社の企業が存在しますが、そのうち2万5321社(2014年現在)が100年以上継続している長寿企業です。これは、企業数で見ても、全企業に対するパーセンテージで見ても、圧倒的に世界No.1です。そしてその9割以上がファミリービジネスによって運営されているのです。上場企業だけでも5割以上をファミリービジネスが占めています。豊田家のトヨタ自動車、松下家のパナソニック、鳥井・佐治家のサントリーなど、名だたる日本の代表的企業はどれもファミリービジネスによって成り立っているのです。日本は、まさに長寿企業大国であり、ファミリービジネス大国だといえます。



■サラリーマン的経営ではなしえない、ファミリービジネスの特徴

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)



――ファミリービジネスの経営が一般の企業と大きく異なる点は。


いくつもありますが、最も大きいのは、会社の「経営」と「所有」が創業者一族で一致していることです。ファミリービジネスではない一般企業、とりわけ大手企業においては、トップは下からの持ち上がり、いわゆる「サラリーマン社長」が交代で務めます。また株式も分散されており、短期的な業績欲求など、一族以外の株主からの要求に応えていかなければなりません。もちろん、これらには長所もあるのですが、最大の欠点は、重大な経営判断が必要なときに、素早く立ち回ることができないということです。


その点、ファミリービジネスは意思決定が早く、いち早く果敢な行動に打って出ることができます。しかもその判断は、一家、ひいては一族に重く関わるものなので、彼らを率いるトップは強い責任感を持って行う。持ち上がりのサラリーマン経営者とは、危機感・真剣度が違うのです。



――なるほど。


ファミリービジネスの経営者は超長期の視点に立っています。私が働いていたNECを含め、多くの企業のスパンは、短期計画で1年、中期で5年、長期でも10年といったところです。これに対し、ある長寿企業では、「短期10年、中期30年、長期100年」で自社を見ているそうです。詳しく聞いてみると、「短期10年は事業承継の準備期間、中期30年は自らが社長として責任をもつ任期、長期100年は、3代先を見据えた構想と準備」を考えるとのことです。毎年の利益確保に追われ、10年と経たずに交代してしまう一般企業の社長とは、まったく異なる時間軸で動いていることがわかります。



――たしかに同族経営というと創業者が長くトップであり続けるイメージがありますが、その期間が30年だということですか。


私の調査では、長寿ファミリービジネスにおける社長の在任期間は平均28年でした。これに対し、サラリーマン社長の任期は一般にずっと短く、在任期間中にできることも限られてしまいます。毎年の利益確保に傾注し、株主の手前、在任中に大きなミスをしないことで手一杯というのが実際ではないでしょうか。そうなると、会社の創造的な飛躍のチャンスも自然と限られてくるでしょう。



――それはまったく異なりますね。


ファミリービジネスが大多数を占める長寿企業は、短期間に大きく成長することを目的としていません。何より大切なのは、「継続すること」です。目先の利に走らず、借金をせず、慎ましくても身の丈に合った規模で、何代にもわたって存在し続けることが重視されているのです。結果として、それが企業の持続的成長につながり、100年という長期にわたる経営を可能にしていると私は考えています。



■海外が熱い視線を注ぐ日本のファミリービジネス

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)



――ファミリービジネスの特長は、経営実績にどのような形で表れていますか。


最近の調査では、ファミリービジネスのあり方が企業のパフォーマンスにも影響していることがわかってきました。上場企業でデータをとると、一般企業にくらべて、ファミリービジネスは総資産事業利益率(ROA)や自己資本利益率に現れる「収益性」、また流動比率や自己資本比率で見る「安全性」の両方で数値的に優位という結果が出たのです。これらは株価にも反映され、ファミリービジネスの株価は好況期・不況期とも一般企業を凌駕しています。


海外でも類似の調査結果が知られていますが、日本のファミリービジネスにおける経営実態の調査は行われておらず、われわれがここ7年間に行った調査が初めてのものです。



――国際的に注目を集めているのは、日本のファミリービジネスが、そうした企業としての強さを生んでいるからですか。


それももちろんありますが、ファミリービジネスの優位性は、海外で先に見出され、提唱されたものですから、そこはメインではないかもしれません。研究者が注目しているのはその「長寿性」でしょう。先ほど100年企業が2万5000社とお話ししましたが、そのうちの3900社強は200年企業、1000年以上継続している「超長寿企業」が21社もあるのです。



――すごいですね。


宮大工の金剛組は西暦578年に創業し、世界最古の企業として知られています。現在は金剛家による同族経営ではありませんが、実に1400年以上もファミリービジネスを続けてきた会社なのです。このような会社は世界に例がありません。何がそうさせているのか、世界の研究者や経営者が知りたがっています。



――研究者だけでなく、経営者も高い関心をもっている。


欧米、アジアともに熱心です。企業の存続は、まさに我が身に切実なテーマですから、日本のファミリービジネスにヒントを見出そうとする海外企業は非常に多いのです。100年単位での存続を考えると、創業者からの事業承継が大きなテーマになります。この点にも、海外の研究者・経営者が注目しています。親や祖父の時代からの創業者精神を受け継ぎ、時代に合った経営を行うオーナー社長がファミリービジネスを成功に導く大きなポイントです。長寿企業を生み出す事業承継の本質、日本的経営の要諦を皆が知りたがっているのです。


私を含め、日本のファミリービジネスに関する調査研究がまだ緒についたばかりのため、大きな研究成果については今後を待たなければなりません。一刻も早く研究を進め、世界に胸を張れる成果を得たいと思います。



――ファミリービジネスが株価でも優れているとすれば、投資筋も注目しますね。


おっしゃる通りです。海外の機関投資家たちは、ファミリービジネスの株価にいち早く着目し、中位以下の上場企業や、近く上場が見込まれる伸び盛りの中堅企業を、まさに虎視眈々と狙っています。ファミリービジネスがパフォーマンス的に優れているのであれば、そこに投資すれば、短期のキャピタルゲインの面でも有利ですし、長期的な投資リスクの低減にもつながります。彼らがファミリービジネスに注目するのは、ある意味当然のことともいえます。




■生き残った長寿企業はリスクをどう回避してきたか

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)



――国内では、ファミリービジネス=同族経営はそれほど評価されておらず、むしろ前時代的なものと受け止められているように思います。


もちろんファミリービジネスも完全無欠ではありません。強権を持ったオーナー社長が会社を私物化・食い物にする放漫経営をして破綻したとか、創業者のあとを継いだ2代目がとんだ「馬鹿息子」で、財産を食い潰し会社をダメにして放逐したとか、最近でも、ある会社の経営権をめぐる父娘の争いが話題になりました。



――調査会社の倒産レポートを見ると、そうした例は多く見られます。


そうした事例も実際にたくさんあり、100年企業を2万5000社生み出す一方、何百万もの会社が志半ばで消えていったのでしょう。しかし逆に考えれば、そうしたリスクを乗り越えた長寿企業の良さにこそ、スポットが当たるべきではないでしょうか。メディアは派手で興味を引くトピックを優先して報道しますから、大きくつまずいた会社の事例ばかりが喧伝されます。私は、その陰にあるファミリービジネスの美点こそ、もっと語られ、広まってほしいと願っています。



――成功した長寿企業は、ファミリービジネスのリスクをどのように回避してきたのでしょうか。


たとえば「家訓」「家憲」といった一族の心得書きで、対処を代々受け継いでいる例が多く見られます。血族同士の争いは、他人同士の争いよりもずっと深刻で、致命的なものになりますから、それを厳に戒める家訓がたくさんあります。事業承継についても、跡取りには華美な格好や贅沢な食事をさせず、奉公に出したり日本一周の旅をさせて、能力を磨いたり見聞を広めることを奨励しています。それでも実子に力量がないと判断した場合は、養子あるいは婿養子を迎えるなど、しばしば外部の人材を登用して経営を任せています。そういった人材は代々続くしがらみに縛られていませんので、意欲的な事業に打って出て成功し、のちに「中興の祖」と呼ばれるようになった例も少なくありません。



――創業者であるオーナーが暴走してしまう例もありますよね。


その有名な対策としては、近江商人に伝わる「押し込め隠居」という制度があります。絶対的な権限を持つファミリービジネスの当主がおかしなことをした場合、まず分家や番頭が諫言して止める。それでも聞かない場合は、周囲が立ち上がって有無を言わさず「押し込め」、当主を引退させます。そうして事業承継を早めたり、人材登用を行ったりして手当てするわけです。


また、長寿企業のファミリービジネスにおいて、今話に出た「番頭」も非常に重要な位置づけのスタッフでした。現場責任者であり、後継者の教育係・後見人であり、「押し込め隠居」のように、一族の代わりに問題のあるトップに物申す。この「番頭」にあたる適切な外国語訳はなく、まさに日本独自の企業文化であり制度です。そうした点にも海外のファミリービジネス研究者は関心をもち始めています。



――経営環境の急変や自然災害といった外部リスクへの対策については。


大きくは2点でしょうか。


物理的な面では、多くの企業が自己資本や利益の内部留保に努め、非常時の備えとして代々蓄えています。江戸時代の大店では、店の床下に小判を詰めた大きさの違うかめが埋められていて、クライシスの大小に応じて使い分けるという仕組みがあったといいます。そうした伝統は現代にも受け継がれていて、1991年のバブル崩壊直後の時点では、ファミリービジネスの倒産件数は一般企業のそれに比べて少数でした。3年、5年と時間が経過すると増えていきましたが、内部留保を使い果たすまで苦境を持ちこたえたと考えられます。



――もうひとつは。


社会関係資本と呼ぶ人間関係の強さです。ファミリービジネスの多くは、顧客はもとより、従業員や取引先、さらに地域社会まで、自社のステークホルダーを幅広くケアしていました。万一の時には全社一丸となり、さらに地域の力も借りて復興を試み、生き残ってきたのです。


1995年の阪神淡路大震災で、灘の酒蔵は文字通り壊滅的に被災しましたが、そのひとつに「辰馬本家」があります。1662年創業という超長寿企業で、地域貢献の一環として1920年に「辰馬育英会」という学校法人を創設しています。幼稚園、中学校、高等学校を運営し、地域に深く根を下ろしている会社です。その辰馬、震災直後には、競合する同業者も巻き込んで復興に邁進し、いち早く地域ぐるみで立ち直っています。同業とのつながりを重視し、あるときは婚姻によって血縁関係を構築するなど、社会関係資本に支えられた地域ぐるみの復興だったと言えます。このような数字に表れない「社会のお役立ち」を大切にする経営のあり方も、日本ならではの特徴です。



■ファミリービジネスが強みを発揮する時代が来た

後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)



――ファミリービジネスのあり方は、今後変化していくでしょうか。


ファミリービジネスの形態は多様に変化していくと思います。最初にお話しした「経営」と「所有」についても、創業一族以外からのトップ・役員の登用事例は拡大しています。経営環境の変化や技術革新に対応するため、というのがその大きな理由です。10大株主に一族の名前のないケースも増えています。しかし、それはあくまで外見のことで、一族の経営に対する実質的な影響力は維持されており、ファミリービジネスとしての実体は、今後も変わらず継承されていくと思います。



――従業員にとっての働き方へも影響しますか。


近年の「働き方改革」は、組織の効率と個人の幸福を均衡する方向で進んでいますから、社員を歯車として使い捨て、望まぬ滅私奉公を強要するような旧態依然の企業スタイルは通用しなくなるでしょう。実は、働く者の物心両面の利益を尊重し、創業一族とともに歩むことを重んじるのが、古くからのファミリービジネスのスタイルです。ルールで「働かせる」のではなく、「仲間」あるいは「家族」として楽しく働く。これは、近未来の企業のあり方として多くの会社のお手本になり、採用され、応用されて浸透していくのではないでしょうか。



――ファミリービジネスならではの、経営者と従業員との関係ですね。


また、経営者の社会的責任(CSR)も、ファミリービジネスが古くから重視してきた経営姿勢です。先にあげた辰馬本家のように、顧客や従業員にとどまらず、同業他社まで含めた絆を醸成し、地域貢献で社会と共生する姿は、リスクヘッジとしてだけでなく、企業の価値として広く一般から認知されるようになるでしょう。ファミリービジネスはますますその存在感を増していくと思います。




■お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事」でお気に入りの記事を教えてください。


日本レーザー近藤会長のインタビューは印象的でしたね。危機に瀕した子会社を再建するために派遣された立場なのに、創業経営者のような起業家精神が感じられます。中でも、社員全員が同社の株主だという一節は興味深く拝読しました。これによって、従業員の間に一族的な結合が生まれたのではないでしょうか。ご本人が意識されているかどうかはわかりませんが、ファミリービジネスの創業者的な感覚をお持ちの方だと感じました。


破綻寸前の危機から25年連続黒字の優良企業へ――従業員ファーストの「進化した日本的経営」とは?~株式会社日本レーザー 代表取締役会長 近藤 宣之氏インタビュー~




後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)

著書とともに。後藤 俊夫氏(日本経済大学大学院 特任教授)








長寿企業、ファミリービジネス研究の第一人者である後藤さんには、中国、韓国、フィリピン、ベトナム等のアジア諸国からの講演依頼も多く、研究を通じて、米国をはじめドイツ、イタリア、デンマーク、トルコ、ポーランドといった欧米諸国とも親交を深めているそうです。データ分析にもとづき、楽しそうに持論を展開する姿には、人間的な深さと親しみを強く感じました。今後の研究の進化発展が楽しみです。







プロフィール


後藤 俊夫(ごとう としお)

日本経済大学大学院 特任教授。一般社団法人100年経営研究機構 代表理事。方面での講演・セミナーを積極的にこなしている。

1942年生まれ。大学卒業後、日本電気(現NEC) 入社。1974年ハーバードビジネススクールにてMBAを取得。1999年静岡産業大学国際情報学部教授。2005年光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授。2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任。同経営学部長を経て、2016年4月から現職。

2015年、100年経営研究機構設立、代表理事に就任。企業の持続的成長 を専門分野とし、日本の長寿企業、ファミリービジネス研究の第一人者。国内外の大学での教育活動、及び大手企業など各方面での講演・セミナーを積極的にこなしている。


著書

「ファミリービジネス白書2018年版」(監修、白桃書房)[外部リンク]

「ファミリービジネス〜知られざる実力と可能性〜」(編・白桃書房)[外部リンク]

「三代、100年潰れない会社のルール〜超長寿の秘訣はファミリービジネス〜」(プレジデント社)[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年2月5日




         

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