株式会社イトーキは、新しい働き方を実践する場として、東京 京橋にあるイトーキ東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ) 3FにSYNC OFFICE(シンクオフィス)を設けている。
そこでは、今から数年先にあたる、2020年までにやってくるオフィスの姿を『アシタのオフィス』として、実際にイトーキの社員の方が新しいワークスタイルで働いている。
今から数年内に実現するであろう新しいワークスタイルは、いったいどんなものなのか。東京都中央区京橋にあるイトーキのSYNC OFFICE(シンクオフィス)に取材に行ってきた。
まずは、今回のコンセプト『アシタのオフィス』を主導したイトーキ 平野さんに話を伺った。
『アシタのオフィス』のコンセプトについて教えてください。
2017年~2020年で展開されるであろう『アシタのオフィス』のコンセプトは、『ここで働く、私が選ぶ「スタイル自在」』です。
キーワードは3つあります。「自律性」「組織マインド」「個人の気持ち」。働く人が自ら働き方をデザインするワークプレイスを作りました。
オフィスレイアウトとして、「組織達成、プロジェクト達成といったチームワーク型」、「個人のパフォーマンスを最大に発揮するソロワーク型」、その中間域を配置しています。
(イトーキ 営業本部 FMデザイン統括部 統括部長 平野さん)
コンセプトやキーワードは、内容がギュッと凝縮されているので、読み解いていきたい。そのためには、欧米などの海外のオフィスが変わりつつある流れを見てみよう。
最近、欧米を中心とする海外のオフィスづくりコンセプトで、アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW : Activity Based Working )という言葉をよく聞くようになった。
「アクティビティ・ベースド・ワーキング (ABW : Activity Based Working)」とは
仕事内容に合わせて働く場所や机などを選ぶ働き方。例えば、集中作業を静かな部屋で行い、打ち合わせをソファ等で行うなどフレキシブルに場所を選んで働くことを指す。デスクを共有して使うことを意味することもあるが、それは必須ではない。
[参考: A Glossary of Workplace Terms 2012 Nicola Gillen (The Workplace Consulting Organisation)から、「みんなの仕事場」にて翻訳・要約]
従来のデスクワークは、自席が与えられて、打ち合わせ以外のほとんどすべての作業をそこで行うのが通常だ。
それに対して、「フリーアドレスオフィス」は、自席は決まっておらず、同じような机の中からどこを選ぶか、つまり誰と隣り合わせを選ぶかに終始することが多かった(もちろん、フリーアドレスのスタイルはいろいろあるので、これは極端な例だ)。
ここで言う新しいコンセプトの「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」は、仕事内容に合わせて働く場所や机を自ら選ぶことにポイントがある。
例えば、このような感じだ。
以上のような例を見ていくと、具体的なイメージが湧いてくる。
オフィス内には、さまざまな仕事に対して、それぞれの仕事の特性に合わせて工夫して作られたワーキングスペースが用意され、働く人はその中から最適なものを選んで使うイメージだ。
現代は、高速ネットワーク、wifi環境、スマートフォン、ノートPCというテクノロジーのおかげで、デスクワーク自体がすごく変化してきている。単純作業が減り、企画や調整や営業という仕事のウエイトが増えてきている。1日中同じ作業をするのではなく、1人で何役も行う多能工のように、企画立案や営業や調整などの打ち合わせをこなしていく。その実情に合ったワークスタイルのように思える。
そこで、「アシタのオフィス」のコンセプト『ここで働く、私が選ぶ「スタイル自在」』に立ち戻ってみよう。
オフィス内に、仕事内容に合わせて集中スペースや協業エリア、チームで働くワークテーブルなどが配置されていて、自分の今の仕事に合わせて、どこで働くか選ぶことができる。
つまり、自分で働き方をデザインする、ワークスタイルが自由自在ということを端的に表しているコトバなのだ。
キーワードは3つあります。「自律性」「組織マインド」「個人の気持ち」。働く人が自ら働き方をデザインするワークプレイスを作りました。
(イトーキ 平野さん)
先ほどの引用繰り返しになるが、挙げられた3つのキーワードも以上の内容を踏まえると、スッと腹に落ちてくる。
自ら働く場所を選んでいく働き方だからこそ、働く人自身の「自律性」の発揮が大事だ。例えば、一緒にいると安心だから、皆が集まった机で何となく1日を過ごします、という他律的マインドでは成り立たないというわけだ。
他方、組織としては方向性というものがあるので、働く人たちの方向性を揃えておかないと組織運営が難しくなる。そこで「組織マインド」の発揮が必要になるというわけなのだ。
ただし、「組織マインド」を強調されすぎると、今度は、せっかく生まれた自由度が失われてしまう懸念がある。だからこそ「個人の気持ち」を整えることが、3つめのキーワードに挙げられているのだ。
自律性を持って、働く場所を選んで仕事をし、組織マインドを重視して、皆の足並みを揃えつつも、働く人の「個人の気持ち」が整うようにする。読み解くとそういうことなのだ。
このあたりは、海外のトレンドを単に持ってきたのではなく、何年もかけて自社で実践する中から作り上げているものだ。例えば、イトーキの営業部門では1998年からフリーアドレスを導入するなど最新のオフィストレンドを取り入れている。そうした中で独自の経験知を蓄積し、蒸留しているからこそ生まれてくるコンセプトやキーワードだと思う。
さて、では、イトーキのSYNC OFFICE(シンクオフィス)の中で、どのように「アシタのオフィス」の『ここで働く、私が選ぶ「スタイル自在」』が展開されているか、見学してきたので、解説していきたい。
(注) SYNC OFFICE(シンクオフィス) の見学は事前予約必須です(予約方法は本ページ下にあります)。オフィス内の撮影は禁止です。今回取材のため特別に許可を得て撮影しています。
東京メトロ 銀座線 京橋駅に直結している イトーキ東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ) 。2Fで受付を済ませて、エレベーターで3Fに上がるとそこはもうSYNC OFFICE(シンクオフィス)だ。
「ソロワークスペース1」は、1人で集中して仕事をしたいときに選ぶスペースになっている。主にデザイナーが在席しているエリア。
高さ120cmの本棚で周囲と空間を区切ることで、中にいると周りからの視線が気にならないように設計されている。
この本棚は、背板がなく本表紙を見せて展示するディスプレイラックのため、ところどころ本の間から向こう側が見える。完全に閉じてしまわず閉塞感を感じさせない作りになっている。アッシュグレーの木目調もかっこいいデザインだ。
「ソロワークスペース1」で働いている方を後ろから撮影させてもらった。
デスク上パーティションで区切られ、モニターアーム付きの大画面液晶モニター、LEDアームライトが各デスクに装備されており、自分に合わせて調整できる環境が作られている。
PCモニターを使って集中作業するエリアなので、ちょっとした合間に目を休めることができるよう、グリーンが多く配置されている。
天井の照明付近にもグリーンがあるのは、椅子でリクライニングしたときに視界に入るようデザインされたもの。見上げるとグリーンが見えるのは、とてもいいアイデアだと思う。
「ソロワークスペース2」も、1人で集中して仕事をしたいときに選ぶスペースになっている。こちらは1と違って、液晶モニター装備はなく、自分のノートPCを持ち込んで仕事をする。一般的な事務作業に向く場所だ。
こちらでも、「ソロワークスペース2」で働いている方を後ろから撮影させてもらった。
このスペースのデスクは、新製品の上下昇降デスクtoiro(トイロ)を採用しているため、写真左側の方のように、デスク高さを上げてスタンディングデスクとして使うこともできる。長時間の資料作りの際に、時折立って仕事をすることで気分転換したり、自分に合う高さに微調整して使うことで肩が軽くなったり、座り仕事での健康に配慮された環境が作られている。
ソロワークスペースは、1人で集中して効率が上がる場所として設定されているのだが、集中=個室という発想ではなく、「ソロワークスペース1」はモニターを長時間見て仕事をすることに、「ソロワークスペース2」は長時間同じ姿勢で仕事をすることに、それぞれ配慮されている。
仕事の特性に合わせてワークスペースがキメ細かく設計されているところが興味深い。まさに、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)なのだと思う。
こちらは「PJワークスペース」。プロジェクトチームが集まって、協業しながら作業を進めるためのスペースとなっている。
いくつかのデスクの島があるエリアで、それぞれにホワイトボードや、大型モニター、キューブソファが配置されている。1つのデスクの島に、1つのプロジェクトチームが集まって仕事をするイメージだ。
あるプロジェクトチームが作業しているところを写させてもらった。
このスペースの使い方はこうだ。
普段は、デザイナーや営業担当、プロジェクトマネージャーなど各人が担当業務ごとに分かれて進めている。進捗確認や、ちょっとした相談、すり合わせなどは、メンバー同士が個別に行うより、チームメンバーが一堂に集まって進めたほうが効率良いことが多い。通常であれば、会議を開くことになるが、会議では細かなコミュニケーションはしづらい。
そこでプロジェクト進行の要所で、日にちを決めて1日中メンバーがPJワークスペースに集まって仕事をする。そうすると、その日はメンバー同士が近くで仕事をしているので、そこに何気ない会話が生まれて、進捗確認だけでなく、ちょっとした疑問の解決や意見のすり合わせも一気に進めることができるのだそう。
チーム内コミュニケーションのため、ホワイトボードや大型モニター、短時間の打ち合わせのためにキューブソファが置いてある。
こちらは「チームワークスペース」。
こちらは、営業部門が主に働くエリア。エリアアドレス制で、このエリア内のどこかの席に就いて仕事をするスタイル。
仕事のスタイルとして、営業部は、常に組織としてチームで動いたほうが効率良い場合がある。そこでチームで常に集まって、お互いに助け合いながら仕事をするスタイルとして「チームワークスペース」が置かれている。
もちろん、集中して1人作業するためにソロワークスペースで仕事をしたりすることもできる。組織達成型の業務に向くワークスペースだ。
こちらは「ファシリテーションワークスペース」。ちょうど誰もいない状態なのだが、見た目の雰囲気はサロンだ。使われているソファはコミュニケーションスペース用のピナモ。
こちらのスペースの使い方が興味深い。
まず、写真奥のオレンジ色のハイバックパネルソファに、総責任者である支社長がやってきて座る。すると、部下たちが周りのソファに入れ替わり立ち替わり集まってきて、談笑しながら、報告や相談を行う。支社長はソファに座って、部下からの話に耳を傾け、アドバイスや判断を与えていく。ここでは支社長はデスクワークをせず、部下と話をすることに専念する。デスクワークをしないよう机をあえて置いていないというわけなのだ。
営業部だと、チーム単位で仕事をすることが多く、上司への報告・連絡・相談が欠かせない。完全にフリーアドレスにすると上司がどこにいるか探さないといけなくなる。上司の執務デスクを固定すると、上司がどこにいるかはわかるが、話しかけていいかがわからない。というのも、たいていの上司は仕事好きなので常時デスクワークをしているからだ。上司の側としても、部下からの報告を聞かねばならないが、自分のデスクワークも片づけねばならない。しばしば話しかけられて作業が中断するのは効率良くない。
ところが、このサロン風のスタイルなら、上司は「ファシリテーションワークスペース」にいる間はデスクワークができない。部下と話をするしかない状態になり、部下からも、上司と話せるタイミングが明快だ。
実際、見学の際に、支社長の方がソファに座り、周りには部下の方が入れ替わり立ち替わり相談しにくる姿を見て、上司・部下双方のタイミングを自発的に調整が行われる効率のいい仕組みだと感心した。
上の写真は、「ファシリテーションワークスペース」に隣接する「チームワークスペース」。右奥に先ほどのオレンジ色のソファが見える。
ここの「チームワークスペース」に部員たちがいるので、上司が「ファシリテーションワークスペース」にいることがすぐにわかるのだ。チームワークスペースはエリアアドレスになっていて、このエリアの中の好みの席を選んで使うことができる。気分を変えて仕事ができるように、テーブルの種類は1~2人で使う小さめのものから、4~5人で使えるワークテーブルなどが用意されている。
ちなみに写真奥が営業部のアシスタント席。こちらは業務の特性上、固定席になっている。営業部員と連携が取れるようチームワークスペースに隣接している。
こちらは「アクティブワークスペース」。
ここでは「書く」「しゃべる」「探す」ことで、アイデア出しできる場所となっている。
ほかにも、投影用のスクリーンが下せたり、アウトプットがいろいろな形でできるような仕掛けが施されている。
「アクティブワークスペース」でのホワイトボードの使い方について、以下の記事に詳しい。
↓ ↓
「デザイン思考のためのホワイトボード「セーブボード」と「inova(イノーバ)」は共有・対話の場が簡単に作れる優れもの」
こちらは「沈思黙考(ちんしもっこう)エリア」。
Quiet Areaと表記があり、電話禁止、会話禁止。静かにして気持ちを整えるエリア。
こちらは中の様子。
靴を脱いでスリッパに履き替えて上がる。天然木の木の香りが漂い、板の間で一人一人が静かに座って過ごすことができる。中に入ると外がほとんど気にならない。
ここで瞑想しても良いし、気分を切り替えるためのスペース。「個人の気持ち」を整えるエリア。会話せず静かにしていれば、ノートPCで作業しても良いとのこと。
実際に上がらせてもらうと、靴を脱いで板の間でくつろぐというのが予想以上に気分が切り替わる効果があって新鮮だ。リフレッシュするには最適だと思う。
沈思黙考エリアを外から見る。天然木の横格子が印象的。
誰かがいるとわかる程度の距離感が作られている。
こちらは、新製品PiO frame(ピオ フレーム)。
ホワイトの太いパイプフレームで囲まれたエリアは、オフィスの中の、ある種≪公園≫のような機能を持っている。
「ワークサイズ」は造語で、WORK+EXERCISEで、働きながら、エクササイズをすることを意図している。例えばフレームにぶらさがって体を伸ばしたり、ベルトに寄りかかってストレッチしたり、息抜きができるように設計されている。
また、≪公園≫としてここに人が集まってコミュニケーションが生まれることも意図していて、メモ書きできるようホワイトボードや、ハイテーブルが置かれている。オフィスの中の≪公園≫というのが面白いコンセプトだ。
ほかにも「ワークサイズ」として作られた箇所はあって、例えばこちら。
床に身長にあたる数字と歩幅に印をつけてある。自分の身長に近いところを選んで、印の歩幅で歩くことでリフレッシュなる。というのもこの歩幅は通常の歩幅よりも広く設定されているので、印に合わせて歩くと、大股でバランスを取りながら足のストレッチができるのだ。
こうして SYNC OFFICE(シンクオフィス)で提案する『アシタのオフィス』を見学させてもらうと、業務特性を踏まえながら、そのときどきで各人が最適な働く作業場所を選べることが、とても自然に思えてくる。
逆に、多くのオフィスでの一般的な働き方になるが、自分に割り当てられた机ですべての仕事をしなければいけないというワークスタイルは、なぜそうしなければならないのか、我々は考え直す時期に来ているように感じた。
そのときどきで各人が最適な働く作業場所を選べる、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)的なワークスタイルは、実現するには、こちらで見てきたように、パーソナルワークスペース、PJワークスペース、アクティブワークスペースなど、考え抜かれたオフィス環境を整えておくことがカギとなるのだろう。
イトーキ SYNC OFFICE(シンクオフィス)を見学希望の方は、以下を見てほしい↓。
所在地: 東京都中央区京橋3-7-1 相互館110タワー 1-3F
最寄駅: 東京メトロ 銀座線 2番出口直通 / 都営浅草線 宝町駅 A4出口徒歩3分 / 東京メトロ 有楽町線 銀座一丁目駅 A4出口徒歩7分 / JR東京駅 東京メトロ丸の内線東京駅 八重洲南口徒歩10分
開館: 午前9時~午後5時 土日祝日、夏季休業日、年末年始は休館
※要予約 館内見学には予約が必要です。サイトからウェブ予約できます↓
サイト: イトーキ SYNQAのサイト (リンク)
フロア構成 :
1F WORK CAFE 会員制のコワーキングスペース
2F TEAM LAB プロジェクトスペース、セミナースペースなど
3F SYNC OFFICE イトーキ社員の方が実際に働いているワーキングショールーム
こちらのSYNC OFFICE(シンクオフィス) ワーキングショールームは、実際にイトーキの方が働いている場所なので、事前予約必須です。
イトーキ 東京イノベーションセンター SYNQA ご利用案内(「見学予約はこちらから」へ)
ではイトーキ 東京イノベーションセンター SYNQAに行きましょう!
場所は東京都中央区京橋にあります。
東京メトロ 銀座線 京橋駅 2番出口に地下で直結していますから、雨の日も傘いらずです。ちなみに京橋駅の改札は銀座側が最寄りです。
1Fから入ります。
1FはWORK CAFE 会員制コワーキングスペースになっています。
イトーキの受付は2Fにありますので、WORK CAFEを通り抜けて2Fまで上がります。
吸い込まれそうなブラックと光り輝くホワイトで構成された幻想的な受付。
こちらで予約の方は受付してもらいます。
この2Fのフロアはセミナールームやプロジェクトスペースがありますので、セミナー参加の方やプロジェクトの打ち合わせの方などでにぎわっていることが多いです。
案内されてエレベーターで3Fに上がります。
こちらがイトーキのオフィスです。東京の営業部2部門が入居しています。
内容については上の記事をご覧ください。
写真は、パーソナルワークスペース1。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2016年12月26日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
こちらからご確認ください。