画像提供: tampatra / PIXTA(ピクスタ)(※)
日々、人工知能(AI)についてのニュースを目にしないことがないほど、AIの進展はめざましく、いつのまにか私たちの生活に密着するものとなりつつあります。こうした流れの中で、私たちの働くことのあり方についても見直すことが必要なのかもしれません。
英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士による、コンピュータによって近い将来に自動化される702の職業について分析した論文(2013年、共同研究)や、野村総合研究所による、日本の労働人口の約49%が技術的には人工知能などによって代替可能であるという調査研究(2015年、共同研究)は、多くのメディアにとりあげられました。
参考:
Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne "THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?"(英オックスフォード大学)(pdf)[外部リンク]
プレスリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算~」(野村総合研究所)[外部リンク]
それ以来、もしかしたら自分たち人間は職を失うのではないかという悲観論、もしくはAI脅威論が一般に根強く広がっています。 もし、本当にAIが私たちの仕事を代替するのなら、私たちはそうした時代を生き抜くために、どのように備えるべきなのでしょうか。
今回の記事では、人工知能と人間の仕事の問題について、メディアや専門家らによる意見を集め、その内容を分類して紹介します。 様々な視点からの意見を読むことが、私たちのこれからの働き方について考えるための参考になるでしょう。
まず、人工知能は人間の仕事を奪い、限られた人間以外はその恩恵を受けることができないのではないかという、ちょっと悲観的な専門家の意見について紹介します。
参考:ニューズウィーク「AI時代到来「それでも仕事はなくならない」...んなわけねーだろ」[外部リンク]
湯川氏によれば、AIにとって代わられる職業の代表例は会計士や弁護士、医師など。これら専門職は産業的価値のある、いわゆる「儲かる分野」であり、投資家や起業家は、こうした儲かる業務領域から人工知能を導入していくだろうと予測しています。ただし専門職側の抵抗もあり、両者の綱引きは本格化するだろうとのこと。
儲かる仕事から順番にAIが代替していくのであれば、最後に残るのは「儲からない仕事」ということになります。その中から人間はやりがいを見出していくことになるのでしょうか。
参考:ハフィントンポスト「AI(人工知能)とBI(ベーシック・インカム)-「仕事を奪われる」のか、「仕事から解放される」のか?」[外部リンク]
グーグルの「アルファ碁」がプロ棋士に勝ち、クリエイティブ集団Botnik Studiosの開発プログラムが童話を創作するなど、人工知能は、今や、高度な思考や発想が求められる領域にまで踏み込んでいます。将来的には、一定の創造力を要する仕事においても人工知能が活躍することは十分予想されます。人間にとっては雇用機会が損失することで失業者が増え、平均所得は減少し、貧富の差がますます拡大することになるかもしれません。
土堤内氏は、AIの生み出す経済価値を全国民に再配分するベーシック・インカムが導入される可能性について言及しています。そのような社会では、働くことの価値は今とはまったく異なるものになりそうです。
参考:現代ビジネス「人工知能時代に生き残るのは、意外にも「こんな人たち」だった」[外部リンク]
ビジネス組織においては、あちこち飛び回って情報を集める部下よりも、膨大な情報を眺めながら意思決定できる上司のほうがより高い評価を得る傾向にあります。それが会社の業績にかかわる業務であれば、その意思決定には責任が重くのしかかり、高い報酬が支払われます。
しかし、鈴木氏の予想では、2030年頃になると、そういった責任ある仕事は人工知能が担うことになるとのことです。 複雑な解決策をミスなく意思決定できるAIが導入されることにより、会社の組織の中で生き残るのは部下だけということになり、上司という存在こそが不要になってしまうのかもしれません。
次に紹介するのは、これからの人工知能時代に生き残る方法やスキル、人間などについて予想する意見です。逆にいえば、人間は知恵を絞らないと人工知能に負けるだろうという予想であるとも言えます。
参考:Stone Washer's Journal「人工知能と差別化できる5種の仕事!機械との競争に生き残れる職業とは?」[外部リンク]
マニュアルやルーティンワークに基づいた仕事は、AIやロボットにとって代わられていきます。与えられた仕事をこなすだけではなく、相手の要求にプラスαで応えることで、人工知能に代替されにくくなるでしょう。たとえば強い芸術・芸能系や、進化と発展を生み出す研究・経営・政治系、人の生活を健やかにする医療・福祉・介護系、人に何かを教える教育系などが例に挙げられています。
参考:独立行政法人経済産業研究所「人工知能AI等が雇用に与える影響と社会政策」[外部リンク]
ディープラーニングによる人工知能が最も得意とするのは、過去の前例を学習することによってものごとを判断する作業。 つまり、今までの事例だけによって問題解決を図るような仕事をしている人材は、人工知能によって代替され、新しい仕事に取り組むことができる人が生き残ることになります。
ほかにも、デジタル機器を使いながらデータ分析や経営サポートをする人、コミュニケーション能力に自信のある人が重宝されると岩本氏は指摘しています。 機械に任せられる仕事と、人間でなければできない仕事を見きわめていくことが、今後ますます必要となりそうです。
参考:未来を変えるプロジェクト by DODA「人工知能で企業組織は二極化、そのとき必要とされる "人間社員" の条件」[外部リンク]
前述した「上司が不要になる」という予想にもあったように、人事評価や業績診断、事業計画の作成といった、これまで「上司」が行ってきたマネジメント業務は、公平な判断が下せる人工知能に積極的に委ねてしまうべきなのかもしれません。
ただし、人工知能が代替できないのは、「こういうゴールに向かって、みんなで頑張ろう」というリーダーシップをとること。これからの「上司」の仕事は、会社の方針をきちんと理解し、お金以外のやり方でチームをモチベートすることだという指摘です。 人間にしかできない仕事をなしとげるために、経営を理解することがますます必要になるでしょう。
次に紹介するのは、人間の仕事は今と変わらない、もしくはこれまでもこうした変化はあったのだからおそれることはないという意見です。
参考:総務省「平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)導入で想定される雇用への影響」[外部リンク]
有識者27人のうち23人が、今後の日本の労働力減少を補完するものとして人工知能を捉えており、18人が、人工知能は業務効率・生産性を高め、労働時間の短縮につながると考えています。つまり、人工知能は人間の仕事を奪うのではなく、むしろ新しい市場を創出し、雇用機会を増大させるだろうというのです。
個性と能力を発揮できる環境が生まれ、個々が自発的に取り組んでいくことによって、社会も、企業も、個人も、AI化の波に乗ることができるでしょう。
参考:SankeiBiz「【人工知能はいま 専門家に学ぶ】(1)世界的ロボット研究者、石黒浩氏が見るAIの世界」[外部リンク]
ディープラーニングは「大量のデータがあるときに、それを効率よく分類問題として解く」という非常に有効なパターン認識技術。しかし世の中を急に変えるような話では決してない、と石黒氏は言っています。
ありがちなのは、1970年代の仕事のカテゴリに基づいて「仕事がなくなる」と議論しているようなこと。技術開発が進めば、古い時代のカテゴリにはない新しい仕事が増えて、苦しい仕事が消えていくのは当然のことかもしれません。石黒氏は、ニューヨークタイムズに掲載された「2011年に小学校に入学した子の65%が、今存在していない仕事に就くだろう」という研究者の意見を紹介しています。仕事を奪われるというよりも、自然に仕事が変わっていくというだけで、人間はそれをおそれるべきではないのかもしれません。
次に紹介するのは、真にクリエイティブな仕事は人工知能には不可能であり、人間のみがそれをなしえるという意見です。
参考:働き方改革研究所「未来の働き方を考える 第11回 「創造性」の領域も機械に仕事が奪われる?」[外部リンク]
かつては「創造的な作業は機械には無理」とされていましたが、人間がいつまでも優位性を保ち続けられるかどうかはわからなくなっています。作曲したり本を書いたりすることができる人工知能が登場しているからです。
たとえば、著作権フリーの無料音源を作曲してくれるアプリ「Amper Music」や、トップMBAスクールINSEADのPhilip M.Parker教授による、自動執筆システムを使った大量の書籍などは、人工知能が人間には太刀打ちできないようなスピードと量の創作物を生み出せることを示しています。
しかし、こうした創作物は、技術によって膨大なデータを組み合わせているにすぎないもので、純粋に斬新な芸術作品や文芸作品を生み出しているわけではありません。
"0から1を作り出すことは機械にはできない"(btrax, Inc CEO Brandon K. Hill)
参考:fleshtrax「人工知能 (AI)や機械に絶対奪われない3つのスキル」[外部リンク]
機械は正確な単純作業、精密な作業が得意ですが、独創性のあるアイデアや芸術的なデザインになると、人間のほうが価値のあるものを創造できます。また、リーダーシップや交渉力、ビジネスセンス、問題解決能力、イノベーションといったスキルも、人工知能が備えることは難しいと思われます。つまり、人間は、答えが1つだけではない働き方を意識すべきなのです。
しかし、学校では「すでに答えがあること」しか教えてくれないのも現状です。教育機関によっては多少の改善が見られるものの、日本の教育システムは1970年代とほぼ変わらないとHill氏は書いています。時代を見すえてカリキュラムを見直すことで、創造的な人材を育成できるようになるでしょう。
参考:富士通総研「AI時代を生き抜くスキル」[外部リンク]
喜怒哀楽を表現できるソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」や、気分に応じて絵画を創作する「The Painting Fool(ペインティングフール)」など、最近では、感性をテーマにしたAIが注目されています。しかし、AIは人間が持っているようなレベルの感性を身につけておらず、豊かな感性がなければ創造力を養うことはできません。これまでと違ったことを思いつく「発想」や、多彩な触発を受けて新たな価値を見出す「他者との関わり」といった力も育むべきと平野氏は主張しています。
参考:SnakeiBiz「AI時代でも消滅せずに稼げる職種10 武器になるのは「創造性と対人能力」[外部リンク]
新しい職業を生み出すスキルも、人間の独創的な仕事のひとつであると言えます。自分の仕事を自分でつくれるようになれば、これからの時代を生き抜けると水野氏は言います。
機械に任せてばかりだと困ってしまうのはどんな仕事か、自分の得意分野を活かすと何ができるのか、時代のニーズに合わせて柔軟に対応する姿勢をもつことも大切でしょう。
最後に紹介するのは、人工知能を受け入れ、共存することで人間はさらに生産性を上げることができるようになるだろうという意見です。
参考:株式会社日立システムズ「第35回 AI(人工知能)の現状と近い将来」[外部リンク]
イギリスの産業革命では、繊維工業の職人や労働者による機械打ち壊し運動(ラッダイト運動)が起こりました。しかし産業革命によって多くの新しい仕事が誕生してきたことは、歴史も示している通りです。人工知能が発達することによって、今は存在しない創造的な仕事が増えるだろうことは十分に予想できます。さらに単純作業や雑務がなくなることで、労働時間が飛躍的に減り、本来やるべき仕事だけが残るでしょう。人類の知能を超えるAIが登場するまでに今後10年以上かかります。まだまだ時間があるので、今から準備すればいいと森川氏は言っています。人間には、自分で自分の人生を切り開く力があるのです。
参考:計算科学の世界「第1回 待ったなし。人工知能社会をどう生きるべきか?」[外部リンク]
人工知能のプログラムを統括しているのは、あくまでも人間です。現行の人工知能は、自分がやっている仕事が何なのかまで意識せずに、まさに"機械的に"仕事をこなしているわけです。SFのような自意識を搭載しないかぎり、AIの反乱が起こる心配はないでしょう。竹内氏は、むしろ停滞している日本の教育にこそ問題があり、人工知能時代を迎えるまでに本気の教育改革が起きなければ、日本は世界に取り残されてしまうだろうと懸念しています。
参考:総務省「平成28年版 情報通信白書」[外部リンク]
働き方改革で大きく課題となっている長時間労働の解消。人工知能はこの問題を一気に解決してくれる可能性があると期待されています。人工知能を効率的に利用して職場の生産性を高め、人間の労働時間を減らすことができれば、理想的です。人工知能の利活用によって、日本が抱えるさまざまな課題を解決につなげられるかもしれません。
参考:SENSORS(センサーズ)「人工知能が人間のクリエイティビティを加速する」[外部リンク]
世界中からクリエイターが集まる年に一度のクリエイティブの祭典「Adobe MAX」では、ビッグデータをもとに人工知能「Adobe Sensei」を活用したクリエイティブ制作支援について発表されました。第三者が使用したフォントの判別、ラフスケッチからの類似イメージの取得などが搭載されています。人工知能はクリエイターたちの創造的な作業を加速させていく最強のツールとなっています。
参考:クーリエ・ジャポン「AI時代のスーパービジネスマンが持つ「2つの強み」 塩野誠さんが語る「人工知能とビジネスの未来」」[外部リンク]
今やグーグルのAI「Deep Dream(ディープ・ドリーム)」により自動生成で絵が描けて、 AIに文学作品を書かせれば一次審査を通過できる時代。しかし、設計者という生みの親ができることは、アルゴリズムを作り、それにデータを食べさせる段階までです。そこから先はブラックボックスになってしまうため、私たちはAIが何をしているかを理解するためにも、「論理的かつ数学的な思考」を身につけなければなりません。
塩野氏は、同時に、AIの苦手とする「感情」という領域を磨くことが、これからのビジネスに求めらると指摘しています。ルーティン作業のアルゴリズムが書け、他者を上手に喜ばせられる人材が必要になるだろうというのが塩野氏の予想です。
ここまで読んでいただいた通り、私たちの働き方がなんらかの影響を受けるだろうという点ではどの意見も共通しており、近い将来に、働くことや生きることの意味を見直す契機が訪れるだろうことが予想されています。
人工知能が人間の仕事を代替してくれることによって、私たちはもっと人間らしく、創造的に仕事ができる道を見出せるのかもしれません。
いつの日か(思ったより近い未来に)強い人工知能が実現し、高度な思考や発想を獲得したら、一定の創造力を要する職業すら、人間だけのものではなくなるかもしれません。
しかし、消えてしまう職業と入れ替わるように新しい市場が生まれ、新たなスキルと人材が求められるようになるでしょう。単純作業や雑務がなくなり、労働時間が飛躍的に減っていく中で、自分に合った働き方を見つけていくことが大切なのではないでしょうか。
編集・文・図:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2018年6月12日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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