株式会社マンダムといえば「ギャツビー(GATSBY)」をはじめとする男性向け化粧品のトップメーカーだ。同社は大阪市中央区に本社を構えるが、2015年10月、表参道駅前の東京 南青山に「マーケティング青山オフィス」を設けた。現在こちらには、同社の女性向け製品を担当する第二マーケティング部を中心に35名が勤務している(第二マーケティング部以外では、広報部門、EC部門の一部が入居する)。
大阪本社のマンダムが、なぜあえて東京の表参道駅前に別拠点を設けたのか。しかも、そのオフィスはとても特徴的で評判らしい...。これは取材しないわけにはいかない! ということでマンダム マーケティング青山オフィスへ足を運んだ。
「マーケティング青山オフィス」開設に至る経緯を 同社第二マーケティング部主任 室 冬美さんにうかがった。
Q.「マーケティング青山オフィス」開設の目的を教えてください。
マンダムはご存知のとおり男性向けの商品が主流の会社ですが、これから女性向けの化粧品を成長させていくことを考えたときに、女性向けのマーケティングを、国内だけでなく、グローバル視点で考えられるオフィスが欲しいということがありました。
(株式会社マンダム 第二マーケティング部 主任 室 冬美さん)
同社第二マーケティング部は、マンダムの女性向け商品を担当する部署になる。女性向け化粧品の開発、販促、宣伝までをカバーするマーケティング部門で、女性向け商品ということもあって、部門のメンバー26名のうち、7割が女性で占められている。
Q.「オフィスを新しくされるにあたって、どういった点を重視されましたか。
1つには立地です。女性向けのマーケティングを行っていく場所になりますので、流行のトレンドを吸収できる場所であるようにということで、青山を選びました。オフィスで、オフィスワークをするだけでなく、周りからいろいろなものを吸収して、インプットもアウトプットもできるように、オフィスの中身を考えていきました。
(同)
Q.オフィス内部もかなり考えられたと聞きました。
社内のメンバーでいろいろなディスカッションが生まれるようにしたいというのが重視した2つめの点です。オフィス内の決まりきった場所で決まりきったコミュニケーションが生まれるというのではなくて、できるかぎりいろいろなシーンで様々なコミュニケーションが生まれ、部門をまたいでそれができる。場合によっては、社外の人も巻き込んでコミュニケーションが取れるような空間にしたいという思いがありました。
(同)
オフィスの内装については、コンペを行った結果オフィスデザイン会社の株式会社ヴィスに依頼されたとのこと。とはいえ、目指す空間づくりについて、ヴィスと一緒にかなりディスカッションを重ねながら作っていったという。
それでは、実際にマンダム マーケティング青山オフィスを見ていこう。
最寄駅は東京メトロ 銀座線・半蔵門線・千代田線の表参道駅になる。
その表参道駅A5出口の目の前に建つ最新デザインビルに入居している。
エレベーターで目指すフロアに入ると、目の前に全面ガラス張りのエントランスが広がる。
タブレットによるスマートな受付システム。
エントランスを入ると広いカフェスペースが広がる。
こちらで社外の人を招いたパーティーやプレス発表会も催されるという。
カフェスペースの天井部分はスケルトン化している。もともと天井高が高い最新オフィスビルのため、スケルトン化による上方の開放感が大きい。パーティーホール的に使うことも違和感のない設計だ。
正面にカフェカウンター。こちらで立ち話をしたり、パーティーなどイベントの際は、こちらのカウンターが活躍する。明るい無垢板がはつらつとした印象を与える。カウンター天板は光沢のあるホワイトで統一され、明るくクリーンだ。
こちらのカフェカウンターを中心とするスペースのコンセプトを尋ねた。
Q.カフェスペースのコンセプトを教えてください。
こちらのコンセプトとしては、オフィスをフリーアドレスにしたいというのはもともとあって、執務スペースで自由に行き来できるところと、みんなでふらっと集まれるスペースが欲しいよね、と皆で話していました。
最初、永野(同社 第二マーケティング部部長)が思い描いていたのは、グーグルのオフィスのひな壇なんです。そこに皆がフランクにわっと集まってきて、プレゼンテーションもできるし、階段に座ってディスカッションできるような、アメリカの大学のスタイルをイメージしていました。
こちらのカフェでも、ほんとに、ワッと集まってワッと散るとか、ここが個人机だと話しかけづらかったりしますが、こういう感じのフリーのスペースだとちょっとお茶を取りに来た時にも会話が生まれたりしています。
すべてが執務スペースになるけども、そこでコミュニケーションが生まれやすい場所にしたいというのが当初からのコンセプトですね。オフィス内で会話が生まれることを意識しました。
(同)
フロア入って右手がひな壇。オフィス内の高台にあるテラスエリア。窓から差し込む光で明るく日当たりの良い場所だ。
テラスエリアからカフェスペース全体を見下ろして1枚。
このフロアは巧妙に高低差をつけて空間の仕切りとしてデザインされている。 その高低差が効いて、限られたスペースでも景色の変化がある。
Q.高低差とその景色の変化は実際にオフィスを使ってどう感じられますか
オフィスの限られた中でも移動することが気分転換になりますね。オフィスの中で同じ景色がないんです。ちょっとした距離でも移動すると、椅子が変わり、景色が変わって、煮詰まっていたものの発想が変わったりします。そういった意味で、フロア内の高低差は、景色も変わりますし、すごくリフレッシュになっていいなと感じています。
(同)
マーケティングオフィスらしく、発想が生まれるといった点を重視されていることが分かる。逆に、オフィスはスペースが広大でなくても、高低差や椅子を変えたりなど、作り方次第で人の気分を変えさせることができるのだとこのオフィスを拝見して実感した。
テーブルに座った視点でカフェカウンターのほうを眺める。
少し高い位置というのはカフェの中でも眺めの特等席だ。テラスには、ホワイト天板のテーブルと明るいナチュラルカラーのウインザーチェアが置かれている。ホワイト天板はこちらのオフィスに統一されたデザインだ。後述するが清潔感を表すキーとなっている。
カウンター付近に移動してみると、
こちらはカウンター周りの席。
こちらの椅子はウッドのネイビーチェアの形状の椅子。ネイビーチェアというとオリジナルはアルミ素材のため硬質な印象を受けるのだが、こちらは木製のため無駄のない合理的なデザインでありながら、肌触りに温かみがある。こちらのオフィスにマッチするチェアだ。
場所ごとに椅子が変えてあり、座り心地と風景にアクセントをつけている。この椅子のセレクトは、永野さん(同社 第二マーケティング部部長)によるもの。
カウンターはかなり奥行きも長く作られており、こちらでも仕事をしやすい設計だ。こちらのオフィスでは社内のどこでも移動して仕事をしてよいフリーアドレス制が導入されている。このカウンターでの仕事は人気の一角。
奥にはソファエリアが置かれている。
ホワイトとナチュラルを基調としてグリーンを加えたデザイン。
ソファエリアでのテレビ会議風景を撮らせていただいた。
時折笑い声も交えながらリラックスして会話が弾んでいる。
今のオフィスはオフィス内にこうしたソフトシーティング(ベンチや執務椅子ではなく、リラックスした姿勢を取れるソファ等の席作り)のコーナーを作ることが多い。執務椅子とは違ったリラックスした姿勢を取って、グループで集まって座ることで、堅い会議テーブルで行う打ち合わせとは違うタイプのコミュニケーションが生まれる。
壁面の収納は、同社の女性向け化粧品が飾られている。
こちらのオフィスに見られる、特徴的なデザインは、写真右側に見える柱をカバーする白いタイルだ。同社の商品が化粧品ということもあり、清潔感を重視したデザインで統一されている。光沢感あるホワイトと無垢板のナチュラルさを基調にオフィス全体が明るくまとめられている。
カウンターの反対側は、
高めのカウンターテーブルにハイスツールの組み合わせ。
カウンター壁には電源も装備され、ノートPCで仕事ができるように配慮されている。
ソファスペースとカウンターの全景。
こうして振り返って見ると、このエリア全体が、明るくナチュラルな柔らかい雰囲気で満たされていて、女性向けマーケティングオフィスというのも説明されなくても、空間がそれを訴えかけてくるデザインだ。
天井も高く多くの人が集まるパーティーホールとしても使える。実際に社外の方を招いたイベントも多いそうだ。
Q.こちらのカフェスペースは社外の方も来られるそうですね。
移転前のオフィスは、コミュニケーションスペースがなくて、多様なコミュニケーションがしづらいという問題がありました。
普段なら生まれにくいコミュニケーションを外部の方に来ていただくことでできたりしています。
たとえば、インタビュー調査をしているチームは、ここのテラスのところで商品の顧客層にあたる学生の皆さんに来てもらって、軽食を食べながらインタビューをしたり、先日は取引先の方と共にワインセミナーを開いたり、サントリーさんにビールの試飲会を催していただいたり、プレスの発表会もここを使ったり。今までのオフィスではなかなかできなかったことができるようになっています。そういうことも含めての外部との交流ができるようになったということですね。
(同)
表参道駅前というファッション感度の高い立地と、これだけ作られたカフェ空間なので、活用のし甲斐があるというものだ。
カフェ側から執務スペースを眺めて。
執務スペースとカフェスペースは一応の区分けがされているが、こちらの執務スペース側もガラス張りでオープンにしてあり、双方を気軽に行き来しながら仕事が進められるよう作られている。
デスクは天板がナチュラルカラーの木製に、H型鋼がしっかりとしたフレームになったオリジナルのデスク。執務チェアはすべてハーマンミラーのセイルチェアを採用している。こちらのエリアも含めて座席はフリーアドレス制だ。
フリーアドレス制にしても結局毎日同じ席になってしまうというのは、フリーアドレスあるある話なのだが、こちらのオフィスでは、そうならないよう執務エリアを島ごとにゾーンに分けて毎朝抽選で決めている。
写真はタイムレコーダー前に設置している、福引につかうガラガラの抽選器。
出社したら社員は抽選器を回して、出た玉の色で、今日はどの島に座るかが決まる。島の中での席は自由に選べる。固定した席にならないよう、社内のいろいろな人とコミュニケーションを取る機会が生まれるようにした工夫だ。
右手は全面ホワイトボード。
簡単な立ち会議ができるようカウンターテーブルも設置されている。
ちなみに突き当たり奥に見えるのは、縦格子で遮られたファミレス風打ち合わせブース。
打ち合わせブースも完全にはクローズにせず、木の格子で仕切っている。近寄ってみても、見えそうで見えない。京町屋の格子のようなつくりだ。
どこから入るかというと、
横から入れる。
中に入ってみるとこんな感じで片側で2人がゆったり座れる広さ。入ると親密感ある空間になっていた。
もう少しフロアの奥に入って1枚。
窓の開口部も広く開放感ある執務スペースだ。
壁には世界地図と時計が配されて各地の時刻を示している。
世界地図がある理由を尋ねた。
Q.世界地図と時計が置かれていますが。
こちらのオフィスをマンダム女性化粧品事業のグローバル拠点にしたいという考えがありまして、今年の2月も海外の子会社のマーケティングスタッフにも集まってもらって女性もののブランド会議を開催しています。
ここをヘッドオフィスとしていつでも集まれる場所にして、彼らが出張で日本に来たとき、市場調査をしながら気軽に立ち寄れる場所にしたいと考えています。グローバル化をもっともっと進めていきたいという考えがありまして、その象徴として壁に世界地図と世界時計を置いています。海外から来客のときはそこの国に時計を合わせておくんですよ。
(同)
同社の海外進出の歴史は古く、1969年にはインドネシアに合弁による現地法人を設立しており、現在ではアジア各国にグループ企業を擁する。1982年にインドネシアにて女性向けコスメブランド「ピクシー(PIXY)」も発売するなど、女性向け化粧品分野での海外とのかかわりも深い。まさにそういった歴史ならではのグローバルへの配慮なのだ。
化粧品を取り扱うだけに、ファッション各誌が収納されている。
窓側のエリアは2段上がった上にあるが、雑誌収納の棚の向こう側には、
こちらは窓に向いたリラックスできるスペースが作られていた。
反対側から撮影。
いくつものカウチソファが並ぶ。
カウチソファも種類がいくつかあり、座り心地や雰囲気の変化を楽しめる。
以降、注目ポイントを挙げていく。
こちらは、フロア奥にある場所で、棚には同社製品が所せましと展示されている。自社商品がコンビニやドラッグストアに製品が置かれたときの見え方も確認できるのだ。
中央のハイテーブルは印刷物の確認用の場所だ。ハイテーブル上に色評価用照明が設置されており、標準の色で判断ができる仕組みだ。こちらでポスターやパッケージの色味などの確認をされているとのこと。
女性が多いので、体調がすぐれないときに休憩できる個室も用意。
クローズドにできる会議室も用意されている。
こちらは2室あるうちの1室。カーペットが自然の芝生と土みたいで、会議室といっても堅苦しくない。
こちらはエントランスを入ったところすぐの壁に設置されている傘立てコーナー。
白タイル壁面に定間隔で設置されたフックの意味が分からなかったが、教えてもらって納得した。傘立てはゴチャゴチャしやすく管理が難しいところなので、これだけすっきりとしてキレイな傘立ては初めてで感動した。これなら使う人も傘を置きっぱなしにすることなく、意識的にキレイにせざるを得まい。
大きな窓から日差しが降り注ぎ、ナチュラルな無垢板と光沢感あるホワイトの天板やタイルによる清潔感のあるはつらつとした印象のオフィスで、女性向けのマーケティングオフィスと説明されなくても空間がそれを伝えてくる魅力ある空間だった。
南青山という東京の最新トレンドを吸収できる立地に、メンバーでアウトプットできるようコミュニケーションが生まれるよう作られたオフィス、まさに「インプットもアウトプットもできる」オフィスに仕上がっており、ここにオフィスを設けたのも頷ける。今後、この地からどのような製品やトレンドが生み出されていくのか楽しみだ。
株式会社マンダム マーケティング青山オフィス
大阪市中央区に本社を置く、「ギャツビー(GATSBY)」をはじめとする男性用化粧品市場に置いて国内トップ企業。東証一部上場。女性向けコスメ分野では、「ビフェスタ(Bifesta)」「ピクシー(PIXY)」を中心に展開。東京 表参道にあるマーケティング青山オフィスは、女性向けマーケティング部門を担当する第二マーケティング部を中心に置かれている。
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編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2017年3月23日
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