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ペーパーレス=紙からの解放で働き方・ライフスタイルを変える~内田洋行の挑戦とエストニアの"電子政府"

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画像提供:Peshkov / AdobeStock(※)

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2019年4月1日に働き方改革関連法が施行されました。時間外労働規制など、対策に追われている企業も多いことと思います。政府は、働き方改革は「一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます」(首相官邸「働き方改革の実現」より)とうたっています。


働き方改革を進める上で、大きく関係するのが「ペーパーレス」です。

ペーパーレスという考え方が生まれたのは1970年代に遡りますが、今、働き方改革の盛り上がりの中でことさらに存在感を増しています。



■古くて新しいオフィスの未来像「ペーパーレス」


ご存じの通り、ペーパーレスは古くからの課題です。


最初に言われはじめたのは約50年前、1970年代に遡ります。PCが社内や部内に導入されて取引先の管理などに使われはじめた頃、OA(オフィスオートメーション)が実現するオフィスの未来像の象徴となったのが、ペーパーレスでした。「未来のオフィスでは紙がなくなり、すべて電子化される」。しかし、当時は技術も環境も整っていない時代であり、一つのお題目として、ほとんどの会社では実現することはありませんでした。


次のブームは1990年代半ば、オフィスにPCがあるのは当たり前で、社内にネットワークが導入されるようになった時代です。オフィスにおける紙の大量消費がコストやエコの観点から問題になり、再生紙の利用などとともにペーパーレス化の必要性が叫ばれました。


しかし、文書をデジタル化するスキャナーやデータを保存するストレージもまだ高額であり、ネットワークも未成熟だったので、保存したものを自由に取り出すにはまだ技術的な制約がありました。帳簿や帳票、申請書といった従来の紙資料をデータ保管することも、制度的に認められていなかったこともあり、やはり広く普及することはなかったのです。


それでも、2004年にようやく「e-文書法」が制定され、一部の文書を電子データとして保存することを認めるように行政が後押ししたこともあり、紙の消費量は2007年をピークに低下しはじめます。2015年には電子化が可能な文書の幅が一気に広がり、決算書類や契約書・領収書の上限金額も撤廃されました。


しかし、現在9割の企業が社内文書の電子化を進めているといわれていますが、ネットや電子デバイスの発達、コストダウンが進み、ペーパーレスを導入しやすい環境が整い出したにもかかわらず、完全なペーパーレスまではまだまだ遠い道のりが残されています。


それとともに、ペーパーレスの目的や、求めるメリットなども変化しています。


たとえば、数十ページにも及ぶ会議資料の厖大なコピー。かつてのペーパーレスのブームは、単にこの用紙・印刷のコストを削減するためのものでした。これに対し、働き方改革におけるペーパーレスは、紙をなくし、電子化することによって、印刷・製本・配布に要する作業時間を圧縮でき、その時間をもっと生産性の高い作業に回すための課題解決です。


さらに紙の保管場所というオフィスの物理的な制約がなくなり、ネット上での共有による利便性も高まります。


労働時間の有効活用・ワークスペースの有効活用・生産性向上というチェーンが、ペーパーレスによってつながっていくわけです。



■新社屋移転を契機にペーパーレスにチャレンジした内田洋行の取り組み


企業や官公庁、教育機関のICTやネットワークシステム構築とのオフィスや学校空間の設計の老舗である内田洋行は、2011年からペーパーレスに取り組んでいます。


経営企画統括部第2企画部部長の矢野直哉さん、ICTリサーチ&デベロップメントディビジョンICTプロダクト2課課長の橋本雅司さんにお話を伺いました。



矢野直哉さん(右)と橋本雅司さん(左)。左に見える大型電子ボード「SMART Board」は、書き込みができ、ワイヤレスで画面共有もできる未来型ホワイトボード。

矢野直哉さん(右)と橋本雅司さん(左)。左に見える大型電子ボード「SMART Board」は、書き込みができ、ワイヤレスで画面共有もできる未来型ホワイトボード。



中央区の内田洋行新川オフィスは、オフィスそのものがショールームの趣となっており、ペーパーレスを実現する商材を社員の皆さんが自ら実際に活用しています。



フリーアドレスの執務室では、小鳥のさえずりや川のせせらぎなどの自然音のBGMが流れる

フリーアドレスの執務室では、小鳥のさえずりや川のせせらぎなどの自然音のBGMが流れる



会議参加者が資料を印刷せずに情報を共有する仕掛けも豊富。無線で情報を飛ばす「クリックシェア」を使えば、各自が持っている情報を一瞬でホワイトボード上に共有できます。紙を介さないことによって情報共有のスピードが上がり、アクションも早くなります。まさに生産性の向上が実現されており、この取り組みは総務省行政管理局でも一部導入され、パソコンとディスプレイで無線投影して情報共有を行っているとのこと。



――ペーパーレスに取り組んだきっかけは?


2012年2月に現在の社屋に移転しました。内田洋行がペーパー"ストック"レスに取り組むようになったきっかけが、この移転です。新しい働き方の実現を目指したコンセプト「働き方変革、Change Working!」をお客様に提案できるように、新社屋で自ら実践しようと決めたのです。現在では当たり前に行っていますが、ブレストを重ね、社内のどこでも仕事ができる方法をまとめていきました。


(矢野直哉さん)




プロジェクトチームだけで解決策を考えたわけではなく、社員全員が参加してワークショップをやったり、職場に来る人を全員集めて、どうやったら自分たちが考える働き方を実現できるのか、ひとつずつポストイットに書き出して貼り出し、ブレストを進めたとのこと。このプロセスを経ることで「ジブンゴト」の取り組みが実現しました。



――ペーパーレスではなく、「ペーパーストックレス」?


課題を整理すると、目指す姿を実現するためには、344もの変革促進施策をやっていかなければならないことがわかりました。そのひとつが「ペーパーストックレス」です。全社から紙をなくすペーパーレスの前段として、まずは個人の保管している"ストック"をなくそうと考えました。紙という縛りから社員の動きを解放して、自由にどこででも仕事ができるようにするためには、全体を変えていく必要があります。紙だけなくしても意味がないことに気づきました。


移転は約5カ月をかけて行ったのですが、たった5カ月では働き方変革まではできません。そこでゴールを2年後に設定しましたが、結局、完全に実現するまでは4年かかってしまいました。お客様に提案する際に「これをやると間違いなく失敗します」と言える事例もできました(笑)。


(同)



取り組む前は、1人にひとつ机があり、上も下も書類でぎっしりの状態だったとのこと。オフィス移転後にペーパーレスに踏みきった当初は、紙がなくて全員が戸惑ったそうです。会議の資料等をプリントしても、フリーアドレスで自分の席があるわけではないので「ちょっと机に入れておこう」としても、しまい込む場所がない。そこで、資料は会議でデータとしてサーバーで参照できるようにしたそうです。こうして書類を持ち歩く必要がなくなり、どこでも自由に働けるようになりました。




ペーパーストックレスの効果をよく聞かれますが、生産性を向上するためには、ただ即物的に紙を減らすのではなく、「良い情報はすぐ利用する」「素早く拡散して活用する」という2点が大事です。もちろん物理的なメリットもありました。実際に減らした紙の量は、1人当たりのスペースに換算すると、6.1平方メートルから0.3平方メートル。全体では、新しいビルのワンフロア分まるごとのスペースが不要になりました。家賃換算で相当のコストダウンを達成しています。提案書などの様々なデータは社員同士で共有され、ナレッジシェアが進んでいます。


(同)



■驚いたことに、本当に必要な書類の量は......


個々の社員では、書類を減らすことに抵抗はなかったのでしょうか。


プロジェクトチームがヒアリングしてみると、たとえば「お客様にいただいた大切な資料」「何かの提案書」といったものが大量にファイリングされて保管されていました。しかし、それを実際に活用しているかというと、大半はしまい込まれているだけで、誰の目にも触れず陳腐化していっていました。データ化し、検索してすぐに参照できる状態にすれば、モデルとして情報共有し、活用することができるのですから、もったいない状態だったと言えます。


プロジェクトチームが主導して、所有している資料のうち実際に活用する量をギリギリまで減らしてもらったところ、最終的にはボックスファイル3つ分におさまったとのこと。ほとんど例外なく、誰の場合でもそのくらいでおさまることがわかりました。そこで新オフィスでは、1人当たり45センチ角のロッカーがひとつあれば足りることがわかったわけです。空いたスペースにはリフレッシュエリアを設けたり、情報をいかに使うかという実験的なスペースを設置したりしています。




私は皆さんより遅れてこのオフィスに入ったので、いきなり保管資料の7割程度を処分しなければならず、かなり戸惑いました。最初のうちは保管するかどうか迷う書類もありましたが、結局、全部処分して、今の環境で仕事をできるようになりました。本当に必要な情報以外は、捨てています。早めに選別しないと置くところがないので、残すものはスキャンしてデータ化し、定期的に捨てます。結果として普段は紙を持たなくなりました。意思決定が早くなり、生産性向上につながっていると思います。


(橋本雅司さん)



「ボックスファイル3つ分」の45センチ角の個人ロッカー

「ボックスファイル3つ分」の45センチ角の個人ロッカー



広々としたオフィスは家具の配置もゆったりしている。1人当たりの面積は約7.8平米ほどで、都内の平均的なオフィスの8.9平米より、じつはコンパクト。使い方次第で、余裕のあるオフィス空間の実現が可能になる。

広々としたオフィスは家具の配置もゆったりしている。1人当たりの面積は約7.8平米ほどで、都内の平均的なオフィスの8.9平米より、じつはコンパクト。使い方次第で、余裕のあるオフィス空間の実現が可能になる。




移転した際に、オフィス内にあるすべてのプロジェクターやディスプレイ40台ほどを無線で投影できるようにしました。パソコンから「クリックシェア(リモコンボタン)」をクリックすると、データを無線で投影できる仕組みです。これを使えば、会議中にとても簡単に情報を共有できます。


私は別オフィスと、ここのオフィスを行ったり来たりすることが多いのですが、紙を持ち運ばないワークスタイルが身につき、どこでも仕事ができるようになりました。ペーパーレスには、"全社で取り組んでいる"という環境と、参照する書類をクラウドに保管するなどの仕組みの両方が必要です。


(同)



■ペーパーレスの取り組みを始めるチャンスは


オフィス移転と同時進行で進んだストレージシステムの発達も大きな助けとなったそうです。2011年当時は社内サーバーを使っていましたが、今ではクラウド上にライブラリを設定し、スマートフォンでも閲覧可能な最新情報などを自動で表示し、共有する仕組みも作りました。打ち合わせや会議もチャット会議システムなどを活用し、場所を選ばずに参加できるようになっています。



――ペーパーレスは、取り組みの成果がわかりやすいという利点がありますね。


他社がビックリされるようなことを自然にできるようになります。決して難しいことをしているわけではないのですが、わかりやすく成果を実感しやすい課題解決ですね。


ペーパーレスは働き方を改革する際に避けることができません。道具やテクノロジーに助けられるところもありますが、オフィス移転を行う際には予算も付きやすくなるので、取り組みを始めるには絶好のチャンスではないでしょうか。まずは簡単なところ、たとえば会議で紙資料を配るのを止めてみてはどうでしょう。「これはいい」と思える体験が増えれば、スムーズにペーパーレスへ移行できると思います。


(矢野直哉さん)



集中作業に使うパーティションスペース

集中作業に使うパーティションスペース



自然木を生かしたリフレッシュスペース

自然木を生かしたリフレッシュスペース




■エストニア電子政府に見る、ペーパーレスの未来像


内田洋行の取り組みでは、ペーパーレスによって「紙が減る」という物理的なメリットが得られるだけでなく、「情報共有」と「場所を選ばずに働くことができる」という情報をデータとして活用できる利点があることがわかりました。



さて、逆に、現在、必ず紙が必要とされるのはどんな場合でしょうか。



思い浮かぶのは、役所の申請です。引っ越しシーズンの3月に住所移転などで市役所等を訪れると、まずは申請書を書いて提出し、時には係員の指導で書き直し、さらに待つこと数十分でやっと会計して、「○○証明」などの紙を入手することができます。子どもが生まれた際の補助金などの申請は、窓口や役所が分散していますので、数カ所に別々の申請書を手書きで何枚も書かなければならない自治体もあります。


また、確定申告の書類作成は、慣れない人にとってはかなり複雑な作業です。経理の担当者がいない中小企業や個人事業主の多くは、税務署のeTAXの仕組みがあるにもかかわらず、税理士の手を借りて書類を作成しています。もしこれらの作業が、自宅にいながら「引っ越し関連」「新生児関連」「税金の申告」に1度オンラインで申請すればOKとなったら、どれだけの時間と手間を省くことができるでしょうか。もちろん「紙」も減ります。



そこで、ペーパーレスを行政サービスや商取引などに実際に活用している事例を紹介したいと思います。


ペーパーレスの取り組みを進めることで、99%の行政サービスをオンラインで可能にした国があります。北欧バルト諸国の最北国、エストニアです。エストニア共和国は、多くのヨーロッパ諸国と同じように他国からの占領の歴史が長く、1991年に独立を回復しました。同国は人口約130万人で、国土の広さは九州の約1.2倍。首都タリンの歴史地区は、中世の街並みが広がり、世界遺産に登録されています。



エストニア共和国の首都タリン。世界遺産に登録された中世の街並みが広がる(提供=Image by Martin Hochreiter from Pixabay ※)

エストニア共和国の首都タリン。世界遺産に登録された中世の街並みが広がる(提供=Image by Martin Hochreiter from Pixabay ※)



エストニアは、電子政府を活用することによって、電子署名ではGDP換算で年間2%コストカット、警察は1.5倍の検挙率となり、病院の待ち時間は1/3になりました。また、選挙関連費用も2/5になったそうです。1カ月に削減された書類の量は、積み上げると300メートルほどにもなるとのこと。


先進的な世界最先端の電子政府を持つエストニア共和国の取り組みを、駐日大使館の参事官 アルゴ カングロさんに伺いました。



――エストニア共和国は、行政サービスの99%がオンラインで完結する世界最先端の電子政府ですね。なぜ実現できたのでしょうか。


エストニア共和国では、国民の99%がIDカードを持ち、行政手続きは個人のIDをもとに行っています。世界に先駆け、2000年にそのような電子政府を樹立できたのは、国の規模が小さかったこと、インターネットの普及とタイミングが合ったことが大きいです。また、国が新しいため、古いシステムに縛られることなく思い通りに設計できたことも大きな要因になりました。


日本のマイナンバーカードは、公共サービスを受けるためのものですが、エストニア共和国のIDカードは、企業のサービスも利用できます。わが国では、企業は独自にシステムを作らず、政府のシステムを信頼して利用することで、費用や管理の手間を省いています。また、電子署名が紙の文書と同じ意味を持つので、契約などもほぼすべてオンラインで、年中無休で行われます。


(アルゴ カングロさん)



アルゴ カングロさん

アルゴ カングロさん



非常に便利そうなIDカードですが、紛失や盗難に遭ってしまったらどうすればいいのでしょうか。


じつはIDカードは指紋登録も行うので、指紋データを照合することで再発行してもらえます。万一、誰かが悪用しようとしても、暗証番号が2つ必要で、3回ログインに失敗するとロックがかかる仕組み。管理の所管は警察です。


さらに、もしエストニア共和国のデータが消失しても、data-embassyの仕組みがあり、ルクセンブルクにバックアップデータを保管しているそうです。


そんなエストニアでも、結婚・離婚・不動産売買の3つだけは、役所に足を運んで届け出しなければなりません。これらはいずれも、「相対する2人が同時に同意したという確認が必要なもの」だからです。


2019年3月3日に議会総選挙が行われましたが(一院制、定数101)、当然のこととして、電子投票が認められています。今回は、44%がオンラインでの投票でした。これまでの電子投票の最高齢は100歳のおじいさん。場所を選ばない電子投票なら、家からでも投票でき、高齢者に優しい仕組みだと言えます。



■サイバー攻撃をはね返すIT技術だけが電子政府成功の要因ではない


電子政府としては、何よりも警戒しているのがサイバー攻撃です。2007年、同国は世界で初めて大規模サイバー攻撃を受けました。電子政府の一部がダウンし、銀行預金を下ろすこともできなくなり、一時的に食料の買い物さえできなくなりましたが、システムの中枢を守りきりました。非常事態を乗りきったことで、エストニア共和国の高度なIT技術は世界から賞賛されています。2008年にはNATOのセキュリティーセンターがエストニアに開設。日本もオブザーバーとして2019年度から参加します。



――ITを支える人材が豊富なのはなぜですか?


IT人材が豊富なのは、子どもと高齢者のIT教育に力を入れたからです。子どもたちのIT教育は、すべての子どもに1台ずつインターネットに接続したコンピュータを配る1995年の「Tiger's Leap(虎の跳躍)」というプロジェクトから始まりました。経済的に厳しい中で下した大英断でしたが、これはとても成功し、豊富なIT人材を育てることに貢献しました。資源が豊富にあるわけではないわが国では、若者の起業を応援するビジネスコンテストなども盛んに行っています。私の甥も高校生の学校対抗ビジネスコンテストで評価され、16歳で起業しました。エストニア共和国に企業規模が10億円以上のユニコーン企業が4社もあるのは、こうした教育の成果と思っています。


(同)



しかし、電子政府を成功させるキーポイントは、テクノロジーではないとカングロさんは語ります。




テクノロジーよりも、やはり意志の力、精神面と法律、サポートが重要です。わが国では、情報の所有権は政府ではなく、あくまでも個人にあります。政府のプラットフォームに情報があっても、公開するかどうかは個人が決めるのです。たとえば自分の血液型を公開したくなければ、個人がそう決めれば、公開されない仕組みになっています。電子政府成功の秘訣は、そうした政府への信頼と、情報の透明性にあります。


(同)


日本人でも、2015年からエストニア共和国のe-residency(電子居住権)を取得できるようになりました。日本から申請すると、エストニア共和国大使館で指紋データ等の生体認証データを登録し、IDカードを発行してもらえます。現在、100ユーロで5年間の登録が可能です。ただし、マネーロンダリング防止の観点から、銀行口座を開設するにはエストニア共和国を訪問して、銀行で本人確認する必要があります。


e-residencyを獲得すれば、オンラインの手続きだけで、同国での法人設立も行うことができます。最短記録はたった18分とのこと。法人登記費用も190ユーロと格安です。


首都タリンには世界遺産に登録されている美しい街並みがあり、冬には海が凍って車で海上を疾走することもできるそうです。銀行口座開設のついでに、訪問してみるのもいいでしょう。



実際のe-Residency Kit。在日エストニア共和国大使館で本人確認、生体認証データの登録を行う

実際のe-Residency Kit。在日エストニア共和国大使館で本人確認、生体認証データの登録を行う



ペーパーレスによって実現した電子政府。エストニア共和国は、G20等にアドバイザーとしても参加しています。島嶼部も多いエストニアでは、郵便局などの行政サービスを点在させるより、オンラインの電子申請にすることは合理的な解決策でした。ひとつひとつの行政サービスを電子化しただけでなく、連携して相互参照できる仕組みを作ったことで飛躍的に利用できる行政サービスが増えたからです。


たとえば、日本の確定申告の書類作成にあたる税金関係の書類作成は、エストニアではオンラインで5分でできるそうです。物理的な"紙"から自由になると、こんなにも違う景色が見えてくるという未来像を垣間見ることができました。



アルゴ カングロさん



■ペーパーレスは"紙"から"情報"への解放


オフィスの移転を契機に、事務机の上下にぎっしりと詰まっていた書類を整理するところから着手した内田洋行の"ペーパーストックレス"。紙では死蔵しがちな情報をデータで共有することで、次のアイデアを生み出す宝の山として再利用できるようになりました。


また、エストニア共和国では、電子政府と民間企業のサービスをオンラインで行うことで、それまでの仕事を抜本的な見直しも進めました。税金の申告がオンラインの自動処理でできるようになり、会計士の仕事が事業相談の業務にシフトするほどの変革をもたらしたのです。(商取引もデータベース「e-Estonia」がカバーしているため)。


日本でも、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が2018年6月に閣議決定され、電子政府の実現に向けて官民連携したデジタル化を推進するロードマップが描かれています。


ペーパーレスが政府主導で普及すれば、間に紙を挟むことなくシステムが回るようになり、効率化や生産性向上は夢物語ではなくなります。ペーパーレス対応が政府調達等の条件になる可能性も高いと思われます。


今こそ、物理的な"紙"を使ってきた業務やライフスタイルそのものを見直し、データを"情報"として利活用する方法を考えるべき局面に来ているのではないでしょうか。






取材協力

株式会社内田洋行

駐日エストニア共和国大使館








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2019年2月8日




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