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働き方改革に戸惑うビジネスパーソンへ!10年前から働き方改革を先取りしていた経営者からのアドバイス ~ChatWork株式会社 元CEO 山本 敏行氏インタビュー~

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働き方改革に戸惑うビジネスパーソンへ!10年前から働き方改革を先取りしていた経営者からのアドバイス ~ChatWork株式会社 元CEO 山本 敏行氏インタビュー~

ChatWork株式会社 元CEO 山本 敏行(やまもと としゆき)氏



通勤しなくてもいいリモートワークは本当に企業とワーカーにプラスになる? 在宅勤務であなたはモチベーションは維持できますか? そもそも生産性を上げるための働き方改革、もう一度、仕事のあるべき姿を見直してみませんか。血気盛んな体育会系の起業家から、働き方改革の先駆者となったChatWork株式会社 元CEO 山本敏行氏にお話を伺いました。






■顧客と会わない、電話を受けない会社

――ChatWorkでは、「顧客と会わない」「電話を受けない」というのが創業時からのスタイルだそうですね。たしかに、山本さんの名刺にも電話番号がありません。


ChatWorkの前身であるEC studioは学生のときに起業した会社で、一般的なビジネスパーソンの働き方や会社に関する知識もありませんでしたし、創業時は留学中でロサンゼルスにいましたので、顧客には会いたくても会えませんでした。何より、21歳だった自分は電話でのビジネストークに自信がありませんでした。それでも何とかなるのではないかと思ったわけです。


そもそも、ビジネスに電話って本当に必要なのでしょうか。ホームページで集客できているのなら、お客様に会いに行く必要もないんじゃないだろうか。ひとつひとつ、本当に必要なのか、なぜ必要なのか、ツールを使って代替できるんじゃないか、紙で管理する必要はあるのか、などと考え、自分たちの業務には必要ないという結論に達しました。それでなんとかなりましたから、会社が大きくなっても電話を受けないということを今でも続けています。


――大変ユニークなポリシーですね。怒られたりしませんか。


2000年当時は「どうして電話がないんだ!」とお叱りを受けたこともありましたが、実際に電話は受けられないし、受けたくない(笑)。電話対応のコストや人件費をかけない代わりに、良いサービスを安く提供することを説明し、ご理解いただきました。


当時目指していたのは、普通の会社の1/10の値段で良いサービスを提供するということです。なぜ安くできるかというと、集客から入金、サービス提供まで完全自動化することで、少数精鋭で切り盛りできていたからです。他社が5万円で提供しているサービスを、僕たちは3千円で提供していました。



当時目指していたのは、普通の会社の1/10の値段で良いサービスを提供するということです。

――EC studioは、2012年4月にChatWork株式会社になりました。EC studio時代に話題になった著書「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」で紹介していたユニークな制度や考え方は、今でも引き継がれているのでしょうか。


ベースは変わっていないと思います。いつも大体10年ぐらい先取りしているんです。


今でも電話は受けていないし、社員をクビにはしません。「顧客に会わない」というルールも基本的には同じですが、顧客が多くなって営業チームも作りましたので、必要があれば企業に伺うこともありますね。


「年に4回は10連休をつくる」というルールは、今では「年3回」になりました。当時はゴールデンウィーク、夏休み、シルバーウイーク、年末年始と年4回大きな休みがあったのですが、そうすると8~9月がほとんど稼働しなくなってしまうのです。今は日を振り分けて大型連休は年3回にしています。


――ChatWorkの制度には1と4をよく見かけます。どうして、1と4にこだわるのですか。


もともとは、ECという社名から「1」と「4」にこだわり続けてきたのですが、これはゲンを担いでいるだけではなく、1と4にこだわると「いい感じの数字」になることが多いのです。普段から、何かを決めなければならない時は、おかしな数字でなければ、たいてい1と4で決めてしまいます。



■ITが苦手な人でも使えて生産性を上げるツール

ITが苦手な人でも使えて生産性を上げるツール

――チャットワークというサービスは、まさに働き方を変えるツールですね。


「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」は8年ほど前に書いた本です。ITを活用すれば仕事が効率化でき、生産性が上がると書きましたが、今でこそ生産性の低さは問題になっていますが、その頃は、あまり関心をもってもらえませんでした。「売上を上げることなら興味あるけど」という時代だったのです。


当時の僕たちが行なっていた経営支援事業は「生産性を上げるために僕たちのツールを導入してください」というものでしたが、問題が3つありました。ひとつは、中小企業に当時提案していたソフトウェアは、導入にお金がかかるということ。生産性を上げることに熱心ではないような会社では投資に二の足を踏んでしまいます。


ふたつ目は、ITリテラシ―が低く、会社でも活用できている人がほとんどいなかったということ。そして3つ目は、働き方は業界や業種によってまったく異なるため、ツールを導入しても効果を実感できないということです。この3つのボトルネックを解消しないと、ITで生産性をアップするという僕たちのやりたいことができない。日本を良くするという自分たちのミッションを達成できない。


当時、僕たち自身が仕事の生産性を上げるために、スカイプチャットを業務のコミュニケーションツールとして使っていましたが、個人利用を目的としたサービスなので、業務で活用するには使いにくい部分もありました。


そこで、法人用のチャットサービスを開発して、ITが苦手な人でも簡単に扱えるようにすることを考えたのです。社内の連絡にメールを使っている会社がチャットワークに切り替えれば、絶対に生産性が上がると確信したので、会社の方向性を一気にチャットワークに振り切ることにしました。ビジネスチャットならまだどこも参入していないし、自分たちでも戦えるのではないかと思ったのです。


――今や、チャットワークは様々なユニークな使われ方をしていますね。


グループの作り方によって様々な工夫できるのがチャットワークの面白いところです。


わが社にも、サポートメンバーにしか届かないお客様の喜びの声や感謝の言葉を共有できる「お客様の喜びの声」や、夜ちょっと飲みに行きたい社員が気軽に社員を誘える「今夜飲みにいきません?会」なんていうグループチャットもあります。上司がいつも部下を誘ってばかりいたら部下もだんだん嫌になってくるけど、飲みたい時に「誰か飲みにいかない?」と書けば、部署を越えて「行けます」「行きましょう」という声があがり、異部署間交流にもつながります。お金をかけたり、無理強いたりすることなく、部署を越えたコミュニケーションが生まれます。


稟議などのワークフローもチャットを使っています。タスク機能を使えば、「この稟議お願いします」ということができるのです。紙で回したらそれだけで1週間くらいかかってしまって、その間、作業がストップしてしまいます。いくら働き方改革といっても進めてはいけないと言われたら進められないじゃないですか。僕は、夜9時にチャットで依頼されたら翌朝には承認していますが、それでもまだ時間かかっている方ですよね。早い時には、30分とか、時には5分で承認します。



■どうすればいいの、働き方改革

どうすればいいの、働き方改革


――ところで、日本の生産性が低いのはどうしてなのでしょうか。


日本人は完璧主義で、丁寧で精密にきっちりするから時間がかかる。シリコンバレーでは80点とれればOKで、市場に出してしまいます。市場からのフィードバックを得て、また80点のものを出す。そのほうが早くできますが、どちらが良いか悪いかではなく、それは違いです。日本人は自虐的に「自分たちはダメなのか」と考えがちですが、別にダメではありません。すばらしい点でもあり、改善すべき点もあることを認識しつつ、良いところは取り入れたらいい。


日本国内だけで完結していれば、今までのやり方でもよかったでしょう。でも、国内のマーケットが縮小し、海外に出ようと思ったら変えていかなくてはなりません。


――日本は会議も長いですよね。アメリカはどうですか。


ダラダラと長い会議はやりません。最初に1時間と決めたら1時間で終わりです。人に会う時もそうです。30分と決めたら30分です。


たとえば、取引先とスケジュール調整して訪問。そして社に持ち帰って、稟議を通すための会議をして、決済を待って、というような流れで1か月くらいかけるのが日本での意思決定です。これがシリコンバレーだと、2~3日で決まってしまう。コミュニケーションツールで一生懸命効率化しても、物理的な待ち時間が長いのはどうしようもない。


――だから働き方改革もなかなか進まないのでしょうか。


社会全体が働きやすい環境について考えるようになったのはいいことですが、今のままの根性論では絶対に失敗すると僕は思っています。


今の風潮は、体育会系の人に向かって、いきなり「文化部系になれ」と言っているような気がするんです。今までさんざん「がんばれ、働け」と言い続けてきたのに、「早く帰宅、どうぞどうぞ」と言われても、家に帰ってから何をすればいいのかわからない。第一、帰れと言われても、仕事は残っているし。これまでとは真逆の働き方をしなくてはいけないのに、成果は成果で出さなくてはいけないという矛盾。人間はそんなに急に変われないと思います。


――日本人は極端から極端に走りがちですよね。


今、多くの企業が取り入れようとしているのは、シリコンバレーより難しい働き方ではないでしょうか。成果を求めながら、今まで禁止だったものを全部OKにしようとしている。副業をOKにしましょう、リモートワークもOKにしましょう、長時間労働はやめましょう、賃上げしましょう、女性管理職を30%以上にしましょう、男女平等にしましょう。どの経営者も、「どうしたらいいの」と思っているはずです。


これらはどれもセットで考えなくてはならないことで、たとえば長時間労働を減らして賃上げするなら、世界一多い日本の休日を減らすこともセットで考えなければいけない。副業もリモートワークもOKにするなら、雇用を守るのをなくさなくてはならないかもしれません。シリコンバレーが成り立っているのは、雇用を守っていないからです。彼らは、雇用を守ることを悪だと思っていますから。


一気にジャンプすることを求めても、いきなりそんなに高く飛ぶことはできません。急に変えるといろいろなひずみが出てくるでしょう。まずは意識するところから始めて、階段を一段ずつ登っていくようにしたらいいんじゃないでしょうか。



■ChatWorkはリモートワークを推奨しません

ChatWorkはリモートワークを推奨しません

朝の出社時間を9時から10時に変えれば、朝のラッシュも少しよくなるし、保育園に子どもを送ってから出社できるから、奥さんも働きに出られるかもしれません。僕たちは、10年前から昼休みは13時からにしています。何も一番店が混んでいる12時にランチに行かなくたっていい。13時になれば人気のお店にも入れる。


ゴールデンウィークや夏休み、年末年始に旅行するのはお金もかかるし、大変なストレスがかかりますが、1週間早ければ飛行機代だって半額以下ですよね。同じときに休まず、ちょっとずらせばいい。全社員が休むのが難しければ、ローテーションで休めばいい。


アメリカ人は適当に2週間バケーションとります。そんな相手にメールを出すと「今、バケーション中です」という自動返信がきますが、さすがに日本では受け入れられないかもしれませんね。自分が仕事している時にFacebookでバカンス中の写真が投稿されているのを見たら、腹が立ってしまうでしょうから。だからアメリカ人はビジネス上の付き合いがある人とはFacebookでつながらないのです。プライベートとミックスするとやりにくいので分ける。そういうことを知らずに、シリコンバレーのよさげな面だけを取り入れようとするので、ひずみが起きるわけです。僕が両方を見たから、知っているのですが。


――日本に合った働き方を見つけていくのがいいのでしょうか。


たとえば、うちの会社はチャットワークを使って全員リモートワークをしているかというと、そんなことはなくて、基本的には出社を推奨しているんです。


そもそも、リモートワークで仕事ができる人なんて、働いている人の1割もいないのではないでしょうか。接客業はそもそもできないし、普通のビジネスパーソンに限っても、自宅やカフェで集中できる人はなかなかいないと思いますよ。僕もできないです。自分のまわりに人がいて、みんなで頑張っているから自分も頑張れる。ビデオ会議では伝わらないこともあるし、ランチ中に急にブレストが始まって「それ、いいね!」なんてこともできない。リモートワークになったら、生産性はさらに落ちると思います。


もちろん柔軟性は必要です。いつでもリモートワークでできる体制は作っておいたほうがいい。東日本大震災のときには、僕たちも全員PCを持って帰って、数週間は在宅で仕事していました。それでも「ひとりで仕事をするのは淋しい」「会社へ来たくなった」という意見がありました。リモートワークを強制するのは、おかしいのです。家族が病気になったらリモートワークに切り替えてもいい。出張中ならカフェから重要な会議に参加するのもいい。そういう柔軟性は大切ですが、全部リモートで働くのは違うと思います。


だから、僕はリモートワークを希望する社員がいると、それをできる人かどうか見て判断しています。許可するのはエンジニアくらい、それもパフォーマンスが落ちていたら出社に切り替えてもらいます。あとは、育児をしていたり、通勤に片道2時間半かかる社員など、何かしらやむを得ない理由のある人だけです。


むしろ会社にいる方が生産性の高い仕事ができるように、オフィス環境を良くすることが重要だと思います。



■血気に老少ありて志気に老少なし

血気に老少ありて志気に老少なし


――ChatWorkの前身EC studioは、最初から働き方改革に力を入れていたのですか。


もともとは、週6日、給料20万円で朝9時から夜中まで、もっと働いてくれと社員に要求するようなスタンスの会社でした。ある時期、1年間思いっきり勉強して、自分の考え方を思いっきり変えたのです。


なぜそんなふうに自分の考え方を変えられたかというと、まだ経営者として赤ちゃんだったからだと思います。自分の中のキャンバスはまだ真っ白で、それまでは鉛筆で下書きしていたようなものですから、消すことができたのです。でも20年、30年と経営しているような会社だったら、もうだいぶ絵の具が塗られてしまっていますから、それを消すのは大変です。40歳、50歳の大人が全然違う人間になるのは、難しいでしょう。それは会社も同じです。


――経営を学ぶために1000人の経営者に会ったそうですね。


実際には1000人以上ですね。朝6時は法人会、午前と午後は経営の研修、夜はまた別の勉強会に出席し、懇親会にも出て、一日中人に会いまくり、しゃべりまくって、夜、帰ってきます。夜は社員が処理しきれなかった分を処理する。そんな感じで1年間過ごしました。本で勉強したりするのは苦手なので、興味があることを先にやっている人の話をインプットして、自分の中へ落とし込んでいきました。ただアドバイス通りにするのではなく、人の意見の本質を捉え、自分たちのやり方として噛み砕いて落とし込んでいます。


――印象に残っている経営者の言葉がありましたら、教えてください。


僕は大学時代に留学して、世界一と思っていたアメリカで、こんな奴らに僕らは搾取されているのかと思ったらムカついて、もともと体育会系でしたから、「アメリカが発明したインターネットで、アメリカに勝ってやる」と血気盛んなことばかり言っていました。


そうしたら、ある経営者から、「血気に老少ありて志気に老少なし。山本君が言っているのは血気だ」と言われました。血気盛んなモチベーションは老いとともに少なくなっていくが、志のモチベーションは老いとともに少なくはならない、ということです。


当時25歳でしたが、歳をとるとモチベーションが低下するので、勇ましい血気のポリシーではなく、「こんなに頑張っている日本人はもっと報われるべきだ。インターネットで日本をよくしよう」という志気に変えました。思いは一緒ですが、アウトプットを変えたことで、周りの反応も変わりました。向かい風の中を走っていたら、追い風に押され、応援されるようになったのです。




■お気に入りの記事はこれ!


――みんなの仕事場でお気に入りの記事を教えてください。


ファミレス席の記事は面白かったです。アメリカのコワーキングにも、ファミレス席のような席があります。なぜファミレス席がワークプレイスやミーティングスペースに使われているのかわかる良記事だと思います。


【参考】

イマドキのオフィスには必須かも?!オフィス内「ファミレス席」大研究【前編】 newwindow


著書とともに





一気に極端に走るのではなく、少しずつ意識を変えていくことが大切だと教えていただきました。みんながやるからやるのではなく、本当にやるべきことを見きわめて取り入れていくことが働き方を変えていくコツなのかもしれません。生産性を上げ、日本を良くするためには何をすればいいか、落ち着いて考えましょう。





プロフィール


山本 敏行(やまもと としゆき)

ChatWork株式会社 元代表取締役CEO
1979年3月21日大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスにて中小企業のIT化を支援する株式会社EC studioを創業し、2004年法人化。2011年にクラウド型のビジネスチャット「チャットワーク」を開始。2012年に社名をChatWork株式会社に変更し、米国法人をシリコンバレーに設立。



著書

自分がいなくてもうまくいく仕組みnewwindow」(クロスメディア・パブリッシング)[外部リンク]


日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方newwindow」(SBクリエイティブ)[外部リンク]









編集・文・撮影:アスクル「みんなの仕事場」運営事務局
取材日:2018年4月5日




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