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多拠点で働く時代の「人とつながる、住めるオフィス」

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勝亦丸山建築計画の東京オフィス「田端山荘」(※)

勝亦丸山建築計画の東京オフィス「田端山荘」(※)


建築家ユニット・勝亦丸山建築計画では、古いビルをリニューアルして「住めるオフィス」として再生させる事業を展開している。地方の空きビルを借り上げて期間限定でテナントを募集し、半年後には満室となり、近隣も活性化した。働き方が変わりライフスタイルも変化する今、新しい発想が注目されている。代表取締役の勝亦優祐氏、取締役の丸山裕貴氏にお話を伺った。








■人とつながるパブリックスペースのある住まい

― 日本橋馬喰町の問屋街に、住めるオフィス「SANGO」を5月にオープンされました。


丸山  6階建てビルをリノベーションし、SOHOとシェアハウスの機能を組み合わせた生活機能共有型SOHOです。UR都市機構と連携して実現したプロジェクトです。馬喰町は古いビルが並ぶエリアで、街づくりの一環として、人々を呼び込む拠点となるように考えました。もともとファッション系の問屋ビルで装飾もデコラティブだったので、そうしたディテールを残しつつ、入居者が活用しやすい空間に全面リノベーションしました。1階は店舗活用、2~4階が生活機能共有SOHOの賃貸物件、5階は入居者専用のルーフトップとキッチンとなっています。



丸山裕貴氏(勝亦丸山建築計画 取締役)

丸山裕貴氏(勝亦丸山建築計画 取締役)



― ワークスペースとして工夫を凝らしたところは。


勝亦  屋上や1階の店舗などのパブリックスペースですね。ワークスペース機能というより、コミュニケーションを意識した空間です。フリーランスや個人事業主、スタートアップの人が、自分の住まいとオフィスをキープすることは簡単ではないと思います。そういう方にとっては、家で仕事するより、人とつながるパブリックスペースがある住まいが適していると考えました。そういうスペースがあると、通常のオフィスビルよりコミュニケーションができます。



増築部を解体して生まれた「SANGO」の屋上パブリックスペース(※写真:千葉正人氏)

増築部を解体して生まれた「SANGO」の屋上パブリックスペース(※写真:千葉正人氏)



屋上空間は都市の隠れ家的な場所で、コミュニティのメンバーだけでシェアできる、特別な空間になっています。そういう空間で過ごしたいと思う方が集まりたくなるようなモチベーションをもってくれる場所として作りました。


― 他にもさまざまなシェアハウスを手がけられていますが、ワークスペースとしての特徴は?


勝亦  設備は建物の構造や内装によって変わります。例えば杉並区荻窪のシェアハウスは共用部分が広く、いろいろなところにソファをちりばめています。大きな空間の中に小さな個人スペースをたくさん作りました。プライベートスペースももちろんありますが、皆さん、共用スペースに出てきて仕事をしたりして過ごしていますね。


今までのシェアハウスにはワークスペースはありませんでした。今後は、そこで働くということを想定して「住む」と「働く」を一緒にするというのと、小規模事業者やスタートアップの方が外との接点を保ちながら住める場所を作ろうと思っています。



荻窪のシェアハウス(※写真:千葉正人氏)

荻窪のシェアハウス(※写真:千葉正人氏)



―「住めるオフィス」としての工夫はどんなところにありますか。


勝亦  住まいでもあり、常にオフィスのように使うわけではないということです。転々としながら働く人は増えていますし、時にはコワーキングスペースやカフェに行くこともあるでしょう。多拠点を持つ人も増えています。広くなくても、コストをかけなくても、自分の場所としてキープできる場所が都市には必要になるかもしれません。



勝亦優祐氏(勝亦丸山建築計画 代表取締役)

勝亦優祐氏(勝亦丸山建築計画 代表取締役)



― 企業のオフィスでも、近年、コミュニケーションの重要性は高まっています。


勝亦  人が集まるきっかけとなる空間は必要です。社員が働く場としては、「今日あそこに行って仕事したい」と思うような空間は大事ですね。


― 今お話を伺っているこの東京オフィスも、一軒家をリフォームしてオフィスと住居の両方の機能を持たせたシェアハウスですね。









勝亦  自分たちがシェアオフィスオーナーとして場所を開発したい気持ちからここを始めました。


― 趣のある内装ですよね。リノベーションもご自分たちでなさったのですか。


勝亦  元の床は寒すぎたので剥がして断熱材を入れました、さらにムラがあるようにセメントを薄く塗って粗い感じにしました。壁も部分的に壁紙を剥いで下地を見せています。棚を作ったりして玄関と応接室の間の壁は取り払いました。内装費用は全部で50万円もかかりませんでした。3年間の定期借家契約なので、退去時に撤去しやすい内装にしています。




■ワークスペースが街を活性化する

「SANGO」外観。門扉は問屋時代の名残を残している。(※)

「SANGO」外観。門扉は問屋時代の名残を残している。(※)



― 今回オープンした「SANGO」は、どのような利用を想定していますか?


丸山  例えば地方にいて東京にも拠点が必要な方のオフィスを想定しています。


勝亦  僕自身、静岡に住んでいて両方にオフィスも住まいがあり、もう6年ほど、月のうち3週間は静岡、1週間は東京です。当初は東京でノマドワーカー的にホテル住まいしていたのですが、書籍が手元に必要になるなど、だんだん固定の場所の必要性を感じるようになりました。設計という仕事はある程度固定していないと集中して取り組めないことがわかり、小さくてもオフィスは必要だと感じました。2拠点を行き来することで、交差する視点や交友関係もできます。普段自分がいない世界に来ると新しい発想も生まれます。


― たしかに昨今は地方と東京を移動するワーカーも増えていますね。


丸山  何人かで共同で借りるケースも想定しています。東京駅からも近いですし、ビル1棟に住むという面白さもあり、ご興味をもってくれる方が多いです。今、オフィスビルの賃貸市場は厳しいようですが、需要に柔軟に対応すれば引き合いは増えます。


― 静岡では商店街の空きビルを暫定利用するというユニークなプロジェクトを展開されたそうですね。





静岡の空きビルを活性化(※)



勝亦  「街なか居住」を促進する市のプロジェクトに応募し、沼津でホテルを運営しているREIVERと共同で取り組みました。入居テナントがゼロの空きビルを半年間無料で借り上げ、面白い人にそのまま無料で貸す、というキャンペーンをして、「半年間タダで借りられるなら何かやろうかな」という人たちに借りてもらったのです。普通に賃貸するフリーレントに近いかもしれません。


半年間いると、だんだんそのエリアが分かってきます。特に飲食業の場合、候補店舗地の近くにどんな方がどんな格好で歩いているのか、夜や早朝はどんな感じなのか、ということを調べます。そういうリサーチは、自分自身そこで試すのが一番ですから、そういう機会を提供したわけです。半年間試して、こんな感じなら出店できると判断してもらえたら、ちゃんと借りてもらう。10組入ってくれて、最終的には1組が賃貸借契約に至りました。地元の静岡県東部の企業と、東京など首都圏の企業ですね。10年くらい空いていたビルが、半年後の今ではカフェができ、焙煎所やスイーツ屋もできます(笑)。


― 大成功ですね。店舗が増えてオフィスも増えればエリアも活性化します。


勝亦  「ホッピング」という方法も考えています。何人かに半年間使ってもらってそのうち一人が借りてくれて、残りの人は他のビルに移ってまた半年間使ってもらう。そうして転々としてもらうことで街全体が活性化すると思うんです。


8年ほど前に富士市の吉原商店街で同じようなことをやりました。立体駐車場で40組の出展企業を集めてフェスをやって、そのエリアの新規出店が50店舗くらい増えたんです。ムーブメントというか機運ができたわけです。


― 不動産の所有者にとってもうれしいプロジェクトですね。


勝亦  地方では、かつての良き時代の家賃のままのビルが多いんです。わざわざ賃料を下げてまで借りてもらわなくてもいいのでしょうが、それではエリアは死んでいく。出店したい人がいても場所がない、ということになります。


― 成功したポイントは何でしょうか。


丸山  沼津にはリノベーションスクールが行われていたこともあり、行政とリノベーションの機運、テンションが揃っていました。「タダで貸して」と僕らが言ったのはかなりムチャぶりなのですが(笑)、その意味や効果を理解してくれました。「SANGO」のある日本橋馬喰町もそうですが、担当者が社会の変化に対応するバランス感覚をもっていると成功します。


勝亦  僕は地域とつながって仕事がするのが好きで、行政ともかかわりながら仕事をしています。拠点を構えると周りの人や空間が見えてくる。そうすると、こんなプロジェクトができそうだ、建築設計が必要、ここに人材を投入すれば、というふうに地域を見渡して枠組みをつくり、プロジェクト化していく。僕らがインフラを整えることで、皆さんのそういった活動のきっかけができたらいいなと思いました。




■エリアとつながっていくワークスペース



― 今後、どのようなことに注力していきますか?


勝亦  建築の運営を考えることを標榜しています。建物というハードをマネジメント、オペレーションしていくことが、これからの時代に建築家の仕事だと思っています。リノベーションという既存ストックを活用したソフト事業から、建築法規とかコストマネジメント、意匠の美しさなども考えつつ、ソフトからハードまで一緒にやっていくことを続けていきたいです。


― リノベーションする建築家の腕の見せどころでもありますね。


丸山  ビルのワンフロアだけ借りていても街の参加者にはなりませんが、ビル1棟を借りていれば街の参加者になります。それは大きいですね。


勝亦  グラウンドレベルというか、地面の上に自分を表現できる場所がある、自分を表現しつつ迎え入れてくれる場所があるということです。新しいビルではセキュリティの問題もあるかもしれませんが、雑居ビルだったら、設計によってはビルの空中階でも、外の人が入ってくるようなきっかけを作ることはできると思います。







フリーランスとして働く。地方と東京、地方と地方の多拠点で働く。在宅勤務と出社勤務のハイブリッドで働く。働き方の多様化は加速しつつある。大企業が続々と副業を解禁する時代、「どこでどう働くか」は「どこでどう生きるか」という問題でもあるのだ。ただの勤務空間ではなく、人とのつながりが自然に生まれるオフィス、地域につながるオフィスが増えていくことに期待したい。






プロフィール


勝亦 優祐 (かつまた ゆうすけ)

代表取締役 二級建築士。2010年、工学院大学工学部建築学科 卒業。工学院大学大学院工学研究科建築学専攻修了。2012年、日建設計。2015~2017年、勝亦丸山建築計画事務所。2017年、株式会社勝亦丸山建築計画設立。


丸山 裕貴 (まるやま ゆうき)

取締役。2010年、工学院大学工学部建築学科卒業。2012年。工学院大学大学院工学研究科建築学専攻修了。2012~2016年、株式会社KUS一級建築士事務所。2015~2017年、勝亦丸山建築計画事務所。2015~18年、工学院大学建築学部客員研究員。2017年、株式会社勝亦丸山建築計画設立


勝亦丸山建築計画[外部リンク]

「SANGO」ウォークスルー[外部リンク]


編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年6月29日

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