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従業員を移動させない「居ながら改修」で実現した"渋谷に根を下ろす巨大な樹"~ボッシュ株式会社の新オフィスを訪問

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下山田淳氏(渋谷本社事務所長)


オフィスの全面改装は、企業にとって最大級のイベントのひとつです。


規模にもよりますが、代替オフィスをどこに置くか、業務の連続性をどう確保するかなど、波及する範囲も大きいため、管理部門には多大なマネジメントが求められます。


なかでも自社ビルの改装となれば、その影響は甚大です。予算規模は大きくなり、工期も長期化。仮オフィスも全従業員分が必要になり、引っ越しも大規模で、処理しなければならない負担は大きくなるばかり。


この自社ビルの全面改装を、「居ながら改装」を採用して、最小限の負担で乗り越えた企業があります。


1886年、ドイツで創業され、130年以上の歴史を持ち国際的に自動車部品や建設工具などを手がけるメガサプライヤー、ボッシュ・グループの日本法人、ボッシュ株式会社です。世界で生産される自動車の30%が日系自動車メーカーにより提供されており、同社にとって日本は重要な市場であり、全国各地に拠点を置いて日系自動車メーカーに部品やソリューションを提供しています。今回、自社ビルの「居ながら改装」を実施したのは、日本における司令塔、東京にある「ボッシュ渋谷本社ビル」です。



日本におけるボッシュ・グループの主な拠点

日本におけるボッシュ・グループの主な拠点



同社は、東京都渋谷区にある17階建ての自社ビル「ボッシュ渋谷本社ビル」のうち、2~16階の全面改装を行いました。工事期間中、従業員を外部の仮オフィスに引っ越しさせることは一切なし。従業員はそのまま、通常業務を行いながらの大規模改装を敢行しました。しかも単なる改装ではなく、新時代に向けたワークプレイス改革という命題を背負った重要な改装でした。


この試みは、前例の少ない「居ながら改装」による、ユニークな「ハードとソフト両面から改装」の事例として「日経ニューオフィス賞」を受賞しています。



「ボッシュ株式会社 渋谷本社

ボッシュ株式会社 渋谷本社



同社が今回の大規模改装で目指した新オフィスのコンセプトや、「居ながら改装」を選択した理由や長所・短所などについて、渋谷本社事務所長の下山田淳氏、渋谷施設管理部の森泰士氏に伺いました。



■「技術集約型社会」から「知識集約型社会」へ:ダイナミックな移行を促す職場環境「IWC」

下山田淳氏(渋谷本社事務所長)

下山田淳氏(渋谷本社事務所長)



――今回の自社ビル改装は、2010年代にボッシュ・グループが打ち出した、新時代に向けて企業のあり方を示したコンセプト「IWC(Inspiring Working Condition)」に基づいているそうですね。


下山田 「IWC」とは「創造性や感性を刺激する働く環境づくり」という意味になります。かみ砕けば、日々の業務を楽しく刺激的にして、新しい時代や社会に即した職場にしよう、ということです。


その新しい時代や社会とはどんなものか、というと、人類の歴史を遡る必要があります。


まず、社会の労働力のほとんどが人間から成り立っていて、主に食料生産に資源を投入する社会がありました。これが「労働集約型社会」です。知識を持っている人はごく少数で、その階層が人的な労働力を集中的に投入して社会を維持していました。次に来たのが「技術集約型社会」です。代表的な具体例が戦後の日本です。それまで軍事面に投じられていた技術力が、製造業に振り向けられて工業国として急成長を遂げます。


現代は、デジタル化とネットワーク化の進展で、何もかもがつながって共有される時代です。技術を握るだけでは不十分で、広範な「知識」を集約して、新しい価値を創造することが求められます。「技術集約型社会」から「知識集約型社会」への大転換が進んでいるのです。


ここでの課題は、ボッシュという会社が元々は「ものづくり」を得意とする「技術集約型」の会社であり、その強みを維持・強化しつつ「知識集約型社会」に適応し、さらに発展していくための職場環境をどうやって実現していくか、ということです。「IWC」はこのような方向性を実現するための新しいオフィスの方向性を示したものです。



「技術集約型社会」から「知識集約型社会」への変化出典:(同社資料より ※)

「技術集約型社会」から「知識集約型社会」への変化 出典:(同社資料より ※)



――企業の体質を変えなければいけない、という危機感ですね。


下山田 米軍が作った言葉に「VUCA world」というものがあります。我々が住む世界は、流動的(Volatile)で、予測不可能(Uncertain)で、複雑(Complex)かつ曖昧(Ambiguous)」なものであるという世界観、認識です。今はいくら良い状態だったとしても、未来も同じように続くとは言えない、ということを認識する必要があります。


重要なのは、デジタル化の進展と共に「技術集約型社会」から次の「知識集約型社会」に移るとき、「(既存の)組織に対する遠心力」(組織を壊そうとする力)と、「個人に対する求心力(個人がより主役になっていく力)」が働くという点です。


従来の企業では、情報は社長や経営陣が一手に握って、社員に指示を出したり、はげましたりすることで組織がうまく回っていました。デジタル化とネットワーク化が進んだ現代では、情報が広く、簡単に流通するようになったために、地位であるとか、場所や時間の優位性が無くなり、以前のような考え方では組織を維持できなくなっています。


この変化はチャンスでもありますが、大きな変化である分、選択を間違えると、会社の倒産や国が破綻を招きかねない危険をはらんでいます。


どうやって企業としての過去からの強みを保ちながら、グループ全体のマインド変革を行うトランジションをどう実現するか、というひとつの方法が、職場環境から変えていこう、という「IWC」のアプローチなのです。



――「働き方改革」と「ワークプレイス改革」の双方を包含したもの、と言うことですね。


下山田 「IWC」の考え方を氷山に例えて説明します。


デザインを変更したり、家具を入れ替えたりするオフィス改装は、海の上に浮かんでいる氷山の一角にすぎません。目に見えない部分が、オフィスを変革する最も重要なポイントである「新しい働き方・考え方」です。


「知識集約型社会」に適応し更に成長するためには、従業員が主体的にリーダーシップを発揮し、コラボレーションを進め、意思決定などの活動をスピードを持って進めていくことが重要になります。


新しい働き方や考え方と、それを実現する働く場所、その全体が「IWC」です。



氷山の一角にたとえた「IWC」の考え方(同社資料より ※)

氷山の一角にたとえた「IWC」の考え方(同社資料より ※)



――変化し続けるボッシュ・グループをアピールするショーケースにもなりますね。


下山田 ボッシュという会社は1886年に創業されて以来、主にメカニカルエンジニアリングで発展してきました。これまでは、同じ技術を持つ企業が競争相手でした。


当社は自動車部品では世界最大規模ですが、これからの自動車は極端に言えばスマホに車輪が付いているようなものです。ネットワークに繋がることが、走ることと同じように重要になっています。現代の主要な競争相手は、Googleなどのネット企業です。インターネットやAIの技術を欠かすことはできません。メカニカルエンジニアリングの技術者と、ネットやAIの技術者では、得意なことも、タイプも異なります。


我々は、より幅広い方々に、ボッシュはいい会社らしい、面白そうな会社らしい、と感じてほしい。オフィスの刷新は、ボッシュの変化を視覚面でもアピールできる格好の機会でした。



■苦労はあったがメリット大だった「居ながら移転」


2016年、IWCの具現化を目指した改装がいよいよスタートします。


渋谷本社は、地下2階、地上17階建てのビル。このうち、カフェのあるエントランスと最上階を除いた2階~16階、計15フロアの改装の対象となりました。同フロアで働く従業員数は500人以上。


築25年、1フロア面積が大きくない縦長のペンシル型ビルを、「創造性や感性を刺激する」オフィスに生まれ変わらせる、という一大プロジェクトとなりました。



渋谷本社 側面図と外観

左:同社資料より(※)/右:編集部撮影

左:同社資料より(※)/右:編集部撮影



このとき同社が採用したのは、日本でも前例の少ない「居ながら改装」でした。


同社の場合、下図のように1フロアずつ解体・改装と引っ越しを15フロア分、玉突き式で行っていきました。



「居ながら改装」のイメージ図(同社資料より ※)

「居ながら改装」のイメージ図(同社資料より ※)



――「居ながら改装」を採用した理由を教えてください。


森泰士氏(渋谷施設管理部)

森泰士氏(渋谷施設管理部)



 今回のプロジェクトに着手するうえで、検討したポイントは3つあります。まずはコスト、2つめに工期、3つめに従業員の利便性です。この3点をマトリックスで検討したところ、「居ながら改装」が浮上してきました。


試算したところ、コスト的にも「居ながら改装」のほうが安くすむことがわかってきました。人数も多いので代替オフィスの準備、往き来の引っ越しも馬鹿になりません。


従業員の負担も、フロア間の引っ越しはありますが、最小限です。例えば、営業部門やコールセンターなどお客様と直結する部署は、オフィスを移動すると負担が大きくなる部署もあるので、業務の継続という面でもマイナスはありません。


ただし、工事期間は長くなります。一気に工事はできず、少しずつやっていくわけですから。スケルトン改装のほうが、一気に進められる分、工事期間は短くて済みます。


これらの要素を検討した結果、「居ながら改修」に踏み切りました。



「居ながら改装」を選択した理由(同社資料より ※)

「居ながら改装」を選択した理由(同社資料より ※)



――工期はどのくらいですか。


 改修プロジェクト自体が本格的にスタートしたのは、2016年6月です。そこから、オフィスの基本設計に着手して、2017年の半ばにプロジェクトが承認されました。着工は2017年12月です。


フロア単位で、玉突きに解体工事・改装を行っていきました。2フロア一緒に動かした工程もあったので、一概に言えないのですが1フロアあたりの工事期間は平均4~6週間です。


工事の完了は2019年の3月ですから、16カ月かかった計算です。プロジェクトとしては3年弱。スケルトン改装とは、比較にならないスケジュール感だと思います。



――どんなところに難しさがありましたか?


 フロアを解体・改装をしている間に、次のフロアの引っ越し準備。完成したら、引っ越しして、新しいフロアの解体・改装。この流れを繰り返していくわけですが、計算通りにいかないところも多々あり、スケジュール管理には苦労しました。


解体工事ができるのが休日だけ、というのも大きな制約でした。騒音と振動が発生するので、社員が出勤していない土日に行わなくてはなりません。


業者さんにも「居ながら改装」の経験はなかったですし、もちろん自分たちにもノウハウはありません。いざ解体を始めると想定していなかった問題が出てきて、さてどうしよう、ということも多々ありました。


日程的な選択肢が限られるなかで、協力会社のご尽力もあって、1日の遅延なく工程を進めることができました。



――よかった点は?


 オフィスと工事現場が同じビルの中にあるので、問題が起こっても遅滞なく対応できたところです。


工事を進めていると、ただでさえイレギュラーな問題や不具合がいろいろと発生するものですが、今回は20数年ぶりの改装だったこともあって、残っている図面通りでないところが多々ありました。記録にはないけれど改装されていたとか、床板を挙げたら謎の配線がたくさん出てきたとか。現場だけでは対応できない問題がたくさん出てきました。


「居ながら改装」の場合は、施工会社さんも私も同じビル内にいるわけですから、問題が発生したらすぐ駆けつけてその場で判断して対応できました。これは、工事遅延を抑えるうえで大きな力になりました。



――そのノウハウを今後の改装に活かせますね。


 初期に改装したフロアのフィードバックを、後半の工事に活かせたのも「居ながら改装」のメリットのひとつです。


工事は2階から始めたのですが、最初のフロアということもあり、問題が次々に出てきました。そこでの経験を次のフロアの工事に活かせるうえに、完成したフロアには従業員が入るので、使い勝手についての声も取り込めるわけです。フロアの完成度がどんどん上がっていきました。


スケルトン改装の場合は、完成後従業員が一斉に戻ってきます。全部署から、あそこが使いにくい、ここが違うとなって、改修するとなるとただでは済みません。


今回は「IWCを実現するオフィス」という重要な目標があったので、スケルトン改装を選択していたとしたら、修正に大きな時間とコストがかかっていたと思います。


今回のプロジェクトは、スケジュールも予定通りで進めることができましたし、予算の足も出ていませんので、成功したと考えております。



――新オフィスの運用ルールも実地に検証できる、ということですね。


 当社の場合、最初に完成した2階で働く従業員は、工事完了のときすでに1年以上利用しているわけです。いざ新オフィスを使い始めると、以前のルールではうまく対応できないことがいくつも見つかりますから、実際に使いながら修正していけたのは大きいメリットでした。



■エレベーターと階段を結ぶ動線を軸にレイアウト


――新オフィスのフロアデザインについて教えてください


 このビルは、フロアプレートが狭い縦長のビルで、築25年ということもあって暗くて閉鎖的な環境でした。典型的な島型レイアウトのオフィスです。


これを、明るくオープンなスペースに変えることすることは当然ですが、特に重視したのは「垂直方向のコミュニケーションの促進」でした。上下の移動を積極的に行ってもらえるオフィスの実現です。


フロア単位ではなく、ビル全体を自分のワークスペースと捉えられるようなデザインを目指しました。


そこで採用したのが、エレベーターホールと階段を最短でつなぐレイアウトです。エレベーターホールと階段を繋いだ対角線方向の動線をメインコリドーとして、周辺にデスクや会議室を配する「エッジデザイン」を採用しました。


有効面積やスペース効率を、「グリッドデザイン」や「アングルデザイン」とも比較しましたが、ほとんど同じ、という結果が得られました。



同社資料より(※)

同社資料より(※)



下山田 長方形の箱を並べる従来型のデザインの方が効率的だという思い込みがあるのですが、検証してみるとそんなことはないんですよ。図面を見た人から「効率いいの?」とかよく聴かれるのですが、実際に使ってみると、問題はありません。視線を動かしたとき、動線を行き来したとき、今までと違う変化がある。よくできています。今までと同じ仕事でも、新しい取り組み方に当たり前のように取り組めるような、ビジュアル的な方向付けになっています。



――メインコリドーを軸にレイアウトされているわけですね。


 エレベーターホールからオフィスに入ってすぐのところに置かれているのは、パソコンや書類をしまう各個人用のロッカーです。ロッカーはフロアや場所は決められていますが、個人の固定デスクはありません。動線の片側にデスクが並んでいますが、フリーデスク制です。どのフロアーでも仕事をすることができます。


図を見ていただくとわかると思いますが、書類用キャビネットはほとんど置かれていません。改装に合わせて、ペーパーレスを促進しました。


新オフィスでは、デスク上に書類や私物が放置されることもなくなり、整理整頓された環境を維持できるようになりました。


デスクは全部昇降式です。当社は外資系のため従業員も多様なので、日本式デスクの高さでは狭い場合も多いのです。個人に合わせた高さに調整できますし、定期的に立って作業することは健康面でも有効です。立って仕事をするのが好きな人もいるくらいです。



デスクはすべて昇降式。(提供:ボッシュ株式会社 ※)

デスクはすべて昇降式。(提供:ボッシュ株式会社 ※)



――メインコリドーの上下に個室がありますね。


 上側にあるのが会議室です。限られたスペースに、できるだけ多くの部屋を設けることができるようにレイアウトを行いました。変形型なので一見使いにくそうですが、実際に使ってみるとまったく問題ありません。どの部屋も窓に面しているので開放感もあります。


下側には、少人数でのミーティングやワークに使えるような部屋を配置しました。少しコンフィデンシャルな話や、フォーカスしたいときに使えるようになっています。


お客様との商談から通常の業務まで、1フロア内で自分の仕事の内容に応じて、働く場所を選択できるような作りを心がけました。


スペースの予約は、当社で開発した専用のチェックインツールを使って簡単に行うことができます。会議が延期になったのに解約し忘れて、誰も使われていない会議室が出ることがあります。そのため、予約時間から15分経過しても使われていないようなら、自動的に解約される仕組みを取り入れました。


十分な数の会議室が用意されていますので、予約調整などの無駄な工程は削減できたと思います。


また、個室の通路側の間仕切りは、透明なガラスです。遠くからでも使われているかどうかが一目でわかります。透明にしたことで、オフィスも明るくなり開放感が増しました。実際に、以前よりも照明の照度を30%下げています。消費電力の削減に直結しています。



――このレイアウトは全フロア共通ですか?


 改装を行った15階中、4~9階、13~16階の10階分が、原則的に同じレイアウトになっています。どのフロアに行っても、インターフェースは同じだから、どのフロアでも迷わずに対応できます。


今日は、このフロアが一杯だから、下のフロアを使おう、というように柔軟に使いこなせるようになっています。


誰がどこにいるかは専用のアプリを使って確認できるので、チームメンバーがどこにいても、すぐコミュニケーションを取ることができます。


レイアウトは共通ですが、各フロアでデザインコンセプトは変化させています。フロアごとにテーマがあり、壁紙や会議室の間仕切りのガラスなどに表現しています。



会議室(提供:ボッシュ株式会社 ※)

会議室(提供:ボッシュ株式会社 ※)



フロアのメインコリドーと会議室(提供:ボッシュ株式会社 ※)

フロアのメインコリドーと会議室(提供:ボッシュ株式会社 ※)



■デザインコンセプトは「渋谷に根を下ろす巨大な樹」


――「各フロアごとのテーマ」とは、どのようなものですか?


 このビル全体を「樹」に見立てました。渋谷は、東京のなかでも最先端の文化を持つ町です。そんな個性のある街にそびえ立つ1本の巨大な樹です。


このグラフィックコンセプトを「IoTree」と呼んでいます。「IoT」と「Tree」からの造語です。


下層階を「根(Root)」、そこから上が「幹(STEM)」、「枝(Branch)」、「葉(Leaf)」、途中にコミュニケーションエリアになる「巣(Nest)」、最上階付近は「冠林(Canopy)」と見なして、各フロアにテーマを持たせ、デザインもそれに合わせています。オフィスのレイアフトどのフロアも同じですが、デザインを見れば、自分がどの階層にいるのか把握することができます。


グラフィックデザインコンセプト(同社資料より ※)

グラフィックデザインコンセプト(同社資料より ※)



下山田 今回、改装を行わなかった1Fのエントランスには、カフェ『café 1886 at Bosch』があります。ちなみに「1886」はボッシュの創業年です。渋谷という地域との交流を促進する外部に開かれた空間としてオープンしました。今回の改装プロジェクトには、渋谷ゆかりのデザイナーの方々に多く参加していただいており、このビルはまさに渋谷に根を下ろした建物になっていると考えています。



――コミュニケーションスペースについて教えてください。


 従来も吹き抜けがあった10~12Fを使ってコミュニケーション用のスペース「The NEST」を設けました。「IoTree」の「巣(Nest)」に当たる場所です。


ボッシュグループには、1人当たり、どのくらいコミュニケーションエリアが必要かという指標があります。ただし、このビルは1フロアが狭いので無理にコミュニケーションエリアを取ろうとすると中途半端になってしまいます。各フロアに設置しない分の面積を寄せ集めて、ワンフロアを全部、コミュニケーションエリアにしてしまおう、という発想です。吹き抜けを使って天井が高く、明るく開放的なスペースになっています。


コミュニケーションを取る場として設けていますが、仕事をしてもいい、勉強してもいい、休憩してもいい場所です。



Conversation floor「The NEST」(提供:ボッシュ株式会社 ※)


Conversation floor「The NEST」(提供:ボッシュ株式会社 ※)

Conversation floor「The NEST」(提供:ボッシュ株式会社 ※)



■「居ながら改装」が深化させた「IWC」の浸透と理解


――働いている方々の評判はどうですか?


下山田 改装前後に行った「IWCのコンセプトへの共感」と「新オフィスへの共感」についてのアンケートでは、90%以上が好意的な回答でした。


1年半近く改装を行っているので、従業員はオフィスのデザインや使い方が変化していくことを見ていますし、実際に体験してもいます。徐々に、「IWC」のコンセプトへの理解や共感が深まっていったところもあると思います。


 明るくオープンなオフィスになりました。以前は典型的な島型のレイアウトで、家具もぎっしりでしたから。今は、気持ちよく業務を行えていると思います。目的に合わせて作業しやすい環境を選ぶ、というIWCの考えかたも浸透しました。


また、新オフィスは他事業所の人たちからも好評です。本社に出張で来たときなど、どうしても間借りしているというか、居所がない、という印象がありました。新オフィスは、固定席のないフリーなワークスペースですから、他事業部の人間でも自由に使えます。仕事もしやすいし、コミュニケーションも取りやすい、という声を聴いています。オープンなオフィスの成果のひとつです。



同社資料より(※)

同社資料より(※)



下山田 「IWC」への理解と共感が深まったこと自体はありがたいことですが、私たちとしてはスタートラインだと思っています。目標はあくまでも、アソシエートの皆さんのマインドや行動を「知識集約型社会」に適応し更に活躍できるようにシフトしていくことですから。


このオフィスを活用して、次のステージに進めていくためには、さらに何かを仕掛けていかなくてはならないと思っていますし、実際にいろいろと検討を進めています。


現在、2023年の完成を目指して、横浜で研究開発拠点の建設を進めています。そこには、渋谷本社の改装で学んだ知見を将来のオフィスづくりでも生かしていければと考えています。



2階は同社の歴史がモチーフとなっている「根(Root)」のフロア。会議室の壁に書かれているのは、同社の創業者ロバート・ボッシュの肖像画とメッセージ「人間らしくあれ、そして人間の尊厳に敬意を」。(提供:ボッシュ株式会社 ※)


2階は同社の歴史がモチーフとなっている「根(Root)」のフロア。会議室の壁に書かれているのは、同社の創業者ロバート・ボッシュの肖像画とメッセージ「人間らしくあれ、そして人間の尊厳に敬意を」。(提供:ボッシュ株式会社 ※)





従業員が引っ越しすることなく、通常の業務を行いながら解体・改装を行う「居ながら改装」は、「魅惑のオフィス訪問」シリーズでも紹介したユナイテッド株式会社の増床プロジェクトなどの例もありますが、今回紹介したボッシュ株式会社の事例は、前例も少なく、経験者もいないなか、予算や従業員への負担等を勘案して、あえて大規模な「居ながら改装」に踏み切ったものです。


その背景にあったのは、築20年以上の1フロアが狭く縦長のビルに、グループ全体の次世代を担うコンセプト「IWC」を体現したオフィスを作り上げるという大きな目的。


今回の事例では、手段と目標が相互に良い影響を与えあって、新オフィスの質を高めると同時にコンセプトの共感と理解を深めるという大きな成果を上げることができました。


一般的なスケルトン移転の場合なら、完成を待つ時間となる工事期間を、オフィスプランの見直しや従業員の啓蒙や運用方法の調整期間として有効活用できた、という点は大きいでしょう。


コンセプトの変更をともなうオフィス改装を行う際、たいへん参考になる事例と言えるのではないでしょうか。





取材協力

ボッシュ株式会社[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2020年8月28日

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