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コクヨのリノベーションした品川オフィス「THE CAMPUS」の多様な働き方の鍵を握る、ファシリティマネ-ジャーの新しい役割

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コクヨの品川オフィス「THE CAMPUS」COMMONS(※)

コクヨの品川オフィス「THE CAMPUS」COMMONS(※)


新型コロナの終息がいまだ見通せない中、リモートワークの定着によってオフィスを縮小したりなくしたりする企業もある一方、あえて人が集まる場としてオフィスの意味を問い直す企業も増えています。オフィス家具、事務用品メーカーのコクヨでは、自社社員が実際に働くオフィスの実験場「ライブオフィス」を全国展開しています。その中でも最大規模の「THE CAMPUS」(品川)を案内していただきながら、オフィスの変化をどう捉えるべきか聞いてみました。(対応くださったのは、コーポレートコミュニケーション室の清水千穂さん、片桐友美さん)



■センターオフィスはなくならない



―― コロナ禍を経て、オフィスのニーズがどのように変化したと捉えていますか?


清水 もともと、近い将来に働く場所が分散化し、技術発展によりリモートワークが進展し、個人の価値観の多様化にともなって働くことの価値観も多様化するだろうということを予想していたのですが、それがコロナ禍によって前倒しされたと思っています。コロナが終息したとしても、こうした流れは一層定着するだろうと考えています。



清水千穂さん(コーポレートコミュニケーション室)

清水千穂さん(コーポレートコミュニケーション室)



そこで私たちがビジネスチャンスを見出しているのは、ハイブリッドワークプレイスの領域です。会社としては、働く場が分散したために運用しなければならないオフィスも小粒に分散化していきますので、そこでどんな価値提供ができるかということになります。


また、そうした場で生まれる新しい働き方の中で、いかに個人やチームを成長させるか、働く人たちの心と体の健康を守るか、自分らしく生き生きと働いてやりがいを見出せるかというところまで踏み込んで、人材を引き付ける働き方においてもコクヨが提供できることがあると考えています。


リモートワーク、ハイブリットワークへの対応ということでは、オフィスの縮小や削減、大企業では分散化したオフィスからリモートワークを前提にセンターオフィス1か所に集約する動きもありますが、住まいに近い場所でサテライトオフィスを提供することも考えると、トータルでは床面積が減少することはないと見ています。



―― サテライトオフィスがあり、コワーキングスペースがあり、最近ではワーケーションで地方で働くという選択肢もあり、オフィスの必要性が問われているということはありませんか。


清水 首都圏の新築オフィスビルの供給については、たしかに東京オリンピックを境にひと段落するという見通しが立てられているものの、働き方の変化に伴うオフィスのリニューアル需要は拡大するという調査があります。実際コロナ下にあってもファニチャー事業はかなり好調で、それを支えた大きな要因はリニューアル需要でした。これが今後も継続すると見ています。



―― どのような目的でリニューアルを行う企業が多いのでしょうか。


片桐 オフィスに求められる要素が変わったとみています。例えば、個人が家でもワークできるため、オフィスという場はチームビルディングやチームワーキングなど、対面でないとできないことに特化したいという課題や、かつてのように机が並んでいるオフィスレイアウトから、可変性があってミーティングしやすい、共用スペースを増やしたオフィスレイアウトに変えたいという要望などがあります。経営課題は企業ごとに異なり、どれが圧倒的に増えているかということは言えませんが、全体的にはオフィスに求められる要素が変わってきているという印象があります。



―― 働き方が変わり、従来のオフィスは在宅で働く人たちとも協働していく場としては使い勝手が悪いというわけでしょうか。たとえばリモート用の会議室のような新しいニーズがあると。


片桐 そうですね。当社も新製品を出していますが、Webミーティングに対応しやすく、人数に合わせてコーディネートしやすい吸音型の商品などのニーズも増えています。



片桐友美さん(広報室)

片桐友美さん(広報室)



清水 2021年に新発売した「X-STADIUM」という椅子を引き出せるスタジアム形式の大型家具があり、大人数で集まって会議する場にしたり、少人数でワークする場にしたり、ワークシーンに合わせて家具を変形させることでセンターオフィスをより効率よく活用することができます。一方で、固定席ではない集中できる個人席として、電話ボックスのような「ワークポッド」も大変好調です。その両方の需要があります。



2021年に新発売した「X-STADIUM」



集まる空間を作れる大型家具、集中スペースとしての個人席(※)

集まる空間を作れる大型家具、集中スペースとしての個人席(※)



―― スタジアム型のスペースを採用している企業は多いと思いますが、出社率が変動する中では広さが可変であるという特長が活きてくるわけですね。



■コロナ禍によりコミュニケーションが最大の経営課題に

清水千穂さん(コーポレートコミュニケーション室)



清水 従来は、家具の販売、内装設計、工事などのファニチャー事業、そしてカウネットなどの各法人様に必要な備品をお届けするビジネスサプライ流通事業がコクヨのビジネスでした。今後はハイブリッドワークという市場に対してできることがあるのではないかと考えています。社内では「領域拡張」と呼んでいるのですが......



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―― 領域拡張?


清水 従来事業の延長線を超えて、オフィス運用と人材価値という領域にチャレンジしていくということです。分散化したワークプレイスにおける課題ソリューション、そこで働く人たちの価値を高めるためのサービスや商品です。



―― たしかに、オフィスが分散化すると、企業側のオフィス運用はかなり煩雑になりますね。そういった運用のニーズが高まると予測しているわけですね。


片桐 コロナ禍で在宅勤務が進むことで、コミュニケーションが一番大きな経営課題になっています。各企業はこの1、2年で完全リモートでは、若手の成長実感が感じにくかったりと、企業の生産性が落ちることを実感しています。週4日を出社日と決める会社もあり、事業を回していく上では出社して集まったほうがいい業務もあるとわかってきました。


しかしコロナの終息は依然見通せず、社員の側も、リモートに慣れてしまうと出勤のストレスがなく、生活のクオリティが上がるという認識をもっています。そこで、オフィスに行ったほうが効率的だ、楽しいと思わせようということが経営の課題になりました。当社はそれを実現するために、「THE CAMPUS」をはじめ全国のライブオフィスで、コミュニケーションが生まれるオフィスづくりの実験をしています。



■働き方=ワークスペースの実験場「THE CAMPUS」



ここからは実際に品川のライブオフィス「THECAMPUS」を案内していただきながら、伺っていきます。



片桐 ライブオフィスは、1969年に開始した取り組みで、コクヨの社員が働いている様子を実際にお客様に見ていただける場になっています。全国に30拠点あり、品川が一番大きいライブオフィスです。パブリックエリアと呼んでいる低層階は一般のお客様でもご利用いただけますが、実際に社員が働いている4~8階のライブオフィスはコクヨ社員のアテンドが必要です。



品川のライブオフィス「THE CAMPUS」はライブオフィスの中でも最大規模。通常のショールーム、オープンラボも併設し、5フロアにわたってさまざまなオフィスを見ることができる。(※)

品川のライブオフィス「THE CAMPUS」はライブオフィスの中でも最大規模。通常のショールーム、オープンラボも併設し、5フロアにわたってさまざまなオフィスを見ることができる。(※)



まず8階は「集う」フロアというテーマになっています。



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文字通り、集まってディスカッションやコミュニケーションしながら働くための空間です。仕切りをカーテンにすることで人数や用途に応じたスペースを確保することができます。



各フロアでは利用状況をモニターできるようになっている

各フロアでは利用状況をモニターできるようになっている



7階は「試す」フロア。



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専門的な業務やプロトタイピング、検討・検証といった作業が想定されています。素材などを広げられる場所があったり、専門書が充実した長いブックシェルフがあったり、さらなるイノベーションやチャレンジを促します。



照明の調光も可能

照明の調光も可能



―― 7階から5階までは、オフィス内の中階段でフロア移動ができるのですね。


清水 床面積が減ってしまうのである意味もったいないのですが、出社したときに人と人とが交わる場所を作ったらどんな効果があるかという実験でもあります。


片桐 「THE CAMPUS」は築40年の建物をリノベーションしたので、最近の一般的なオフィスビルよりも階高が低く、階段で行き来しやすいんです。5、6、7階を繋ぎ、人が集まりやすいような機能をプラスすることで、より交流が生まれるようになっています。



当「みんなの仕事場」で過去に取材したオフィスでも、いくつかの企業が中階段を導入しており、動線が交わることでコミュニケーションが生まれる効果があるという声が聞かれました。働く人にとっては、オフィスのシンボルとしての役割もあるようです。


[オフィス訪問記事]アダストリア東京本部オフィス

[取材記事]本社移転した三菱地所



さて紹介に戻り、6階は「育む」フロアです。



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マネージャークラスの社員がシフト制で在席し、若手が気軽に相談できる環境を整えると共に、キッチンを備え、組織を超えたコミュニケーションを促す、人と組織を育むフロアです。



スケジュールを決めて社内の達人に座ってもらい、別部門の社員が相談事をもちかけることができるユニークな制度

スケジュールを決めて社内の達人に座ってもらい、別部門の社員が相談事をもちかけることができるユニークな制度



5階は「整う」フロア。



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リラックスできる環境で心身を整えたり、郵便物や社内メールの授受、ワークツールのピックアップなど仕事の準備を整えるフロアです。頭を整理したり、ちょっとリフレッシュできる空間です。



シェアロッカーなども並んでいる。

シェアロッカーなども並んでいる。



こちらの自販機は、社員が2人同時に社員証をかざすと無料で飲料をゲットできる。コミュニケーションを促す非常にユニークな仕掛けだ。

こちらの自販機は、社員が2人同時に社員証をかざすと無料で飲料をゲットできる。コミュニケーションを促す非常にユニークな仕掛けだ。



4階は「捗る」フロア。



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ハイスペックな機器を設置したり、個人で占有するワークポッドなどが並んでいたり、自宅では実現が難しい環境になっていて、業務に集中できるフロアです。気の散らないモノトーンなデザインになっています。


ここまでが「THE CAMPUS」のライブオフィスの紹介となります。


他にも、新しいサービスを生み出すためにさまざまな企業とコラボレーションしている2階のオープンラボで、ロボットに追いかけられたり(健康に関するアドバイスをしてくれる)、自然光に模した光浴びて、自然の風景の映ったモニターのそばで仕事をする実験を見学したりしたのですが、それはまた別な機会に。


ライブオフィスの取り組みは、アンケートやワークショップ、デジタルデバイスを使った分析などによって、アップデートしており、実践と実験が繰り返されています。



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―― 毎日たくさんの企業がTHE CAMPUSを見学していると思いますが、人気のある家具やスペースは?


片桐 具体的な家具やスペースというより、空間の作り方ですね。THE CAMPUSは、リモートでも仕事ができる今、あえてオフィスで働く意味のある要素を抽出し、その要素を階ごとに割り振り、階ごとに役割の異なるオフィスにしています。THE CAMPUSは縦にさまざまなスペースを積んだ形ですが、ワンフロアでもエリアごとに役割を変えて横にも展開できますから、そういうところが勉強になると言っていただける点だと思っています。



―― 働いている皆さんは、ひっきりなしに社外の人間が来て、仕事しにくくないのでしょうか。


清水 なにしろライブオフィスの歴史が長いため、社外の方がオフィス内にいらっしゃるのは日常の風景なので、特に仕事がしにくいと思ったことはありません。加えて、コクヨでは2017年に品川シーズンテラスオフィスに移転した時に「会議室を区切らない」という試みを始めて以来、大半の会議室をクローズにせずオープンにしているので、よく驚かれます。



―― 思わず小声になったり(笑)。


片桐 慣れっこになっています(笑)。機密情報など大丈夫ですかと心配されるのですが、さすがに機密情報などを扱う場合はクローズな場所で話しますし、気にせず仕事をしています。



■新しい働き方の鍵はオフィス運用を行う「コミュニケーター」にあった

片桐友美さん(広報室)



―― 働いている状況をモニタリングしたり、コミュニケーションを促す仕掛けなどが随所にありました。


清水 先ほど従来事業から領域拡張してオフィス運用の領域にチャレンジしていくと言いましたが、運用のイメージも従来の総務部門の機能とは違うものに変わりつつあります。



―― 総務部の仕事というと、消耗品を補充したり壊れた備品の修理を手配したりという社員サービスを行うイメージですが。


清水 「THE CAMPUS」には実験的にコミュニケーターという役割を担う人材がいます。例えば昼間はランチを食べたり仕事場としても使える場所を、決算説明会や新商品発表会の会場としても活用できるようにして、そういったイベントの際には会場運営者として立ち回ってくれる存在になります。さらに、週2回、社員紹介のプログラムをスタジオからラジオ放送したり、果物の採れる植栽を設けて、採った果物をジャムに加工するイベントに社員を巻き込んだりと、コミュニケーターは単にオフィスの機能をメンテするだけでなく、社員と社員を繋いでコミュニケーションを生み出すという役割を果たしています。この実験がうまくいけば、コミュニケーションによって会社の価値を上げ、社員が来たくなる場所にできるという提案を多くの会社にできると考えています。



―― なるほど。イベント企画まで含むさまざまなサービスを企画し、実行するわけですね。外部の人を呼んだり、非常に奥深い仕事ですね。会社をどういうふうにしていきたいかという、より経営者的な視点に立たないとできませんね。


清水 小さなものも含めて、いろいろな企画を現場のアイデアでどんどん企画してくれるのですが、やはり経営者がそういう場にしたいという意思を持っているからこそだと思います。



―― 従来のファシリティマネジメントがそのように変わると、人材配置も大きく変化しそうです。コクヨではそうしたノウハウや人を提供する事業も行っていくわけですね。


清水 「THE CAMPUS」のコミュニケーターは、コクヨアンドパートナーズという関連会社の方です。同社ではコンシェルジュや受付などをはじめ、いわゆる総務のお手伝いをしてきましたが、そのノウハウをもとにサービスを開発してお客様にご提案しています。



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例えば、今お話ししているこのCOMMONSというスペースには、たくさん本が収められたライブラリがありますが、装飾で本を置いているわけではなく、社員に手にとって読んでほしい本を選んだり、最新の本に入れ替えて鮮度を維持したりしています。そのためには本を選ぶ感度を持っている方でなければなりませんから、そういう価値があるサービスということでお客様に提案しています。



■ウェルビーイングの観点からオフィスの改革を

清水千穂さん(コーポレートコミュニケーション室)



―― 最後に、「THE CAMPUS」を見学して圧倒されて、どこから始めたらいいのかわからないという企業へのアドバイスを。


片桐 会社の経営課題が何かということを抽出し、それを空間でどう解決するかということをアドバイスしています。企業によって悩みや課題は違いますから、何から始めるべきという正解はありません。「THE CAMPUS」自体、コクヨとしての暫定的な答えにすぎず、まだ実験している途中ですから。私たちも失敗した事例、場所としてうまく使えなかった事例はたくさんあります。そういったことも踏まえて、一緒に課題を解決していく方法を探っていきます。働く場の正解はひとつではないんです。



清水 最近キーワードになっている「ウェルビーイング」がコアになると思っています。結局、社員の心身の健康ややりがいが帰属意識や頑張ろうという気持ちにつながり、その会社の成長、価値の増大につながります。そのための一歩が、社員が健康な心と体を維持できるオフィスについて考えることなのではないでしょうか。たとえば長時間労働を是正するために残業をなくすことから始めて、サイロ化した業務をみんなで解決するために、例えば人が集まるオフィスにしたり。最初に投げる石は、社員に心身の健康を維持してもらい、長く働いて会社に貢献してもらうにはどうしたらいいかということだと思います。





THE CAMPUSで実践されているオフィスのあり方は、どれも働き方を変えるための創意に満ちたものでした。お話を伺う中で特に印象に残ったのは、家具やスペースの作り方にも増して、オフィス運営の重要性ということです。


オフィスがリニューアルされる場合、そのプロジェクトを牽引するのはファシリティマネージャー、もしくは管理部門の方が多いと思います。リニューアルされたオフィスには、そんなファシリティマネージャーのさまざまな意図がこめられていますが、それが働く人にちゃんと理解されるか、狙った効果を発揮してくれるか、すべての人が気持ちよく使える空間になっているか、といったことは、これまで運用という範疇の課題と捉えられてきました。


THE CAMPUSのコミュニケーターが果たしている役割は、さらに一歩進んで、備品のメンテナンスなどの雑用にとどまらず、オフィスを介して人と組織が成長していく関係を作るもの、いわば働き方を変えるものです。今後オフィスを変革していくためには、そうした新しい役割の人材が必要になりそうです。






取材協力

コクヨ株式会社 https://www.kokuyo.co.jp/ [外部リンク]

THE CAMPUS https://the-campus.net/ [外部リンク]




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局(※の画像を除く)
取材日:2022年1月18日

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