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「土日は工事ナシ」を当たり前に!「けんせつ小町」から始める建設業界の働き方改革

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「女性の笑顔、あります」とバナーを掲げた現場

「女性の笑顔、あります」とバナーを掲げた現場



■建設業で働くすべての女性の愛称「けんせつ小町」


梅のマークのような「けんせつ小町」のマークを、町の工事現場の囲いなどに見かけたことはありませんか?


このマークは、2014年10月、大手建設会社で組織する一般社団法人日本建設業連合会(以下、日建連)が制定したものです。


「けんせつ小町」というのは、日建連が公募し、2940件の応募から選ばれた建設業で働く女性の愛称です。このマーク、よく見ると5つのヘルメットの形で構成されています。愛らしい実力派のイメージでしょうか。


「けんせつ小町」が誕生した背景には、建設業の人手不足問題があります。


一般的に"3K(きつい、汚い、危険)"というイメージがある建設業界は、若者離れの傾向が著しく、その現状に業界は強く危機感を持ち、働く環境の整備に注力してきました。建設業界の人手不足の解消策には、若者だけでなく、女性やシニアの活躍推進が必要不可欠です。


2013年11月、建設5団体が出席した首相官邸での「第3回経済の好循環実現に向けた政労使会議」において、前日建連会長の中村満義氏が「建設現場での女性の力の活用を図るため、対策を早急に講じたい」と表明しました。そのようにして、「けんせつ小町」をシンボルとする日建連の女性活躍推進の取り組みが始まったわけです。


「日建連の決意」と称したアクションプランを策定し、目標に向かって積極的な施策を推進。2012年時点で、建設業の女性技能者はほんの2.7%に過ぎず、全産業に占める女性比率の22%に比べてかなり低い水準だったので、増加するポテンシャルはかなり高い環境にありました。


本記事では、女性が少数派だった建設業界において積極的に女性活躍推進の取り組みを続けている日建連と、現場で活躍している「けんせつ小町」の方々に取材し、女性活躍のためのポイントをお伝えしたいと思います。



■将来の担い手不足に対策を急ぐ建設業界


ここで日建連という団体について説明しておきましょう。


日建連は、スーパーゼネコン5社をはじめとする140社が所属する業界最大の団体です。建設業界をリードする立場から、2016年に始まった働き方改革、中でも「女性の活躍推進」について、女性が安心して働ける環境整備に積極的に取り組んでいます。


「丁寧なヒアリングなどを通して現場の声をくみ上げ、着実に環境整備する中で、意外なことが見えてきたんです」と企画調整部長の河合一宏さんが語ってくれました。


日本建設業連合会 企画調整部長 河合 一宏さん

日本建設業連合会 企画調整部長 河合 一宏さん




現場で働く女性技能者を増やしていくためのアクションプランを2014年3月に出しました。その後、国土交通省と建設5団体での会談で、「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を決めました。合わせて日建連としての決意を発表し、当初は女性技能者を対象とした話でしたが、この段階では会員会社の技術者や事務系職員も増やすためにはどうしたらいいかということも合わせて取り組むことにしました。一般の方にはわかりにくいかもしれませんが、技能者というのは、左官、鉄筋など実際に作業をする職人さんで、技術者は、ゼネコンの社員の現場監督、設計などの職種を指しています。外勤・内勤の技術者や事務系職員も含めて、全体で女性を増やしていきたいという取り組みになったわけです。


「けんせつ小町」という愛称を決めたのは2014年で、その後、彼女たちが働きやすい現場環境整備マニュアルを制定し、努力目標に掲げました。マニュアルでは、女性に配慮したトイレをはじめ、更衣室、休憩所の設置からセクハラ防止、出産育児のサポートまで、きめ細かくサポートしています。


(日本建設業連合会 企画調整部長 河合一宏さん)




当初はトイレや更衣室などのハード面ばかりに目がいっていたそうですが、ヒアリングなどを重ねるうちに、現場でのセクハラ防止や、出産育児サポートの仕組み作りなど、働く上での幅広いニーズが見えてきたそうです。また、実際にやってみて難しいな、という制度もありました。




現場内で完結できるような対策だけでなく、全社的な制度として取り組まなければならない対策へと広がっていきました。一例として、それまでは現場管理を担当していた女性が出産すると、職場復帰した後は内勤に転換するケースがほとんどでした。そうした現状に対して、出産育児を経た女性が現場で働くにはどうしたらいいかという問題が提起されました。そのような要望をサポートするためにはソフト面での対応が重要です。現場の理解を共有するため、妊産婦に禁止されている現場作業や育児中の者への配慮をe-ラーニングを活用したり、年次ごとの集合研修を行ったり、マニュアルにも反映させたりしています。女性が働きやすい職場は、男性にとっての働きやすさに通じますから、こうした取り組みによって若い人に選んでもらえる職場にしていきたいですね。


(同)




同 企画調整部 参事 釜崎 耕司さん

同 企画調整部 参事 釜崎 耕司さん




マニュアルには「現場やその付近に託児所を作ることが望ましい」と書いてありますが、実際には、子どもと満員電車で出勤しなければならないことを考えると、自宅近くの保育園などに子どもを預けるほうが負担は軽くなります。そうすると、保育園が開く時間との関係で、現場で7時半、8時に始まる朝礼に出ることは難しい。そこで、朝礼の内容や連絡事項を別途伝達するなどの工夫をして朝礼への出席を免除している現場もあるようです。


(同 参事 釜崎 耕司さん)




■女性の活躍を現場で見られる「けんせつ小町活躍現場見学会」


日建連では、2015年夏から、女子小中学生をメイン対象に「けんせつ小町活躍現場見学会」を実施しています。


この見学会は、女性が主体的に活躍している実際の建設現場を見学に訪れ、人々の暮らしに欠かせない構造物ができていく様を間近に見学できるイベント。


10年単位のプロジェクトも珍しくないこの業界ならではの、10年後、20年後の担い手に建設業のやりがいや「建物を作るってスゴイ」「かっこいいお姉さんがいた!」とアピールする、長期的な取り組みです。


また、現場見学だけでなく、夏休みの自由研究になるような、コンクリートをジップロックで混ぜて固めるところからメモ立てを作る工作や鉄筋の結束、タイル張りなどの「お仕事体験」をすべての現場で行っているのも大きな特徴です。 子どもたちを飽きさせない、心に残るイベントになるよう心掛けているとか。


このイベントを建設現場で支えているのは、会員企業の女性職員です。当日のプログラム作りから工作材料の買い出しなど、日常業務の中で準備を進めるのは大きな負担と思われますが、参加した子どもたちに「私もこんな大きなものを作ってみたい」「けんせつ小町ってカッコイイ!」と思ってもらえるよう、どの担当者も熱をもって取り組んでいるそうです。


建設業だけに、外堀から埋める環境作り作戦と言えるでしょうか。



同 広報部 参事 五百木 祐美さん

同 広報部 参事 五百木 祐美さん




少子化のせいか、最近は就職や進路を決める際にも、親の意見が尊重される傾向があると聞きます。親の世代は、建設業というと3Kというイメージを持ってしまうので、「女性に建設業はちょっと......」ということになってしまう。そこで、子どもたちだけでなく、現場見学会にお子さんを引率してきた保護者の皆さんにも、女性も働きやすい環境がどんどん整備されていることを知ってもらいたいのです。実際に今、これだけ多くの女性が現場で活躍しているのをぜひ見てもらいたい。参加された保護者からは「現場がこんなに綺麗だとは知らなかった」などという感想をいただきます。「けんせつ小町さんがしっかりしていて、娘もあんな風になってほしい」「笑顔で楽しそうに働いているのが素晴らしい」といった声も多く、建設業のイメージアップに大いに役立っていると思います。正直なところ準備は大変ですが、子どもたちの笑顔やきらきらした目を見たら、やって良かったと心から思います。いつか、「けんせつ小町見学会に参加したことがきっかけで、建設業界に就職しました」という人と会うのが夢ですね。


(同 広報部 参事 五百木祐美さん)






けんせつ小町だけでなく、男性も育児休暇を取れるような働き方改革を進めていきたいと考えています。また、建設業界は、残念ながら他の産業より長い労働時間が常態になっていますので、まずは建設現場を週休2日制にしようと。"土曜日は工事お休み"が普通になるように目指しており、2021年度までに建設現場の4週8閉所を常態化する実行計画を進めています。


(河合さん)




日本建設業連合会 企画調整部長 河合 一宏さん、企画調整部 参事 釜崎 耕司さん、 広報部 参事 五百木 祐美さん

(左から、日本建設業連合会 企画調整部長 河合 一宏さん、企画調整部 参事 釜崎 耕司さん、 広報部 参事 五百木 祐美さん)




■女性技術者の意外な強み


実際にけんせつ小町として働いている女性の働きぶりを見てみたいと思います。


スーパーゼネコンである竹中工務店では、1988年度から総合職の女性技術者の採用を開始しました。同年度の178名の新入社員中、当時はまだ女性総合職は3名。1991年からは、施工管理担当者(いわゆる現場監督)も女性総合職での採用を始めました。


都内の竹中工務店東京本店の建設現場を訪ね、同じく1988年入社の東京本店総括作業所長の松岡久史さんに、女性の意外な強みに驚いたエピソードを伺いました。



株式会社竹中工務店 東京本店 総括作業所長 松岡久史さん

株式会社竹中工務店 東京本店 総括作業所長 松岡久史さん




私がまだ若い頃1992年~1993年にかけて、都内の小さなオフィスビルの作業所を一人で管理していました。竣工前になって忙しくなってきた時に、引渡し書類のまとめや鍵の整理などをする際に、入社3年目の女性技術者に「応援」に来てもらいました。建設現場の「応援」業務というのは、ちょっと困った時に手助けしてくれるというものですが、彼女のおかげで非常に助かりました。竣工時にお客様に建物を引き渡す時の書類整理や、仕上がった内装材の汚れや傷のチェックなどの面で、仕事のきめ細かさが全然違ったのです。当時はまだ、女性が現場監督を務めるには相当ハンデがあったと思います。厳しい仕事ですから体力的にも苦労されたと思うんですが、建設業でも、女性ならではの能力を発揮できる場面があるとその時代から思っていました。


また、5年ほど前に竣工しお引渡しした都内の大型マンションの1年目点検でのことです。入居者様から「ユニットバスの上でヒューヒューという音がする」というご指摘があったのですが、アフターサービス担当の女性は「奥様、こんな素敵なお住まいで羨ましい限りなんですが、新しいおうちをお持ちになるということは、新たに可愛いお子様を授かったようなものでございまして......」。何を言い出すのかと思ったら、さっと天井のフィルターカバーを外し、「こんなにフィルターがお汚れになっているので、音がしたのでしょう。お手入れしていただければ音がしなくなります。交換手順は竣工時にお渡ししている取り扱い説明書の中にございますので、時間がある時にでもご確認ください」と。言い方も含めて丁寧で完璧な説明であり、我々男性には真似できないお客様の立場に立った対応にとても感心しました。女性が建設業で働く際のこんな「目からウロコ」の体験を数多く目の当たりにして、私は女性が建設業で活躍できる場面が数多くあると以前から考えていました。


(株式会社竹中工務店 東京本店 総括作業所長 松岡 久史さん)




■女性も男性も同じフィールドにいる


日建連の「けんせつ小町」は、現場ごとのチーム登録も行っています。チーム登録では、その現場の特色や、アピールポイント、女性が働きやすい環境整備の実施についての目標を掲げます。


この現場に登録されているけんせつ小町のチーム「ATG54(エー・ティー・ジー54)」には、元請け建築工事担当者4名、事務担当3名、施工図・BIM担当7名と専門工事業者の作業所員他約15名、合わせて約30名近くが所属しています。建設しているのは都内一等地の超高層マンションですが、地上タワー工事自体をけんせつ小町チームが主戦力となって牽引しているそうです。同チームでは、「こまちROOM」(女子更衣室、休憩所)、トイレの整備やゴーヤ、トマトなどの野菜と花を育てる作業所緑化計画なども実施しています。


2018年4月から現場に配属され、地上の躯体工事のグループで最重要品質の高強度コンクリート工事の施工管理を務めている同現場の「けんせつ小町『ATG54』」チームリーダー、横田栞さんにお話を伺いました。



竹中工務店 東京本店 作業所工事担当 横田 栞さん

竹中工務店 東京本店 作業所工事担当 横田 栞さん




地上30メートル越の現場で、コンクリート打ち込み作業の施工管理中。

地上30メートル越の現場で、コンクリート打ち込み作業の施工管理中。




仕事で楽しいことはいっぱいあります。まず、一人ではできない、様々な人と関わりながら共同で一つの仕事を成し遂げていくところ。先輩に相談しながらも自分の計画した仕事がうまくいくと、うれしさが湧き上がってきます。そして、自分が関わった躯体がみるみる上がっていくのを毎日見られるということです。配属されたときはまだ1階の床しか見えていなかったのに、今は見上げる高さに。すごくやりがいを感じます。竣工はまだずっと先ですが、本当に楽しみです。苦労とは感じてはいませんが、あえて言うと朝が早いことだけ...。週に3回ほどあるコンクリート打設作業の時は、コンクリートの発注や準備のために朝早くから出勤しなければいけないので、慣れるまで大変でした。


(株式会社竹中工務店 東京本店 作業所工事担当 横田 栞さん)




インテリアが好きで工学部建築学科に入学した横田さん。インターンで訪れた竹中工務店の現場で先輩がテキパキと指示出しする様子を見て現場監督を目指すようになり、2017年に入社。まだ分からないことも多く、先輩に教わりながらなので、この現場の後半では自分が工事をリーディングできるようになるのが目標だそうです。ヘルメットに貼られている可愛らしいシールや作業所の外部足場に堂々と掲げられた横断幕は、小町チームで取り組んだオリジナル。3年後のマンション完成に向けて、熱量をキープしつつ、自然体で取り組みます。




建設業で働く女性をあえて「けんせつ小町」と名づけるほど、今でも特に現場は男性社会です。でも、個人的にはあまり女性であることに負い目は感じていません。女性も男性も一緒に同じフィールドでやっていると感じています。


(同)




竹中工務店 東京本店 作業所工事担当 横田 栞さん


今男性社会の中でもハンディキャップを気にしない女性の意識については、前述の松岡さんも日々感じているそうです。





私は現在、大学で非常勤講師をしていますが、今の建築学科の約3割は女子学生です。彼女たちの意識はここ2~3年でガラッと変わりました。「女性が『けんせつ小町』という特殊な枠の中で活躍することがクローズアップされていること自体に違和感がある」という意見も出始めています。若い人たちの意識はわれわれよりもずっと先を行っていて、建設業に就職した際に、完全に男女平等で同じフィールドで働くことが当たり前の時代がもう既に来ています。建設業も、そのような若い人の意識に追いつかなければ、他産業に取り残されてしまうと感じています。


(前出 松岡さん)




キティちゃん柄の横田さんの用具入れ。女性向け小物の豊富さに、先輩からは「隔世の感がある」という感慨も。

キティちゃん柄の横田さんの用具入れ。女性向け小物の豊富さに、先輩からは「隔世の感がある」という感慨も。





働き方改革の一環として始まったけんせつ小町の取り組みによって、「男性も女性も同じフィールドでやっていく」という横田さんの自然体のスタンスが、長く男性社会でありつづけた建設業に浸透していこうとしています。


まずは「土曜日は工事現場もお休み」という新常識の定着。女性だけでなく、男性にとっても、働く環境が着実に改善され、新しい"当たり前"が行き渡れば、建設業はきっと人気職種のひとつになるでしょう。





取材協力

一般社団法人 日本建設業連合会

株式会社 竹中工務店









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2019年1月16日 




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