ブイキューブ開発「テレキューブ」を置いたオフィスイメージ(※ 同社提供写真)
ICTを活用して実現する、場所や時間にとらわれない働き方「テレワーク」は、具体的には在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスなどで働くことです。
内閣府が発表した「働き方改革実行計画」(2017年3月発表)では、「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となる」として、テレワークは「働き方改革」を構成する重要な柱の一つに位置づけられています。関連省庁が連携して「テレワークデイズ」などを推進しており、この1年でだいぶ身近になってきた実感をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実際のテレワーク普及はどの程度まで進んでいるのでしょうか。
国土交通省の「平成29年度 テレワーク人口実態調査(2018年3月発表)」によれば、「なんらかのかたちで勤務先にテレワーク制度等がある」と回答した割合は前年比2%増の16.3%でした。テレワーク導入はゆっくりと進んでいるように見えます。
「平成28年度 テレワーク人口実態調査」「平成29年 テレワーク人口実態調査」(国土交通省)をもとに事務局作成 (※)
今回ご紹介する株式会社ブイキューブは、テレビ/WEB会議などシステム/ツール類から制度面までカバーする総合的な「テレワーク」導入支援を行いながら、自らも先進的なテレワーク制度を実践している企業です。同社のテレワークの取り組みについて、代表取締役社長の間下直晃氏に伺いました。
1998年の創業以来、WEBソリューションサービスを提供してきた株式会社ブイキューブは、2006年から事業をビジュアルコミュニケーションに特化し、とくにテレビ/WEB会議システム分野で実績を上げてきました。
そんな同社が、「Evenな社会の実現~人が平等に機会を得られる社会の実現」という新ミッションを策定し、「テレワークを活用した新たな働き方」の実現を支援する方針を打ち出したのは、2018年、創立20周年目のこと。
かつて事業をビジュアルコミュニケーションに絞り込んだきっかけが、遠隔地の社員とコミュニケーションをとるためにテレビ会議システムを自社開発したことでした。同社の原点は、まさにテレワークとともにあったと言えます。同社は、こうした実体験から得たニーズ、ノウハウを活かして、効果的なテレワーク導入支援に取り組んでいます。
株式会社ブイキューブ 間下 直晃 代表取締役社長
(※ 同社提供写真)
――実際にテレワークの普及は進んでいるのでしょうか。
裾野が広がりつつある段階だと認識しています。現時点で熱心に取り組まれているのは、すでにテレワークの利用経験があり、メリットを把握されている企業や、ワークスタイル改革に前向きな企業が中心です。しかし、働き方改革を背景に、テレワーク自体への認知度は上がってきており、導入を検討している企業は確実に増加しています。
――「テレワーク導入企業数3倍」「雇用型在宅型テレワーカー数10%以上」等の目標が政府の「世界最先端IT国家創造宣言」で掲げられてから、すでに6年が経ちつつあります。
日本企業では長らく社員が毎日出勤して同じ時間働くスタイルを前提に制度や文化が作られてきており、それを変えるだけのきっかけが不明確でした。リーマンショックの頃、出張経費削減の流れが後押ししてテレビ会議は普及しましたが、テレワークまで踏み込む必然性までには至りませんでした。
近年、働き方改革の後押しもあり、人材の有効活用や生産性向上という、皆さんが実感している課題をテレワークで解決できる可能性が見えてきました。テレワークで成果を上げる企業が増えること自体が全体を変えるきっかけになるでしょう。
――いよいよ普及が進む段階だと。
何ごともある一定のラインを越えると一気に普及します。例えば、「テレワーク」を導入して効果を上げる取引先が増えていけば、自社でも試してみようか、という気になるでしょう。 もう間もなく "ネットワーク効果"(*)によって勢いにはずみがつくと考えています。 とはいえ、これまでテレワークに縁のなかった企業が一気に導入するのはなかなか難しいと思います。企業のあり方に合わせて、段階的に進めていく必要があります。
また、業種や業態によって、求められるテレワークは変わります。たとえば医療分野なら、単なる会議出席者の画像と音声だけでなく、医療機器のデータも共有する仕組みが必要です。そういったデータは個人情報でもありますから、厳しいセキュリティ管理が求められます。当社にはそういった経験とノウハウがあり、システムから制度面まで、どんな業種業態のお客様にも最適なサポートを提供できます。テレワークを検討されているなら、ご相談いただきたいと思います。
*) ネットワーク効果:製品やサービスの利用者が増えることでネットワークの価値が高まり、利用者が得る利益が向上していくこと。
同社の「テレワークを軸とした働き方改革」への取り組みは、文化・制度・ツール・場所の4要素からなっています。
「ブイキューブの働き方改革:実現のための取り組み」(※ 同社資料より)
このうち「制度」に当たるのが、同社が2017年10月に全社共通のテレワーク制度として運用を始めた「orangeワークスタイル」です。
「ブイキューブの働き方改革:制度づくり」(※ 同社資料より)
名称の「orange」は各キーワードの頭文字を取ったもの
同社では、すでに2000年代より自然発生的にテレワークが行われていましたが、2010年に、社員数の増加と人材の多様化に合わせて、あらためて初代テレワーク制度を整備しました。この時点では対象も一部の社員に限り、回数も週に1回までなど条件つきの内容でした。
この初代制度をもとに、「いつでも、どこでも、自分らしく」をテーマに、ライフスタイルやイベントに合わせてより自由に働き方を選択できる制度として策定したのが、「orangeワークスタイル」です。
「orange」とは、「open(オープンで利用しやすい)、「rewarding(やりがいのある)」、「any time and anywhere(いつでもどこでも)」、「network(ネットワーク)」、「growing(成長しながら)」、「efficient and effective(効率的で効果的な)」の頭文字をとったもの。
日数制限、部門制限、場所の制限を撤廃し、労働時間もコアタイムなしで6:00~21:00内で自由に働けるスーパーフレックスタイム制度に変更しました。このように制度面でテレワークの積極的な利用を具体化した効果は大きく、改正後4ヶ月で、3割に満たなかった利用率は8割にまで伸びたとのこと。
「ブイキューブの働き方改革:制度づくり」(※ 同社資料より)
「現状」が初代制度の特徴、「今後の展開」が「orangeワークスタイル」。
――ほとんどの制限を撤廃した思いきった制度ですね。
テレワーク導入を支援する以上、社内のテレワーク制度が中途半端なものでは意味がありません。自ら運営する中で得られる知見こそが、お客様にとっても十分なソリューションになります。また、当社には長年テレワークに関わってきた文化、実績がありましたから、当社ができなければどの会社でもできない、という自負もありました。
――運用開始して1年半ですね。導入の成果はいかがですか。
良い結果が出ています。とくに時間の使い方が効率化しました。会議や打ち合わせの予定調整や会議室予約に無駄な時間を費やすことがありません。オンラインなら、どこにていても空き時間が一致すればいい。15分単位の調整も簡単です。
ライフステージへの対応という点でも、メリットが現れています。たとえば、家庭の事情で実家に戻るとか、女性の場合は夫の転勤とか、以前なら辞めざるを得なかった状況でも、仕事を続けることができます。夫の転勤先で数年間テレワークを続け、東京に戻ってきたらオフィスで働く。そんな事例を実現できています。当社では、出産後の職場復帰率も100%です。これはテレワークの大きな意義だと思います。
――愛媛県に移住した開発チームのマネージャーがいらっしゃるとか?
愛媛県松山市に移住したスタッフですね。希望が出たのは「orangeワークスタイル」実施前だったのですが、それまでもテレワークで問題なく業務をこなしていたので、完全テレワーク1号となりました。年に数回、東京に出て来ますが、それ以外はずっとオンラインでやりとりしています。チームメンバーとは、チャットやWEB会議を使って日常的に連絡をとり合っていて、場所はまったく違うけれど、チーム内では日常的に一緒に仕事をしているイメージですね。
――社員は独自に働く場所を選択できるのでしょうか。
管理側が細かく指定するようなことはありません。各自が個人の判断で選択しています。先日、私がシンガポールから帰国して、さあ会議をしようと思ったら、全員がオンライン参加でした。日本に帰って来る必要はありませんでしたね(笑)。
天災や事故で交通機関が止まったとしても、各自でテレワーク対応するので業務が止まりません。台風が接近しているときなど、以前なら「明日は出社するな」というアナウンスをしたものですが、最近はしていません。社員にとっては「普段通り」なのです。
――管理のかたちも変わりますね。
みんなが同じオフィスで仕事をしているなら、見回して「よし、ちゃんと仕事しているな」で済むかもしれませんが、テレワークでは、「一緒にいない」ことが前提になります。管理や評価については、ツールや制度を導入するだけでなく、管理者に発想自体を切り替えてもらう必要があります。「orange」も、アプリや運用ルールなど様々な課題を見直しながら改善してきました。(同)
――「orangeワークスタイル」のそうした成果が、これからテレワークを導入する企業にフィードバックされていくのですね。
当社はITベンチャー企業と呼ばれることが多いのですが、内実はどちらかというとオールドエコノミーに近い、泥くさいところのある組織です。ネクタイを締めている人間も多いですし(笑)。ですから、当社が「orangeワークスタイル」を実施した成果は、一般企業でも無理なく応用できるものになっていると考えています。「響きやすいテレワーク」だと言ってもいいかもしれませんね。
――2018年12月に本社を移転されました。新オフィスでは、テレワークはどのように反映されたでしょうか。
新オフィスのテーマは、「来たくなるオフィス」です。テレワークの逆ですね。当社はテレワークの実現をサポートする企業ですが、すべての企業がテレワークにしなくてはならないとは考えていません。テレワークで実現したいのは「選べる働き方」なのです。だから、新オフィス内には従来のようなデスクの固定席もあります。テレワークが良ければそうすればいいし、オフィスでのコミュニケーションが必要なら出勤すればいい。大切なのは働き方の選択肢が用意されているということです。
同社のテレワークに対する取り組みの中でも、とくにユニークなのが「場所」を提供するコミュニケーションブース「テレキューブ」の存在です。
「テレキューブ」は、オフィスや公共スペースなど、屋内に設置できる電話ボックスに似た防音型のブース。中には、テーブルとイス、電源等が設置されており、セキュアな状態で電話やWEB会議、ソロワーク等、幅広い目的に使用できるというもので、1人用と2人用があります。
「テレキューブ」。左が1人用、右が2人用。(※ 同社提供写真)
当サイトの既掲載記事で紹介したJR東日本の実証実験「STATION BOOTH」でも、同社の「テレキューブ」が使われていました。
STATION BOOTH/CAMPING OFFICE SHIBUYAに見る、新形態のシェアオフィスが拓くワークプレイスの可能性
ほかにも、2018年11月には、三菱地所と共同で、三菱地所が丸の内に保有する3つのオフィスビルのエントランス等に置く実証実験を行うなど、「テレキューブ」は街におけるテレワーク拠点として注目を集めています。
――「テレキューブ」開発の経緯について教えてください。
テレワークを検討するお客様からよく聞く課題は、「場所がない」ということです。つまり、個人が電話やWEB会議などのコミュニケーションを行うスペースがないのです。カフェや空港のラウンジでは電話もままなりませんし、自宅でも家族の存在が気になってしまう。オフィスの側でも、自席ではできない内容の場合は会議室などに移動しようと思っても、空きがない。そんな「テレワーク難民」が発生しがちです。テレワークがようやく広がってきたのに、そんな場所不足で終息してしまってはもったいない。そこで解決策として開発したのが「テレキューブ」でした。
――一切の無駄をそぎ落としたシンプルな設計ですね。
まず会議室を占有せずに、外部とテレビ/WEB会議を快適にセキュアに行える1人用のブースとして開発に着手しました。そのためには防音が必須です。またオフィス内に置くため、できるだけコンパクトにしなければなりません。そうしたニーズを組み合わせた結果、現在のかたちになりました。
一見シンプルに見えますが、当社独自のノウハウが集約されています。たとえば、法令面。防音のためには壁と屋根が必須ですが、消防法や建築基準法上、屋根をつけると「部屋」の扱いとなります。こうした法令面の問題をすべてクリアしました。海外にも似た製品はありますが、日本の法令に準拠しているのは当社の製品だけです。
――内装にも工夫をしていますか。
椅子や机の高さや広さ、コンセントの数など、トライ&エラーを繰り返しながら使い勝手を向上させました。荷物を置けるようにベンチシートにしたり、フックを付けたり、といった小さな工夫を多数施しています。長居できないように居心地を悪くしたほうがいいという意見もあったのですが、仕事をする場所としては快適でないのは失格です。できるだけ居心地がよくなるよう心がけました。
一人用「テレキューブ」の内部(※ 同社提供写真)
――どんな企業が導入していますか。
今のところ、働き方改革やワークプレイス改善に前向きな企業が中心です。拠点間を結ぶテレビ会議で十分対応できているなら、個人用のブースの必要性はあまりないでしょう。フリーアドレスやテレワークの導入が進んでいる企業では、「テレキューブ」を有効に活用していただいています。もちろん、当社のオフィスでも活用しています。
――具体的な利用のされ方は。
WEB会議用や集中ブースとしての利用がほとんどですが、役員の個室代わりに導入する事例もあります。近年、全体的に役員の個室は減らす傾向にあります。当社でも個室があるのは私だけで、他の役員はフリーアドレスです。しかし、役員としてセキュアなコミュニケーションを行うスペースも必要です。だからといって、一人用の部屋を作ることは実際的ではありません。防音を高めるため天井まで壁で区切れば、空調やスプリンクラーなども必要になり、工事費も割高になります。「テレキューブ」は設置面積分のスペースとドアを開ける空間さえあれば簡単に設置できますから、その点、とても効率的です。ロックをはずせば移動も容易で、オフィスレイアウト変更にも柔軟に対応できます。
――2人用「テレキューブ」はどのように使われているのでしょう。
もちろん2人でWEB会議を行うという目的が主なのですが、社内で1on1という使われ方も多くなっています。たとえば成果評価には、目標設定や進捗確認、結果確認、評価、フィードバックなど多くの面談が必要になります。あるIT企業では、週6000回面談があったそうです。これだけの打ち合わせをまかなえる会議室を揃えた企業はそうありません。このような面談ニーズに2人用「テレキューブ」が役立っています。
――「STATION BOOTH」のように、オフィスの外の駅やビルエントランスなど、公共の場所に置かれる事例も増えていますね。
「テレキューブ」事業は、テレワークのインフラ作りと位置づけています。オフィスだけではなく、駅や空港、カフェなど、公共の場所に置かれて、つながっていけば、テレワークの利便性は高まります。テレワークを普及させていくためには、ツールだけではなく、場所や制度など、周辺の環境を整備していく必要があるのです。
今後も交通機関、商業施設、シェアオフィスなどに設置されていく計画があります。期待してください。
空港に「テレキューブを」設置したイメージ図 (※ 同社提供写真)
株式会社ブイキューブは「テレワーク」への取り組みについて、「制度」「文化」「ツール」「場所」の4つの要素が必要であると提唱していますが、今回は「制度」と「場所」というふたつの面から見てきました。
テレワークの最終目的は、遠隔で仕事ができる環境を実現することにとどまらず、働き方の選択肢を増やすことそのものにあります。
利用しやすい「制度」を整備すると同時に、利用する「場所」についても考えることが、テレワークで成果を上げる上で重要なポイントと言えるでしょう。
その点でも、「orangeワークスタイル」のもたらすノウハウや、「テレワークのインフラ」を構築しようという「テレキューブ」の取り組みは期待できそうです。
テレワークをより利用しやすく、より効果的に利用するための環境整備は、今後も着々と進んでいくようです。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2019年3月13日
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