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テレワーク導入でコロナ禍と戦う中小企業

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テレワーク導入でコロナ禍と戦う中小企業



2020年1月16日に最初の国内感染者が確認されて以来、1年以上も世界を席巻し続けている新型コロナウィルス。おびただしい感染者、犠牲者を出し、本記事執筆中の2021年5月現在ではより感染力の強い変異ウィルスの蔓延も懸念されており、なかなか出口が見えません。


地域の雇用や経済を維持する上で重要な役割を果たしている中小企業では、この荒波の中、どのように働き方を変化させ、どのような取り組みを行っているでしょうか。


今回はコロナ禍と戦う中小企業の取り組みについて取材しました。



■働き方の変化がついに中小企業にも


新型コロナ禍によってあらゆるビジネスが影響を受けました。中でも宿泊業の3社に1社、飲食サービス業の2社に1社が売上を5割以上減らす事態に陥り、その他の業種も含め、全体で4割の企業が従業員を一時的に休業させ、正社員の倍もの非正規雇用の従業員が削減されたり賃金カットに追い込まれたりして、社会の変化が個々人の生活にまで影響を及ぼしました。


一方、働き方改革によって、人々の働き方はコロナ以前から変革が進んでいるところでした。長く続いた年功序列・終身雇用の見直し、生き方の多様化、ワークプレイスの多様化によって生産性を上げる試みがさまざまになされました。ただし、多くの中小企業にとっては、それは「いつかそのうち起こる変化」に過ぎず、社会全体としては、数年かけて徐々に普及・浸透していくもの、何よりも大企業や外資企業中心のものだったと言えます。


たとえば、働き方改革の中でも重要な施策である「テレワークの実施」。当サイト「みんなの仕事場」の次の記事は、2020年の緊急事態宣言が発出される直前に掲載したものです。この時点ではなかなか重い腰を上げていない中小企業のために成功事例を紹介しました。


働き方改革元年、中小企業でテレワーク導入が進まない理由を克服するために」(2020/2/20)


記事の冒頭で参照している「テレワーク人口実態調査」(国土交通省)は2019年3月に出されたものですが、その時点ではテレワーク制度のある会社は従業員1000名以上では25.1%、それに対して100名以下の会社ではその半分の11%にとどまっています。


しかし、新型コロナの影響による社会の急激な変化を受けて、中小企業も否応なしに変わることになりました。最近の調査結果を見ると、大企業、中小企業とも、テレワークの導入割合はコロナ前の倍以上になっており、必要ないからとエクスキューズしている間に、導入に舵を切った会社が先行している様子がわかります。



「第10回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査」(東京商工リサーチ、2020/11/25)のデータをもとに独自作成。資本金1億円以上を大企業、1億円未満を中小企業とした。

「第10回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査」(東京商工リサーチ、2020/11/25)のデータをもとに独自作成。資本金1億円以上を大企業、1億円未満を中小企業とした。


上記で注意すべきなのは、テレワークに移行したにもかかわらず、それをやめてしまった会社が全体の1/4もあるということです。急速に導入が進んだために、労働時間の増加や勤怠管理の困難、意思疎通の困難といったハードルを越えるのに苦心する様子がうかがえます。


そこで、テレワークをはじめとするコロナ対策がどのように行われているか、実際のお話を2社に伺うことにしました。



■コロナ禍で進める中小企業ならではの働き方改革

有限会社エキストラ 代表取締役 角本拓也氏

有限会社エキストラ 代表取締役 角本拓也氏



新型コロナに対する最終的な対抗手段と期待されているのがワクチンです。


国民のワクチン接種を控え、河野規制改革担当大臣は、「ワクチン接種のための休暇」や「副反応が出たときの休暇」を現役世代が取得できるよう、経済界に働きかけていく考えを示しています(2021年3月14日)。


ワクチン接種の先進国アメリカでは、大企業を中心に、接種日及び接種後に体調の変化があった場合の有給休暇付与を行っており、社会全体でワクチン接種を推進しようというマインドが見られます


インターネットの広告代理店事業を営む中小企業、有限会社エキストラでは、この呼びかけに応える形でいちはやく「ワクチン休暇」を導入し、スタートアップ企業でありながらも注目を集めました。「他社にはないオリジナルの働き方改革をすることがいい人材とともに働くことができるチャンスにつながる」と語る角本拓也社長に、コロナ禍での働き方改革や事業の動向について伺いました。



――いちはやく「ワクチン休暇」を導入しましたね。


角本 ワクチン接種のための休暇取得を河野大臣が経済界に勧めるという報道を見て、社内から「ワクチン休暇」を導入して、社員が安心して働けるようにしようという提案があがり、正式に会社として決めました。


ワクチン接種のための特別有給休暇を付与するのと同時に、接種会場までの交通費も支給しますので、安心してワクチン接種を受けてもらえます。いち早く導入することで社員にも会社にもメリットが大きく、ほかの企業へのアピールにつながります。他社が同様の制度を整備することにつながればいいと思っています。当社社員は年齢層が若いので、今のところ実際にワクチン接種を受けたケースはありませんが、社外からも大きな反響をいただきました。



――エキストラはコロナ禍でフルリモートに転換したのですか。


角本 フルリモートになって、より働きやすくなりました。時間で管理するのではなく、一人ひとりをプロフェッショナルとして、家にいながらどれだけの成果を出せるかと管理できるようになったからです。アウトプットがそのまま評価につながりますので、仕事のクオリティも高まりました。


もちろん、何をやっていいか分からない場面や、誰かがサポートしなければ仕事が進まない業務もあります。出社していれば上司や先輩が気づいてフォローもできますが、オンラインでのミーティングはやや時間がかかり、スピード感が落ちている面があります。


社員の悩みに気づかず、解決しないまま業務を進めてしまい、認識がすれ違っていくといったデメリットも感じますね。


また、新人・新卒育成はフルリモートと相性が悪く、人事制度、評価全般では苦戦しています。それがうまくいく人事の仕組みを作れれば、ビジネスチャンスになるのではないでしょうか。



――会議もすべてリモートですね。


角本 リモート会議は2016年頃から実施していたので、あまり抵抗はありませんでした。ただ、商談や社内の報告などでは問題なくても、リアル会議のように、ホワイトボードに書き込んだり、活発なディスカッションや提案はリモートではなかなか難しいですね。もう少し活発化できる機能が欲しいところです。例えば共有画面を大きくすると相手の顔が小さくなってしまったり、なんらか工夫が必要です。


名刺交換の文化がなくなって、先方の部署や役職が分からなくなったことも不便ですが、今後は、一度も名刺交換をせずに、リモートの打ち合わせだけご発注いただくケースも増えてくるでしょうね。



――コミュニケーション不足はどう解消していますか。


角本 コロナ前のように月末に社員で飲みに行ったりする機会がなくなったので、1人あたり5000円でフグの刺身などを自宅に届け、みんなで食べながらオンライン飲み会を開きました。みんなでおしゃべりして意思疎通が図れる社内制度もつくりました。


あとは、みんな自宅に籠って動かなくなったこともあり、営業マンは一日平均5000歩、事務系社員は3000歩歩くと、3000円付与する福利厚生制度も設けています。


コロナ禍で積極的に人と会うことがなくなり、目線が固定化して思考がクローズド化します。そこで、あえて社員全体でビジネスマッチングアプリに登録し、異業種の人と会って成果を会社で共有しています。



――ユニークな制度を次々展開できる、中小企業ならではの身軽さを感じます。


角本 ただ事業をやっているだけでは面白くありません。良い人材と一緒に仕事をするためには、同じアプローチをしているだけではダメです。人が驚くような新規事業を展開するだけでなく、他社にはない、"エキストラ"というオリジナル色のある制度をどんどんつくり、社員が楽しく働けることが他社にはないオンリーワンにつながると考えています。



■加速する時代に乗り遅れるという危機感

新規事業立ち上げのミーティングの様子

新規事業立ち上げのミーティングの様子



――エキストラの事業を詳しく紹介してください。


角本 当社はインターネット広告の代理店です。紙媒体とインターネット広告の違いは、効果が目に見えるということで、従来の新聞広告などは何人が目を通したかは分かっても、その商品を購入したかどうかは確認できません。インターネット広告は商品の購入に至る動線を確認できます。途中で離脱する記事が多いなら記事の内容を改善したりできます。 当社のクライアントは銀行系、生保、カード会社や健康食品関係などで、「巣ごもり需要」も増えています。



――コロナ感染拡大に対する危機感はありますか。


コロナが収束しないと仕事がなくなってしまうというような危機意識は特にありません。むしろ時代が加速していて、乗り遅れてしまうという危機感があります。これからオンライン会議が当たり前になり、さまざまなオンラインサービスも生まれるでしょう。そのスピード感、チャンスを逃して、「まだそんなことをしているのですか」と言われたくないですね。



――あまり打撃は受けていない?


これまで人材マッチングサービス事業を行ってきたのですが、コロナ下で人材を減らす動きが大きいため、2021年3月に売却して清算しました。


しかし全体的には驚異的な右肩上がりで、「巣ごもり」需要によって広告事業が15倍以上伸びています。


ポストコロナは、一人ひとりのライフスタイルを応援するような事業をやっていきたいと考えています。一方ではカフェやインテリアショップのような衣食住の提案を行い、他方ではBtoB広告業務を展開するという戦略を考えています。



エキストラのメンバー

エキストラのメンバー



■逆境をチャンスに変える新サービスを生み出して拡販


パッケージインテグレータ、株式会社アシストは、資本金6000万円、従業員数1210名(2021年4月現在)の中堅企業で、メーカーからデータベース、情報活用ソフトウェアなどを仕入れてクライアントにフィッテングしています。オラクルとは日本市場に本格参入以来の提携関係にあり、30年以上もデータベースの販売・サポートを続けています。


IT会社としてテレワークや動画活用などでは一日の長があり、新型コロナの感染拡大の中、様々な新たなサービスをスタートさせ、企業の課題解決を支援しています。


林昌洋氏(同社執行役員 経営企画本部長)、長田誠氏(同本部 広報・人事部長)、伊藤有紘氏(同本部 経営管理部総務法務課長)、君塚好恵氏(同本部 広報・人事部人事管理課長)に伺いました。



株式会社アシスト 執行役員経営企画本部長 林昌洋氏

株式会社アシスト 執行役員経営企画本部長 林昌洋氏



――アシストはIT企業らしくないと言われるそうですが。


 月曜が待ち遠しい、サザエさん症候群と無縁の会社にしたいという思いから、「超サポ愉快カンパニー」と名づけた施策を展開しています。社員にとって月曜が楽しく、お客さんにとってもアシストの営業マンと会える月曜日を楽しみにしていただけるような取り組みです。



――2020年の緊急事態宣言の折には、代表が社員にメッセージを送ったそうですね。


 気持ち的に暗くなるニュースが続いたので、こういうときこそ成長するチャンスととらえた「コロ難90日プロジェクト」を開始しました。


当社が販売している動画管理クラウドサービス「Panopto」を活用して、社員がコロナ禍で行っていることや様々な勉強会の内容、自己紹介などを動画で記録してもらいました。この取り組みで社内の動画文化が発展し、全国の社員がいつでもどこからでも「今会社で何が行われているか」を知ることが簡単にできるようになり、社内の気持ちも高揚していきました。



現在でも継続して行われている「コロ難90日プロジェクト」(※)

現在でも継続して行われている「コロ難90日プロジェクト」(※)



――テレワークはコロナ前から導入していたのですか。


長田 2018年には東京都のテレワーク実証実験にも参加したのですが、なかなか全社的な導入には至っていませんでした。2020年3月に緊急事態宣言が発令された際、「フルテレワークにしたら業務が回らないのでは」という声もあったのですが、やらざるを得なくなり、初めて全面テレワークに移行しました。入社したばかりの新人研修もオンラインに切り替え、回らない業務以外はすべてテレワークになりました。その後、感染拡大が長期化する中、今はほぼテレワークで、リモートでもリアルでも業務が回るよう工夫しています。



長田誠氏(経営企画本部 広報・人事部部長)

長田誠氏(経営企画本部 広報・人事部部長)



――オンラインで社員の士気が下がったりはしていませんか。


君塚 たしかにコミュニケーションの場や数が減少したために士気が下がる傾向があり、心のケアの必要性を感じたので、いつでも社内の保健師とオンライン面談ができるような体制を整えました。テレワークが2年、3年と長期化していくと、心の落ち込みも出て来る懸念があります。



君塚好恵氏(経営企画本部 広報・人事部人事管理課課長)

君塚好恵氏(経営企画本部 広報・人事部人事管理課課長)



 上長と部下が一対一でミーティングする制度もあり、仕事上の相談だけでなく、フランクに「体調どう?」といった話ができます。部下との関係性をつくっていく上でとても効果を実感しています。



――研修をリモートで行うのは難しいと言われています。


長田 2020年の新人研修はフルオンラインで対応しましたが、2021年はグループワークもあるので基本は対面にしています。何か問題があればすぐオンライン研修に切り替えることもできますが、理想的には、できるかぎりの予防措置を行った上で対面の集合研修ができることですね。


社内で新しいチームを構築したり、顧客を開拓したりするときには、やはり対面することが重要です。新しい人間関係をつくっていくことはオンラインでは難しいと感じています。


さらに難しいのは採用業務で、二次面接まではオンラインですが、就活生にとっては社会人生活のスタート、当社にとっても「仲間」となる人を決める大切な場でもあるので最終面接は感染予防を十分に行った上で対面で行っています。実際に、学生さんからも対面での面接希望が多いですね。



■オンライン商談で技術者のロスタイムを削減

伊藤有紘氏(経営企画本部 経営管理部総務法務課課長)

伊藤有紘氏(経営企画本部 経営管理部総務法務課課長)



――お客様への対応などは?


長田 緊急事態宣言により当初はリアルでの訪問が難しい状況にありましたが、当社だけでなくお客様も同じ状況下にあったため、ZOOMなどのツールでオンラインで対応いただくことができるようになりました。


 当社は「リモートアポイントの時代が来る」と社長がいち早く予見していたんです。特に東北や西日本で顕著に効果があらわれ、お客様へのサービスレベルを落とすことなく継続できました。



――社長の号令があったからこそ、インフラも迅速に整えられたのですね。


伊藤 来客スペースにはアクリルパーテーションを置き、執務室では簡易のビニール製のパーテーションを活用するなど感染防止のために様々な施策を行いました。また商談や社内コミュニケーションを円滑にするために、社員全員にオンライン用のヘッドセットを配布し、営業マンにはJabraというスピーカーフォンも配布しました。従来は営業と技術担当者が同行するスタイルで商談を進めてきたのですが、今は、営業がお客様を訪問して、技術担当者はリモートでスピーカーフォンから説明しています。技術者の移動時間ロスがなくなり、技術者の同席数を増やすこともできるようになりました。



――集客もオンラインでしているとか。


 従来は製品のプロモーションの一環として、日々行っていた様々な製品紹介セミナーや全国4カ所で3,000名規模を集客する事例の祭典「アシストフォーラム」をリアルで開催していたのですが、会議室を潰して、オンラインセミナー用のスペースを設け、オンライン上で同規模の集客を実現できました。会場を押さえる必要もなくなってコスト削減できたことに加え、全国のお客様が自由にエントリーできるようになりました。



――ほかにコロナ禍によって変わったことはありますか。


 従来、製品への問い合わせなどを担当するサポートセンターは24時間誰かが出社していなければならなかったのですが、クラウドで電話転送できるようにして自宅でサポート業務を行えるようにしました。これは大きなイノベーションです。


また、おかげさまで動画管理クラウドサービス「Panopto」の引き合いが強く、コロナ禍でコミュニケーションが不足しているお客様からの反響が大きいですね。コロナ禍で苦労しているビジネスマンのニーズを汲み取ったソリューションを販売していきたいと思います。


コロナ禍の犠牲には我々も胸を痛めていますが、この逆境をチャンスとして活かすことが重要だということを学びました。



林昌洋氏(同社執行役員 経営企画本部長)、長田誠氏(同本部 広報・人事部長)、伊藤有紘氏(同本部 経営管理部総務法務課長)、君塚好恵氏(同本部 広報・人事部人事管理課長)



エキストラの角本社長が言うように、テレワークへの移行は、従来の「労働時間単位の管理」から「成果管理・評価」への人事制度改革に直結するものです。またアシストの皆さんも指摘したように、人事の領域では、非対面では困難な研修などが課題になるでしょう。


テレワークの導入は働き方の多様性につながる施策です。育児離職した人が活躍できるようになったり、介護と両立しながら業務を続けられる方も増えたり、多様な人材が活躍できることが企業にメリットをもたらしていくと考えられます。うまく活用できれば、本当の意味での生産性向上が期待できるでしょう。


さらに、働き方の変化にともない、中小企業ならではの小回りの良さ、自由な発想などを活かした独自開発の新規製品や技術、足元の感染対策を見すえたユニークな商品なども数多く登場しています。政府もさまざまな補助金などの支援によって、感染対策のための非対面かビジネスや、キャッシュフローが不足するスタートアップ、財務状況の悪化から再建に挑む企業を後押しています。


世の中の企業の99.7%を占める中小企業による、「ピンチをチャンスに変える」たくましい取り組みが、今日も果敢に行われているのです。






取材協力

有限会社エキストラ[外部リンク]

株式会社アシスト[外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2021年4月22日・28日

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