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幸せな働き方を獲得するために一歩前へ踏み出そう! 働き方改革のイノベーターが語る「幸せのための働き方改革」~サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久氏インタビュー~

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幸せな働き方を獲得するために一歩前へ踏み出そう! 働き方改革のイノベーターが語る「幸せのための働き方改革」~サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久氏インタビュー~

サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久(あおの よしひさ)氏


見渡せばムダばかり目立つ職場、もう我慢することはありません。仕事は辛くて当然という考えは捨てましょう。でも、幸せな働き方をするには一体何から始めればいいのでしょうか?世間に先んじて「働き方改革」に着手し、ユニークな「アリキリ」のアニメコンテンツも話題のサイボウズ株式会社の代表取締役社長 青野慶久氏にお話を伺いました。






■「我慢は美徳」を捨てて、わがままを言おう


――今、働き方改革に取り組む多くの企業で、ハードルになっているものは何でしょうか。

サイボウズが働き方改革に取り組むようになったきっかけは、離職率の高さでした。かつては離職率が非常に高く、一時期、28%まで上がるという非常に厳しい状況に陥ったのです。その状況を改善するために、手を替え品を替え、いろいろなことをして今に至ります。


それでわかったのですが、働き方を改革するのに必要なことは、く一人一人が何に困っているのかを聞き、それを解決することに尽きます。それができれば働き方は変わり、良くなるのです。ところが、多くの企業では、働いている人の意見をちゃんと聞かずに、過剰残業させると自分の身が危うくなるからという経営者の保身のために"改革"を進めているのが現状です。働く人の要望は、会社ごと、人ごとに違うのですよ。働く時間を短くしたい人もいれば、家で仕事をしたい人もいるでしょうし、給料がもっと欲しい人もいるでしょう。そういった一人一人の意見を聞きながら行うのが働き方改革だと私は思います。


これに対し、多くの企業で、改革のボトルネックになっているのは、「そんなことを言ったらわがままだと思われるのではないか」という現場の風土でしょうね。サイボウズには、むしろ「わがままを言いなさい」というルールがあります。わがままを言わずして悶々としている方がおかしい。発想を転換し、優先順位の付け方を変えていくべきではないでしょうか。


――働く人にとって、働き方を改革することは楽になることにつながると思っていいのでしょうか。

仕事が楽になると思ってもいいでしょうね。そのためには、精神的にも肉体的にも我慢しないことです。我慢をよしとせず、我慢することが美徳であるかように教えられてきた日本の文化に問題があるのです。宿題を黙ってやる子は褒められますが、「なぜ宿題をやらなくてはいけないの?」と疑問を口にすると面倒な子だと思われてしまいます。部活動などでも、昔は厳しいトレーニングをたくさんするほどいいように言われていましたが、無茶なトレーニングをやみくもにしていたら身体を壊してしまいますよね。仕事も同じです。身体や心のために我慢が良いはずはないのです。


――サイボウズには多くのユニークな制度があります。運営面では課題にぶつかることもありますか。

すべて個別対応です。サイボウズでは、何か問題を感じた時には、「問題解決メソッド」というフレームワークに基づいて議論しようというルールがあります。モヤモヤしている時には、現実と理想、原因と課題、事実と解釈というふうに、分解して表現すれば、その人がどんなことに問題を感じていて、どんな理想を望んでいるのかがクリアになります。同じように「モチベーションの創造メソッド」というフレームワークもルールにしています。モチベーションを議論する時にもフレームワークで考えて、議論するということをやらせています。ほかにもルールはたくさんあります。


――わがままを言ってもらうためのルールですね。

そうです。働き方を変えるために100人100通りの人事制度というポリシーを作ったとき、「足りない制度があったら言ってください。それがみんなの義務です。それを言わずに人事制度に文句を言うのは卑怯者です」と私は社員に要求しました。すると、たくさんの"わがまま"が出てきました。「副業させろ」「週に3日だけ働きたい」「水曜日の夕方だけは在宅勤務させろ」等々、本当にいろいろな要望が出てきて、それらをできるだけ叶えられるように知恵を絞りました。


たとえば、お金がもっと欲しいという人のためには、給料が上がるようなキャリアパスを一緒に考えたりもしたのです。制度がなければ作ればいいですし、制度がうまく対応できなければ変えればいいと思っています。私たちが一番困ることは、社員が辞めてしまうことです。だから、たとえば育休中の人が「こういう制度がなければ復帰できません」という意見をもっていたら、その制度を作るわけです。


これからのビジネスでは、"我慢"はロボットがやってくれるようになります。ロボットは寝ずに働きますから、我慢することにかけては人間は絶対に勝てません。だから、人間はもういくら我慢してもダメなのですね。


――AIに関しては、自分の仕事が将来的になくなるのではと不安がる声も根強いですが。

「AIが導入されたら自分はどうすればいいんだろう?」と不安に思っている人がいたら、私は「ぜひ、好きなことをやってください」と話すことにしています。人類の歴史を見ても、私たちは便利な道具が発明されるたびに様々な価値を手にしてきました。今ある価値を大きくジャンプアップさせる道具が生み出されたら、ぜひ歓迎して享受すればいいのです。ロボットが嫌な仕事をやってくれるのなら、単純に、人間は楽になる。好きなことをやればいいのです。


そこで問題は"好きなこと"が何なのかをわかっていない人が多いことですね。子どもの頃から、「好きなことは何ですか」と聞かれることは少ないですから。学校に入学すると渡されたカリキュラムに黙って従う。自分の好きな授業だけたくさん受けることは許されない。だから、これからの人間は「自分が本当に好きなものは何だろう」ということを追求するトレーニングが必要になるのです。



■働き方のシフトはビジネスモデルのシフトから

働き方のシフトはビジネスモデルのシフトから


――多くの日本企業で生産性が低いと言われるのはなぜでしょう。

生産性を上げようとしてこなかった経営者が多すぎたためだと私は思います。高度成長やバブル崩壊などの経済変動の中で、日本の経営者は生産性を上げることではなく、給料を削減して利益を確保することばかりしてきました。だから生産性が低いままなのです。


バブル崩壊時で平均年収は1人当たり500万ほどでしたが、今はもっと下がっています。諸外国では賃金は上がっているのに、日本は上がらずに下がっているのです。高度成長期は、みんなで歯を食いしばって工場で量産品を作れば儲かる時代でした。ある程度の品質の物を数多く作るということは時間と相関関係にありますから、安い時給で長時間働くことになる。だから、量産品なら人件費の安い中国で作った方がいいことになります。


――いわゆるコモディティ化ですね。

著書でも例にあげましたが、今治市の特産品であるタオルは、かつて5万トンの生産量がありました。しかし量産品なら中国で作った方が安いので、産業が空洞化し、今治での生産量は5分の1以下に減少しました。しかしこのモデルを変え、今治タオルというブランドを作ることによって、今治のタオルの高い品質を多くの人に認知させることに成功し、売上が大きく伸びています。量産品から高品質な物を作ろうというビジネスモデルへのシフトによって産業が生き残った例です。


でも、多くの日本企業は中国に対抗してコストを下げにいこうとする。つまり、働く人の時給を下げて対抗しようとするのです。これでは生産性は上がりません。先進国であれば、量産品で戦うのではなく、もっとイノベイティブ、クリエイティブなものにシフトしていかなくてはならないのです。テレビなどもがそうですよね。テレビは量産品ですから。テレビが高嶺の花だった時代は、もう随分前に終わっています。


――イノベイティブなビジネスモデルにシフトすることで働き方も変わりますか?

ニッチな市場でも高品質なものや収益性の高いものにシフトしていく時に必要になるのが、様々なダイバーシティの意見や、枠に収まらないユニークな人の存在です。これによって、まったくゲームが変わります。これまでは、定時に出勤して毎日残業をやってくれる人を何人揃えることができるかというゲームでした。それが、たとえば、会社にはあまり来ないけど面白いことを言うような人材がどれくらいいるかということが大事になってくるわけです。このように、働き方のシフトはビジネスモデルのシフトに密接に関係しています。


シアトルのマイクロソフト本社を訪問した時、天下のマイクロソフトではどれだけすごい働き方をしているのかと思ったら、金曜の午後だったのですが、社員の家族を呼んで、運動場でバーベキューをしていたので、びっくりしました。そんな企業の人たちに、多くの企業の人々は勝てないでいるわけです。対抗してもっと働こうと考えるのはおかしい。だって彼らは"働いていない"のですから。



■経営者には言えないようなことを書きました

経営者には言えないようなことを書きました


――今回、「会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。」という本を上梓されました。かなり大胆な内容が含まれていますが、本書を書いた理由を教えてください。

前回の本「チームのことだけ、考えた。――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか」(2015年)は、組織論で、対応力のある組織をいかに作っていくかという、いわば閉じた話で、経営者やマネージャーに読んでもらおうと意識して書きました。今回の本は会社論であり、ひとつの社会論になっています。前作よりも若い、学生から社会人10年目くらいまでの一般の人々に、「皆さんが大事だと思っている会社なんて、本当は存在すらしていないのですよ、そんなものに依存する人生なんてもったいないですよ」ということを言いたかったんのです。


――経営の教科書には絶対に書いていないようなことをおっしゃっていますね。

会社が一番大事なもので、会社には信頼があって、会社は永続しなくてはならないというのは、ひとつの思い込みです。今回の本は経営者に読ませると文句を言われそうなので、あまり経営者には勧めていません(笑)。一般的な経営学では、「会社というものは永続させなくてはいけない」「拡大し続けなくてはいけない」などと言われますが、その合理的な理由、納得のいく理由というものを私は出会ったことがありません。ある経営者は、会社を拡大する理由を「産業が衰退していくのを見るのが辛かったから」とおっしゃっていましたが、ある産業が衰退しても、別な産業に転職してハッピーに暮らせばいいじゃないですか。ブラックなどと批判されながら歯を食いしばっていくら会社を大きくしても、働いている人が不幸なら、意味はありません。会社の価値基準が「幸福」ではなく、「規模」や「お金」になってしまっているのです。だから規模を拡大することは必ずしも大事なことだとは思わないのです。


――人を幸せにしないような会社は、なくなってもいいと。

もっといろいろな会社があっていいのではないかと思います。会社という制度は、この100年ほどの間に重宝されて、資本主義もうまく発展してきましたが、一度、原点回帰した方がいいと思います。人間が幸せになるために会社という仕組みを作ったのに、その仕組みのせいで人間が不幸になっているのなら、そんな会社はもう要らない。永続など考えずに、場合によっては解散する会社もあっていいという前提で、もう一度、会社というものと向き合えばいいのです。べつに永続が悪いことだとはいいませんが、人を幸福にしないような会社は解散した方がいいかもしれません。サークル活動と同じように考えてもいいのです。サークル活動にみんなが飽きたら解散してもいい。そのサークルは解散して、違うサークルに入り直せばいいのです。


――サイボウズのオフィスにはどんな狙いをこめられていますか。

サイボウズの面白いところは、日本橋という交通の要衝にオフィスを作ったことです。僕たちがオフィスで実現したかったコンセプトは、「人が集まる」ということです。イノベーションを起こすために、お客さんや様々な業界がどんどん集まってこられる場所にしたい。だから平日土日を問わず、様々な人が様々なイベントに活用しています。僕たち自身が学べるようなものもたくさんありますから、そこからソフトやサービスを改善していくことにもつながる。


社員が楽しく働くためだけなら、郊外に遊園地のようなオフィスを作った方が楽しいかもしれませんが、人が集まる場所という企業理念を実現するのにベストな場所だと思っています。 



■変化をやめることこそ危ない

変化をやめることこそ危ない


――最後に、働き方を変えようと思うビジネスパーソンにメッセージをお願いします。

本にも書きましたが、一歩踏み出そうということです。何もしないのが一番よくないことです。勉強会に参加したり、上司と話してみたり、まずは自分の思うことをやってみればいいのですよ。その一歩から歩みを止めずに、どんどん進んでいけば、働き方は変わります。一歩目を踏み出さない人は何も変わりませんし、どんどん沈んでいってしまいます。変わらないことは、危ないことです。



■お気入りの記事はこれ!

「みんなの仕事場」はいろいろなオフィスの紹介も興味深いのですが、「オフィス家具選びに役立つ!」というカテゴリーにあった、フリーアドレスで散らかる持ち物をスッキリできるオフィス内バッグの記事が、とても興味深かったです。


【参考】

フリーアドレスで散らかる持ち物をスッキリできるオフィス内バッグ6製品を徹底比較![前編]~外見 仕様 価格check!newwindow


著書とともに





幸せに働くためには自分自身も変わっていかなくてはいけませんね。自分は何が好きなのか、何をしたいのかということを見つめ直し、しっかりとわがままを言って、幸せに働ける環境を手に入れることが、これからは必要なのかもしれません。





プロフィール


青野 慶久(あおの よしひさ)

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を越えるまでに成長。総務省、厚労省、経産省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。
サイボウズ株式会社newwindow



著書

会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。newwindow」(PHP研究所)[外部リンク]


チームのことだけ、考えた。――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったかnewwindow」(ダイヤモンド社)[外部リンク]








編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年4月13日




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