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オフィスに本格厨房を設置! 組織力向上を目指すアセンド株式会社の新オフィス

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アセンドの新オフィスに設置された本格厨房(※)

アセンドの新オフィスに設置された本格厨房(※)


最近は執務スペース内にカウンターのあるカフェエリアを設けたり、食堂スペースを設けたりしている会社も増えていますが、昔ながらのオフィスには給湯室があり、そこでお茶やコーヒーを用意していたものです。今回訪問したアセンド株式会社の新オフィスでは、なんと社員の夕食を作るための本格厨房がオフィス内にありました。「同じ釜の飯」にこだわる同社のカルチャーについて、オフィス移転を担当した総務の宮津しなのさんに伺いました。








■物流業界の課題を解決する事業を展開する会社

アセンド株式会社の宮津しなのさん(オフィス移転・総務担当)

アセンド株式会社の宮津しなのさん(オフィス移転・総務担当)



― 御社の事業について教えてください。


宮津さん  「ロジックス」という運送事業者向けに運送管理を行うクラウドシステムを提供しているので、カテゴリーでいうとIT系ということになりますが、「物流業界の価値最大化」をミッションに、物流業界の調査やコンサルティング事業も行っている会社です。物流業界の課題に向き合い、テクノロジーだけでは解決できない問題も幅広い角度からコンサルティングで補っています。


― 「ロジックス」とはどのようなサービスなのでしょう?


宮津さん  物流は、荷物を運んでほしいという荷主と、その依頼を受けて荷物を運ぶ運送会社で成り立っているビジネスですが、運送会社のほとんどはDX化が進んでおらず、今でもFAXやメール、電話で荷主からの依頼を受けて、また手書きの紙などでトラックの運転手にルートを送って指示したり、エクセルなどで細かく手作業で管理したりしている会社が多いんです。事務処理システムを導入できていない中小規模の会社ばかりなので、それをSaaSというかたちで廉価で提供しているのが当社の「ロジックス」というサービスです。


具体的には、運送の受注からトラックの配車、請求書などの管理まで行えて、これまで手書きでアナログに管理していた業務をデジタル化することで、業務を大幅に効率化します。それだけでなく、データとして可視化できるので、たとえば「この配送料では赤字になる」という根拠を示しながら荷主とも交渉できる、他社にないサービスと自負しています。


― 創業してまだ3年のベンチャーですね。


宮津さん  2020年3月、社長の日下瑞貴をはじめ3人のメンバーで、日下の自宅マンション一室で創業しました。1年で社員が約10名に増え、2021年3月に最初のオフィス移転をしました。


その後、物流業界紙で日下が連載記事を持たせていただいたり、トラック協会のセミナーに講師として登壇したりして、会社が少しずつ認知されていきました。業界では、当初「若造が何か言っている」と受け止められていましたが、我々の知見も蓄積されるにつれて印象が変わり、今では事業者の方から「先生」と呼んでいただくことも(笑)。


ピッチイベントなどにも参加し、いろいろな賞もいただいています。内閣府推進の「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」プロジェクトでは「ダイナミックプライシングエンジン」の実証実験も行いました。このオフィスで成果報告の記者発表をしたのですが、物流業界だけでなく一般紙の記者も来てくださり、東洋経済の「すごいベンチャー100」にも選出していただきました。




■靴を脱いで上がる「アセンドホーム」というコンセプト

エントランスの壁に筆書きされたアセンドのミッション

エントランスの壁に筆書きされたアセンドのミッションは、社内で一番字の上手な社員の奥村昭仁さんが一気に書き上げたそう。「練習なしの一発で書きました。100点満点の出来ではないですが(笑)、荒々しい感じで、キレイ過ぎなくてよかったかなと」(奥村さん)



― ここは2度目のオフィス移転ということですね。


宮津さん  旧オフィスはここから徒歩2分のビルで、15坪の部屋を2部屋借りていました。しかし現在は正社員16名、副業メンバーも合わせて約30名規模になったので、手狭になり、移転することになりました。約86坪ありますから、かなり広くなりました。


― 正直、こちらのビルは少々古いという印象ですが、ここを選んだ理由は?


宮津さん  立地や賃料などの条件が合致したこともありますが、決め手は、内見のときに、「アセンドっぽいよね」と思ったことです(笑)。新築ビルもたくさん内見しましたが、ここが一番オフィスっぽくない感じがしました。内見時は前のテナントの塗装が残っていたりしてキレイな状態ではなかったのですが、ビルオーナーさんが築古だから取り壊しも検討していると聞いて、「何をやってもいい自由度が高いビル」だと考えて、このビルに決めました。


― 移転は大変でしたか?


宮津さん  移転プロジェクトが始まったのは2022年の春頃でした。いろいろな物件から絞り込んで、全員が内見したのは2物件です。


旧オフィスは今も借りて使用しています。畳を敷いていたり本棚やソファなども置いていたりするので、ちょっとアルコールを飲みながらカジュアルに話したいときに「離れ」として使っています。



執務エリアはオフィスの半分のスペースを使用。

執務エリアはオフィスの半分のスペースを使用。



― 新しいオフィスのコンセプトは?


宮津さん  ひと言で言うと「アセンドホーム」です。靴を脱いで上がってもらっていますし、本格的な調理ができるキッチンもあります。オフィスではなく自宅のような感覚でいられる空間ということを重要視しました。


当社の重要な文化は「公私混同」なので、暖かさがあるオフィスを目指しました。我々もまだまだ成長過程ですから、プロの業者さんがきちっと作った高級なオフィスではなく、自分たちの手作りで作り上げるオフィスということも目標でした。



食堂テーブルやソファなどがある共有スペース「アセンド食堂」。暖簾の向こうは本格的な厨房やキッズスペースもある

食堂テーブルやソファなどがある共有スペース「アセンド食堂」。暖簾の向こうは本格的な厨房やキッズスペースもある



食堂エリアには社員の方の工夫があちこちに見られる。リラックスできるソファも

食堂エリアには社員の方の工夫があちこちに見られる。リラックスできるソファも




■平成生まれによる「昭和カルチャー」とは



― ところで、「公私混同」の文化とはどういうものですか?


宮津さん  物流業界には古い体質というか、レガシーな構造がいまだに残っているので、課題を解決するためには、組織力をどう高められるかということがポイントだと思うんです。


仕事をするために私生活を犠牲にしたら長続きしないし、だからといって仕事とプライベートを切り離せば強い組織になるかというと、今度は心理的安全性が下がります。そこで、仕事もプライベートもどちらも大事にするという「公私混同」で事業を強く伸ばしていくことになりました。


代表や上司はメンバーの人生を輝かせることを大事に考えています。


社員のプライベートには踏み込まない会社も多いと思いますが、当社ではあえてプライベートにも一歩踏み込んで、一緒に考えて悩んでいくことがカルチャーになっています。


たとえば、今、出産を控えている社員がいるのですが、全員でものすごく喜んで出産を応援しています。彼女とケンカした社員がいると聞くと、「なぜケンカになったのか」とみんなでものすごく考えたり。


― そういう会社は珍しいですね。


もちろん、単純に仲良しクラブということではありません。近しい関係があれば心理的安全性も上がり、仕事に対しても全力で取り組むことができますから、組織への投資、組織の成長につながると考えているのです。


今後、社員がさらに増えたときにもこのカルチャーを大切にしていきたいと思っているからこそ、現在の規模感での「絆の深さ」を大事にしているんです。平日は毎晩一緒に夕食を食べていますし、社員のパートナーが夕食時に遊びに来ることもあります。社内の部活動にもパートナーが来ます。3か月に一回、「アセンド祭り」というオフサイト合宿があるのですが、なるべくパートナーもご一緒に参加していただくようにしています。


― 社員個人だけでなく、家族まで呼ぶのですか?


宮津さん  長い時間しっかり働くには、パートナーの理解が必要と考えているので、巻き込める局面ではご一緒に、としています。


― オフィスにキッズスペースがあるのも、「公私混同」の一環ですか?


宮津さん  今、対象になっているのは社長の2歳のお子さんだけです。保育園が終わると社内に来て、みんなで夕飯を食べます。近々育休中のメンバーも復職しますし、今後生まれる予定もあり、間もなく子どもの数が増えるので、そのときにはキッズスペースも充実するでしょう。



育休中の社員が復帰予定でもあり、今後キッズスペースも充実させていくとのこと

育休中の社員が復帰予定でもあり、今後キッズスペースも充実させていくとのこと



― 「アセンド祭り」というのはどういう合宿ですか?


宮津さん  バスで2時間ほどの首都近郊エリアに土日で一泊して、初日はワークショップ、2日目は観光です。ワークショップでは会社の状況や今後のことを話し合ったり、ディスカッションで気付きを共有したりします。運動会とかお祭りイベントでお酒を飲んだりもします。


そういうことも含めて、とにかく徹底的に組織に投資しています。オフィスも、高価な家具を入れることより、組織をどのように変化させるかということを重視しながらやっています。


― 家族経営というか、昭和の会社っぽい感じでしょうか。


宮津さん  そうですね(笑)。皆でごはん食べに行ったり、音頭を作ったり(笑)。


物流業界は、特に地方などでは商談の後に飲みに行くのが定番です。「うちはIT系だからそういうことはしません」というわけにはいかない。そういう会社のサービスは信頼してもらえません。本気で物流業界のためになることをするなら、どこまでどっぷりと物流業界に漬かって相手の気持ちを理解できることが重要だと思っています。


だから昨今流行している「リモートワーク」「ワークライフバランス」という気分とは、ちょっとギャップがあります。良い意味で昭和というか、長屋的ということでしょうか。働く人たちが

モーレツに働いて経済がどんどん成長した時代の良いところ


を引き継ぐような昭和感が、当社の要素になっています。まあ代表も含めてメンバー全員、平成生まれですけれど(笑)。



アセンド祭りの成果である「アセンド道」、「あせんど音頭」の歌詞が貼られている。昭和の気風あふれる意気込みが感じられる

アセンド祭りの成果である「アセンド道」、「あせんど音頭」の歌詞が貼られている。昭和の気風あふれる意気込みが感じられる



― 食堂には「規律」が貼ってありましたね。


宮津さん  はい。食堂の目的は「アセンドメンバーの心身の健康をサポートする」、「料理担当メンバーのコミュニケーション促進と業務設計力の向上」ですから、アセンド食堂の規律として、「メンバーへのもてなしをもって料理を決めるべし」などのルールを定めています。



「アセンド食堂の規律」を解説していただいた

「アセンド食堂の規律」を解説していただいた



宮津さん  「ウズベキスタン・ピザトーストを忘れるな」と書いてあるのは、そういう名前の料理が皆さんに受けなかったことへの愛あるイジリです(笑)。料理当番の階級評は上から順に大将・中佐・曹長・上等兵・二等兵、一番下はここでは秘密です(笑)。当番は毎回、2人の社員が買い出しから調理、片付けまで行っています。特注の厨房で洗い場も2つです。2人でメニューを決めて食事を作るため、普段仕事で接点が少なくても会話が生まれますし、良いコミュニケーションの機会になっています。料理が不得意な社員もいますが、ギリギリ、食べられるものを作れます(笑)。何より、「もてなしの心」で作るようにしています。料亭のような箸袋もあるんですよ。恵方巻もみんなでやりました。


― そもそも夕食をみんなで食べる狙いは?


宮津さん  「一つ釜の飯」を通して人生の様々な時期や学びを共有するという、創業時から代表が大切にしている当社の文化です。あせんど音頭のために太鼓も購入しました。さすがに驚かれましたが(笑)、今は厨房の前に置いて、「ご飯できたよ!」とドーン!と合図を鳴らしてます。



厨房前の太鼓はひときわ目立っていた

厨房前の太鼓はひときわ目立っていた




■専門業者に任せなくても、協力すれば大抵のことはできた



― オフィスをどのように使っているのか教えてください。


宮津さん  執務スペースは人数にまだ余裕があるので、ざっくりフロアの半分を充てました。広すぎてもスカスカして一体感も薄れますから、ギュッと詰めました。フリースペースでは、円卓やハイデスク、ソファ回りを広く取り、コミュニケーションが生まれる工夫をしています。


フリーアドレスではなくチームごとにかたまっての固定席です。フリーアドレスの良いところは普段仕事を一緒にしない人と話す機会を作れることだと思いますが、当社は「アセンド食堂」が毎日ありますので、コミュニケーションの機会はすでにあるため、効率性を重視して固定にしています。


当社はオフラインを原則としているので、正社員は基本的に毎日出社していますが、個人の都合もありますから柔軟に対応しています。フレックス制ですが特にコアタイムはなく、皆大体11時くらいに出社してきますね。食堂は夜だけなので、お昼は近隣にみんなで食べに行くことが多いですね。



物流といえばトラック。ということでトラック型のパネルは宮津さんの手作り。こちらも奥村さんの筆。

物流といえばトラック。ということでトラック型のパネルは宮津さんの手作り。こちらも奥村さんの筆。





会議室は3つ。

会議室は3つ。それぞれ「北陸信越」、「東北」、「関東」と、同社のサービスを提供している地方のブロック名がついている。写真は「東北」会議室。



執務エリアと食堂エリアを区切るシェルフ。

執務エリアと食堂エリアを区切るシェルフ。「物流」感を出すためにオリコン(白枠の透明ボックス)を収納に使用している。なぜか各種のお酒も並ぶ。「オフィスに遊びに来ていただいたお客様からの頂き物を飾っています」(宮津さん)



役員の顔写真入りのオリジナルビールも

役員の顔写真入りのオリジナルビールも



― 毎日出社が基本なのですね。


宮津さん  もちろんオンラインでもできますが、オフラインの方がより緊密に、一体感、肌感覚を通じてコミュニケーションできます。すぐに相談してことが運ぶので、直接会うことを重視しています。これは組織力をどう高めるかということにもつながりますね。


― オフィスづくりで苦労したのはどこですか?


宮津さん  キッチン作るのには苦労しました(笑)。本格的なキッチンにするために、配管とかも苦労して。本当に設置できるのか、ギリギリまで分からない状況が続きました。また内装に関しては、オフィス移転の専門業者さんに任せなくても、メンバーで協力すればできることがたくさんあるとわかりました。家具類も、いろいろなサイトで選んで自分たちで発注しました。


「アセンド祭り」で、「どんなオフィスで働きたいか? うちのオフィスで何が大事か?」というテーマでみんなに考えて書いてもらって、オフィスのコンセプトを決めました。「自分たちが働く空間で何を表現したいか」ということを反映させて、気持ちよく使ってもらえる空間になりました。



2人体制用に作られた本格的な厨房。どんな料理が作られるのか......

2人体制用に作られた本格的な厨房。どんな料理が作られるのか......



大きな冷蔵庫、種々の調味料

大きな冷蔵庫、種々の調味料



― 新しいオフィスで引っ越し後に更に改善したところはありますか?


宮津さん  たくさんあります、来社したゲストの方のチェキ(写真)を貼りたいという声があってコルクボードを買ったり、自然発生的な会話が生まれるようにモニターを追加で設置したり、いろいろ試している最中です。手作りの家具などもあります(笑)。





― 最後に、今後のアセンドの展開について教えてください。


宮津さん  今後も「物流業界の価値最大化」をミッションとしながら、「ロジックス」サービスの認知を広げていきたいと思います。多くの事業者運送社が、顧客である荷主との適正な価格交渉を行えずにいますから、「ロジックス」で得られるデータをその交渉材料として使ってほしいです。そもそも運送業者と荷主が価格交渉できないという業界の仕組みから変えないと、真の物流業界の価値最大化にはつながっていかないとも思っています。より良いサービスとして全国の事業者さんに認知していただき、物流業界をどんどん変えていきたいと思っています。


新しいサービスもスタートさせると思いますが、それも利益追求ではなく、我々の活動によって物流業界の価値をいかに高められるかということを大事にしながら、事業を展開していきたいです。運送業者向けだけでなく、荷主向けサービスも必要だし、国のルールや規制に対してもアプローチしていきます。


― 今日はありがとうございました。






最先端のDXに関わるIT系企業としては珍しく、アセンドにはオリジナルの作業着があり、代表の日下氏の作業着姿も珍しくないようです。地方の小さな運送会社まで同社のサービスが行き渡らせたい、業界全体の価値をあげたいという日下代表の熱い想い、そして社員の皆さんの仲の良さがオフィスの隅々まで行き渡っていました。






取材協力


ascned株式会社

「物流業界の価値最大化」をミッションに掲げ、テクノロジーとコンサルティングの力で業界課題の解決を目指すスタートアップ。トラック運送事業の業務・経営改善を図るクラウド(SaaS)サービス「ロジックス」を提供し、これまでITリテラシーも低く、投資体力も薄いと言われ、どのプレーヤーも本格的には算入してこなかった運送業界のDXを推進している。一方で、構造的な業界課題を解決していくための国・行政に対する政策提言やルールメイクの提案や、都道府県・業界団体主催のセミナーでの啓蒙活動、また突破口となる「物流版ダイナミックプライシング」などの新技術の開発など、上流工程からの活動も実施している。


アセンド コーポレートサイト[外部リンク]


編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2023年2月8日

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