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【人工知能時代の職場変革】法務の未来を見据える弁護士がAI開発に挑む!?「リーガルテック」が変革する日本の法 ~GVA弁護士事務所 代表弁護士 山本 俊氏インタビュー~

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GVA弁護士事務所 代表弁護士 山本 俊(やまもと しゅん)氏

GVA弁護士事務所 代表弁護士 山本 俊(やまもと しゅん)氏



日夜膨大な書類と格闘している保守的なイメージが強い企業法務の世界にも、先端技術による変革の波「リーガルテック」が押し寄せています。人工知能(AI)によって法務の現場はどう変わっていくのか? AIを活用した法務サービス「AI-CON」を開発したGVA弁護士事務所代表弁護士 山本 俊氏にお話を伺いました。






■企業の挑戦を支える弁護士の役割

――山本さんのお仕事内容を教えてください。顧客はどのような方でしょうか。

GVA法律事務所の代表弁護士を務めています。当事務所は今年で7年目になりますが、企業法務を専門にしており、ベンチャー企業やスタートアップ企業を法務面からサポートするために立ち上げました。上場している企業でいうと、自動家計簿アプリのマネーフォワード様や、スマホ向けのゲームを手がけるアカツキ様がいらっしゃいます。マネーフォワード様とは創業期からのお付き合いです。


GVAというのは「Global Venture Achievement」の略で、ここにもベンチャーの文字を入れています。ベンチャー企業が法的問題に直面した時、それを突破するサポートをしたいと考え、「世界中の挑戦者を支えるインフラになる」という理念を掲げています。ベンチャー企業の皆さんには、優れた技術や着想の実現に集中していただきたい。そういったお客様を、法人設立から企業買収や株式公開まで、スタートアップ企業が発展途上で必要とするすべての法務をカバーしています。


――ベンチャー企業の法務と大企業の法務とでは、どのような違いがありますか。

企業を経営していると、様々な問題が発生します。その点では、ベンチャーでも大企業でも大きな差はありません。最大の違いは、法務担当者が社内にいるかいないかということです。法務担当者がいれば、社内の法的問題を洗い出して、問題になる前に解決することができますが、ベンチャー企業では、専任の法務担当者を置く余裕がありませんので、そうはいきません。対応が後手後手に回り、問題が表面化して初めて気づくことがほとんどなのです。作るべき契約書を作り忘れていたり、投資家と不利な契約を結んでしまったり。特に多いのは知的財産関係ですね。当事務所は、ベンチャー企業の法的問題に対応した経験が豊富ですので、そういった問題に迅速に対応できます。


――ベンチャー企業の法務担当者に成り代わって、トラブルを解決するのですね。

発生してしまった問題に対処することももちろん大きな役割ですが、それだけではベンチャー企業をサポートする弁護士事務所としては不十分だと思っています。重要なのは、見落とされている問題を発見して、未然に対策を講じることです。そのためには、顧客企業のビジネスモデルをしっかりと理解して、パートナーのように寄り添っていかないことが必要です。そうしないと、見つかるものも見つからない。そんなきめ細かいサポートを行えるのも、当事務所の特徴です。



■日本でも始まる「リーガルテック」の流れ

日本でも始まる「リーガルテック」の流れ


――欧米では、最先端技術を活用して法務を効率化する「リーガルテック」が進んでいるそうですが。

欧米の「リーガルテック」は、すでに実用レベルに達しています。英語の方がデジタル処理しやすいという面もあるのでしょうけれど、法務文書の分類処理や膨大なテキストから特定の言葉を探し出したりするサービスなどが、広く利用されているようですね。プロの現場だけでなく、駐車違反などの行政機関の決定に対する意義申し立てや、企業への損害賠償請求をサポートする一般人向けのアプリまでが実際に使われています。今、クローズアップされている「フィンテック」と同様に、「リーガルテック」もどんどん進歩して、近い将来には、より大きな流れになっていくでしょう。


――日本の状況はどうでしょう?

欧米と比べれば、出遅れている感があります。海外では実用化されていても、日本語の壁がありますし、そもそも法律や手続きが違いますから、単純に日本に持ってくるわけにもいきません。日本には、日本ならではの「リーガルテック」が必要なのです。しかし、すでに日本オリジナルの新しいサービスがいくつも動き出しています。ここ2、3年で「リーガルテック」の様相はガラリと変わると思いますよ。


――山本さんが開発された「AI-CON(アイコン)」も、その一つですね。どのようなサービスなのか教えてください。

「AI-CON」とは、AIを使った「契約リスク判定システム」です。契約書の条文が自分にとって不利かどうかを5段階で評価します。たとえば、業務委託契約の場合なら、軽微な契約違反でも、多額の違約金を負ってしまうような可能性のある条文を見つけて、どの程度のリスクが存在するかを指摘した上で、それをどう修正すればよいかまで提示してくれます。


契約リスク判定サービス 「AI-CON」

契約リスク判定サービス 「AI-CONnewwindow」[外部リンク](※)


――契約書を細かくチェックできるような法務担当者がいないベンチャー企業にとっては、非常に助かりますね。

ベンチャー企業のほとんどは、契約書に関するノウハウがないのです。それでも、ビジネスを進めていけば、契約書を交わす機会がどんどん増えていきます。相手の善意を信じて契約を締結して、のちのち大変なことになったという話は、決して珍しいことではありません。そこで、AIを使えば、そういった契約書にかかわるトラブルを減らせるのではないかと考えたことが開発のきっかけです。開発に着手してから公開まで、1年半くらいかかりました。ぜひたくさんの企業に活用していただきたいですね。


――「AI-CON」を利用するメリットを具体的に教えてください。

最大のメリットは、契約書のレビューにかかる時間を短縮できることです。ビジネスにとって一番大事なのは時間ですから。契約書の抱えるリスクを把握すれば、意思決定をすばやく行えるようになります。当事務所にとっても、自分たちの業務を軽減できるという意味合いがあります。契約書に関する業務は、企業法務の中でもボリュームが大きい分野ですから、効率化できれば、大きなメリットになります。


――今これを読んで、早速導入したくなった経営者もいると思います。どうすれば利用できますか。

利用法は、「AI-CON」のサイトで会員登録して、契約書のファイルをアップロードするだけです。リスク判定と修正例を提示します。最終確認は弁護士が行っているので、リアルタイムとはいきませんが、通常のレビューに要する時間を5分の1ほどに短縮できます。AIの精度はどんどん上がっていますから、ゆくゆくは完全自動化できると思います。



■AIが変える法務のかたち、仕事のかたち

AIが変える法務のかたち、仕事のかたち


――契約書のレビューというのは、AIが得意な分野なのでしょうか。

いいえ、じつはAIにとってはむしろ苦手な分野だと思います。なぜかと言うと、契約書には正解がありませんから。不利な条文があっても、必ずしもそれが間違ったものは言えません。何が適切な条文なのかということは、市場環境や双方の力関係によって絶えず変わります。AIが本当に得意なのは、ルールが決まっていて、正解があるような業務だと思います。たとえば、登記業務です。これなら会社法のルールに従って書類を作成すればよく、行政に通す手続きもはっきり決まっています。商標や社労士の業務にも正解がありますので、今後、AIに置き換わる可能性が高い分野だと言えるでしょう。


――あえてAIにとって難しい契約書というジャンルを選んだのはなぜですか。

先ほどもお話ししたように、契約書に関連する業務の需要がとても大きいからです。その作業がAIによって効率化できれば、弁護士はもっと創造的な業務に集中することができるようになると思います。誤字脱字をチェックさせたり、様々な定型的な業務をAIにやらせようという話をよく聞きますが、AIの潜在能力は、そんなものにとどまらないと思います。AIに何ができるかではなく、AIをどう使えば仕事全体の価値を引き上げることができるか、ということに興味があるのです。


――契約書のリスク評価は手はじめにすぎない、と。

AIと法務を連携させる試みは、始まったばかりです。今後、驚くような活用法が生まれてきますよ。弁護士の仕事のあり方も変わるし、一般の方々の法務に関する意識も大きく変わるのではないかと思います。


リーガルテックは日本でも身近になり、一気に広がると思います。企業の一番の関心事はお金ですから、リーガルテックがコストの低減につながることがわかれば、普及にはずみがつくでしょう。フィンテックの導入がひと通り進んだ後は、いよいよリーガルテックの出番だと思っています。


――AIと法務が連携していくときに、何か問題はありませんか?

専門家ではないので、AI技術が今後どのように進化していくのかはわかりませんが、少なくとも、現在のAIは、これまでに蓄積された膨大なデータを学習することで動作しています。したがって、前例が豊富な案件は得意なのですが、前例のないような新しいことは苦手です。法律というものは改正がつきものですから、改正直後のデータが蓄積されていない時期は、AIの性能を十分に引き出せない可能性があります。そういった部分は、人間がチューニングに入る必要があるでしょうね。


――AIが力を発揮するためには、人のサポートが欠かせないわけですね。

AIというのは、「何か投げれば最初から最後まで全部やってくれる存在」だというふうに思われがちですが、これは大きな誤解だと思います。現実は、業務プロセスを区切ってみて、どの業務をAIに割り当てようか、などといろいろ試している段階です。AIに全部任せるのではなく、できることとできないことを切り分け、どう分担すれば生産性が上がるのかを考えていくのが、AIとうまく付き合っていくコツだと思います。



■法務の世界の「働き方改革」はこれから

法務の世界の「働き方改革」はこれから


――山本さんは、いつもどんな環境でお仕事をされているのですか。

事務所内ですが、個室ではなく、みんなと机を並べて仕事しています。1人でじっくり考えたい時は、朝のカフェを利用します。頭が最も働くのは朝ですから、カフェで2~3時間ほど考えを整理して、10時前くらいに事務所に入ります。カフェで仕事をすると、1日の仕事の8割くらい終わったと思えるくらい捗りますよ。


――弁護士の職場にも「働き方改革」の動きはありますか? 例えばリモートワークなどはどうでしょう。

弁護士は企業がクライアントですから、タイムリーなやりとりが重要です。クライアントに合わせることが必要な場合が多いので、リモートワークは当面無理でしょうね。また、当事務所はチーム制をとっていますから、情報を共有するためにも、スタッフが同じ事務所にいた方が効率的です。


もちろん、テレビ会議やメールなどといったITも活用してはいますが、今のところそれだけで業務を完結させるのは難しいですね。そういったことがもっと普及すれば、かなり楽になると思います。移動は手間ですからね。弁護士事務所が霞ヶ関や虎の門周辺に多いのは、東京地裁やクライアント企業に近く、すぐに駆けつけられるからです。法律の世界では、ペーパーレス化もなかなか進んでいないくらいですから。働き方という面では、課題は山積みです。


――確かに弁護士の先生がたは、膨大な紙資料と格闘しているイメージがあります。

僕が弁護士になった頃から、電子化しようという声はありますが、なかなか進みません。もちろん、書類の電子化は進んでいます。タブレット端末を使えば簡単に書き込みもできますから、ペーパーレス化の一助になります。でも、みんな紙に慣れていますから、使いこなすまでが大変かもしれませんね。


リーガルテックの進展は、そういった面でも大きなきっかけになると思います。クラウド上で契約を締結できるサービスがスタートするなど、変化は着実に始まっています。ここ2、3年で大きな変化がありますよ。「AI-CON」もそういった法務改革の試みの一つです。書類が山のように積み上がっている弁護士事務所のイメージも、きっと過去のものになるでしょう。



■お気に入りの記事はこれ!

お気に入りの記事はこれ!


――「アスクル みんなの仕事場」でお気に入りの記事を教えてください。

「オフィス訪問」の中のシービーアールイーさんの記事です。広々としたオフィスがいいですね。いいアイデアが生まれ、生産性が高まりそうなオフィスの雰囲気が伝わってきます。システムエンジンニアなどの人たちは息ぬきできる広々としたスペースがあると、生産性が上がりそうです。職種によって求められるオフィス環境も大きく違ってくるのではないでしょうか。


【参考】

世界111ヶ国に展開する事業用不動産サービス大手 CBREの丸ノ内東京本社オフィスに行ってきました【前編】 (シービーアールイー株式会社 オフィス訪問[1])newwindow





プロフィール


山本 俊(やまもと しゅん)

GVA法律事務所 代表弁護士
2008年、山梨学院大学法科大学院卒業。2012年にGVA法律事務所を設立。2016年よりGTEP(京都大学起業家育成プログラム)、青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)のメンター。
主な業務分野はベンチャーファイナンス、M&A・企業買収、IPO支援、東南アジア法務、IT法務、その他クライアントの成長フェーズに応じたベンチャー法務戦略の構築。
GVA法律事務所newwindow



著書

ステージ別 ベンチャー企業の労務戦略newwindow」(中央経済社)[外部リンク]








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局 (※印の画像を除く)
取材日:2018年4月3日




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