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ためらいなくハラスメントを起こす「職場のサイコパス」があなたの隣にもいる?~筑波大学人間系教授 原田 隆之氏インタビュー

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏



ハラスメントの話題が相変わらず止まりません。スポーツ界、官公庁、政界、そして企業や学校。ハラスメントを30種類以上も分類する人もいる中、なかなか消えることのないハラスメントを生み出しているのは、じつはサイコパスとしてのパーソナリティにあると主張するのが、犯罪心理学の専門家、原田隆之氏です。おそろしい凶悪犯罪者というサイコパスのイメージとハラスメントは、どのように結びつくのか、お話を伺いました。



■増加の一途をたどるハラスメント事案


――ご略歴をお聞かせください。


一橋大学大学院と、カリフォルニア州立大学大学院を修了しました。その後、東京大学大学院医学系研究科でPh.D.を取得しています。臨床心理学、犯罪心理学、そして精神保健学が専門で、これまでに法務省矯正局や東京拘置所、国連薬物・犯罪事務所などで働き、今は筑波大学で教えています。



――法務省や東京拘置所では、犯罪者を相手にしてきたのですか。


心理技官としての仕事ですから、軽犯罪から殺人犯まで様々な人と面談してきました。その経験を大学で教えることに活かしています。



――今日は「ハラスメント」について伺いたいと思います。


ハラスメントとは、ひと言でいうと「嫌がらせ行為」のことです。他者が望まない行動や発言をして、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけることを指します。


ご存知の通り、ここ何年か地位や権力などを背景にした「パワーハラスメント」、性的な嫌がらせをする「セクシャルハラスメント」などがメディアを頻繁に賑わせています。ほかにも、飲酒を無理強いする「アルコールハラスメント」や、大学などで教員が指導学生に行う「アカデミックハラスメント」、相手をことさらに無視したり嫌味を言ったりする「モラルハラスメント」、妊娠中・育児中の女性に対する「マタニティハラスメント」、その男性版である「パタニティ・ハラスメント」など、様々な領域でハラスメントが指摘され、社会問題化しています。



――実際に件数は増えているのでしょうか。


おそらく、ハラスメントが急激に増えているわけではないでしょう。旧来の社会通念では問題がなかった行動や発言が、社会や人々の意識の変化にともなって問題化するようになってきた。ゆえなく尊厳を傷つけられることに異議を唱える人が増え、それがメディアやネットで共有されて、問題意識が高まっているのが現状だと考えられます。



――昔の社会では、ハラスメントが許されていた?


今も古い体質を抜け切れていない分野のひとつが、スポーツ界です。厳しい上下関係のもと、上位者・指導者によるハラスメントが続いてきました。相撲部屋で新弟子や後輩力士に暴力を働いたりする「かわいがり」は有名ですが、昔は半ば当然の指導の一環として行われてきました。死者が出るような問題になり、協会が「再発防止に努める」と表明しているにも関わらず、最近も繰り返し発生しています。これなどは旧態依然とした体制や感覚が背景にある典型と言えるでしょう。



――レスリングやラグビーなどでも選手側がパワハラを訴える事例がありました。


有名選手による訴えだったので大きな話題になりましたが、逆に言えばそんな一流選手でも被害に遭っているのですから、水面下ではずっと多くの事案があり、多くのアスリートが深刻な物理的・精神的ダメージを被っていることが想像できます。


それと似たことが、企業でも起きていると思います。古い制度や意識で、部下や同僚にハラスメントをして、しかもそれを問題と考えていない年長者が、おそらく少なからず存在する。そういった人々は、自分の中の時代感覚がアップデートされていないので、周囲が問題視しているのに態度を改めることがありません。困ったことですが、簡単には解決できない問題です。



■ハラスメントする側の論理は「相手のためにやっている」

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏



――ハラスメントはなぜ後を絶たないのでしょうか。


ハラスメントの加害者のほとんどが、相手に対する悪意をもっていないからでしょうね。いじめている感覚ではないのです。会社のために部下を指導する、結果を出すために選手を指導する、と考えている。じつはその「◯◯のために」という文脈の中に指導の域を超える暴力、暴言が含まれているのですが、加害者はそれに気づいていない。相手のためによかれと思って「やってあげている」つもりでいるわけです。



――悪気がない。


そう考えていいと思います。だから本人の意識が変わることもなく、現象としてのハラスメントもやむことがないのです。


何度も失言や放言を繰り返して問題になっている政治家の発言を見ると、自分が育ってきた、やってきた価値観にしたがって"普通のこと"として発言したことが、今の社会とズレていることがわかります。それに気づくことのないまま、表面上だけ謝罪しては、新たな失言を繰り返しているわけです。



――問題が再発するのも当然ですね。


先ほどお話ししたスポーツの世界などでは、「昔はもっとスゴかった」というような論理が横行しています。自分がされた頃にくらべれば甘いはずの指導をしているのに、なぜ問題になるのか、というわけです。実際には、昔と今は違うから、新しい価値観や倫理観に沿った指導をしなければならないわけですが、そう考えることができないのですね。災難なのは選手です。行き過ぎた指導のために才能を発揮できずに終わってしまったケースは数えきれないほどあるのではないでしょうか。



■ハラスメントをためらわない「サイコパス上司」とは

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏



――ハラスメントを行う人の特徴は。


近年、ハラスメントを行う人のパーソナリティに着目し、その共通項をまとめる研究が進んでいます。その中から出てきたのが、「マイルド・サイコパス」という概念です。



――サイコパスというと、殺人などの重犯罪者のようなイメージですが。


映画やドラマで一般にもイメージがついてしまいましたが、サイコパスとは脳の機能の一部に異常がある病気の一種です。人口の1%ほど存在するといわれますが、「連続殺人犯」のような重犯罪を犯す者はそのごく一部に過ぎません。同じサイコパスでも危険度は様々で、危険度はグラデーションのように分布しています。



――危険度が少ない層が「マイルド・サイコパス」なのですね。


そうです。少数の特殊で凶悪な人ではないので、重犯罪に手を染めることはありませんが、ハラスメントで周囲に悪影響を与える人、「嫌がらせをしてくる迷惑な人」=サイコパス属性の人が、学校や職場のような身近なところに必ず一定数含まれていると考えられます。



――どんな行動をとる共通性がありますか。


「人の心や人権、尊厳を平気で踏みにじる行動をしながら、そのことに心が動かない」という特徴があります。誰かに害をなそうとするとき、人の心の中には、こういうことをしていいのだろうかという強い不安が起こります。それがブレーキになるために、私たちは暴力や暴言を起こさないのです。


ところがサイコパスにはその不安がないので、良心の呵責なく他者を傷つけることができます。危険なサイコパスだとそれが殺人にまで至るわけですが、マイルド・サイコパスはそこまで至ることはない代わりに、周囲の人々にハラスメントによる害を加えるわけです。



――かなり厄介ですね。


上司の立場でマイルド・サイコパスの人がいると、パワハラがひどくなるでしょうね。海外の調査ですが、サイコパス上司がいない会社のハラスメント発生率が58%だったのに対し、サイコパス上司がいる会社では93%を占めているデータがあります。つまり、マイルド・サイコパス上司のほとんど全員がハラスメント行為に及んでいるわけです。結果、部下のモチベーションは低下し、離職率が上がります。うつなどのメンタル障害も増加します。



――現実に多くのサイコパス上司がいるのでしょうか。


一般社会ではサイコパスの発生率は1%ですが、組織の指導的地位にいる人で見ると4%になるという研究があります。一見したところ、サイコパスの人々は人当たりがよく魅力的で、強いリーダーシップを持っているように見える傾向があり、コミュニケーションやプレゼンも巧みです。不安をともなわずに行動できるので、自信があり、実行力があると評価される傾向があります。このため、裏側に抱えているパーソナリティの問題が見過ごされ、リーダーの資質を認められて責任ある立場を任されているケースが少なくないと思います。



――なるほど。


その一方で、彼らは感情が薄っぺらく、無責任で平気で嘘をついたり、人の気持ちを思いやることができず、パワハラ被害者を量産しています。モラルのハードルが低いので、横領や情報漏洩などに手を染める恐れも大きく、重要部署にいる場合は、粉飾決算、談合、製品偽装、インサイダー取引といった企業犯罪に加担するケースも考えられます。これらをトータルで見れば、サイコパス上司は会社に害を与える可能性が高いといえるでしょう。



――サイコパス上司を見つけるには。


アメリカでは「ビジネス・スキャン」というアセスメント・ツールを採用する企業が増えています。これは企業向けに作られた「サイコパス・チェックリスト」で、リーダー社員のサイコパス傾向をチェックできます。マイルド・サイコパスを早い段階で見つけ、彼らを会社のお金に関わるポストや部下を管理するポストから外し、それ以上昇進させることを止めて、会社への損害を未然に防ぎます。



――かなり徹底した対策ですね。


アメリカは訴訟社会ですから、企業犯罪はもちろん、ハラスメントをめぐるトラブルも訴訟案件になります。企業にとって重大なリスクになりますので、スピーディで効果的な対策を講じる必要があるのです。ビジネス・スキャンは、その仕組みの一つとして注目されているようです。



■「ハラスメント社会」に歯止めをかけられるか

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏



――具体的にハラスメントを防止するための方策はありますか。


お話ししたように、サイコパスは脳の機能障害であり、有効な治療法は見つかっていませんので、現状ではサイコパスを根本的に社会からなくすことはできません。



――意識改革や啓発教育はできないのでしょうか。


無意識的・無自覚的にハラスメントを行っていますから、啓発によって気づきを与えることができれば、状況が改善する可能性はあります。ただ、それはあくまでも対症療法であり、根本的な解決にはなりません。いくら知識を与えても、罪悪感なく人の権利を侵害し、無責任に行動するパーソナリティの問題は、解消されないままだからです。残念ながら、マイルド・サイコパスによるハラスメントを根本的に社会から取り除くことは、現状では難しいといわざるを得ません。



――では、何をすべき?


ハラスメントとは、最も基本的かつ大切な人権を侵害する暴力ですから、その意識を持って行動すること、またその意識を広く社会に浸透させることがきわめて重要です。


「指導のためだから」「しつけのためだから」「俺とお前の間柄だから」等々、条件をつけて暴力によるハラスメントを正当化することは、すべて認めるべきではありません。世の中に「やってもいい暴力」「許される暴力」というものは存在しないのです。



――被害者サイドではどのような対応をすべきですか。


被害にあった場合は、必ず声を上げて訴えることです。学校や企業にハラスメント委員会のような窓口がある場合にはそこへ、そうでなければ法務省の人権110番や各地方自治体、労働基準監督署などの公的窓口、法テラス(日本司法支援センター)などのNPO法人が、訴えの受け皿になっています。



――声を上げて訴えることができないケースも多くあるようですが。


被害にあった事実、加害者の追及を積み重ねることはきわめて重要ですから、泣き寝入りはダメです。ハラスメントの構造においては加害者は「恐ろしい相手」なので、訴え出ることを恐れたり、消極的になってしまう気持ちは理解できます。しかし、そこを乗り越えないと、問題が社会に共有されることはありません。心を強く持って行動してほしいと思います。



――社会の意識を向上させることが早道なのですね。


初等教育から、人権の重要性、それを侵害するハラスメント防止の考え方を教えるべきです。被害者サイドの権利者意識を高め、加害行為に歯止めをかけるためにも、教育の重要度は高いでしょう。「人権侵害はいけない」「ハラスメントはいけない」という社会的価値観を共有することで、罪悪感なく行動するサイコパスにも一定のブレーキをかけることができるのです。



――ハラスメントがない社会は実現するでしょうか。


長い目で見なくてはいけないでしょう。現時点でハラスメントに対する古い価値観を持っている人が今後改善していくことは考えにくいでしょう。日々新しい種類のハラスメントが出現し、対策の手も十分には回っていません。



――厳しい状況ですね。


一世代、二世代回るうちには、変化が出てくると思います。古い価値観は自然に淘汰されていきますし、そのあとに教育を受けた意識の高い世代が中心の社会が来れば、ハラスメントの絶対数は減っていくのではないでしょうか。被害の受付窓口も充実しているでしょうし、事例の蓄積で問題の切り分けや対策も、今よりは整ってくると思います。


時間がかかっても根気よく取り組むことが大切です。その前提で考えれば、じつは私はハラスメントの将来について意外と楽観的なのですよ。



筑波大学人間系教授 原田 隆之氏

筑波大学人間系教授 原田 隆之氏







優れたアスリートに見られる、不安に打ち勝ち冷静に局面に対処できる強いメンタル。たとえば、MLBのレジェンドであるイチロー選手や、フルセットマッチに強いテニスの錦織圭選手などは、じつはある意味で「良性のサイコパスに近い状態にいる」と原田先生は指摘します。サイコパスは、ナチュラルな状態で、メンタルトレーニングの極致を経て達するアスリートたちと同じ境地にあるそうです。マイルド・サイコパスも、問題行動さえしなければ希有な才能なのにと、なにかもったいない気持ちになってしまいました。






プロフィール


原田隆之(はらだ たかゆき)

1964年生まれ。一橋大学社会学部卒業。同大学院社会学研究科博士前期課程、カリフォルニア州立大学心理学研究科修士課程修了。東京大学大学院医学系研究科でPhD取得。法務省、国連薬物犯罪事務所(ウィーン本部)、目白大学人間学部教授等を経て、現在筑波大学人間系教授、東京大学大学院医学系研究科客員研究員。専門は、臨床心理学、犯罪心理学。


著書

犯罪行動の心理学(北大路書房)[外部リンク]

サイコパスの真実(ちくま新書)[外部リンク]

入門 犯罪心理学(ちくま新書)[外部リンク]

心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門(金剛出版)[外部リンク]

認知行動療法・禁煙ワークブック(金剛出版)[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年6月4日




         

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