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STATION BOOTH/CAMPING OFFICE SHIBUYAに見る、新形態のシェアオフィスが拓くワークプレイスの可能性

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STATION BOOTH/CAMPING OFFICE SHIBUYAに見る、新形態のシェアオフィスが拓くワークプレイスの可能性

画像提供: Suzanne Plumette / AdobeStock(※)



働き方改革を背景に新しいワークスタイルのあり方が広がるのと同時に、「ワークプレイス」についての考え方も大きく変化している。


中でも、従来のオフィスを補完するものという位置づけだったコワーキングスペースやシェアオフィスが、「創造性や生産性の向上」「BCP対策」「柔軟なワークタイムの実現」といった明確な目的を備えた「ワークプレイス」として活用されるようになってきているのだ。


これまで、こういったスペースを提供する側は、利用者の幅広い目的に対応する形で、より汎用性の高い場を用意する方向でサービスを拡大してきたが、このところ、逆に機能を絞り込んで、利用目的を限定しようという事例が登場してきている。


何でも汎用的に使える家電は便利だが、使い勝手のいい機能を限定した家電のほうが役立つ場合もある。それと同じように、あえて汎用性を捨て、利用目的を明確にした新しい「ワークプレイス」の提案が注目を集めているのである。


今回紹介するのは、東日本旅客鉄道(以降、JR東日本)と東京急行電鉄株式会社(以降、東急電鉄)という2つの鉄道会社の取り組みだ。鉄道という社会的インフラをベースに事業を展開する鉄道会社が、オフィスというビジネスインフラ整備に乗り出すことは、むしろ当然のことなのかもしれない。



■"駅ナカ"の個人用シェアオフィス「STATION BOOTH」という提案


「STATION BOOTH」は、JR東日本が、"駅ナカ"という鉄道会社ならではの空間を利用した、ブース型の個人用シェアオフィスだ。同社が2019年に予定している「STATION WORK」事業の本格展開の先駆けとして、東京駅、新宿駅、品川駅の構内で、"駅ナカ×シェアオフィス"と銘打って実証実験をスタートしたもの。


外観は、電話ボックスのようなブース型。中には、デスクとイスはもちろんのこと、電源、Wi-Fi、液晶ディスプレイ、暖房などが設置され、駅の喧噪をシャットアウトできる防音機能など、仕事に集中できる環境が整えられている。(写真参照)



新宿駅「STATION BOOTH」の外観。緑のブースが法人会員用の「BUSINESS」、オレンジのブースが個人用の「PERSONAL」となっている。(※ 写真提供:JR東日本)

新宿駅「STATION BOOTH」の外観。緑のブースが法人会員用の「BUSINESS」、オレンジのブースが個人用の「PERSONAL」となっている。(※写真提供:JR東日本)



新宿駅「STATION BOOTH」の内部。(※ 写真提供:JR東日本)

新宿駅「STATION BOOTH」の内部。(※写真提供:JR東日本)



同社では、「変革2027」というグループ経営ビジョンの中で、価値・サービスの向上を通して乗降客や地域の人々の「心豊かな生活」を実現することを打ち出している。その一環として、働き方改革、生産性向上に対応したサービス整備に力を入れており、「駅」をベースにしたコワーキングスペースやレンタルオフィスを提供する新事業「STATION WORK」を準備中だ。


実証実験中の「STATION BOOTH」は、駅ナカにあるので、電車での移動中に気軽に利用することができるのが何よりの強みだろう。


短時間の作業のために、わざわざ改札を出てカフェやファストフード店を探す手間は、忙しい時には大きなストレスになる。その点、駅ナカなら駅外に出る必要がないから、時間が無駄にならない。


予約はスマホから可能。電車での移動中、途中駅にある「STATION BOOTH」の予約を取って、その駅で電車を降りればすぐに利用できる。改札の外に出ないので、交通費が無駄になることもない。


アカウントは法人用の「Business」と個人用の「Personal」がある。「Personal」なら専用サイトから会員登録すればすぐに利用を開始できる。予約操作も利用したい駅を選んで、日時を指定するだけだ。入室する際は、予約時間に扉のディスプレイに表示されるQRコードをスマホで読み込ませる。予約をしてなくても、QRコードを読み取るとその場で利用を開始することもできる。


早速、筆者も利用してみたが、予約から利用までとてもスムーズで、ストレスなく利用することができた。



専用WEBサイトでの予約手順: ①トップページからログイン ②ブースを予約したい駅を選択 ③予約したいブースと時間を選択(網がかかっているブース、時間は予約済み)(※ 「STATION WORK」ホームページ(https://www.stationwork.jp)および予約ページより事務局作成)



専用WEBサイトでの予約手順:
 ①トップページからログイン
 ②ブースを予約したい駅を選択
 ③予約したいブースと時間を選択(網がかかっているブース、時間は予約済み)

(※ 「STATION WORK」ホームページ(https://www.stationwork.jp)および予約ページより事務局作成)



使用する際には、時間になったら扉についているディスプレイにタッチして表示されるQRコードを読み取るだけで、ロックが解除される。ワンタッチなので、利用手続き等で時間を無駄にすることもない。(※ 写真提供JR東日本)

使用する際には、時間になったら扉についているディスプレイにタッチして表示されるQRコードを読み取るだけで、ロックが解除される。ワンタッチなので、利用手続き等で時間を無駄にすることもない。(※写真提供 : JR東日本)



「STATION BOOTH」の実験期間は、2018年11月から2019年2月までの予定。この間、朝の9時から夜の21時まで、15分1コマ、最大2コマ30分を上限に無料で使用できる。


実証実験の手応えについて、JR東日本の布瀬翔太郎氏(事業創造本部 事業推進部門 )にお話をうかがった。




実験が始まったばかりで詳しいデータはまだ集計中ですが、想定以上の方に利用いただいています。


特に「Personal」は、予約が一杯になっている時間帯もあります。まだ実証実験を開始して二週間ですので、物珍しさもあって、とりあえず体験してみようという方が多いのではないかと考えています。できるだけ多くの方に利用していただいてデータを収集して実サービスにつなげたいと思います。


法人の「Business」に登録して参加いただいているのは、最適なオフィスのあり方を積極的に検討されている企業です。利用されている社員の方に声を集めて、「STATION BOOTH」が働き方改革や生産性向上を実現する上で役に立つのかの検証されているようです。

(布瀬翔太郎氏)




実験終了後の「STATION BOOTH」はどのような展開になるのだろうか。




実験終了後はいったん撤収し、データを分析し、サービス内容をブラッシュアップして再始動となります。「STATION BOOTH」は、現在準備中の「STATION WORK」事業を構成するサービスのひとつで、コワーキングスペース事業やレンタルオフィス事業などとともに、2019年度のスタートを予定しています。


「STATION WORK」事業は、「働く人の"1秒"を大切に」をコンセプトにした3つのサービスからなっています。


まず、個人・法人向けのサービス「STATION BOOTH」。法人向けの"駅ナカ"コワーキングスペース「STATION DESK」。同じく法人向けの"駅チカ"のレンタルオフィス「STATION OFFICE」です。


どれも2019年の事業開始予定です。「駅」をベースに、利用される方の目的に合わせてワークスタイルを選択できる環境を整えていこうと考えています。

(同)




「STATION WORK」を構成する3つのサービス (※ 「STATION WORK」Webサイトより)

「STATION WORK」を構成する3つのサービス (※「STATION WORK」Webサイトより)



"駅ナカ"から"駅チカ"へ、同社のシェアオフィス事業「STATION WORK」は、一人用ブースからレンタルオフィスまで駅を軸に多様な「ワークプレイス」のネットワークを構築していく計画だという。


そのさきがけである「STATION BOOTH」は、実証実験とはいえ、"駅ナカ"の"オフィス"の親和性を十分に実感させるサービスになっていると感じた。ブース型だから、ある程度のスペースがあれば、かなり多くの駅で展開できるのではないだろうか。主要駅に設置されれば、予約がとれた駅で降りて利用する、という使い方が、より現実的なものになる。電車移動の多いビジネスパーソンにとって、ちょっとしたビジネス拠点となり得るだろう。 従来の汎用的なスペースとは立ち位置が異なるが、パーソナルな活用目的で短時間だけ利用する場として、JR東日本のサービスには、コワーキングスペースやシェアオフィスの可能性を広げる可能性があるのではないだろうか。



■街中のキャンプという異空間ワークスペース「CAMPING OFFICE SHIBUYA」という提案


一方、東急電鉄が渋谷で展開する「CAMPING OFFICE SHIBUYA」もまた、じつにユニークな試みであると言える。


渋谷の駅を渋谷ヒカリエ側に出て、明治通りを原宿方向にほんの数分、キャットストリートの起点にある施設「渋谷キャスト」まで歩くと、通り沿いのエントランス広場に2つのテントが見えてくる。スタイリッシュなたたずまいを見せる渋谷キャストを背景にしたキャンピング用テントは、ビジュアル的にもかなりのインパクトだ。


じつは、このテントこそ「CAMPING OFFICE SHIBUYA」、屋外に置かれたレンタルオフィスそのものなのだ。


2つあるテントは、椅子とテーブルが置かれた着席スタイルで12名まで利用できる「ランドロックセット」と、クッションと低いテーブルが置かれたお座敷スタイルの「ラウンジシェルセット」からなっている。設置されたテントはビジネス用に開発されたものではなく、キャンピング用品のブランド「スノーピーク」のもので、実際にキャンプで使われている製品だという。


設備としては、ホワイトボード、電源、Wi-Fiが用意されており、オプションでプロジェクターもレンタルできる。毎週火曜日、10:00~12:00、13:00~15:00、16:00~18:00という3つの時間帯で利用できる(30分までの延長可能)。



「CAMPING OFFICE SHIBUYA」。向かって左が8人用の「ラウンジシェルセット」、右が12人用の「ランドロックセット」。

「CAMPING OFFICE SHIBUYA」。向かって左が8人用の「ラウンジシェルセット」、右が12人用の「ランドロックセット」。



「キャンピングオフィス」とは何か。


キャンピング用品ブランド「スノーピーク」は、「アーバンアウトドア」というコンセプトを提唱している。自然の中で使うキャンピング用品を都市の暮らしの中に取り込むことで、都会生活者の人間性回復を図るというものである。



キャンピングオフィスは、そこから発展した"キャンプ用品で作るオフィス空間"。



「CAMPING OFFICE SHIBUYA」は、東急電鉄とスノーピークビジネスソリューションのコラボレーションで、キャンピングオフィスを渋谷の街中という屋外に展開した斬新な試みなのだ。


実際に、座敷型の「ラウンジシェルセット」に入らせていただいた。


仕事場として考えると、未経験の異空間である。低い天井、テントの幕越しに差し込む淡い光(幕を上げてメッシュにすることもできる)、渋谷の街で喧噪が聞こえてくる。靴を脱いで、クッションに腰を下ろし、キャンプ用のテーブルを囲んでいると、日常のビジネスでは使うことのない五感が目覚めるような刺激を感じた。



8人用「ラウンジシェルセット」。固めのクッションは二つ折りにすることで高くなるため、楽に腰を下ろすことができる。

8人用「ラウンジシェルセット」。固めのクッションは二つ折りにすることで高くなるため、楽に腰を下ろすことができる。



12人用「ランドロックセット」。

12人用「ランドロックセット」。



東急電鉄の水口貴尋氏(都市創造本部 渋谷戦略事業部 営業部 営業推進課主査)にお話をうかがった。水口氏は、この渋谷キャストの総支配人も務めている。



水口貴尋氏(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 渋谷戦略事業部 営業部 営業推進課主査)

水口貴尋氏(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 渋谷戦略事業部 営業部 営業推進課主査)




渋谷はクリエイティブな仕事に携わる方が多い街です。この渋谷キャストという施設も、「多様性を受け入れて創造性を誘発する空間」として、そんな人々に向けて新しい暮らし方や働き方の情報を発信しています。もともと、クリエイターのコラボレーションを支援するコワーキングスペースなどを提供していましたが、もっと新しいワークスタイルの提案はできないかと考えていた折に、多摩川で社会実験されていたキャンピングオフィス (現「CAMPING OFFICE TAMAGAWA」) を見て、これを渋谷の街中に持ってきたら新しい働き方につながるのではと考えたことが「CAMPING OFFICE SHIBUYA」をスタートするきっかけになりました。

(水口貴尋氏)




「CAMPING OFFICE TAMAGAWA」というのは、同様に東急電鉄が展開する、多摩川河川敷で金曜日の午後限定で提供されているキャンピングオフィスである。金曜の午後は、会議の後で、友人家族を呼んでアウトドアを楽しむというコンセプト「WORK OUT FRIDAY」を提案している。ただし冬場は休止中だ。




「キャンピングオフィス」自体は、実はオフィス内ではすでにいくつか導入事例があります。コミュニケーションが活性化した、アイディアが生まれやすい、といった評価を得ています。ブレインストーミングのような創造的な発想やコミュニケーションが重要になる場として使っていただけているようです。会社内の会議室では、どうしても上下関係があり、いくら自由に発想しようとしても、なかなかそこから逃れられない面があります。キャンピングオフィスは、参加者同士の関係をよりフラットにしてコミュニケーションを活発化す効果が期待できると思います。

(同)




「CAMPING OFFCE SHIBUYA」の利用者は、どんな人だろうか。




2018年8月下旬から予約をスタートしたばかりなので、どんなものかという物珍しさで利用する方がまだ多いのですが、やはり、ブレインストーミングや社員同士の関係性を向上させるミーティング目的で利用される方が多いようですね。中には、商談に使っている方もいます。想定外だったのは、人事課など、社内で働き方改革などに関連する部門の方の利用が多いことです。「キャンピングオフィス」とはどういうものかを体験に来られているようです。


利用された方には、おおむね好評をいただいています。ただ、オフィスと銘打ってはいますが、やはり屋外に貼られたテントですから、建物内の会議室と比べれば快適とは言えません。外の音も聞こえますし、天候によって環境も変わるし、荒天で使用を中止する方もいました。とはいえ、仕事というものは、無音で快適な場所なら進むかというと、そんなこともない。ある程度雑然としていたほうが集中力が高まるという面もある。「キャンピングオフィス」は必ずしも快適性を求める場所ではありません。ただ、室内のオフィスでは得られない解放感や光・風・音といった様々な感覚に訴える環境条件をうまく利用することで、創造性を刺激し新しいビジネスのアイデアが生まれる(または『「創造性や生産性の向上」』に資する』)場になると思います。私たちとしても、「CAMPING OFFICE SHIBUYA」がどのような使われ方に向いているのかを、もっと具体的に情報を発信していく必要があると考えています。

(同)




水口貴尋氏(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 渋谷戦略事業部 営業部 営業推進課主査)



「渋谷キャスト」の総支配人でもある水口氏は、1階、2階のシェアオフィス「co-lab」にも携わっており、ここ数年の間、ビジネスパーソンの「ワークプレイスの変化」を間近にウォッチしてきた。仕事は会社のオフィスでやるものという常識はすでに過去のものとなっている。


働き方改革によって、ますますワークスタイルが多様化する中、「ワークプレイス」は、ただのスペースではなく、「使うだけの価値があるか」という視点から見直されつつある、と水口氏は見ている。


「CAMPING OFFICE SHIBUYA」の場合、その価値は、「アイディアが生まれやすくなるという、他の空間では実現できない場を提供できること」である。この価値を拡大し、より柔軟に対応できるように、現在は火曜日だけの営業日も増やしていったり、テントごとの貸し出しだけではなくコワーキングスペースのような使い方もできるように検討中だという。 自分が携わる仕事を、内容ではなく、「アイディアを出す」「コミュニケーションを深める」といった目的で分解し、「CAMPING OFFICE SHIBUYA」に適したプロセスはないかを考えてみてはどうだろう。ワークスタイル改革を考えるきっかけとして、「CAMPING OFFICE SHIBUYA」は格好の場所だと感じた。



■今後も進む、「目的に応じて場所を選ぶ」ワークスタイルA


今回は、変容するワークプレイスの最先端として、二つの新形態オフィスを取材した。 どちらにも共通するのは、旧来のオフィス以外の「ワークプレイス」の選択肢を増やしていこうとする方向性だ。


現代のオフィスデザインにおいては、ABS(Activity Based Working)に代表されるように、仕事の内容に合わせてワークプレイス選んでいく働き方が受け入れられつつある。この流れがオフィスを飛び出し、コワーキングスペースやシェアオフィスも「ワークプレイス」の選択肢に加わっていけば、ワーカーの活動はよりアクティブなものになり、ワークスタイルの自由度も広がっていくに違いない。


ワークプレイスの改革は、まだ始まったばかりである。ニーズ、シーズを生かした新形態のオフィスサービスがまだまだ登場していきそうだ。





取材協力

STATION WORK

CAMPING OFFICE SHIBUYA

渋谷キャスト









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
制作日:2018年12月17日




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