株式会社KiZUKAIの移転したばかりの新オフィス
数人で起業したスタートアップのオフィスは、いわゆる「シード」の時期にはワンルームマンションの一室やコワーキングプレイスの一画であることが多い。事業が軌道に乗ると人員も増え、規模も拡大し、次の「アーリー」「グロース」というフェーズになり、そろそろオフィスが手狭になってくる。今回伺った株式会社KiZUKAIでは顧客体験管理が収益につながる次世代CXMツールを開発・展開しているが、事業拡大に合わせて8月にオフィスを移転した。ベンチャーならではのオフィス戦略について、マーケティング/PRディレクターの高田竜次氏に伺った。
高田竜次氏(株式会社KiZUKAI マーケティング/PRディレクター)
― 貴社は中野区のデザイナーズマンションの一室から移転されたそうですね。
昨年の夏頃から引越しの話は出ていたのですが、今年になって何件かのオフィスを選び見積もりを取り、7月頃に契約、8月から新オフィスが稼働しました。
旧オフィスは40㎡ほどの広さで、代表とエンジニア3名程度で数年間やっていましたが、当初の事業内容であったコンサルティングビジネスに加えて、プラットフォーム事業や、顧客体験管理を収益につなげる「KiZUKAI」という次世代CXMツールの開発・提供などと拡大し、人員が増えたためにオフィスが手狭になったので、移転しました。資金調達もできたタイミングで、次のステップに進む時期となった為です。
― 地下鉄「四谷三丁目」駅から徒歩数分の好立地ですね。IT系ベンチャー企業的な渋谷ではなく、このエリアを選んだ理由は?
率直に言うと、普段は出社しないので、エリアにこだわる必要がないからです。物件はいくつか見て、雰囲気は重視していました。人気のエリアにはきれいで高いオフィスが多く、当社のフェーズではそんなに経費は使えません。
ただし、それなりに従業員のために。綺麗なオフィスを選定しました。余談ですが駅から近いこと、近場においしいお店がたくさんあることも魅力でした(笑)。
― おいしい店が近いのは大事ですよね(笑)。
はい(笑)。ランチにも行きますし、社員同士仲がいいので飲みに行ったりもします。今のご時世では珍しいかもしれませんが、従業員同士の飲み会のコミュニケーションが活発なんです。
築35年ほどのビルですが、リニューアルしたばかりということもあり、内装費用はかなりリーズナブルに抑えることができました。
ワンフロア使用で、エレベーターを降りるとすぐにエントランス。コーポレートカラーの緑をアクセントにした作り
ウェイティングスペースは打ち合わせもできるファミレス席
会議室は2つあります。壁はガラス張りで外から中が見えるようにして、ブラインドもつけていません。これも、まだそのフェーズではないかなと思っています。現在、ほとんどの作業はWeb上で可能です。オフラインの会議が増えたら必要かもしれません。
― 社員数は?
今は12、3名で、今後も増える予定ですが、このオフィスの広さ(ワンフロア・約200㎡)では20名弱くらいが限界かと思うので、引越ししたばかりですが、おそらく2、3年ほどの入居期間になると思っています。
ベンチャーでよくある流れですが、物件の一契約期間が終わると移転して拡大、という感じですね。追加でこの同じビルの他のフロアを借りるかもしれません。何かしら増床ですね。
執務スペース
― パーティーションを置かず、見通しがいいですね。
小部屋を作らずフラットにしています。仮眠スペースも仕切らずにエリアの隅に作りました。
― コンセプトは何でしょうか?
オフィスのコンセプトは「実務×リラックス」です。作業をしたり、ちょっと横になって休憩したり。全員の会議は、会議室ではなく、このソファのスペースで行います。
リラックススペース。窓際では仮眠もできるような家具を配置。
執務エリアと共存していることがわかる
また、リラックスできるチェアーなど、かたくるしくない家具を選びました。分け隔てなく誰でも休めるような雰囲気だと思います。コーヒーマシーンも、豆を挽いて淹れるドイツのメーカーでのものを置いています。全員がフラットにリラックスできるオフィスを目指しました。
リラックスできるインテリアの工夫も
― オフィスの使い方についてお聞かせください。
出社する社員はまだ少ないのですが、フリーアドレス制で、好きな席で自由に仕事をしています。
ビルオーナーが設置してくれた個室ブースが3つあります。
ソロワークやWeb会議用の個室ブース
― 社員の皆さんの反応は?
上々です。リラックススペース、個室ブースは社員の希望で取り入れたものです。以前のオフィスはパーティーションがなく、同じ空間の中でそれぞれがWeb会議を行っていたので、互いに声が入ってしまってクレームもありました。今はそのようなことがなくなりました。
― 出社など働き方はどのようなルールですか。
基本は水曜、金曜を出社推奨日にしています。週に1日は絶対に集まることにしています。通勤時間も様々で、20分ほどの人もいれば1時間、2時間かかる社員もいます。大阪、台湾など遠方で勤務しているエンジニアもいて、フルリモートワーク可能なので、移転にあたって社員の通勤時間はあまり考慮しませんでした。
― オフィス移転で変わったことは?
会議がやりやすくなり、電波状況も良くなって、移転をきっかけに業務全体の質が明確に上がりました。これはかなり重要です。機材は各々が自宅に揃えていたりするのでリモートワークでもできるのですが、集まる場所としてのオフィスはやはり重要だということに移転してあらためて気づかされました。
― 今後の課題と捉えていることはありますか?
特にゾーニングをしなかったのですが、今後はパーティーションやブラインドも必要かなと思います。
ただ、理想のオフィスは、みんながフラットに分け隔てなく気持ちよく働ける、ということですね。社長もフラットに出社して勤務していて、社長用の固定机などもありません。
あとは、前のオフィスから持ってきた家具もあって、本来は統一したいですが、今後も移転を繰り返すでしょうから、折を見て整えていこうと思っています。
― 企業にとってオフィスとは何だと思いますか?
オフィスで大事なものは、「安心」ではないでしょうか。1日を寝る時間・働く時間・プライベート時間と1/3ずつ分けるとして、働く時間といえども、自分を犠牲にしていい時間ではないと思うんです。安心して働ける場所は、その人のプラスになれる場所でなければならないと思います。場所としてのオフィスというだけではなく、仕事そのものが「安心」であるべきでしょう。
― 今後の展開について教えてください。
今後の事業計画として、まずは上場を目指します。社員数は100名超、売上げは10~20億円を目指しています。事業計画上では、どんどん人が増えていく予定なので、それに応じてオフィスの形も変えていくつもりです。
当社のビジョンは、社名でもある「気遣い」です。日本人の相手を斟酌し、相手の立場に立った策が打てる、ということを大事にしています。ビジョン、ミッション、バリューというコーポレートのぶれない軸をしっかり決めていきたいですね。
移転を繰り返さざるを得ないベンチャーの方には、内見は早めに行った方がいい、というアドバイスをしたいですね。業務に追われて、気づいたら満杯だったということもあり、もっと早めに動けばよかったなと後悔したこともありましたから。
※
ベンチャー企業では急速に成長し、事業規模が数年で何倍にも拡大することも珍しくない。続々と増える新メンバーに会社のビジョンを明確に伝えるには、コンセプトのはっきりしたオフィスがあればなお効果的だろう。「リラックスできて、いつでも行くことができる」オフィスの存在は働き方が多様化している今、最も求められているのではないだろうか。
取材協力
2016年3月1日設立。
プラットフォーム事業-LTV/解約率改善ツール「KiZUKAI」の開発・運営、メディア事業-顧客体験にまつわる情報発信メディア「CX Lab.」の企画・運営ほかコンサルティングも手掛ける。
編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2022年9月21日
2016年11月17日のリニューアル前の旧コンテンツは
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