株式会社イトーキのオフィス兼ワーキングショールームである SYNC OFFICE(シンクオフィス) を取材したときにユニークな一画を見つけた。
写真は、そのエリアで「アクティブワークスペース」という名前がついている。こちらではイトーキの社員の方が実際に仕事で使用している。
スタンフォード大学 d.schoolで実践している「デザイン思考(デザインシンキング)」ができるスペースになっているとのこと。通常の会議スペースとは異なり、何人かで集まってアイデアを出して、そこから新しい解決策などを共創するという。
デザイン思考ができるスペースというのは、あまり耳にしない空間づくりだと思う。実際に使用されているところを見ていたのだが、かなり積極的に利用されている印象を受けた。いったい通常の会議スペースと何が違うのか。
まず目につくのは、天井から下がっている吸音材パネルだ。ワイワイと話をしても会話の音があまり響かないように作られている。また、資料を見ながら打ち合わせができるよう、エリアの壁には天井の高さまでの本棚が作られ、オフィスの中のライブラリ的な機能も持っている。
その中でも興味を引くのは、立てたり、デスク天板にされている可動式のホワイトボードだ。
上の写真の中央付近では打ち合わせしている様子が写っているが、その机の天板がホワイトボードになっている。この 「アクティブワークススペース」が「デザイン思考」を通して、アイデア出しできる場所として足らしめているのはこのホワイトボード群に秘密がありそうだ。
このホワイトボードは「セーブボード」という製品で、それを支えるフレームやカートなどが「inova(イノーバ)」という製品群になるとのこと。これは使いこなしがポイントらしい。
(※「inova(イノーバ)」は、セーブボードシリーズ商品を除く家具商品の名称です。)
そこで「デザイン思考ファシリテーションガイドブック」(※)の監修など、新しい働き方のオフィスづくりに造詣が深い、イトーキ オフィス総合研究所 所長の谷口さんにこのホワイトボードの使い方について話を伺った。
(※) 参考リンク 「デザイン思考ファシリテーションガイドブック」 2013 イトーキ オフィス総合研究所, 一般社団法人デザイン思考研究所
これからはイノベーションが必要と言われますが、従来の会議からはイノベーションは生まれません。
従来の会議は、進捗確認であったり、上意下達のためのもので、現場で生まれた小さな気づきを拾い上げていくものではないからです。
今までの会議は定型業務として必要でしょうが、イノベーションを起こすためには思考のプロセスを変え、行為のデザインを変える必要があります。
(イトーキ オフィス総合研究所 所長 谷口さん)
「思考のプロセスを変える」という点については、前述の「デザイン思考ファシリテーションガイドブック」に詳しい。
デザイン思考は、以下のプロセスに沿って進むという。
(1)共感 (2)問題定義 (3)アイデア創出 (4)プロトタイピング&テスト
この各プロセスで「アクティブワークスペース」が役立つとのこと。
「行為のデザインを変える」というのは、「セーブボード」と「inova(イノーバ)」というホワイトボードのセッティングや使い方にコツがある。
そこで、実際にセッティングしてレクチャーしてもらった(並べ方は一例)。
大きなアイデアよりも、小さな気づきをどう拾い上げるかが大切。
そのためには、小さなアイデアも書けるだけの広さが必要。ホワイトボードの大きさでアイデアの量を制限されてはならない。
この写真中央の可動式のホワイトボード(「セーブボード」)は軽く作られており、必要な分だけ持ってきて、スタンドに立てられる。
ホワイトボードを立てているスタンドは、実はスツール。
椅子としても使えて、収納する場合は積み重ねてコンパクトにできる優れものだ。製品名は「inovaスツール」
ホワイトボードは大きく広げて、みんながそれぞれ書くこと。
ホワイトボードに書く役を作ると、そこで意見が集約されてしまって経験者の意見が中心になり、新しい気付きが出てこなくなってしまうことが多い。
イノベーションのための会議は、いかに「非経験者」や「若い人」の気づきを拾い上げるかがカギになる。会議の場では階層をつくらないようにすることが大切だ。そのためには、皆がそれぞれ自分の気づきやアイデアを書くようにすること。
思ったことはすべて書く。思いついたらすぐに書く。
椅子に座ると、大きなアイデアだけ出すようになってしまう。
また、椅子に座ることで会議の中で上下関係がついてしまいやすい。
フラットな関係で会議を進めることが大切だ。
イノベーションのためのアイデア検討は、普通の会議とは違って制限時間内に結論を急がないことが大切。
といっても、皆が集まる会議時間は限られている。
時間が来たら次にみんなが集まる時までアイデア出しのメモや議論経過をそのまま保存しておきたい。
会議室のホワイトボードだと次に部屋を使う人のために消さなければならないが、このホワイトボードなら取り外して収納しておける。これはいい仕組みだ。製品名は「inovaボードストレージ」。
「セーブボード」はこのような形でストックできる。
次の会議まで書いたものを消さずに保管できる仕掛けだ。
また、このホワイトボードを収納する「inovaボードストレージ」にも、ボードトレイを取り付けることで、ホワイトボードを立てて使うことができる。
少し小さいタイプのセーブボード用のカート。中に収納できる。
このようにセーブボードを立てて使えるようにもデザインされている。
アイデアを出すには、他部門の人間にも参加してもらって、いろいろな角度からアイデアを出してもらうことが大切。「非経験者」の参加がカギだ。
こちらはホワイトボードを横置きしたタイプで、正方形のセーブボード天板。
専用の「inovaテーブルフレーム」に置くことで、デスク天板&横置きホワイトボードとして使える。
ホワイトボードは立てて使うことが通常と思われるが、このようにホワイトボードをデスク天板として使えるように設計されていると、一人で図面などの検討もできて便利だ。
また、メンバーで集まってデスクを囲んで議論するなどもできる。
実際に使ってみると、立てたボードに書くのとは違って、横置きではイメージの湧き方が違ってくる。平面図などの検討には親和性が高いと感じた。
こちらもホワイトボード天板は取り外すことができて、収納できる。
テーブルフレームも天板を取り外せば、複数台を横に重ねて収納できるよう設計されている。
ホワイトボード天板は、このように「inova天板ストレージ」に格納できる(最大6枚)。
「inova天板ストレージ」はかなり余裕があるつくりで、もっと多数枚収納できるように作れそうだ。その点を尋ねてみると、
とのこと。アイデア出しだけではなく、プロトタイピングのときにも使えるよう、まさにデザイン思考の各プロセスで使えるツールになっている。
ホワイトボードに書くだけでなく、ホワイトボード上で試作品を作ったり、模型を載せたりするプロトタイピングの作業途中でもそのまま収納できるように、あえて各天板間のスペースを取っている
(同)
「inova天板ストレージ」最上段に天板を置くと、皆で検討できる台にもなるよう設計されている。
以上のようなレクチャーを谷口さんから受けて、取材者は感心しっぱなしであった。これはうちの会社にも置いてくれるとうれしいなあと思った次第。
ちなみに、上記のセッティングは、デザイン思考の各プロセス、(1)共感 (2)問題定義 (3)アイデア創出 (4)プロトタイピング&テスト、において、もっと様々な使い方が可能であり、一例を示しただけなので、詳しくは後述する、書籍「メイク・スペース(make space)」や、「デザイン思考ファシリテーションガイドブック」を参照してみてほしい。きっと自社で活かせるいろいろなアイデアが見つかるはずだ。
ホワイトボードというと、IT全盛時代ではアナログツールだが、実際は、IT企業によっては壁すべてをホワイトボードにしたり、社内に多くのホワイトボードを設置したり、むしろ活用されている方向にある。むしろ、まだまだ使い方によっては会社を活性化するホットなツールかもしれない。
最後に谷口さんから聞いた言葉が印象的だった。
人は皆が創造力をもっているのです。フランスのラスコー洞窟で発見された1万5千年前(旧石器時代)の壁画のように、そのくらい前から人は絵を描いて仲間と共有していたんですね。
このセーブボードとinova(イノーバ)のホワイトボードの仕組みは、人の持つ創造力を取り戻すための家具なんです。
(イトーキ オフィス総合研究所 所長 谷口さん)
「デザイン思考ファシリテーションガイドブック」2013 イトーキ オフィス総合研究所, 一般社団法人デザイン思考研究所 (株式会社イトーキのサイトへ)
スタンフォード大学 d.schoolのイノベーション教育の中核である「デザイン思考」を実践するガイドを株式会社イトーキ オフィス総合研究所と一般社団法人デザイン思考研究所にて作成したもの。PDFがダウンロードできます。
書籍「メイク・スペース(make space)」スコット・ドーリー/スコット・ウィットフト 共著 イトーキ オフィス総合研究所 監修 藤原朝子 訳 (2012年) CCCメディアハウス (CCCメディアハウスのサイトへ)
イノベーションを生み出す場のつくり方、スタンフォード大学d.schoolの研究・実践書
イトーキ inova(イノーバ)商品情報 (株式会社イトーキのサイトへ)
※セーブボードについてもこちらに記載あり (「inova(イノーバ)」は、セーブボードシリーズ商品を除く家具商品の名称です。)
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2016年12月26日
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