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働き方改革をめぐって、報道などでシニア層の活用が連日のようにクローズアップされています。シニア層、そして現役世代のミドル層も含めた中高年層の働き方は、昨年末時点で、すでに2018年の重要なキーワードとして注目されていました。 たとえば、リクルートが毎年発表している「トレンド予測キーワード」では、「熟戦力」「年功助力」「まなミドル」「ボス充」という4つのキーワードが挙げられています。
参考:「美容・人材派遣・飲食・住まいなど8領域の新たな兆し 2018年のトレンド予測を発表」(pdf, リクルートプレスリリース)[外部リンク]
これらのワードは、一線を退いたシニアと、現役世代のミドル層の働き方に関わるものです。ここでは、その背景にどんな問題や課題があるのかを読み解き、これからどんな現象につながっていくのかを考えてみましょう。
日本の企業が慢性的に抱える問題のひとつが「人手不足」。少子高齢化によって、若い働き手が減少を続けているのです。
厚生労働省の調べによれば、有効求人倍率は2009年から右肩上がりで上昇し、最新の統計(2017年1~9月)では1.48倍と、バブル期の水準を超えました。
参考:「求人倍率 バブル期超え 4月1.48倍、43年ぶり水準」(日本経済新聞2017.05.30)[外部リンク]
これに対して、「働きたいのに働けない」状態に置かれてきたのが、シニア・高齢者です。内閣府の調べによれば、65歳以上の高齢者のうち、実に8割が「働きたい」、しかもその半数以上は「働けるうちは働きたい」と思っているそうです。そこに如実に表れているのは、「やりがい、生きがいを求めて仕事をしたがっている」シニアの姿でしょう。
出典:「平成29年版高齢社会白書」(内閣府)[外部リンク](※)
「高齢者雇用によって人手不足を軽減できるのではないか」という考えは、ごく自然なもので、うまくいけばWin-Winの関係を築けそうに思えるのですが、実際には、そう簡単にはいかない構図があります。
リクルートジョブズによれば、「働きたいシニア」と「企業のシニア雇用」を対比してみると、シニア雇用に積極的な企業はまだまだ少なく、非積極的な企業が7割強を占めているとのことです。そのため、5年以内に仕事探しをしたシニアの35%が、「仕事を探したがあきらめた」と回答しています。シニアの勤労意欲と、受け入れる企業との間には、残念ながら温度差があるのです。
参考:「シニア雇用の実態」(pdf, リクルート「2018年トレンド予測 アルバイト・パート領域」)[外部リンク](※)
しかし、この状況も今後は変わっていくとレポートは予測しており、高齢者雇用に「かなり積極的な」企業が現れていることに着目しています。戦略的目的を持って、積極的に高齢者雇用に取り組む企業が増えてくることで、戦力たり得る高齢者が注目される。それを示すキーワードが「熟戦力」ということのようです。
一方、企業の側がシニアに期待するのが何かということを示すのが、「年功助力」(「年」の「功」に「助」けられ、 企業「力」を高める)というキーワードです。
「年の功」とは、長年の人生で養った「自活力」、豊富な経験や高齢ゆえの「融通力」、さらに、多くの人付き合いによって磨かれた「対人力」。
商品の売り場でお客様の年齢や性別に合わせた提案ができたり、親しみやすく安心感を与えるトーク・雰囲気をもっていたり、コールセンターなどで困難やトラブルにめげず、前向きにがんばる粘り強さをもっていること。シニアならではのそんな能力が期待されているようです。
参考:「中高年やシニアの中途採用が活発化! キーワードは「熟戦力」と「年功助力」」(毎日が発見ネット)[外部リンク]
上記サイトでは「熟戦力」は人材派遣領域、「年功助力」はアルバイト・パート領域にカテゴライズしており、どちらも非正規雇用の近未来トレンドについて解説されています。
次に、40~50代のミドル社員や管理者に関するトレンドを見てみましょう。
政府の「働き方改革関連法案」が6月29日の参議院本会議で可決、成立しました。
この法案の大きな眼目のひとつが「残業時間の上限規制」「有休取得の義務化」などに代表される「長時間労働の是正」です。法案が施行適用されれば、会社に拘束される時間が減り、平日の夜や休日、取得した有給休暇などが余剰時間としてビジネスパーソンに与えられます。
その時間をリカレント(学び直し)教育に充てて、スキルアップに取り組もうとする40~50代のミドルが増えるという予測を表すのが「まな(学)ミドル」というキーワードです。
昭和42~49年生まれのミドルは、企業内で人数的に突出しているのに、就けるポストが足りていないと言われています。住宅ローンや子供の教育費、親の介護などで出費がかさみ、長時間労働も当たり前。お金と時間がない上、学びの機会にも恵まれてこなかったこの層は、「どんな仕事に就けるのか?」「継続的に働けるのか?」といった将来の雇用不安を漠然と抱えていると言われます。そんな彼らにとって、働き方改革によって生まれる余剰時間は、学び直しの絶好の機会になりそうです。
参考:「存在感増す「リカレント教育」ミドル世代が「学び直し」」(産経ニュース2018.01.19)[外部リンク]
実際、様々な社会制度もこれを後押ししています。
退職して勉強する人などに費用の一部を支給する、厚生労働省の「専門実践教育訓練給付金」の対象は、開始時の2.5倍に当たる2223講座(2017年9月)となり、給付率も最大7割に拡充されました。
文部科学省が受講料の一部を支給する「職業実践力育成プログラム」も、2017年には前年比1.5倍の180講座が対象となっています。
こういった制度の利用者を含め、大学院のキャンパスや資格スクールでは、40代~50代の中高年世代の受講者が目立ち始めているようです。
余剰時間の使い方のヒントを示す、もうひとつのキーワードが「ボス充」です。 これは「リア充」の語呂合わせなのですが、「上司が生活を楽しみ、充実した社会活動を行っている状況」を差した言葉です。
前述のリクルートのレポートによれば、上司に対する若手社員の価値基準は時代とともに変化しており、今、20代社員が理想とする上司は、「専門性の高い上司」よりも、「人間的な幅が広い上司」という傾向があるそうです。後者のような上司は、社外活動が充実しており、仕事以外の生活を楽しんでいるとのことです。
先述したまなミドルで触れた「学び直し」も含めて、たとえば「休日に参加するボランティア」、「家族で一緒の夕食」、「社外の知人・友人とのアクティブなつき合い」などなど。
働き方改革で生まれる余剰時間を上手に使い、充実したプライベートを過ごすマネジャーが若手社員から支持され、それによってチーム力が高まり、ひいては企業の業績にもいい影響を与える、という新しい職場のあり方が提案されているのです。
こうした職場の構成を考えると、ボス充が求められる背景には、20代社員のあり方が関係しているように思えます。
1981〜1996年の間に生まれた20~30代の「ミレニアル世代」は、それまでの世代とまったく異なる価値観やライフスタイルを持った世代だと位置づけられています。
参考:「上の世代と全く違う! ミレニアル世代の11の特徴」(BUSINESS INSIDER JAPAN)[外部リンク]
これとよく似た世代を指す日本の表現がありますよね。そう、「ゆとり世代」です。
学業以外の時間を増やし、豊かな人間性を生む目的で始められた「ゆとり教育」を受けて育った1987~2004年生まれの若者たちのことで、次のような特徴が指摘されています。
参考:「ゆとり世代とは?ゆとり世代の特徴・年齢は現在何歳?何年代?」(Mayonez)[外部リンク]
残念ながら、従来はあまりポジティブな言葉ではありませんでした。「これだからゆとりは......」などという揶揄の言葉に接した方も少なくないでしょう。
実際にこの世代の現年齢を見ると、14~31歳。「20代の若手」という年齢層を完全にカバーしていることがわかります。つまり、ボス充というマネジャーの姿は、ゆとり世代がイメージする理想の上司像ということになるわけです。
また、上記したゆとり世代の「プライベート優先」「効率重視」という特徴は、労働時間の短縮をめざす働き方改革の理念に合致しています。ゆとり世代の持っている資質は、働き方改革を進めるために必要であり、企業のリーダーは、彼らを意識して充実したプライベートを過ごすことが求められるということなのでしょう。
今回紹介した4つのキーワードは、リタイア後のシニア、それに40~50代のミドル世代にとっての働き方のヒントを示しているものです。
高齢化社会も働き方改革も、今後、新しいフェーズに入り、ビジネスパーソンの働き方は大きく変わっていくことになるでしょう。その中で、当面、主役になるのはシニア&中高年であることは間違いありません。これらをハードルでなく追い風ととらえて、アクティブな職業生活を送ることが、仕事仲間からも部下からも、もちろん企業からも期待されているのです。
編集・文・写真:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2018年7月10日
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