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働き方を多様化してオフィス面積を50%削減したぐるなびのオフィス革命

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森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)

森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)


株式会社ぐるなびはコロナ禍の2020年11月に新本社分室オフィスをオープンした。同社は在宅勤務やリモートワークを2014年8月より段階的に導入しており、さらにコロナの感染拡大にともなって2020年2月から原則全従業員がリモートワークに移行し、オフィスの面積を50%削減することに成功した。「新しい働き方の推進と生産性の向上」と「オフィス賃料の削減」を目指すオフィス革命のプロジェクトを推進した森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)にお話を伺った。



■いち早く原則リモートワーク化、オフィス縮小計画を始動して全面フリーアドレス?へ


――ぐるなびは日比谷に2つのオフィスがありますね。


東京ミッドタウン日比谷と東宝日比谷ビルの2つがあり、本社を置いているのは東宝日比谷ビルで、一部の部署もここにありますが、それ以外は会議室や、来客向けのオフィスという位置づけです。東京ミッドタウン日比谷のオフィスは、当社従業員であれば誰でも使える執務エリアです。ただし、今は新型コロナの影響や緊急事態宣言の影響で出社率が15%になっていますので、執務場所としては余裕がある状態です(2021年7月20日時点)。


当社はコロナの感染拡大が始まった2020年2月に原則リモートワークに移行し、その後4月に新オフィスの計画を始動させました。その狙いは、「新しい働き方の推進と生産性の向上」と「オフィス賃料の削減」です。このプロジェクトは成功し、オフィス面積を50%削減できて固定費が大幅に削減できました。働き方も柔軟になって、新しいアイディアも積極的に出されるようになりました。



――コロナ前からの働き方と比べると、どんな変化があったのですか。


当社の従業員は本社所属だけで約1,300人います。そもそも、コロナ前から働き方改革に着手しており、開発部門などでは2014年8月から順次リモートワークを導入していました。今では原則リモートワークに移行し、オフィスは毎日出勤する場所ではなくなっています。オフィスに来るときには目的を定めるように従業員には伝えています。



――出勤者の数は何名ぐらいなのですか。


具体的な人数は日々変動しますが、出社率としては15%です。



――リモートワークに全面移行することで不安などはありませんでしたか。


リモートワーク化は非常にスムーズでした。当初はリモートワークで顔を合わせずに仕事ができるものかと心配する声もあったのですが、いざ導入してみると、皆さんの協力もあり、大きな問題は起こっていません。


ただ、リモート会議は、移動時間もなく続けてスケジューリングしやすいので、続くと休憩を取りづらくなってしまうこともあります。在宅で仕事をしていると休みがとりづらく、ずっと仕事を続けている感覚になって、オンとオフの区別がつかないという課題があると思います。仕事をしているときの椅子なども工夫しながら、自宅での働く環境を向上させていく必要がありますね。



■オフィス面積50%のライトサイジングの衝撃

森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)



――オフィス面積を削減したことでどんな効果がありますか。


東宝日比谷ビルは、過去最大時には5フロア借り、本社勤務の全従業員が働いていました(各フロア面積はおよそ430坪)。違うフロアの人とはなかなか顔を合わせなかったものですが、今の東京ミッドタウン日比谷は1フロアになり、かなりコミュニケーションを取りやすくなっています。



1フロアだけのオフィスには壁がない

1フロアだけのオフィスには壁がない



――オフィス削減プロジェクトはどのように進めたのでしょう。


2020年6月時点で出社率が20%まで低減し、リモートワークに全面移行しても問題ないという手応えがあったので、固定費削減と業務効率化に向けて、面積50%までオフィスを適正にライトサイジングする計画が始まりました。


当初はどのように道筋を立てればいいのかかなり悩みました。従業員数に対して席数が少ないわけですから、働き方を根本から変えていかなければなりません。まずオフィスの集約化は可能なのかというところから検討を始め、各ワーキンググループを設置して議論した結果、「リモート商談」「遠隔勤務制度」などといった多様な新しい働き方が生まれることになりました。新しい提案を社員に繰り返し共有し、実行しても問題が起こらないようにしました。



――遠隔勤務制度というのは?


2021年4月から、自宅が本社から120km以上離れており、介護や看護などを行っている従業員のために導入したのですが、この制度以外でも、緑が多く環境の良い静岡の熱海市に移住した社員もおり、さらに多様な働き方の施策を実現しています。



――在宅手当もありますか。


月額5,000円または3,000円の「新しい働き方手当」を支給しています。会社から通信環境補助を受けていない従業員は5、000円、会社から通信環境補助を受けている従業員は3,000円の支給になります。



――いろいろな働き方ができるのはいいことですね。


いくら担当者だけが頑張っても、それだけではこのプロジェクトは実現できなかったと思います。成功することができたのは、社員をはじめとする皆さんが自分ごととして協力してくれたことが大きいですね。社員と情報共有し、一歩一歩進めてきたことで実現できたと思います。


ただし、今後のアフターコロナを見すえて検討しなければならないことはまだまだあると思っています。



――社員の評価はいかがですか。


東京ミッドタウン日比谷のオフィスが完成した後、従業員を対象にアンケートを行いました。その結果、8割が肯定的な意見を占めていました。残りの2割も否定的な意見ということではなく、アルコール除菌などの充実や、もっと「テレキューブ」を増やしてほしいといった前向きな要望でしたね。基本的には今のオフィスに満足している人が多いと思います。



■オフィスをダウンサイズできるネット企業の強み

森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)



――オフィスに来なくなっても業務には支障は出ませんでしたか。


出社率15%でも業務は問題なく回っていますし、先ほど言ったようにオフィスに来る目的を明確にして出社するようになりました。



――会社という文字は「会う社(やしろ)」と書きますから、顔を合わせることが必須とされてきました。隔世の感がありますね。


私もそう思います。かつては一同朝に出社して顔を合わせて業務するという文化でしたから。


かつてはテレビ会議をつないで全国で一斉朝礼をしていたこともあります。その後で営業や開発など各部署で個別の朝礼をするわけです。


リモートワークの導入が日本でも増えてきた2015年頃は、今のようなコミュニケーションツールも少なく、会社や業界によって導入には温度差があり、つい1年前までは「Microsoft Teams」「Google Meet」「Zoom」と言っても「何ですかそれ?」と聞き返されたものでした。



――何のツールを使うか決めているのですか。


「Google Meet」「Slack」が多いですが、指定しているわけでなく、他社が「Microsoft Teams」を使用したいというご希望があれば、それに合わせて使いこなします。


今回全社的にリモートワーク化したことで従業員の心構えも変わり、場面ごとに、直接会うか、コミュニケーションツールを使って会うかを選択できる時代になりました。大半がコミュニケーションツールを使った対話になっています。


もちろん、今でもこうした取材への対応は対面で行うこともありますし、アフターコロナには、特に金融系や不動産系企業ではリアルの打ち合わせが必要ですから、オフィスへ回帰していくこともあると思います。一方、当社のような業態では、今後もこの働き方が続いていくと考えています。



――ネット系企業の強みですね。


今回オフィスを集約したことでコストダウンを実現できました。これはどの企業も同じだと思いますが、一度下げたコストを再び上げることは難しいものです。今の形で生産性を維持できるならこの形のままの働き方が続き、またプラスの材料があれば変革されていくことになるでしょう。手当や制度の充実といった提案があれば、時代の流れに沿って実現してと思います。



■テレキューブとコミュニケーションスペースで生産性が向上

森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)



――新オフィスでは「テレキューブ」も活用されていますね。


「テレキューブ」は1人用、2人用、4人用を各2つずつ、合計6個用意しています。周りを気にせずに作業できるため、電話会議やコミュニケーションツールをつかったミーティングで活用されています。


「テレキューブ」を充実させたのは、コロナに向けてよりフレキシブルな体制をとるために、オフィス内に基本的に壁を立てなかったという事情もあります。工期が厳しかったこともありますが。壁をなくしてことによって、社内のコミュニケーションを活発にすることができました。広い空間に壁がないので解放感もありますが、電話やリモート会議などをはじめ、集中して作業できる場所も必要なため、「テレキューブ」を充実させました。


「テレキューブ」は大変使い勝手が良く、人気があるので予約が取りづらい状況もあり、なかなか全員が使えないのが課題です。



出社した社員に人気の「テレキューブ」

出社した社員に人気の「テレキューブ」



――固定席とフリーアドレスの席の間をつなぐように「バル」というスペースが設けられていますね。


「バル」は通常の打ち合わせ席や椅子とは若干異なるデザインにしています。仕事をしていてわからないことを聞いたりするためのスペースで、リラックスできる環境になっています。固定席から離れて食事したいときに利用することもできますし、もちろんこの場所で仕事をしても良いスペースになっています。ひとつのコミュニケーションツールとしての機能を持たせています。



――フリーアドレスの席の間にはカラフルなスペースが設けられていますね。



コミュニケーションスペース「バル」

コミュニケーションスペース「バル」



フレキシブルスペース

フレキシブルスペース



あのエリアは「フレキシブルスペース」と呼んでいます。人と人が偶然出会ってちょっとした打ち合わせが始まることがあります。会議室を予約するほどではないというようなときは、「バル」や「フレキシブルスペース」を使ってもらうようにしています。これらのスペースでは机や椅子を自由に動かすことができます。予約も要りません。ミニ会議を行って、自分が関係あるところにだけちょっとだけ顔を出したりすることもできますし、勉強会や表彰式などもできるようにしています。4月にも社員表彰式を開催したのですが、そのときにもこの「フレキシブルスペース」を活用し、全国にライブストリーム配信しました。



■ファシリティとしてのオフィスの未来

森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)



――これからのオフィスはどうなっていくと思いますか。


テレワークの先進国はアメリカですが、ある企業などでは社内コミュニケーションがとりづらくなり、離職率も高くなるなどの弊害があったと聞いています。今は逆にオフィスに原点回帰する動きもあるようで、時代を先取りしすぎたのかもしれませんね。


日本でも業種や業態によって今後さまざまな働き方が生まれてくると思います。それに応じてオフィスも新たなあり方が生まれるでしょう。コロナで、今後オフィスの空室率がさらに上がり、賃貸の坪単価が安くなれば、逆にオフィスを増やしていく動きも出てくるかもしれません。ただ現段階では、ぐるなびにとってはこれが最適なオフィスになっていると思います。


当社もこのオフィス以外に、コワーキングスペースやシェアオフィスの契約しており、生産性を向上する働き方を模索しつづけています。



――働く人との関係も変わりつつありますね。


もちろん、オフィスに来なければならないときもあるでしょうし、リアルで顔を合わせて会議しなければならない場面は今後もあると思いますが、これまでのようにオフィスに依存しない多様な働き方によってファシリティとしてのオフィスが注目されていく今の流れは変わらないだろうと予測しています。


ファシリティの目的は、従業員が気持ちよく働く場を提供し、生産性を向上していくことです。私の仕事はそういう場をつくり続けることだと思っています。


現在は最適と思われる場でも、2年後にはまた新たな課題が生まれるかもしれません。そうした状況の変化にもフレキシブルに対応できるオフィスをつくっていきたいですね。そのためにPDCAサイクルを回しつつ、オフィスを改革しつづけていきます。



森澤雄太氏(事業管理部総務グループ長)



ぐるなびが今回、オフィス面積を50%削減に成功した取り組みの背景には、コロナ前からの働き方そのものの変革があった。それにより従業員から様々なアイディアが寄せられ、より独創的な発想が生まれている。


オフィス革命や働き方改革は、現段階ではこれが適切だが、ポストコロナ時代では、新たな手法を検討することが必要と語った森澤氏。これからのオフィスのファシリティーマネジメントは飽くなき革新が重要になりそうだ。






取材先

株式会社ぐるなび


飲食店検索サービスのパイオニアとして創業。多くの飲食店やユーザーに支えられ、日本最大級の飲食店情報サイトと成長している。2021年に「食でつなぐ。 人を満たす。」という新たな存在意義(PURPOSE)を掲げ、その実現に向けて「外食」「中食」「内食」のすべてを網羅した「食」の総合コミュニティサイトを目指し、日々進化し続けている。それまで培ってきた飲食店ネットワーク、ノウハウやデータをフルに活用し、飲食店の業務効率支援、飲食店の経営の多角化支援、店舗開発支援等、「飲食店経営サポート企業」として積極的に事業領域の最適化や拡大を図っている。




編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2021年7月20日

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